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え? オレとお袋が似てるって?


「カロマ副長……」

「そんな目で見ないでよー……」


 ボンボの討伐に協力しようとしていた浅黒い肌の戦士――ツォーリオ・マットが、クリーム色の瞳を眇めながらカロマを見る。

 カロマはその眼差しから逃れるように、視線を逸らした。


「通りすがりに話が聞こえてきたと思ったら――奥様たち、突然……」

「似たもの親子だもんなぁ……」

「そうなの?」


 カロマは似たもの親子という言葉にピンと来ない為、首を傾げる。


「おうよ。

 坊ちゃんが生まれてからはだいぶ大人しくなったんだが、ここの開拓初期なんて、率先して魔獣退治に立候補してたんだぜ、マスカの姉御は」


 しみじみと語るツォーリオの言葉に、どことなく苦労がにじみ出ているのは気のせいではないだろう。


「戦闘魔術士として優秀なのは間違いない」


 厳つい顔に人の良さそうな笑みを浮かべて、ツォーリオが笑う。

 大人しくなったようで変わってねぇんだな――と呟く言葉には、確かな信頼のようなものを感じて、カロマは少しばかり羨ましくなった。


 もちろんその嫉妬になんの意味もない。

 自分は――自分たち女性戦士団(ファム・ファタール)は、まだまだ新参者なのだから、そういう信頼はこれから構築していくしかないのだ。


 さておき――


「奥様、お嬢様。なにを考えていらっしゃるのですか?」


 意気揚々と名乗りを上げた二人に、ミローナが厳しい眼差しを向けている。彼女の母親であるココアーナを思わせる迫力ある表情ではあるのだが、まだまだ年期が足りないせいなのか威厳がない。


「いいこと、ミローナ。ロムラーダームの柔皮はね。特殊な方法でほぐすと魔力を潤沢に蓄えた良い糸になるのよ。是非ともそれで――ショコラに刺繍をしてもらいたいの」

「…………」


 研究心に忠実なマスカフォネの言葉に、ミローナは軽く言葉に困る。

 とりあえず、視線をズラして、ショークリアへと向けた。


「お嬢様は?」

「ロムラーダームは冬の強敵って聞いたわ。しかもダーム種としては珍しくお肉が美味しいって。これは是非とも戦いを楽しんで、お肉を食べなきゃな、て」

「…………」


 こちらも闘争心と食欲に忠実だった。

 こんなことで、二人が正しく親子であるという実感をしたくはなかったミローナとしては、言葉がでてこない。


 助けを求めるように、ミローナはツォーリオに視線を向けるが、彼は自身の濃い茶色の髪を撫でて肩を竦めるだけだ。


 次にカロマへと視線を向けるが、彼女も目があうなり首を横に振った。


 最後に何でも屋らしき禿頭の男性に視線を向けるが――むしろ彼は被害者のようだ。本気でこの状況に困っているように思える。


(す、救いの手――ここにはないのッ!?)


 思わず胸中で叫ぶ。

 あるいは、見えざる救いの手というのは親子の背中を押すことを優先し、ミローナを見捨てただけかもしれないが。 


 ミローナがそんなことを考えていると、その様子に見かねたのか、ツォーリオが口を開いた。


「ま、奥様もお嬢も戦力としては申し分ないんだがなぁ……」


 ツォーリオは頭を掻きながらそう言って、小さく息を吐く。


「そうは言ってもかつてのように、猫の手を借りたい状況ってワケでもないんですぜ、今はさ」


 暗に、自重してくれとツォーリオが言うと、マスカフォネはムッとした顔をする。

 ボンボとカロマは少し焦った様子を見せるが、ツォーリオは気分を害した顔ではないのを理解しているので、言葉を続けた。


「少なくとも奥様の参加動機と、お嬢の食欲動機は、オレとボンボだけでどうにでも出来ますからね」


 それを横で聞きながら、ミローナの顔が輝く。


(そうです! ツォーリオさん! がんばってください!!)


 このまま説得して押し切ってくれるのであれば、それに越したことはないのだ。


「でも、私が戦いたいって要望は、どうにもならないよね?」

「どうしても参加したいって言うなら、旦那と姉御、それから坊ちゃんとザハル団長、サヴァーラ団長の五人から許可を取って来てくだせぇよ」

「むぅ……」


 ほっぺたを膨らませつつも、ショークリアは引き下がる。

 ツォーリオはダメだとは言わず許可を取れと言ってきたのだ。


 何とかして許可を取り付ければ参加できるのだろうが――


「では、手っ取り早くお母様」

「ダメです」

「えー」


 即答である。

 ショークリアが許可を取ろうとした途端、微妙に子供っぽさを感じる不機嫌な顔で即答したのだ。


 この表情はミローナも初めて見た為、対応に戸惑ってしまう。


 それを見ながら、逆にツォーリオはしてやったりという表情を浮かべていた。


「姉御は魔術の研究なんかが関わるとちょいと子供っぽくなるところがあってな。この状況ならお嬢に絶対許可しないだろうと思った」

「古参組の領主一族の対応方法は勉強になるわ。ほんと」


 つまり、マスカフォネがショークリアに許可しなかった理由は、『自分はいけないのに、ショコラだけズルい』という感情によるものなのだろう。


「ボンボ。出発は明日の昼過ぎで。このコーバンで待ち合わせでいいか?」

「え? あ……おう」


 ツォーリオから突然声を掛けられたボンボはやや上擦った返事をするが、すぐに気を取り直してうなずいた。


「そんなワケで、お嬢。期限は明日の昼までです。

 オレとボンボが出発するまでに、このコーバンへ来ない場合……あるいは指定した全員の許可が下りなかった場合、同行はさせないんで」


 親子そろってぐぬぬ……という顔をしているのを見ながら、ツォーリオははっきりとそう告げる。


「カロマ副長も、ミローナもしっかりと聞いてたな。

 姉御やお嬢が変な根回しする前に、根回ししといてくれよ」

「それを私たちの前で言うのですか?」

「言おうが言わまいが、姉御やお嬢の行動は変わらないだろ」


 ムッとした顔のままのマスカフォネに、ツォーリオはキッパリと言ってのける。

 実際にその通りなので、マスカフォネもショークリアも、何とも言えない顔になる。


「何なら姉御もだ。旦那と坊ちゃん――あとはそうだな、両団長とお嬢の五人から許可を取ってこれたなら、同行認めるぞ」

「わかりました。ではショコラ」

「ダメです」

「…………」


 即答である。

 マスカフォネが許可を取ろうとした途端、年相応ともいえる不機嫌な顔でショークリアが即答したのだ。


(なんか、さっき似たような光景を見ましたね……)

(あー……お二人が似た者同士って実感する光景だねー……)

(なるほどなるほど。お嬢は魔術研究の代わりに戦闘と食事研究に執心する姉御だと思って対応すりゃいいのか)

(……俺、どうしていいか分かんねぇんだが……)


 親子の間になんとも言えない緊迫感が漂う中で、周囲の四人はそれぞれに思う。

 状況のせいで、ボンボがやや蚊帳の外になっているのは、仕方がないことだろう。


「ショコラ。にらみ合っていても仕方がないわ」

「……そうですわね、お母様。互いに同行可能かどうかが重要なワケですものね」

「私からの許可を出すわ。その代わり……」

「ええ、理解しております。こちらからもお母様に許可を出させていただきます」


 しばらくにらみ合っていた親子だったが、すぐさまにそれが無意味だと気づいたようだ。

 貴族らしい張り付いた笑みを浮かべて、お互いがお互いに許可を出す。


「お母様。目的は一致しているはずです」

「ええ、ええ。もちろんですとも」


 貴族や騎士というよりも、傭兵や冒険者がするように、親子は互いに拳を向け合って、軽くぶつけ合う。


 そして――


『ミローナ、カロマ。屋敷へ戻ります』


 異口同音にそう告げるのだった。




 そうして街の中心へと戻っていく四人の背中を見ながら、ツォーリオが大きく息を吐いた。


「旦那たちからの許可おりちまったらすまん」

「構わん。嬢ちゃんが戦力のアテになるのは知っているからな」

「そうなのか」

「ああ。戦士団試験の翌朝な、チンピラみたいな参加者へ、まるでチンピラのような口調で凄んでボコボコにしてた」

「え? お嬢がそんな口調で?」

「口調もそうだが、戦闘力もそこで垣間見れてな……。

 あの年であそこまで動けるコトに戦慄したぞ、俺は」

「それでも手加減してたと思うぞ」

「だろうな。嬢ちゃんが本気を出していたら連中は黒き神の門の先へと招かれていただろうよ」

「つーか、お嬢がそこまで暴れる必要があったチンピラだったのか、あいつら……」

「端的に言って貴族としても平民としても悪人としてもダメだったと思うぞ、色々と」


 思い出しながら肩を竦めるボンボに、ツォーリオも呆れたように肩を竦める。


「ともあれ、明日の昼頃にここへ来てくれ」

「了解した。装備とかはどうすればいい?」

「そうだなぁ……」


 そうして、ボンボとツォーリオは翌日の話をしながら、仲を深めていくのだった。


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