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美食屋の肩書きもそう悪いもんじゃねぇのかもな


「野次馬するなら、もっと離れなさいッ!」


 ショークリアは剣を逆手に構え、可能な限りの声を上げてから、地面を蹴った。


 一足先にカロマが走り出している。


「なんで骨纏いの(エノバー)ダームが街中に!?」

「戦ってるのはッ、美食屋とお付き姉ちゃんだッ!」

「野次馬どもを下げろッ!」

何でも屋(ショルディナー)や傭兵、警邏たちにも下手に手を出させるなよッ!」

「女だからとか喚く奴は殴ってでも黙らせろ! 邪魔をさせるなッ!」

「ヘタな奴より二人の方がよっぽど強ぇッ!」

「二人の足を引っ張らねぇのが最善策だッ!」

「二人とも戦闘に専念してくれッ!」

「避難誘導とかは任せろッ!!」


 周囲の声に、ショークリアは少し口元が緩む。

 すぐさま気を改めると、軽く手を挙げて了解の意を示した。


 騒ぎを聞きつけた何でも屋(ショルディナー)や傭兵、警邏兵たちが騒ぎ出す。


 こういう時、何でも屋(ショルディナー)としてそれなりに名前を売っておいて良かったと思う。

 身分も別に隠してなかったのも、幸いしたのだろう。


 ドレスを纏って、煌びやかな装飾をしていても、自分だと分かってくれる人が多かったのはありがたい。


「せぇぇぇいッ!」


 カロマが踏み込み、細身の剣を突き出す。

 骨鎧(こつがい)に覆われていない場所を狙った突きながら、骨纏いの(エノバー)ダームは身体を動かして、弱点をズラした。


 剣の切っ先が骨鎧を滑る。

 だが、カロマもそれは承知の上。


 前傾に体勢を崩しつつも、左手に集めていた緑色の魔力(カラー)骨纏いの(エノバー)ダームに叩きつけた。


風塵烈掌(ふうじんれっしょう)ッ!」


 瞬間、掌と骨鎧の隙間に、猛烈な風が弾けた。

 本来は一方的に相手を吹き飛ばす技ながら、相手の重量が重量だ。

 巻き起こる風に、彩技(アーツ)を使ったカロマの方が吹き飛ばされるが――


 最初から、それが狙いだ。

 変に隙を晒すくらいなら、間合いを離した方が得策だという判断をしたのである。


 だが、骨纏いの(エノバー)ダームとて獣なれど知性はある。

 吹き飛ぶカロマが隙だらけだという判断はできるのだ。


 左手を振り上げて、宙を舞うカロマに狙いを付けた。

 その時――


蛮撃(バンゲキ)虹炎襲(コウエンシュウ)ッ!」


 飛び上がったショークリアが、虹色に揺らめく魔力(カラー)を全身に纏いながら、逆手に握った剣を振りかぶって強襲するッ!


 それは蛮族が何も考えず飛びかかるかのような乱暴な技だ。


 衝撃波の化身となったようなショークリアの一撃は、骨鎧に包まれていない側面の一部分を抉りとる。それだけにとどまらず、着地と同時に彼女の周囲に衝撃波吹き荒れ、えぐり取られた傷口へ追撃する。


「GAAAAAAAAAッ!!」


 骨纏いの(エノバー)ダームにしてみれば、それは激痛を引き起こす一撃だったのだろう。悲鳴のような雄叫びをあげた。


 直後、カロマを狙っていたことなど忘れたように、ショークリアへ向かって前足を乱暴に振り回す。


 だが狙いなど付けていない闇雲な動きだ。

 

 即座にショークリアは後方へと跳び退く。

 痛みの仕返しは絶対にしてやる――という殺意の眼差しでこちらをみる骨纏いの(エノバー)ダームだが……。


瞬颯蓮華(シュンプウレンゲ)ッ!」


 カロマは隙だらけの側面に向けて、緑の魔力を風に変え、それを剣に乗せた連続斬りを繰り出した。


「GUAAAAAA……ッ!!」


 再び骨鎧に覆われていない部分を切り裂かれ、痛みを逃そうとしているのか、前半身を仰け反らせるようにしながら悲鳴をあげる骨纏いの(エノバー)ダーム。


 その隙を逃さず、ショークリアは両の拳に魔力を乗せて、正面から踏み込んでいく。


 狙いは顎。

 半身を上に持ち上げたからこそ出来た狙いどころ。


虹乱麗風(コウランレイブ)・……」


 虹色の魔力(カラー)が乗り、火の玉と化したような左の拳で、強烈なアッパーカットを繰り出すショークリア。


 顎がカチあげられ、さらに大きく上半身を仰け反らせる骨纏いの(エノバー)ダーム。


 左の拳に乗っていた魔力の塊は、左手を引いたあとも、殴った時の位置にとどまっており――


(カイ)ッ!」


 今度は剣を逆手に握ったままの右の拳を、その魔力の塊に叩きつけたッ!


 瞬間、魔力が弾け、強烈な衝撃波となって骨纏いの(エノバー)ダームの腹側の柔い部分に襲いかかる。


「まだよッ!」


 握った剣に魔力を集め、集められた魔力は虹色の炎となって揺らめく。

 それを携えたショークリアは、姿勢を低くし、地面を疾走する。


 地面に擦れる剣の切っ先が、虹炎(こうえん)の線を引いてく。


 そして、完全に剣の間合いまで近づくと、ショークリアは逆手に持ったその剣を振り上げながら飛び上がる。


波虹歇閃昇(ハコウケンセンショウ)ッ!」


 斬撃に遅れること僅か数瞬。

 ショークリアの持つ剣を追いかけるように、地面から間歇泉(かんけつせん)の如く、魔力衝撃波が吹き上がった。


(チッ……仕留め切れなかった……ッ!)


 胸中で毒づく。

 思っていた以上に、技のキレが悪い。

 もしかしたら、想定よりも疲労が濃いのかもしれない。


「後詰めはお任せをッ!」


 だが、すぐさまカロマが動いていた。


 カロマが構えた剣を中心に炎が渦を巻くのが見える。

 どうやら、赤と緑の魔力を混ぜ合わせているようだ。


 骨纏いの(エノバー)ダームはショークリアの技によって腹部を完全にさらしている。

 ならば、その腹部に高威力の技を叩き込めばよい。


「アタシの奥義ッ!」


 カロマは力強く踏み込み、その剣を柔らかな腹部へと突き立てるッ!


轟炎(ゴウエン)――ッ」


 炎を纏った刀身が、鍔元まで深く突き刺さり、内側から骨纏いの(エノバー)ダームを焼き始め――


「GA……AAAA……A……!!」


 苦悶に身を捩ろうとする骨纏いの(エノバー)ダーム。だが、今ここで逃がすつもりはない。


 突き刺さった剣をさらに奥へと突き刺し、なおもチカラを込めながら、カロマは全身を震わせ、剣に注ぎ込んだ魔力を解き放つッ!


「――絶風撃(ゼップウゲキ)ッ!!」


 瞬間、刀身を覆っていた魔力は、火炎を纏う竜巻へと変化して、骨纏いの(エノバー)ダームの内側で暴れ狂う。

 そのまま背中を食い破り、内側から骨鎧に穴を開け、勢いよく外へと噴出する。

 骨纏いの(エノバー)ダームを食い破った竜巻は、そのまま近くの家屋の屋根を掠めて削り取っていく。


 吹き荒れた竜巻によって、骨纏いの(エノバー)ダームの腹部から剣が抜け――


 竜巻が収まると、腹部に大穴を開けた骨纏いの(エノバー)ダームはまるで直立するような形で静止し――僅かな沈黙が落ちたあと、ゆっくりと背中から倒れ伏した。


「変に暴れられる前に倒せてよかったわ」

「いつぞやの変異種と違い、強いだけで知性は一般種と同じで助かりましたね」


 カロマの技が建物の一部を軽く破壊したことには互いに触れず、小さく安堵しあう。


 直後に大きな音を立てて倒れた骨纏いの(エノバー)ダームが絶命しているのを確認すると、ショークリアとカロマは顔を見合わせてうなずきあう。


「みんなッ、こいつの処理をお願いッ!

 事件はまだ終わってないから、即座に動きたいのッ!」


 ショークリアがそう叫ぶと、顔見知りの何でも屋(ショルディナー)や傭兵たちが、了承してくれる。


 よし――と、すぐに動こうとした時、誰かが声を上げた。


「なんだ、あれ――」


 些細な声。

 けれども、その場にいた全員が不思議と耳に入った。


「なんだよ、あれ……」


 周囲を見渡していただろう誰かが、続けて声を出す。


 そこで、その場にいた全員がそれに気がついた。


「大きな……バルーン種?」


 それは確かにバルーン種によく似ていた。


 球体状の濃い紫色のような色をした身体は直径で三メートル以上はあるだろう。

 正面には苦悶に満ちた表情の大きな顔。

 だが、その中心とも言える顔のほかに、苦悶に満ちた人間のような顔が六つほどついていて、呻き声をあげている。

 その球体の身体からでたらめに飛び出した人の腕が十二本と、人の足が十二本。


「あれ? あの顔……?」


 カロマが何かを呟いている。

 顔のどれかが知人にでも似ているのだろうか。


 突然、現れて宙を漂う謎の巨大バルーン型魔獣。


 その下に人影があった。


「まったく……これを出すハメになるとはな……」


 その男は忌々しげな眼差しで、ショークリアを見つめてくる。


「ショークリア・テルマ・メイジャン。

 お前は想定外の障害だ……」


 こちらを睨み、男は告げる。


「だから――ここで殺す。

 この醜悪なる(エタゲラッガ・)群霊獣(イルテシャーグ)で、確実に殺す」


 その男を見据えながら、ショークリアは胸中で小さく笑った。


(なるほど、こいつが魔獣を街に放った野郎なんだろうな。

 いいぜ、ここであの魔獣ごとぶっ飛ばしちまえば、話は早ぇッ!!)


 これまで影から魔獣をけしかけてきた存在が、自ら顔を出してくれるのは好都合だ。


ショコラとは関係ない話なのですが――


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[一言] >正面には苦悶に満ちた表情の大きな顔。  だが、その中心とも言える顔のほかに、苦悶に満ちた人間のような顔が六つほどついていて、呻き声をあげている。  その球体の身体からでたらめに飛び出した人…
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