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上も下も大変だ…


 神界のとある場所にある、赤茶けた土肌の崖っぷち。

 そこの縁に座って、足を投げ出しブラブラさせているのは、赤の神。


 ショークリアの前世である鬼原(おにわら)醍醐(だいご)に似た容姿の大男。

 やや赤みを帯びた肌に、炎を思わせる紅葉柄をした日本の暴走族の特攻服のようなものを羽織っている。

 日本人が見れば、赤鬼を連想するような人型の人外。


 彼は赤の神(ゴズマウンタ)ハー・ルンシヴ。

 鬼原醍醐がショークリアへと転生する原因となった神だ。


 なお容姿が似ていたのは完全に偶然である。

 あるいは、似ているからこそ魂を呼び寄せたという運命か。

 どちらであっても、さほど意味はないのだが。


「……赤。そんなとこにいたら、白に見つかるよ」

「ん? (みどり)か」


 そんな彼に声を掛けたのは、椰子の木を思わせるような姿の女性だ。


 健康的で筋肉質な白い肌に長い耳。緑色の髪はまさに椰子の葉のごとく。

 そして椰子の実を思わせるような大きな胸は、苔のような色と材質の布面積の少ないハイレグの衣装からこぼれ落ちてしまいそうだ。

 風を思わせる薄い黄緑のストールと、樹皮を思わせる薄茶色のパレオを巻いた姿をしてる。


 彼女の静かなたたずまいは美しきエルフを思わせるほど幻想的で、だが活力に満ちあふれる様はアマゾネスのようにも見え、そして美しく豊満な肉体は母性溢れる全ての母のようにも見える。

 それが、緑の女神(ゴズデフォレス)ティタノ・ワールだ。


「なにをしていたんだい?」

「おう。ショークリアを見てた」

「……アンタもなのかい」


 呆れたような同意するような――どちらともいえない様子で、緑の神は苦笑した。


「ただのイタズラが大事になっちまったからな。

 少しくらいは世話焼いておかねぇとと思ったが、必要なさそうだ」

「まったく。

 お父様に感謝しなさいよ。アンタをお咎めなしにしてくれたんだからさ」

「それなら問題ない。

 白の目を盗んで、オヤジに詫びは入れてあっからな」


 ちゃっかりと偉大なる父――この世界の創造神であり神々を統べる神(ゴズエンペリウム)ステリオル・スカーバッカへの謝罪はしていたようだ。


「オヤジにゃぁ、人間界への刺激がほしかったのでちょうど良いって褒められたぜ」

「え? 褒められたのかい?」

「おう。拳骨(ゲンコ)と一緒にな。

 おかげで全然治る気配の無いタンコブが出来ちまったよ」

「どう考えても皮肉さね。叱られたんだよ。アンタは」

「あ、やっぱそうか」


 完全に呆れた顔を向けてやれば、殴られたことなど気にしてないかのように笑って見せる。


 人間からすれば厳つく恐ろしい怒り顔の代名詞とまでされる強面を、子供のような無邪気さ全開にして笑っているのだ。


 おそらく偉大なる父も、今ここにいる自分も――そして過去も今後も、色々な神々が、この笑顔に毒気を抜かれてしまうのだろう。


「ショコラも――地球人としての生前にそういう顔を出来てれば、また運命が違ったかもしれないわね」


 思わず独りごちた緑の神の言葉に、赤の神は軽く肩を竦めた。


「かもしれねぇが、それはもう言っても仕方がねぇよ。

 生命を司るお前も、死を司る黒も、規律を守る白も――そこを覆すコトはしねぇだろ?」

「そうさ。だけど、それでもね――時々、どうしようもなくそれが悔しいと思うコトもあるさね。

 私は生命を司ってる。だけど、母性を司ってもいるからね。母心みたいなもんで、寂しさを感じちまうんだろうさ」

「それを言えば俺だって父性を司っている。似たようなコトを感じないといえば嘘になる」


 だけど、それでも――と、赤の神は告げる。


「今の醍醐(アイツ)は、ショークリアとして生きてるんだ。

 地球(きんじょ)のガキから、スカーバ(うち)のガキになったんだよ。

 だったら、見守ってやろうぜ。元より神様(俺たち)ってのは、それしか出来ないんだからよ」

「ったく……子供のようなコトしてるかと思えば、そういうコトを言うんだから……本当に、アンタといると調子狂うさね」


 小さく息を吐いて、緑の神は訊ねる。


「隣、いいかい?」

「構わねぇが、落ちんなよ?」

「そんなマヌケいるのかい?」

「おう。赤の神って言うんだけどな?」

「アンタ、落ちたコトあるのかい……」


 呆れたように笑いながら、緑の神は赤の神の隣に腰掛けるのだった。



     ○ ○ ○ ○ ○



「心配したんだからねッ! 友達としてもッ、お姉ちゃんとしてもッ、従者としてもッ!!」


 ダイリの褐色地から戻ってきて、報告とか片づけとかが色々と終わり、ようやく一息ついた時、ミローナが突然爆発した。


 いや、突然――ではないのだろう。

 ショークリアが帰ってきてからこっち、ずっと爆発せずに耐えていたのだとは思う。


 涙を両の瞳に浮かべて、烈火の如く声を上げてきた。


 申し訳ないと思いつつも、その勢いに押されたショークリアは、軽く周囲を見渡す。


 普段であれば、主に感情をぶつける行為や言葉遣いを咎めるだろうココアーナや、ほかの従者たちも、見て見ぬふりをしているようだ。


 今回に限って言えば自業自得なので素直に泣き喚かれてください――周囲の従者たちから、そんな無言の主張が聞こえてくる。


(いやまぁ……確かにめっちゃ心配かけちまったけど……)


 現代日本であれば、スマートフォンだなんだといった道具で、自分の無事や状況を即座に報告できるのだが、そんなものなどないこの世界ではそれができない。

 だからこそ、ミローナは余計に心配をしてしまうのだろう。


「えーっと、ごめんねミローナ。

 でも、もうしばらくはこういう遠征はないから……」

「当たり前よッ! 仮にあっても今度は私も付いていくからッ!!」


 さすがに従者連れて冒険というのは――と思いショークリアは周囲を見回すが、ほかの従者たちは我関せずだ。

 その雰囲気からは、次からはミローナを連れて行くこと――という無言の主張が、圧力となって漂っているようだ。


「わ、わかった……。

 次があったら、ミローナも連れていくから……」

「よろしい」


 ぐす……と涙を流しながら、うなずくミローナ。

 そんな彼女に申し訳なくなって、ショークリアは彼女の顔に人差し指を伸ばして、涙を拭ってやる。


 その行為にキョトンと目を瞬かせるミローナに、ショークリアは笑いかけた。


「心配掛けちゃってごめんね。

 ……ただいま」


 手を伸ばしてミローナの頭を撫でようかと思ったが届きそうになかったので、ショークリアは代わりに安心させるように笑顔を向ける。


 そんなショークリアに、ミローナは感極まったように声を詰まらせ、ややして思い切り抱きついた。


「おかえりッ! ショコラッ!!」




 そのやりとりを見ていた者たちは、のちまで語り継ぐこととなる。


「あの時のお嬢様は、表情も仕草もヘタな殿方よりもカッコいい殿方だったッ!」


 ……と。



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