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世界が違えど話が長いのは共通らしい


 入寮した翌日――ついに入学の日がやって来た。


 ショークリアだけでなく、モルキシュカとヴィーナもミローナに整えて貰っている。


 準備を終えた三人で、学園の講堂へと向かう。


 講堂にはすでに平民の新入生が集まっており、席についている。

 貴族は、エントランスで待機し、名前が呼ばれた順に入場する形なのだそうだ。


「ショコラ」

「トレイシア殿下」


 講堂のエントランスで待機していると、名前を呼ばれて顔を上げた。

 そこにいたのは、この国の姫であるトレイシアだ。


 お互いに愛称で呼び合う仲ではあるが、この場ではあえて縮めず敬称を付けて呼ぶ。

 トレイシアはそのことに少しだけ不満そうな顔をするが、すぐに穏やかな笑みへと表情を変えた。


「堅いのは嫌です――と言いたいところですが、仕方がありませんね」

「この場では勘弁していただければと」

「もちろん」


 小声でのやりとりをしていると、近くにいたモルキシュカとヴィーナは驚いた顔をしている。


 成果爵のなんちゃって貴族扱いされている家の娘が、姫殿下と仲が良いというのは、なかなかにショッキングな出来事なのかもしれない。


「入場は身分の低い方からが伝統らしいですので、ショコラはすぐに呼ばれてしまうかもしれませんね」

「学園内の事情が外に出にくいので、絶好の嫌がらせ機会ともいえますしね」


 苦笑するショークリアに、トレイシアも苦笑を返す。同じようなことを思っていたのだろう。


「表向きは身分差を気にせず切磋琢磨しろ――なんて掲げているのですけれど」

「形骸化した看板なんて、表に出てても誰も気にしないというコトなのでしょうね」


 トレイシアと共に周囲へ向けて皮肉を振りまいていると、さらに声を掛けてくる者たちがいた。


「ショコラ、殿下といましたのね」

「ハリーと一緒に、エントランス中を探し回ったよ」


 ハリーサとガルドレットだ。


「おや、これは珍しいモルキシュカ様ではありませんか。ご無沙汰しております」

「あ、はい……。ご無沙汰して、おります……ガルドレット様」


 トレイシアが近づいてきた時から、ショークリアの近くで――されど絶妙に目立たない位置取りで小さくなっていたモルキシュカ。

 だが、ガルドレットに声を掛けられると、諦めるように顔を上げ、もにょもにょとした声で挨拶を返した。


 さらに、ハリーサが近くにいたヴィーナに声を掛ける。


「ヴィーナ様ですか? ずいぶんとお会いしていなかった気がしますが」

「え、ええ……。ハリーサ様、ご無沙汰しております」

「結われた髪、似合っておりますよ。下ろしていた時の静かな美しさとは違う、活動的な美しさを感じますわね」

「あ、ありがとう存じます……」


 ハリーサはヴィーナと知り合いらしく、ポニーテールに結った髪を褒めている。

 その言葉に偽りがなく本心だと分かっているからか、ヴィーナも少し照れくさそうにお礼を口にした。


「モルキシュカ様とヴィーナ様とは寮のお部屋がお隣なんです。

 挨拶したその日のうちに、仲良くなったのですよ」


 ショークリアがそう告げると、トレイシアもハリーサもガルドレットも、同時に首を傾げた。


「ショコラが地棟なのはわかります。成果爵など貴族ではないと豪語する者の手引きでしょう。

 ですが、モルキシュカ様とヴィーナ様は違いますよね?」


 モルキシュカの実家は上級貴族。ヴィーナの実家は中級貴族だ。

 トレイシアの疑問はもっともだろう。実際、ショークリアも同じことを思ったのだ。


「あ、あたし――私は、その……自分で地棟を選び、ました……」

「私は、その……お爺様が天棟に入寮するコトを許してもらえず……」


 モルキシュカとヴィーナそれぞれの答えに、トレイシアたちは何とも言えない顔をする。


「まぁ人それぞれってコトで。あんまり深く掘りすぎてしまうのも、失礼になってしまいませんか?」


 ショークリアの言葉に、それもそうだとトレイシアたちはうなずく。


『メイジャン家、ショークリア・テルマ・メイジャン様』


 エントランスに自分の名前を呼ぶ声が響く。


「あら、呼ばれたようです。行って参りますね」


 お先に失礼します――と四人に挨拶をし、ショークリアは講堂の扉をくぐるのだった。




 ショークリアを筆頭とした成果爵の家、ギリギリ貴族という扱いの準下級貴族の家。その双方が全員入場すると、平民を起立させた。


 学園からすると、成果爵と準下級貴族なんてものは貴族を名乗れるだけで平民となんら変わらないという意思表示だろうか。


(陛下が知ったらキレるだろうなぁ……。

 そのうちシアが報告するだろうけど、オレからも報告しとくのはアリかね)


 学園の根底に残る男尊女卑の空気もそうだが、陛下によって刃が入りはじめた成果爵貴族への不当な嫌がらせ行為をまだやっているのは、あまりにも時代の流れが見えてないと言えるだろう。


 何はともあれ、貴族の入場は続いていく。

 最後はガルドレット、モルキシュカ、トレイシアの順番に入ってきた。


 同じ上級貴族でも序列があるのはショークリアも知っていたが、どうやらモルキシュカのシュバルトルテ家は、ガルドレットのデローワ家よりも上なようである。


 トレイシアが最後だったのは王族だからだろう。

 むしろ、身分の下の者から順番に入場するこの場で、王族がラストでなかったなら、誰がラストになるのだと言う話だが。


 そのままトレイシアは壇上へと上がり、新入生代表として挨拶をした。


 短くもビシっとした意思表明が含まれた挨拶だ。

 変革が感じられる時代になってきたので、国がより良き方向へ向かえるよう、学園で勉学に励みたいと、そんな感じの内容だった。


 続いて学園長の挨拶だ。

 トレイシアの意思表明を、遠回しに王族といえども所詮は女。夢物語を語るだけで実務が伴うわけがないだろう――的なことを言っている。


(アレはダメだな。まぁシアもそう思ってるだろうけどよ)


 とはいえ、最初の遠回しにトレイシアを下げることを語っていた時はマシだったのだが、やがてダラダラと中身のない無駄な内容に変わっていく。


(無駄に長くて眠くなる……学校のお偉いさんの話ってのは、世界が変わっても大差ねぇなぁ……)


 何となく前世の話の長い校長のことを思い返しながら、ショークリアは小さな嘆息を漏らすのだった。




 入学式が終われば、それぞれの教室に移動しての挨拶だ。


 入学に必要な書類に、自分が入る科を選ぶ項目がある。クラス分けは、五つのうちから選択したその科目に準じるわけである。

 なお、入学後は変更できない為、重要な選択だ。


 ショークリアが選んだ科の教室があるのは、旧第一棟と呼ばれる、ほどほどに言ってもオンボロという言葉が似合う建物である。


 ちなみに、ショークリアが選んだのは基礎科という学科だ。

 ここは貴族よりも平民の方が圧倒的に多い。

 ――というのも、貴族はともかく、平民に限りこの学科だけは学費が半額であるという理由があるのだが。


 ようするに、元々平民向けの学科なのだ。

 この学科を選ぶ貴族は、何らかの事情や選ぶなりの理由というものを持っている者に限られる。


 今年、基礎科を選んだ貴族は偶然にもモルキシュカ、ヴィーナ、ショークリアの三人のようである。


 教室の席順は自由なのだが、さすがにモルキシュカの周囲は距離がおかれている。

 ヴィーナとショークリアも明らかに貴族と分かる姿をしている為、遠巻きにされてしまうので、二人ともモルキシュカの近くに座ることにした。


 ややして、猫耳や尻尾という身体に獣的な特徴を持つ女性が入ってきた。

 この辺りでは珍しい獣人(アニマ)族を見、ショークリアは少しだけテンションがあがる。


(耳、モフモフだな! 触ってみてぇ!)


 もちろん、そんな心境など表には出さないのが淑女というものだ。


「これから三年間。この基礎科を担当する担任のミーツェ・ガットです。よろしくお願いしますね」


 挨拶をする様子から、真面目でクールな印象を受ける。


「では、皆さんに自己紹介をして貰います。

 まずは貴族の方々からお願いしてもよろしいでしょうか?」


 ショークリアとヴィーナは構わないとうなずいてから、モルキシュカをみた。


「……あたし、最初?」

「まぁ身分的に?」

「モカが一番上だし」

「うええぇ……あたしかぁ、苦手なんだけどぉ……」


 そんなワケで挨拶のトップバッターはモルキシュカは、もにょもにょとぼやきながらも立ち上がった。


「モルキシュカ・ヴェルヅ・シュバルトルテ。

 あたしは、堅苦しいの……苦手なので、下町言葉とかで……話しかけてくれていいです。ただ、人と話すのは……苦手なので、誰と喋っても……こんな感じ。よろしく」


 名前を名乗り、上級貴族だけど気にするなと告げる。

 ヴィーナも似たような感じだ。


「ヴィーナ・モニア・サルアミルクです。

 わたしも基本的には呼び捨てしてくれて構わないわ。

 必要な場面では貴族として振る舞うけど、教室にいる間はモカ同様に、下町言葉で話しかけてくれても気にしないから」


 変に特別扱いしないでくれという気持ちは分かる。

 二人とも貴族であることを鼻にかけることはなさそうだ。


 ミーツェ先生が二人の言葉に妙に感動している――というか涙を流して喜んでいるように見える。


(これまでの基礎科に来た貴族の振る舞いが目に浮かぶぜ)


 それはそれとして、次は自分の番だ。

 ショークリアはどうしたものかと考えながら、立ち上がった。



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