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アニキの難題に妙案をッ!


「良い案というのは、そうでるものじゃないか」

「すぐに出てくるのであれば、世の人々の苦労も多少は減るのでは?」

「確かに」


 ガノンナッシュとモンドーアは、マスカフォネたちを探しながら、日々建物が増えているような気がする街の中を見渡して歩く。


 活気があり、笑顔で挨拶が交わされるこの街が、ガノンナッシュは好きだ。


 元々、領民たちとの距離も近いので、こうやって外を歩くとみんなが自分に声を掛けてくれる。

 それも、貴族相手に渋々というものではなく、本当に嬉しそうにだ。それがガノンナッシュには代え難いものだった。


 貴族によってはそれを馴れ馴れしいと思うだろうが、ガノンナッシュはそう思わない。

 これは、両親や戦士たちが作り上げた信頼に他ならないのだ。それを自分が裏切ってはならないだろう。


「そういえば、出歩く女性が増えてないか?」

「はい。女性戦士団(ファム・ファタール)の設立と、コーバンの設置に伴い、女性の一人歩きも増えております」

「だとしたら、やっぱり女性向けの催しというか提供品があった方が良さそうだ」


 妙案のとっかかり――というほどではないが、今回の世終(せいつい)の宴での大事な情報として、胸に刻み込む。


 ショークリアの思いつき――女性登用が、街に対して良い方向に作用しているようだ。

 これは大事なことだと思うし、だからこそ、世終の宴を引き受けた自分もまた、しっかりと領地に貢献したいと思う。


「しかし、母上たちがどこを歩いてるかなんて、分かるワケがないよな」

「強い加護を持ち、刺繍ができる者はそう多くはないとは思いますが――」

「そもそもそんな奴が早々いるかっていうのもあるしな」

「はい」


 どうしたものか――そう考えながら、街の中央までやってきた時、だ。


「お母様ッ! お兄さまがいますッ!!」

「あらッ? 本当だわッ!!」


 なにやら獲物を見定める鋭い声でやりとりをする母と妹がいた。


「……モンド」

「はい」

「全力で逃げるぞ」

「判断が一瞬遅かったかと。手遅れです」


 主従揃って深々と嘆息する。

 妹だけならいざしらず、どうして似たような表情で母もこちらへ向かってくるのか。


 二人の背後に控えるカロマとミローナが遠い目をしていることに、気づきたくはなかった。


「どうやらお嬢様だけでなく、奥様も何やら必死のようですが……」

「嫌な予感しかしない」


 母も妹も――二人とも物凄い速度で動いているのに、その足取りや表情などは優雅そのものだ。

 貴族らしさを崩してないのに、移動速度が駆け足どころではないほど早いので不気味なことこの上ない。


「……俺が女装する時も、ああいう動きできた方がいいのか?」

「これほど返答に困る質問は初めてです」


 モンドーアが遠い目をしたところで、母と妹が、ガノンナッシュの目の前までやってきた。


「さぁガナシュ。許可をちょうだいッ!」

「私にもお願いしますッ! 今すぐッ!」

「意味が分からないからッ、二人ともまず落ち着いてッ!?」


 許可とは何のことだろうか。

 とりあえず二人が欲している許可なるものが何なのか分からない以上、迂闊に良いと言うのはよくなさそうだ。


 さっきまで急ぎながらも優雅だった二人は、だけど今はぜーはーと肩で息をしている。本当になんなのだろうか。


「ミローナ、カロマ。どういうコトですか?」


 本人たちに聞くには(らち)があかないかもしれない。

 そう考えたガノンナッシュの思考を汲んだモンドーアが、二人へと訊ねた。


「実はですね……」


 そうして、ミローナから語られた内容に、ガノンナッシュが思わず頭を抱えるのだった。



「母上にも、ショコラのようなハチャメチャなところがあるなんて……」

「最近は魔術研究なんてする余裕がありませんでしたからね――そういう意味でもタガが外れやすくなっているのかもしれません」


 ロムラーダーム討伐に同行したい一心でこんな必死になるなんて、ガノンナッシュは思ってもみなかった。

 だが逆にこの状況は利用できるかもしれない――と、ガノンナッシュは考える。


「状況は理解したから……二人には条件付きで許可を出すよ」

「取引というコトですか――フォガードを手伝うようになって間もないのに、随分と成長したのですね」


 マスカフォネが少し嬉しそうに言う言葉に、ガノンナッシュの頬が緩みそうになった。

 褒めてくれたということは、判断そのものは間違えていないのだろう。


「それで、お兄さま。条件というのは?」


 ソワソワと上目遣いでこちらを見てくるショークリアの頭を撫でてから、ガノンナッシュは告げた。


「世終の宴。今年のそれの妙案が欲しい」

「妙案……ですか?」


 聞き返してくるマスカフォネに、ガノンナッシュは力強くうなずいた。


「戦士に限らず、領地には女性が増えた。

 それに伴って街に女性の一人歩きも増えているんだ。

 だからこそ、男性だけでなく女性も楽しめる提供品と宴を用意したい。

 何か良い案を出してくれたなら、許可を出すよ」

「なるほど……。

 領民も増えてきているが故に、今まで通りの提供品や宴では、予算も段取りも厳しいのですね」


 即座にこちらの言いたいことを理解したマスカフォネに、ガノンナッシュは首肯する。


「私はあまり気にしたコトなかったけど、世終の宴の提供品っていうのは、どういうのが多いの?」


 ガノンナッシュとマスカフォネが真面目な顔で話を始めた為、邪魔にならぬよう一歩下がったショークリアが、ミローナに訊ねた。

 ミローナが返答に困っていると、助け船をだしてきたのはモンドーアだ。


「基本的には、肉が多いです。

 新鮮な肉、柔らかい肉というのは、庶民ではなかなか口に出来ないモノですからね。あとは、砂糖菓子などもありますね。

 菓子はともかく、肉や野菜、果物などはそのまま食材として提供する領地も多いですが――我が領地では、庭でシュガールが大量の肉を焼いて、みなさんに提供したりしておりますね。お嬢様も見覚えがあるかと」

「うん」


 屋台の串焼き屋さんのように、串に刺した肉を焼いては渡し、焼いては渡し……とやっていたのを思いだし、ショークリアはうなずく。


「でも用意できるお肉には限りがあるし、女性が増えたからお肉だけというもの寂しいかもしれないって話なのね?」

「その通りです。それと、今まで通りに肉を焼いて手渡す形にしても、シュガールだけでは大変なくらいには、領民も増えておりますから」

「そっか」


 モンドーアからの説明を聞いたショークリアが何やらぶつぶつと独り言を始めた。

 おそらく思考をまとめているのだろうと、モンドーアはもとよりミローナとカロマも、何も言わずに見守ることにする。


「そうだ! ミロ……よりもカロマかな。

 ほかの領地の宴をあまり知らないんだけど、似たようなものなのかな?」

「そうですね……モンドーアさんの言う通りお肉を提供するコトが多いですが、わざわざ焼いて手渡して……というのはあまり聞きません」

「でもせっかくの美味しいお肉も焼き方を間違えると味が落ちちゃうから、シュガールみたいに上手な人が焼いた方が絶対美味しいとは思うの」


 それからまたしばらく思考をまとめるように、ショークリアはぶつぶつと独りごち、また顔を上げた。


「ミロ、カロマ。

 たとえば、お肉以外でこういうのがあると嬉しいとかってある?」

「そうですね……新鮮なお野菜や、美味しい野菜料理など欲しいです」

「アタシはお菓子ですね。サヴァランみたいなのがあったらとっても嬉しいですけど……」

「さすがにサヴァランを領民全員に……は無理かなぁ……」

「ですよね」


 そんなやりとりの中でも、ショークリアの思考はどうやらどんどんまとまっていっているようだ。


「……大量に焼ける甘味バームクーヘン……いやあれはでも難易度が高ぇしな……あ、でも肉でケバブってのはアリか……いやもっと簡易に……アレだ、ブラジルの食い放題……あ、それなら応用でアレもいけっか……あとは調達方法……」


 すべてをハッキリと聞き取れなかったのだが、自身の知識の中にあるものと、領地の状況や使用可能なものを分類して思考しているようだ。


(ところどころ言葉遣いが乱れているようですが……お嬢様は思考をする時、男性的な独り言を口にされるのでしょうか……?)


 モンドーアはそんなことを思いつつ、ガノンナッシュとマスカフォネの方へと視線を向ける。

 あちらはあちらで難航しているようだ。


 しかし、ショークリアの方はむしろ思いつきの精査を始めているようにも見える。

 何か光明があるとすればこちらかもしれない。


「……よし!」


 グッとショークリアが拳を握り、顔を上げた。


「お兄さま。アイデアが……一つ案が出ました」

「ほんと?」

「はい」


 力強くうなずき、ショークリアはピッと人差し指を立てた。


「つきましては、ロムラーダーム討伐参加許可をお願いしますッ!」

「うん。ダメだね」


 案の内容を口にしないショークリアに、さすがに許可を出すわけには行かないガノンナッシュであった。


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