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咄嗟にアドリブ効くなら悪くないんじゃないか?


「作ってる時はどんなもんかと思ったが、食べるとめちゃくちゃ美味いな」

「ええ。ふつうなら捨ててしまっているようなミソと呼ばれる部位がこんなに美味しいだなんて……!」

「外はサクサクで中はアツアツのトロトロで大螯の味があふれ出してくるのがすごい良い。これが最低限の調味料で出る味とは思えないぜ」

「まぁ味付けは最低限だったのですか?」

「おう。ふつうの料理に使われてる塩や酒の量を思うと、半分以下だったんじゃないかな」


 マーキィとイズエッタが、大螯(おおバサミ)のミソコロッケに感動していた。

 その近くにいたクラスメイトたちは、のんきな二人に対して苛立っているようだが。


「お前らッ――……!」

「待って!」


 だが、大声を出そうとした場合は一緒にいるミンツィエとガリルがそれを抑える。


「大声を上げようとしないで」

「そうだよ。いい? 両親がいなくなったのは、ボクたちのそういう分かってない態度のせいなんだからね?」


 ミンツィエとガリルは必死にクラスメイトを抑えているのだが、マーキィとイズエッタは早々に諦めかけていた。


 なので、まずは料理を堪能しているのである。


「マーキィ、イズエッタさんも。手伝ってくれないかな?」

「あのイズエッタさん……あたしとガリルくんも、それを食べたいのですけど」


 そう言われてしまうと交代せざるをえない。


「しゃーない。食べ終わったし変わるぜガリル」

「ええ。私も食べ終わりましたのでかわりますよ、ミンツィエさん」


 二人が言葉通り交代してくれたので、ガリルとミンツィエは安堵した。

 それから、自分たちの分のコロッケを口に入れて、ガリルとミンツィエは目を輝かせる。


「ほれ、お前らも食っとけ。めっちゃ美味いぞ」

「お前らはいいよな。両親がいなくなったりしてねぇんだから」

「そりゃそうだろ。俺はちゃんといなくならない条件を満たし続けてるからな。イズエッタもそうだぞ」


 穏やかながらも有無を言わせない雰囲気で告げるマーキィに、文句のありそうなクラスメイトたちがやや後ずさる。


 マーキィはチラリと横を見やると、イズエッタが一歩下がった。

 どうやら、この場はこちらに任せてくれるらしい。


「俺も人のコトは言えねーんだけどさ、俺たちはあまりにも貴族をナメすぎてたんだよ」

「どういう意味だよ」

「そのまんま。そもそも、ショークリア様を筆頭としたうちのクラスの三女神と、イズエッタを筆頭とした最初から分かってた面々、そこに先生を含めたみんなが口を酸っぱくして言ってくれてただろ?」


 クラスメイトたちの分かってくれなさそうな表情。

 それを見て、元々分かっていた面々は、呆れたような顔をしている。


「ここが正念場だぜ、お前ら。両親が帰ってくるかどうかってのもそうだし、恐らく退学も掛かってる」

「え?」

「気づいてなかったのか? これ、先生とショークリア様による礼節の試験だろ?」


 先生はショークリアのところの使用人たちに囲まれている。

 こちらの様子をハラハラと見守ってい様子を見せるが、口を出す素振りがない。


 そもそも、授業中に招待状を手渡す意味を考えてくれ――とショークリアが言っていたではないか。


 マーキィはそのことを思い出した上で、先生の様子を見てそこが結びついた。

 コロッケが配られている時にイズエッタとも認識のすりあわせをしたが、大筋は間違っていないようだ。


「知識として習得している礼節を実戦する場なんだよここは。不出来が過ぎれば、両親がいなくなる――そういう戦場なんだ」

「な……ッ!」


 大声を上げようとする生徒のところへ、マーキィは可能な限り音を抑えて、だけど最速で動いて口に手を添える。


 マーキィとしては、まさかこういう場で、魔力による身体強化を使うとは思わなかった。

 だが、使えたからこそ、被害は減らせたと安堵する。


「そういう大声は減点される。すでに両親がいなくなってる状態で、さらに失点すれば、両親がどうなるか分からないんだぞ」


 泣きそうな顔をしながらうなずくクラスメイトに、マーキィは小さく息を吐くと、口元に当てた手を離した。


「ショコラさんってこんなに厳しくて怖い人だったの?」

「ショークリア様だ。この場で愛称で、しかも呼び捨てするな。最初に言われただろ、必要な場ではちゃんと貴族として対応しろって。

 あの方は平民に寄り添い、平民の考え方を理解できる人だけど、同時に貴族なんだ。向こうが寄り添ってくれるのに寄りかかってるだけじゃダメなんだよ。こっちも貴族を理解し、敬意を払って応じなければ失礼になる……まぁ偉そうに人に言えるほど、俺もちゃんと出来てなかったけどさ」


 コクコクと何度もうなずく姿を見れば、ある程度の理解は得られたのだろう。

 全員分、これをやってくのは厳しいな――と胸中で思っていると、イズエッタが別の生徒に同じような話をしているのが目に入った。


 コロッケを食べ終わったガリルとミンツィエも同様だ。

 それだけでなく、出来ていた側は出来てなかった側に改めて教えている。


 それでも全員が全員、理解出来ているワケではなさそうだ。


(出来るだけのコトはやったんだ。それでもダメなら、もうダメだろうな……)


 ショークリアのことだから、クラスメイトとその両親を殺すようなことはしないだろうが――そんなことを思っていると、貴族が自分の元へとやってきた。


「おう、マーキィ」

「え?」


 身なりをしっかりと整えているので別人に見えるが、それは間違いなくガヴルリードのようだ。


 思わず、ガヴルと呼びかけて口を噤む。それから小さく深呼吸をしてから、応じた。

 背筋を伸ばし、できる限り丁寧に。


「ガヴルリード様。お声がけして頂きありがとうございます」

「おう。正解だマーキィ。ま、お前からはガヴルと呼んで欲しいけどな」


 それに思わずいつものように呼びそうになるが、ガヴルリードと一緒にいる、どこかショークリアに似た少女の眼差しを受けて、再び口を噤む。


(この場合の正解はなんだ……?)


 イズエッタたちからのハラハラした視線を感じながらも、マーキィは必死に思考を巡らし――そして、ガヴルリードを待ったと感じないうちに返答した。


「ではガヴル様、と」

「……おう」


(やばい……ダメだったかッ!?)


 不満そうなガヴルリードを見て内心で焦るマーキィ。

 それを見、ガヴルリードの横にいた少女が、彼を畳んだ扇でピシャリと叩く。


「いてっ!? メル……何すんだよ……」

「マーキィの対応に問題はないでしょう? 貴方が不満そうな顔をしてどうするの」

「いやぁ、こいつからは呼び捨てされたくてな?」

「それが許される場ではないのは理解しているのでしょう? なら、彼を不安にさせるような顔をしてはダメよ。

 貴族の機嫌一つ、言動一つで平民は五彩の輪へと還りかねない。だから、平民に友人がいる貴族は、線引きをしっかりし、状況に応じた対応をちゃんとするコトで、それらを守るの。何度も言っているでしょう」

「う……そうだよな。メルの言う通りだ。お前は間違ってないから安心しろマーキィ」


 ガヴルリードのその言葉に、マーキィは盛大に安堵した。

 その上で、マーキィは横にいた少女が誰なのか思い出す。


「あの……いつかの夜、ガヴル様とご一緒にいた方でお間違いないでしょうか?」

「ええ。そうよ。私はメルティオ。ガヴルとショコラの姉みたいなモノよ」

「……俺はメルのコト妹だと思ってたんだけど……」


 ボソっと口にしたガヴルリードは、またもメルティオに扇で叩かれる。

 それを見ながら、マーキィはちょうど良い機会だと、頭を下げた。


「メルティオ様。先日は至らぬ自分が大変申し訳ありませんでした」

「へぇ……自覚できたのね?」

「はい」

「ショコラと、平民代表の子には謝った?」

「ショークリア様にはこの度の挨拶の際に謝罪して、いたしました」

「そう。ちゃんと平民代表の子にも謝りなさいね。

 先の件はショコラの顔で手打ちにした以上、こちらからどうこう言う気はないわ」

「かすべつ……違う、えっと……格別の温情を感謝します」

「言い間違いは減点だけど、言葉選びと立ち回りは悪くないわ。

 あのひどい夜からよくもまあ改善できたものね。他の子達も改善されているコトを祈っているわ」


 そうしてメルティオは邪魔したわね――と(きびす)を返す。

 ところが、ガヴルリードが着いてこなかったからか、大きく嘆息した上でこちらに戻ってくると彼を扇で叩く。


「あなたも戻るのよ、ガヴル」

「でもよ、メル。俺はマーキィと一緒にいたいんだけど?」

「今日はダメ。貴方がいると、彼らにも迷惑よ」

「……そっか。じゃあ仕方ない」


 二人は改めて、失礼する――と口にしてこの場を去って行った。


 メルティオとガヴルリードが貴族の輪の中に戻っていくのを見届けたあと、マーキィは盛大に安堵の息を吐いた。


「焦ったぁ……」

「お疲れ様」


 本気でこちらを労うようなイズエッタに、マーキィは訊ねる。


「……おれ、大丈夫だったよな……?」

「ええ。メルティオ様の様子を見る限りは大丈夫だったと思うわ」

「そうか」


 改めて息を吐いたあとで、マーキィはイズエッタに向き直る。

 そして、同じ平民でも格上として扱うように、真剣に告げる。


「イズエッタ――いやイズエッタ嬢。

 至らぬ我々の為、貴族の皆様とのやりとりの矢面に立ってくださっていたコト、皆を代表し感謝させて頂きたく思います。

 また、おれ……私個人の問題により、顔に傷を負わせてしまったコトを謝罪させてください。

 言葉で足りないようであれば、私に出来る範囲のコトであれば、お詫びをさせて頂きたく思います」


 マーキィの真摯な顔をしばらく見つめていたイズエッタだったが、何やらハッとした顔をする。


「理解して頂けたならば結構。お礼と謝罪の言葉だけで充分ですわ。

 ですが、それでも何かして頂けるというのでしたら、後日に私から、何でも屋(ショルディナー)としての貴方へ直接依頼(ライブクエスト)を引き受けて頂ければ、と」

「その程度で良ければ喜んで」


 二人は堅苦しく真面目な顔でそうやりとりし終えると、どちらともなく気を抜くように息を吐いた。


「知っている相手とこうやって堅苦しくやるのって変な感じだな」

「ええ――でも、やらないといけないわ。私たちは今、それを求められているのだから」


 ガヴルリードが突然やってきたこと。

 それに対応したマーキィ。

 そして最後のマーキィとイズエッタのやりとり。


 それを見ていたクラスメイトたちはそれぞれにどう思ったのかは分からない。

 ただ――少なくとも、二人の両親が居なくなったりしないのは、今のようなやりとりが出来ているからだというのは、理解したようだ。


 全員ではないものの、クラスメイトたちの動きが改善され始めた辺りで、〆の甘味が配られ始めるのだった。



ショコラとは直接関係ありませんが

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[良い点] マーキィ、お前が早々に諦めるな!って思ったら、本人も自覚してた。 対クラスメート、対ガウルリード、対メルティオ、対イズエッタ…連戦お疲れさんです。 伝わりつつあるようで何より。
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