表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/184

鬼面の喧嘩番長の最後

 勢いのまま新連載開始です。

 後先考えてないのでどうなるかはわかりませんがよろしくお願いします。


 お読み頂いた方々の、ひとときの楽しみとなれば幸いです。


 今回は新連載開始なので、4話連続掲載します。


 1/4


「よォ、鬼原(おにわら)


 ヨレたスーツを着た男性が、アスファルトに横たわる少年に声を掛ける。


 黒いレザージャケットに、シルバーのアクセサリを色々と身につけた少年だ。

 背も高くガタイも良い。彫りが深く厳めしいその顔には、ピアスをいくつもつけているので、ことさらに、凶悪に見える。


 少年が閉じていた目をゆっくりあけた。

 ぼんやりとした眼差しでこちらを見上げる。


「ああ、刑事さんスね」


 少年はこの辺りでは有名な人物だ。

 鬼面(きめん)の喧嘩番長――そんな二つ名で呼ばれ、喧嘩王というあだ名で知られる不良少年。


 だが、スーツの男は知っていた。

 この少年は確かに喧嘩をしては補導されている問題児ではあるが、決して理由のない暴力は振るわない人物であると。


「誰にやられた?」

「パツキンのチビ。顔面に良いのぶち込んだんで、その辺りに転がってるはずっスよ」


 周囲を見渡すと、髪を金に染めた背の低い少年を見つける。

 その少年の傍らには、血に染まったナイフも落ちていた。


 スーツの男は、視線を横たわる問題児に戻す。


 その問題児の左わき腹は、真っ赤になっている。

 そこを押さえている本人の左手も、真っ赤だ。


 すでに救急車は呼んである。

 サイレンは聞こえてきたものの、まだ遠い――


「どうして……いつもこうなっちまうんスかねぇ、オレ」

「さぁな」

「今日だって……連中に絡まれてたキレイな女の人を……助ける為に……連中に……注意をするだけの……つもりだったのによ……」

「そうか」

「本当は……喧嘩って、あんま……好きじゃ……ねぇんスよ……」

「そうだったのか」

「気が付くと、喧嘩売られてて……殴り返してたら、いつの間にか、喧嘩王なんて呼ばれて……」

「何か好きなコトはあるのか?」

「……パッとは、ねぇスね……でも……」

「でも?」

「お袋の手伝い……嫌いじゃ、ねぇかも……。

 メシ作ったりするのとか……裁縫……とか……」

「意外だな」

「今日も、お袋……夜勤だから……。

 メシ作って、おいた……んだけ、ど……」

「羨ましいな。俺は子供はおろか嫁さんすら、メシを作り置いてくれねぇってのに」


 冗談めかして口にすれば、少年は小さく笑う。

 弱々しい、かすかな笑みだ。


「お袋、オレのメシ、喜んで……くれて、たの、かな……」

「ああ。当たり前だろ」

「そっか」


 少年は安堵するようにそう呟くと、その瞼がゆっくりと落ちていく。


鬼原(おにわら)……おいッ、鬼原ッ!!」


 喧嘩番長はゆっくり、ゆっくりと、息を吐いていく。


 スーツの男は知っている。

 人間がその生涯を終えようとする時、肺の中の空気を可能な限り外に出そうとすることを。


 救急車が到着した。

 中から慌てて救急隊員が飛び出してくる。


 周囲に転がり呻く不良の群れに驚きながらも、ただ立ち尽くすスーツの男の元へとやってくる。


「通報されたのはあなたですか?」

「ああ」


 懐からタバコを取り出し、それを口にくわえながらうなずく。

 火を付け、肺を紫煙で満たしてから、スーツの男は付け加えるように告げた。


「だが、少し遅かったな」


 救急隊員は、足下で横たわる少年を見て、無念を堪えるように唇を噛む。


「すまん。少し嫌味になっちまったか……。

 アンタらを責めてるワケじゃないんだ」


 救急隊員に詫びてから、スーツの男は天を仰ぎ、紫煙を吐き出す。


「もし次の人生なんてモンがあるなら、もう少し素直に生きてみろや。

 周囲に流されるままに喧嘩屋なんてコトは、もうすんな」


 夜空に吹かれた紫煙は、まるで少年の魂のように昇っていき、やがて月に吸い込まれるように、霧散していった。


今回は4話連続掲載。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新紀元社モーニングスターブックス より
2023/3/20発売!٩( 'ω' )و夜露死苦ッ!!
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生
~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
喧キラ


他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~【書籍化】
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
フロンティア・アクターズ~ヒロインの一人に転生しましたが主人公(HERO)とのルートを回避するべく、未知なる道を進みます!
【連載版】引きこもり箱入令嬢の結婚【書籍化&コミカライズ】
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
レディ、レディガンナー!~家出した銃使いの辺境令嬢は、賞金首にされたので列車強盗たちと荒野を駆ける~
魔剣技師バッカスの雑務譚~神剣を目指す転生者の呑んで喰って過ごすスローライフ気味な日々
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
[気になる点] 刑事さんが救急処置を全くしてない様に見えるのはちょっと違和感が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ