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責任を持って先生の元へと届けるぜ


 部屋のドアが乱暴に開く。

 そのまま雪崩れ込んでくるのは、ノーギスたち不合格組の両親たちだ。


 挨拶もせずに子供たちのところに向かっているが、これに関してはショークリアが許可している。


 実を言うと、ノーギスのような生徒がマーキィやイズエッタに食い下がってメイジャン邸へと着いてくる可能性は、ある程度考慮していたのだ。

 なので、こういう展開になった場合のパターンとして、準備していたことを実行するのである。


 保護者たちのあとにミローナも入ってきて、ショークリアの横についた。

 事前に頼んで置いた薬も持ってきてくれているようである。


「ノーギス」

「な、なんだよ……」


 ゴチン。

 母親は問答無用でゲンコツを落とした。


 魔力も何も乗ってないゲンコツなのに、やたらと痛そうなのは愛故だろう。たぶん。


「ぃっ、てーな……!」

「何をやらかしてくれたんだい、あんたは!」


 他の生徒と両親たちも、ゲンコツの有無はあれどだいたい同じように、叱られている。


 ノーギスは母親を睨むモノの、母親は追加のゲンコツを落とすと、ノーギスに背を向けた。

 そして、マーキィとガリアへ深々と頭を下げる。


「マーキィくん、ガリアくん。うちのバカが本当に申し訳ないコトを……」

「いや、いいよ。正直、おれも少し前までショコラに同じような態度取っちまってたんで……」

「そうですよ、おばさんは気にしないでください。悪いのは分かってなかったボクらなんですから……」


 痛みで顔を引きつらせつつも、マーキィとガリアはノーギスの母親の謝罪に、首を横に振った。


 その必死に痛みに耐えている顔をみるのがシンドくなってきたショークリアは、背後に控えているミローナに声を掛ける。


「ミロ。二人に薬を」

「はい」


 二人の元へ向かうミローナを見ながら、ショークリアはマーキィとガリアに声を掛ける。


「マーキィ、ガリア。薬を渡すわ。

 飲んで使うタイプの回復薬よ。味の保証はしないけど、効果の保証はするわ。味の保証はしないけど」

「ショコラ、なんで味について二回言ったの?」


 横からメルティオがツッコミを入れてくる。

 そんな彼女に顔を向けて、ニッコリと笑うと、メルティオは諸々察したようだ。


「誰が作った薬なの?」

「私です。お母様に習って調合をやってみたんですけど……。

 そしたら味とか付け心地とか、そういう使用感みたいな部分を大きく犠牲にする代わり、一般のモノよりも効果の高い薬が色々生まれました」

「まぁ効果が良いなら良いのかしら?」

「戦場じゃあそっちの方がありがたいかもしれないしな!」


 メルティオは首を傾げ、ガヴルリードはそう笑う。

 ショークリアはそんな二人に曖昧な苦笑だけ返して、マーキィたちに向き直る。


「綺麗に折ったから元々治りも早いはず。なので、回復薬を飲んだ上で、ミロから治癒術を掛けて貰えば綺麗に治るはずよ」

「助かる」

「ありがとうございます」


 二人の前でミローナは、試験管のような細い瓶の封を切って二人に手渡した。


 すると――


「……ショコラ、味もそうだけど、匂いもやばくね?」

「…………」

「ショコラさん! 目を逸らさないで!」


 ――マーキィとガリアから向けられる批難をショークリアは視線を逸らして黙殺する。


「どんな匂いがするの?」


 好奇心の湧いたモメアとエルコナの二人が近寄ってきて――


「……これ、飲むの?」

「二人とも、飲める?」


 ――二人して顔を(しか)めた。


「ショコラ」


 それを見たメルティオも、何か言いたげにショークリアを見る。


「効果と安全性の保証はします」

「毒薬じゃないんだよな?」

「……効果と安全性は保証します」

「毒薬でないコトは保証しないのか?」


 さすがのガヴルリードも顔を引きつらせた。


 マーキィとガリアもショークリアたちのやりとりを見ているのだが、そうは言ってもここで飲まないという選択肢はない。


「……やるぞ、ガリア」

「しかたないなぁ……付き合うよ」


 痛みとは別の意味で涙目の二人は、それでも意を決して瓶に口を付けて一気にいく。


「ふぐっ!?」

「むぐぅ……?!」


 口に入れた途端、二人が目を見開いている。

 明らかに回復薬を飲んだ反応ではなく、毒を飲んだ時の反応だ。


 どう見ても吐き出したくなるのを堪えた様子で、二人は口の中を飲み下す。


「ぅぇ……クッソ不味い! 不味いって言葉が生ぬるいくらい不味いんだけど!!」

「ぅぅ……まずい……っていうか、これ、人が口にして良い味してないよね?」


 二人の言葉に、ショークリアは遠い目をしながら、うなずく。


「…………知ってる」


 何せ自分でも一度飲んでいるのだ。

 その時にしっかりと効果も実感していて、一般的な回復薬などと比べると倍以上の効き目があるのも確認している。


「どんな味?」

「モメア、二人に追い打ちするような質問しないの」


 エルコナが呆れたような声を出すが、マーキィとガリアは顔を顰めつつ答えた。


「舌がピリピリするし、飲んだ時は喉がイガイガする……」

「いやそれ味の話じゃないよね?」

「口に入れた瞬間はしょっぱく感じるんだけど、直後に強い苦さと鋭い渋さで口の中が一杯になって、その苦さと渋さの奥に仄かな辛さあるの。最後は、後味として舌に絡みつくような謎の甘みがあったよ……」

「ねぇ、本当にそれ飲み薬として大丈夫なやつ?」


 四人のやりとりを見ていたメルティオがショークリアを見てくる。

 とてつもなく何か言いたそうなのに、何も言ってこないのはかえって恐い。

 

「どんなに効果があっても飲みたくないな」


 ガヴルリードもかなり引いた様子だ。


「あれ? でもなんか身体がぽかぽかしてきた」

「口の中は最悪の状態が続いてるけど、身体は布団にでも入ってるみたいだ」

「お二人とも腕を。その状態で治癒術をかけると、効果が高まりますので」


 実際、ミローナが二人に治癒術を掛けると折れていた腕はあっさりと完治した。

 二人の骨も歪んで回復した様子はないので、完治したといって良いだろう。


「すげぇ、本当に骨折があっという間に治った」

「確かに味さえ気にしなければすごい薬だったね。味さえ気にしなければ」

「気にするなって方が無理な味してたけどな」

「それはそう」


 骨折が回復したのを確認したミローナは瓶を片付けて一礼すると下がっていく。


 その一連のやりとりを見ていたノーギスが、不満そうな声を上げる。


「やっぱり最後に回復させるなら茶番だったじゃん。折る必要なんてなかっただろー」


 直後、彼の父親がチカラ強いビンタをかました。

 ノーギスが軽く吹っ飛ぶほどの勢いによるビンタだ。


「バカ息子が。お前はもうここにいる間しゃべるな」


 低く鋭くそう告げると、彼の父はショークリアたちとマーキィたちへ、それぞれへと丁寧に一礼した。


 そして、ノーギス一派の保護者たちはそれぞれにアイコンタクトをかわすと、ノーギスの母親が代表するようにショークリアへと向き直る。


「ショークリア様。バカ息子たちを格別気に掛けて頂きまして、改めてお礼を申し上げます」

「こちらこそチカラ及ばずこのような結果になってしまったコトを残念に思います」

「勿体ないお言葉です。

 むしろ、結果はどうあれ事前に知らせて頂けた上に、あずかり知らぬところでコトが大きくなるのを防いで頂けたコトに感謝しかありません」


 それはノーギス一派の保護者一同、同じ思いだ。

 この部屋でのやりとりは、声だけながら別室にいた保護者たちも聞いているのだ。


 なにせショークリアの母マスカフォネが思い付きで作り出した盗聴器を設置してあったので。


「それと、マーキィ君とガリア君だったね。うちの馬鹿のせいで痛い思いをさせて申し訳なかった」

「良いって良いって。正直、少し前まではおれも似たような態度で、ショコラ――ショークリア様と、イズエッタに迷惑かけまくってたんで。

 その分の因果応報ってコトにしておきます」

「そうですよ。ボクらも気づかなかったらノーギスと同じコトをしてたと思いますので」


 謝罪をしてくるノーギスの父に、マーキィとガリアは笑う。

 そのことにノーギスの父は安堵するように息を吐いてから、ショークリアへと向き直った。


「こちらに滞在中に伺っていた退学のお話、我々は受けさせて頂きます。

 先ほどの部屋にあった書類に署名などを記入すればよろしかったのですよね?」

「ええ。私が責任を持って先生の元へと届けますわ」


 そううなずいてから、ショークリアは言葉を付け加える。


「それと、エルコナのご両親。彼女は補欠合格で良いと思っています。

 あとは本人とご両親の意志次第ですので、まずは娘さんと話し合ってください」

「ありがとうございます」


 その話し合いの結果、エルコナは退学せずに残ることとなった。

 モメアとのやりとりを見る限り、態度さえ改められれば問題はないだろう。


 そうして、ノーギス一派とその保護者たちは部屋を退室していった。


 それからしばらくの間、部屋の中には沈黙が落ち――


「あ゛ー……」


 ――ややして、ショークリアが貴族らしからぬ妙なうめき声をあげ、沈黙を破る。


「ショコラはしたない……と、咎めたいところだけど、良くやったわ。お疲れ様」

「ありがと、メルティオ姉様……」

「お別れなのは残念かもしれないけど、遠征会前にここまでこぎ着けられてひと安心ってところね」

「はい。まぁ五彩の環に還ったワケでもなし――会おうと思えば会える形でのお別れなので、そこは良かったな、と」

「そうね。本当に良くやったわ」


 心底から褒めるようにメルティオは労いの笑みを浮かべた。

 遠征会が始まってしまえば、彼らの態度次第では彼らだけでなく彼らの家族すら命が無かった可能性がある。


 それを思えばショークリアが行ったこの選別は、彼らを守るのに必要だったことだ。

 貴族と平民。それぞれが立場を弁え、覚悟を持って立ち回った結果としては、今回のこれは最良であっただろう。


「マーキィ、ガリア。腕をやっちゃって悪かったわね」

「気にすんな。あれは必要だった。それと、改めて頬の傷、ごめんなショコラ。メルティオ様も、先日は申し訳ありませんでした」

「謝罪を受け取るわマーキィ。理解できたなら今後は気をつけつつ、他の平民たちのコトも気に掛けてあげなさい」

「はい」


 ショークリアとメルティオが出会うキッカケになった出来事から始まった一連のマナー騒動。

 それも、発端であるマーキィとメルティオが謝罪を交わしてことで、終了したと言って良いだろう。


 そのことに笑みを浮かべながら、ショークリアは告げる。


「そうだ。みんな、席についててね。

 お疲れ様って意味でも、甘味を用意してあるから。マナーとか気にせず楽しんでくれていいからね。

 お姉様たち分もありますから、是非一緒に」

「もちろん頂くわ」

「それが楽しみだったといっても過言じゃないしな」

「ガヴルはもう少し遠慮を覚えなさいね?」


 遠征会の準備や、廃墟食堂の件など、気に掛けることはまだまだあるものの、とりあえずはひと段落だ。


 ショークリアは和やかな空気の室内を見回しながら、安堵の息を漏らすのだった。



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