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そういや秋魔って何なんだ?

本日二話掲載の2話目


 女性戦士団であるファム・ファタール隊が正式に運用開始され三週間ほど経ち、季節的にはもう晩夏。


 町だけでなく街道の一部にもコーバンが設置された。

 領都のコーバンには、当初の予定通り女性戦士を常駐させる形となったが、町の外は男だけだ。

 監視の目の少ない場所では、信用ある領衛戦士だろうと、男としては信用できないとザハルたちが団員を判断したのである。


 今のところはうまく回っているようだし、領民からの評判も悪くない。

 何より困ったことを陳情するのに、いちいち領主の館まで赴く必要がなくなったことや、住民同士の些細な諍いの相談などがしやすくなったという声も聞く。


 また、ただ町の中を歩き回るガラの悪い領衛兵と思われていた戦士たちも、住民の相談を受けるなどをして活躍することで、そのマイナスイメージも徐々に払拭されていっているそうだ。


 自分の想定以上に上手くいっていることに若干ビビりながら、ショークリアが日々を過ごしていると、父からの呼び出しがあり、執務室へと赴く。


「両戦士団からの数人が、少し遠征に出る。

 秋魔の発生予定地の視察が目的だ。

 ガナシュは何度か参加しているので今回はお預けだが、そのかわりにお前を連れていくように頼むつもりだ――行くか?」


 野宿をしながらの往復四日の日程だそうだ。

 ふつうの少女ならためらったかもしれないが、そこはショークリア。


「楽しそうですね。是非!」


 笑顔を浮かべ、二つ返事で了承するのだった。




 そんな経緯で、今は第一休憩点と呼ばれる場所で、ショークリアはキャンプをしている。


 ここは開拓団が海岸へ向かう時に使う『名も無き街道』と呼ばれる道の終着点でもあり、比較的魔獣が少なく安全な場所だ。

 ちなみに、この休憩点より先の道を『荒涼の()(あと)』という。


 そういった二つの道の中間地点であるこの場には、簡易的な小屋を建ててある。開拓団や戦士団が遠征時に利用する為に、建てられたものだ。


 寝泊まりできるような小屋ではないが、テントやちょっとしたロープなどが中に置いてあるのだ。


 小屋のそばには焚き火がしやすいように、石積みが作ってあり、小屋の中のテントを借りるなどすれば、ここで一夜明かせるようになっている。


 誰が始めたのかは知らないが、不思議な道具箱と名付けられたものも設置されていて、中の道具は持ち出しOKながら、持ち出す際は手持ちの何かを代わりに箱へ入れる必要があるのだとか。


 これが意外と便利な為、開拓団や戦士団が、いろいろ道具の出し入れをして利用しているという。


 いずれはこの地にもコーバンを設置したいと、フォガードとザハルは考えているようだ。


 そんな第一休憩点までやってきたメンバーは、男性戦士団(エクラス・ワーム)からはモーランとクグーロ。

 女性戦士団(ファム・ファタール)からはサヴァーラとカロマ。

 そして、ショークリアを加えた五人である。


 ちなみにカロマとは、試験の時にシャインバルーンに追われた参加者を助ける為に動いたサヴァーラを補佐した女性だ。

 パステルピンクのような色の髪を長めのポニーテールにしている人で、人懐っこい雰囲気の瞳は、綺麗なパステルグリーンをしている。

 小柄ながらも剣を携え背筋を伸ばしている姿は、元騎士という経歴を納得させるに充分なものを持っているのだが、気が抜けている時の彼女はどことなく前世のギャル系を思わせる不思議な人である。



 さておき、このキャンプ地。

 北側には、『ダイリの大岩』と呼ばれる前世のエアーズロック(ウルル)を思わせる巨大な一枚岩が見える。

 領都からも何となくは見えるのだが、近づいてみると、その大きさと迫力は凄まじく、それだけでショークリアは興奮してしまいそうになるほどだ。


 頂上がどうなっているのかは、まだ誰も見たことがないらしいが、岩の周囲には、かつてこの地で生活していた者たちの名残のようなものもあるらしい。恐らくは頂上に行くための何らかの方法もあるだろうと、モーランは教えてくれた。


「どうしてそれを調べないの?」


 何となく訊ねると、クグーロは苦笑する。


「人手が足りないんでさぁ。あとは、開拓を優先してるんで、調査に手を割けないってのもありましてね」

「あ、なるほど」


 歴史を知る上では重要かもしれないが、領地の開拓や財政の問題を思えばどうしても後回しにせざるえないのだろう。


「ところでさ、今更かもしれないんだけど、聞いてもいい?」


 ダイリの大岩に関しての話が一段落したところで、カロマがそう口を開く。


「どうしたの?」


 雰囲気としてはモーランとクグーロへの問いのようだが、一応ショークリアが代表してそう問うた。


「実は、秋魔(しゅうま)という……魔獣? のコト、アタシはよく知らなくて」

「あ、わたしもよく知らないわ」


 カロマの疑問に、ショークリアも一緒になって首を傾げる。


「サヴァーラは知ってる?」


 ふと思い、ショークリアが訊ねると、彼女は曖昧な様子でうなずいた。


「言葉の上では――ですが。

 秋魔というのは、特定の魔獣を指すのではなく、秋になると現れる異常個体のコト……程度は」

「サヴァーラの言う通りです。

 うちの国――ニーダング王国には、キーチン領の秋魔しか出現しませんが、世界中を見れば、春、夏、秋、冬のそれぞれに発生する異常個体の存在があります。

 それぞれ、春魔(しゅんま)夏魔(げま)秋魔(しゅうま)冬魔(とうま)と言いい――総称として、季変魔(きへんま)と呼ばれたりもしますね」


 モーランによれば、魔力源泉(カラーパレット)と呼ばれる場所の影響が強いのではないか――という仮説があるらしい。


 この世界スカーバが内包する魔力(カラー)が零れ出す場所だそうで、一定周期でその場所から零れ落ちる魔力に変化が起こる。その変化のタイミングが、季節の変化のタイミングと重なる場所で、季変魔は発生するそうだ。


「あくまで仮説ながら、心当たりはあるんですよ。

 今回の遠征で向かう場所も、魔力源泉(カラーパレット)の近くです。そして、秋魔が発生しやすい場所の一つです」


 他にももう一カ所、秋魔が発生しやすいスポットがあるらしく、そこも近くに魔力源泉(カラーパレット)があるらしい。


「ならさー……秋魔って毎年違う魔獣?」

「そうだ。もちろん偶然によって連続して同じ魔獣の時もあるがな」

「それはまた厄介ねー」


 そう言うカロマは、気楽な口調ながら表情は真剣だ。


「秋魔は年に一回。一匹しか出現しない。

 どんな種類の秋魔(しゅうま)であれ倒してしまえば後はラクなんすけど――どれだけ苦戦しようとも終われば通常業務が待っているんでさぁ」


 クグーロの苦い笑いとともに漏らされた言葉に、サヴァーラとカロマも同じような顔をする。


「だから女性戦士団(ファム・ファタール)の設立は、心の底から助かるんでさぁ」

「期待されているなら応えないとな」

「討伐であれお留守番であれ、ちゃんとお仕事するから安心してね」


 サヴァーラとカロマの頼もしい言葉に、モーランとクグーロが本当に安堵したような顔をした。


「まぁ、時々発生しない年もある。今年がその年であれ――と、毎年祈っているのだがな」

「今年は出ても多少はラク出来そうっすね」


 二人のそのやりとりだけで、これまでどれだけ苦労してきたのかが分かるほど、何かがにじみ出てきていた。




 翌日――


 モーランたちが『荒涼の()(あと)』と呼んでいる道を歩く。


 第一休憩点から延びるこの道は、領都とこの先にあるオイリオール海岸を往復している開拓者たちによって踏み固められて生まれた道なのだそうだ。

 人手の問題もあって、最近は海岸への派遣が控えられていたが、有能な女性の雇用もあり、そろそろ再開が考えられているらしい。


 そんな荒涼の()(あと)を三分の一ほど進んだあたりから、道から外れて北上する。


 向かうのはダイリの大岩の(ふもと)だ。

 ダイリの大岩の北西辺りから、南西にかけてに大岩の近辺を囲うように森が広がっている。『ダイリの褐色地』と呼ばれるその森は、草木も花も、そこに生息する生き物や岩までもが、褐色のものばかりという変わった土地だ。


 ダイリの大岩の東側は少し凹んだような形をしており、褐色地の中にあるその凹みの中心辺りに、魔力源泉(カラースポット)があるとか。


 そんな場所を目指して歩いていると、やがて褐色の木々が密集しているのが見えてきた。


 モーランとクグーロが迷うことなく向かっていく先には、杭が二本刺さってる場所だ。

 その杭の間をよく見ると、獣道のようなものが奥へ延びているのが見える。


 恐らくは秋魔調査の為に使える獣道と、その道をすぐに見つける為の目印なのだろう。


「本当に何もかもが褐色な森なのね」

「枯れているワケではないのか」

「年がら年中こんな色してるってなんか不思議……」


 女性陣がそれぞれに感嘆をあげていると、クグーロが後ろ頭を掻きながら、言った。


「そういえば馴れちまって麻痺してたっすけど、珍しい光景ですもんねぇ……」

「そうだな。馴れるといつも通りの褐色の森にしか見えないが……」


 この光景がいつも通りというのは、異常なのだが、その辺りが本人たちの言う通り、麻痺してしまってるのだろう。


「人を襲う魔獣も少なからず出ます。嬢は余計な動きをしないように」

「うん」


 モーランに刺される釘に、ショークリアは素直にうなずいた。

 ここで余計な動きをしてモーランとクグーロの邪魔をするのは、結果として自分の首を絞めかねないというのを理解できているからだ。


(ここへきてガチの異世界冒険って感じするからなッ! めっちゃテンションあがってくるぜ……ッ!!

 褐色地の入り口とか、めっちゃRPGにでてくる森系ダンジョンの入り口とかに見えるしよッ!)


 とはいえ、高揚感は抑えきれそうにない。

 ショークリアはワクワクしながら、褐色地へと足を踏み入れていくのだった。


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