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討伐へと向かう馬車の中


「……カロマ副長はともかく……まさか、団長まで同行するとは思いませんでした」


 御者をしているツォーリオがそんなことを言ったとき、馬車の車輪が大きめの石を踏んだのか、ガタンと跳ねる。

 それが落ち着いてから、幌から顔をだしたザハルが胡散臭い笑みを浮かべた。


「別件で万年紅葉林(まんねんこうようりん)には行くつもりだったからな」

「団長しか来ないのって、自分らにその別件を手伝わせるためってコトで?」

「おうよ。なのでツォーリオの休日は返上。ま、別の日にちゃんと休みを取ってくれや」

「休みをちゃんとくれるなら文句はねぇですけどね」


 肩を竦め、ツォーリオは口を尖らせた。


 万年紅葉林までは多少距離がある。

 一日で行ける距離ではないので、今回も第一休憩点を経由していく。


 今回、馬車は二台だ。

 一台目はツォーリオが御者を務め、幌には荷物のほか、ザハルとボンボが乗っている。


「団長さんよ……その別件ってなぁ、なんだ?」

「何でも万年紅葉林に、個体差なんて話じゃ説明が付かない大型のロムラーダームがいるらしくてな? その調査だ」

「戦力として俺らをアテにしてんのか?」

「正解。だから俺だけが派遣されてきたワケよ」

「ちゃっかりしてやがる」


 ボンボが苦笑すると、御者をしているツォーリオも似たような口調で補足した。


「うちの団長。ちゃっかりにかけては右に出るヤツいないぜ」

「おいおい。まるでそれ俺様がタチの悪いおっさんみたいじゃないのよ」

「そう言ってんです。自覚してくだせぇって」


 わざとらしさが爆発しているような悲しみ口調のザハルに、容赦なくツォーリオは告げる。

 二人のその小気味の良いやりとりに、ボンボは思わず大笑いするのだった。




 後続の馬車の御者はカロマだ。

 幌がかかった荷台には、マスカフォネが持ち込んだ神具(アーティファクト)と、マスカフォネ本人。そしてショークリアが乗っている。


「このでっかい金属のクローゼットが神具?」

「ええ、そうよ」


 艶めいた黒金色をした観音開きのクローゼット。

 そうとしか言いようのないそれは、幌の中でひときわ存在感を放っている。


 見た目通りの重量を持っているので、幌へと運び込むのも一苦労だった代物だ。


 この馬車の幌が取り外しが容易であることから、まず幌を外してから荷台へと運び込み、改めて幌を取り付けるという手段を取った。

 その際に、荷台へとしっかり固定したので、滅多なことで倒れることはないだろうが、ショークリアはみてて些かの不安を覚える。


「これは、どんな能力を持っているのですか?」

「この神具の名前は《創空(そうくう)の収納庫》。

 内側は創造神の作り出した特殊な空間に繋がっていると言われており、中へ入れたものを入れた時のまま保存する能力を有しているのです」

「じゃあ、生物(なまもの)を何日も入れておいても大丈夫なの?」

「ええそうです。ですが命あるモノは収納できません。命尽きて物体と判定されるようになった生き物の死体であれば、収納可能となります」


 マスカフォネの説明を聞いて、ショークリアは納得する。

 確かにこれがあれば今討伐しても、宴の当日まで保存できるだろう。


(だから、アニキはお袋にこれの使用を頼んだワケか)


 だが――同時に、ショークリアの中に些かの懸念が生まれる。


(大したコトのない能力であっても、良い値段するって言ってたよな?

 能力考えると――これ、結構な値打ちすんじゃねーのか?)


「あの……お母様」

「どうしたの?」

「これ、かなりお高いのでは……?」

「そうねぇ……王都のオークションにでも出せば、領地予算がだいぶ潤うと思うわ。まったく同じ形の屋敷くらいならもう一件……離れを二つ付けた上で、王都の一等地に建てられるのではないかしら?」


 思わずショークリアの顔がひきつった。


「そ、そんな高いものを……」

「だから私自らが同行したのですよ」


 ほほほほほ――と母が上品に笑うが、ショークリアは気が気ではなかった。


(き、傷とか付けたらやべーよな……?)


 急にザハルがいる方の馬車に乗りたくなってくるのは、仕方ないことではなかろうか。


「……値段の話を聞いた途端に恐縮ですけど……正直、御者をするのが怖くなってきたのですが……」

「あら? それはダメよ。あなたが御者をしないと、馬車は進まないでしょう?」

「そうですけど……」


 カロマの声が涙混じりな気がするのは、気のせいではないだろう。

 完全に値段にビビっているようだ。


「この神具だって、保管庫の肥やしになっていたのですもの。こういう時に使わなくてどうするのですか。むしろ、私はちゃんと使えて嬉しいくらいなのですよ」

「お母様は、勿体なくて使えない――というコトはないのですか?」

「無くは無いですよ。消耗型の神具であれば、躊躇いもありましょう。

 ですが、この収納庫はどれだけ出し入れしようとも、道具として壊れるコトはほとんどないでしょう?」


 言い分は分かったのだが、ショークリアは少し納得できないことがあったので、踏み込んで訊ねてみる。


「でもこの神具って長いコトお母様の保管庫にしまわれたままだったのでしょう? 使い道はいくらでもありそうなのに」

「使い道……」


 マスカフォネは遠い目をしたあとで、ふいっとショークリアから視線を外す。


「お母様まさか……」


 母が実は研究家気質なところがあるというのは、昨日知った事実だ。

 しかも、研究を始めるとかなり熱を上げて取り組むところがある。


 一方で――もしかしたら、冷めやすいところもあるのではないだろうか。


 そうであった場合……


「調べるだけ調べて満足したから保管庫に入れて、そのまま忘れてしまっていた――とかですか?」

「おほほほほほ」


 口元を隠しながら、誤魔化すように笑うその様子が全てを物語っていた。どうやら図星のようである。


(これ……お袋の個人保管庫とやらの中、相当すげぇコトになってんじゃねぇのか……? やべぇお宝がゴロゴロしてそうな気がすんだが)


 そこまで考えて、ショークリアはふと思う。


「領地に足りないのなら、お母様の保管庫のモノを売ったりしなかったのですか?」

「そんな勿体ないコトさせません。例え使わずとも手元にあるコトそのものに意味があるのです」


 即答である。

 そしてこのノリには見覚えがある。


(前世のテレビとかに出てたコレクターとかはこんなノリだったよな)


 つまりは、そういうことなのだろう。


「奥様は、どうやってそれほどの数の神具を?」

「そういえばそうだね。そこのところどうなの、お母様?」


 訊ねると、マスカフォネは少し困ったように微笑んで答える。


「若気の至り……かしら?

 フォガードと互いの彩輪(さいりん)を繋ぐ前は、身分を隠して冒険者などをしていたから」


 ショークリアとカロマは思わず目を見開いた。

 結婚前は冒険者だったなど今のマスカフォネをとても想像できなかったのだ。


「王族に仕える中央騎士だったカロマが驚くコトはないでしょう。

 女である以上――中央にいたままでは、魔術騎士として大成はできないし、研究もロクにさせてもらえない。それに気づいたから、貴族社会を飛び出しただけなのです」

「ああ、そういう経緯でしたか。それでしたら、納得です」


 カロマは苦笑するようにうなずく。


「冒険者として遺跡や未開拓地などを旅しつつ、何でも依頼(ショルディンクエスト)で日銭を稼ぐ日々というのも悪くはありませんでした。

 時には傭兵の真似事などもしましてね――その折りには、今の男性戦士団の前身である鎧鱗の長躯獣(エラクス・ワーム)団と何度か一緒に仕事をしましたよ」

「だから、お母様は姉御と呼ばれているんですね」

「どういうワケか懐かれてしまったのですよね」


 頬に手を当てておっとりと首を傾げているが、なんとなくショークリアには見えてきたものがある。


 母もだいぶヤンチャだったようだ。


(魔術ぶっぱなしながら、イケイケで敵を蹴散らして回ってたんだろうなぁ……)


 女性の地位の低いこの世界で、傭兵団のような荒くれ者たちが女を慕うなんていうのは、相当の戦果を目の前であげて黙らせたりしないとありえないだろう。


 ましてや貴族の地位など関係ないとでも言うように、多くの戦士たちが姉御と呼んでいるのだ。あれは仲間意識からくるものとしか思えない。


(戦士のみんなから、オレが暴れ回っても仕方がねぇガキだってノリで済まされてるのって、オヤジや戦士団のみんなが、若い頃のお袋を知ってるからってコトか……)


 そう考えると、自分がメイジャン家の娘として生まれてきたのも、意外と偶然ではないような気がしてくるから不思議である。


「あ、第一休憩点が見えてきました。

 今日はあそこで一泊となります」

「ふふ、久しぶりね。

 ガナシュが生まれてからこっち、領都から外へ出る機会もめっきり減ってしまってましたから」


 幌から顔を出し、遠くに点のように見える休憩点の小屋を見ながら、マスカフォネは楽しそうにそう呟くのだった。


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