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女子寮のお隣さん

本日2話目٩( 'ω' )و


 入学式の前日、ショークリアは学園の女子寮へとやってきた。


 今日から、卒業までは基本ここで寝泊まりだ。

 荷物などはすでに運び入れてある。


 見た目はやや古くさく、雰囲気は質実剛健。女子寮にしては華がない。

 壁はしっかりとしており、天井は高め。

 魔導灯が壁に付けられているものの、やや暗いのは最新のモノではないからだろう。


 玄関を入ってすぐにエントランス。

 エントランスの奥へ進むと、受付カウンターのようなものがある。


 カウンターの奥には扉があり、それが守衛や管理人の詰め所となっているそうだ。


 このカウンターは、外来のお客さんの出入り確認や、寮生たちが授業以外の外出をする際に報告する為のもので、基本的には無視できる。


 とはいえ、ショークリアは通り過ぎる時に、カウンターの女性へと挨拶代わりに軽く微笑み掛けることにした。


 会釈も考えたのだが、貴族なので簡単に頭を下げない方がいいのだ。


 カウンターを正面に、道が左右に分かれる。

 左は天棟(てんとう)と呼ばれ、基本的に貴族はそちらに住まう。

 右は地棟(ちとう)と呼ばれ、基本的には平民にあてがわれる。


 ショークリアはどちらかというと――右だ。


 国の上層部がナメんなよ宣言なんてしたものの、学園内のパワーバランスは変わってないようである。

 ようするに、成果爵は貴族にあらずというアレである。


(ま、別に構いやしねぇけどよ)


 ちなみに、天棟を嫌がる貴族や自ら望んで地棟を選ぶ貴族もいるので、全員が全員、平民というワケではないのだが。


 廊下を進むとまた道が別れる。

 片方は食堂だ。結構なお手ごろ価格で悪くない食事ができると聞いている。


 もう片方は階段だ。

 ここを上がると、寮生の為の部屋となる。


 今は食堂に用がないので、ミローナと共に階段を上る。


「私は二階だけど、ミロは?」

「五階です。天棟と違い従者や使用人の為の部屋はないので、平民生徒との相部屋となります」


 寮内では誰が見ているかわからないので、ミローナは基本的に常時従者モードだ。それがちょっとだけ寂しい。


「もしかして、身分で部屋の場所が決まってたり?」

「はい。カロマから伺った話によると天棟、地棟ともに、身分が高い生徒ほど、下の階に配置されるそうです」

「上じゃないんだ」

「七階建てですからね。上の部屋ほど下との行き来が不便になる為、利便性が高いところほど身分の高い生徒が使うようです。

 生徒の為――というよりも、生徒に仕える私たち従者の為、という面もありそうですが」

「いちいち七階から上り下りするのは大変だものねぇ」


 授業に出る時の上り下りもそうだが、従者も頼みごとをされれば往復するのだ。それを思えば理解もできる。


「地棟は二階と三階の部屋だけが個室となっており、四階より上はすべて相部屋となっているそうです」

「あー……貴族とか大店(おおだな)の商会とか、そういうところの令嬢向けってコトね」

「はい」


 なるほど――と、ショークリアは納得する。

 実際、ショークリアの部屋の左右も貴族が使っている。


 階段から廊下に出て、廊下の奥へと向かっていく。

 部屋は廊下の左右に四つずつ。


 右手が二〇一号室から二〇四号室。

 左手が二〇五号室から二〇八号室。


 ショークリアの部屋は、二〇七号室だ。


 部屋のカギを開けた時だ。

 隣の二〇六号室から、栗色の髪を高く結ってポニーテールにした少女が出てくる。


「ごきげんよう、ヴィーナ様」

「え?」


 ショークリアが声を掛けると、ヴィーナは蜂蜜のような色の瞳を、驚いたような困惑したような様子で揺らす。


 先日、荷物を運び入れた時にも挨拶したお隣さんだ。

 なのに、まるで初対面のような態度をされた。ショークリアは僅かに訝しむが、敢えて気にせずに訊ねた。


「先日、荷物を運び入れる時にあった際は顔色が優れなかったようですが――今日は大丈夫そうですね。安心しました」

「それは、その……ご心配おかけしました」


 ヴィーナは小さく息を吐き、それから申し訳なさそうに口にする。


「その……ごめんなさい。人の名前を覚えるのが、あまり得意ではないのです。大変失礼ながら――もう一度、伺っても良いですか?」


 どうやら声を掛けた時に戸惑ったのは、咄嗟に名前が出てこなかったからなのだろう。


(人の顔と名前を覚えるの、苦手なヤツはすげぇ苦手だって聞くしな)


 荷物の運び入れの日に会った時は体調も悪そうだったので、尚更かもしれない。


 ショークリアは気にするなという顔を向けてから名乗る。


「お隣、二〇七号室のショークリア・テルマ・メイジャンです。

 改めてよろしくお願いいたしますね。ヴィーナ様」


 ショークリアが名乗ると、ヴィーナは驚いたような納得したような、あるいは羨望のような眼差しを向けて、小さく息を吐いた。


「私も改めて名乗らせてください。

 ヴィーナ・モニア・サルアミルクと申します。ヴィーナと呼び捨てしていただいて構いませんよ。ショークリア様」

「では、私のコトもショコラと。

 あまり畏まった態度は得意ではないので、態度も崩してください」

「では……ううん。じゃあお互いに崩しましょうか」

「ええ。こっちの方がやりやすいわ」

「実はわたしも」


 どちらともなく笑い合う。

 お互いに、隣人は良い人そうだと、安堵した。


 そこへ――


「楽しそうなところ、ゴメンなさい……。

 あたしも挨拶を、させて頂きたく……同じ、新入生の……ようですし」


 綺麗な黒い髪をした、少し猫背の少女が声を掛けてきた。

 髪を長く伸ばしているのだが、手入れはさほどしていないのかボサボサな印象を受ける。


 前髪も長く目を隠しているが、その隙間から覗く瞳の色は綺麗な赤をしていた。


 雰囲気からすると、あまり話しかけるのが得意な方ではなさそうである。同じ新入生仲間を見つけたので、勇気を出して声を掛けて――というところだろうか。


「二〇八号室のモルキシュカ・ヴェルヅ・シュバルトルテと申します。

 基本的に、部屋から出る気のない……引きこもりですが、お見知りおきだけでも」


 モルキシュカはヴィーナとは逆隣の寮生だったようだ。

 ショークリアが挨拶を返そうとした時、ヴィーナが驚いたように訊ねた。


「失礼ながら、シュバルトルテ様といえば、上級貴族では? 地棟にお部屋を取られたのですか?」


 ヴィーナの疑問はもっともだ。

 ショークリアはシュバルトルテの名にピンと来なかったが、上級貴族であるならば、ふつうは天棟に部屋があるはずである。


「あ、はい。でも、気にしないで……欲しい、かな。

 嫌みと自慢だけの……人付き合いが嫌で、地棟を選んだ……変人ですので」


 その気持ちはショークリアも分からなくはない。分からなくはないのだが。


「変人って――モルキシュカ様、ご自分で仰るのですか?」


 思わずショークリアが聞き返すと、モルキシュカは薄らと笑みを浮かべてうなずいた。


「あの……もし、よければ……あたしも、二人を……気安く、呼んでも? あたしのコトは、モカ……と気軽に呼んでくれて、構わないので。もちろん、敬称もいらない……よ?」


 言われて、ショークリアとヴィーナは顔を見合わせた。

 気楽に付き合えるのならば、二人としてもそれに越したことはない。


「うん、分かった。

 ショークリア・テルマ・メイジャンよ。ショコラでいいわ。よろしくね、モカ」

「ヴィーナ・モニア・サルアミルクよ。よろしくしてね、モカ」

「えへへ……うん。ショコラ、ヴィーナ。二人ともよろしく」


 二人から愛称で呼ばれて、モルキシュカは嬉しそうににへらと笑う。

 何となくこっちも嬉しくなってくる笑みだ。ショークリアとヴィーナも一緒になって笑みを浮かべる。


「ああ、そうだ。もう一人紹介しなくっちゃ!」


 笑い合ったあとで、ショークリアは思い出したようにミローナを示した。


「私の従者のミローナよ。私共々よろしくね」


 丁寧な仕草でお辞儀をするミローナに、モルキシュカとヴィーナもよろしくと声を掛ける。


「そういえば、二人は従者は?」

「わたしはお爺様が付けてくれなくて……」

「あたしは、断って……きた。いらない……って」


 答える二人の様子を見ながら、ショークリアは小さくうなる。


 モルキシュカは明らかにボサボサだ。

 ヴィーナは一見するとちゃんと整っているようで、ポニーテールの結われ方や、髪の手入れの仕方はあまり上手とはいえない。


「二人が嫌じゃないなら、時々ミロを貸すわよ?」


 ショークリアがそう口にすると、横でミローナもうなずいた。


「差し出がましいとは思いますが、モルキシュカ様。ヴィーナ様

 お嫌でなければ、御髪(おぐし)のお手入れをさせて頂ければと」

「あ、あたしは……そういうの、いらないから……誰も、連れてこなかったので……それに、着飾ったってあたしなんて……」

「わたしはお願いしたいかも」


 二人の反応を見て、ショークリアは「ふむ」と小さく息を吐く。


「わかったわ。ヴィーナは毎朝、私と一緒にミロに手入れしてもらいましょう」

「ありがとうショコラ。ミローナもよろしくお願いね」

「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」


 それから――と、ショークリアはモルキシュカを見る。


「な、なに? ショコラ……」


 ショークリアは別に睨んだりとって食ったりするつもりはないのだが、モルキシュカはビクりと身体をふるわせ、小動物のように小さくなった。


「モカは――平時はそれで構わないから、入学式のような式典や、祭事などの時だけはミロに手入れしてもらうコト。有事の時にすら見窄らしいと、両親やご実家に間違いなく迷惑が掛かるわよ?」

「ううっ、両親に迷惑は……掛けたくないかな。

 分かった。ミローナだっけ? そういう時は、お願いして……いい?」

「問題ありませんよモルキシュカ様」

「うん。ありがとう」


 部屋の前で挨拶を交わすだけで、それなりに時間が過ぎてしまった。


(ま、これから最低でも三年は付き合うんだし、仲良くしておくに越したコトはねぇよな)


 うんうんと、心の中でうなずきながら二人を見る。


(何より気安く付き合えそうなのは助かるぜ)


 あとは、この寮に暮らすほかの人たちとどう付き合えるかだろう。

 平民が多いのだ。ショークリアとしては付き合い易く思えるが、相手側が貴族をどう思っているのかで、それも変わってしまうだろう。


(いやぁ前世は寮生活なんてしたコトねぇし、学校もまともに通ってたとは言えねぇからな!

 日本の学校とは全然違うと分かってても、ちゃんと学校に通えるってコトにワクワクしてきちまうぜッ!)



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