《序章》 前編
細々といきます。
やけにはっきりした夢だと思った。
何も無い空間に俺はいて、ただ果てしなく広がる白を見つめている。
明らかに現実ではない。
そのうち俺は自分の身体が見えないことに気付いた。
無いのだ。どこにも。
意識だけがただ、そこにあった。
不思議な場所だ。本当に夢の世界なのかもしれない。
「こんにちは」
っ!!
思わず、声の聞こえた方に意識を向ける。
「はじめまして。調子はどうですか?・・・とはいってもその状態じゃ調子も何もないと思いますけど」
そこにいたのは男と女の二人。男の方は全身黒ずくめで、女の方は白を基調とした服を着ている。普段はそう見ない服装だが・・・コスプレか?
「初対面なのに失礼だな、君は」
・・・俺は何も言って無い。俺の考えてることがわかるのか
「おお正解正解」
正解らしい。
にしても人の思考を読むなんて・・・ちょっと不快だ。
「ごめんなさい。本当は私達もやりたくてやってるわけじゃないんです。あなたには今身体が無いでしょう?だから思考を読まないと意思の疎通ができないんです」
言われてみれば俺は今喋ることができない。
そういうことなら仕方ないか。こちらも初対面の人の前で何も反応出来ない、なんてのは心苦しい。
「ご理解いただき感謝します」
「・・・シンシア、俺たちは神なんだから、人間にかしこまった態度をとる必要はないと思うんだけど」
「そんなこと言っちゃダメですよ魔神さん。こちらはあくまでお願いする側なんですから。それもあなたが」
「・・・分かったよ。でも、俺はこのまま行かせてもらうぜ」
神?魔神?一体この人たちは・・・?
「やっぱり気になっちゃいますよね〜当然です。では自己紹介をしましょう」
そう言うと彼女は少し胸を張り、堂々と名乗った。
「私はシンシア。この世界、エンディスを作った創造神です」
創造神・・・。やっぱり頭の弱いコスプレ少女なんじゃ
「なんですか?」
こちらを見てニッコリと笑う創造神シンシア。
冷や汗をかいた気分だ。身体無いけど。
しかしこの状況を考えると、多分嘘じゃないんだろう。少なくとも人間に、こんな不思議な状況は作れないはずだ。
「・・・まあいいです。ともかくあなたが持っている神のイメージとそう変わりは無いのでそう思ってください」
確かにその姿は誰もが見ても神とわかるような姿ではある。無宗教の俺でもなんとなく神聖な雰囲気を感じるくらいだ。
しかし気になるには男性のほうだ。魔神と言っていたが・・・悪い感じの神なのか?
「なるほど悪い神か・・・。間違ってはないが少し違う。俺の悪はな、必要悪だ」
必要悪・・・。
「俺は魔神。俺の役目はただ一つ、魔王として君臨し世界に混沌を呼ぶことだ」
混沌を呼ぶ?なんでそんなことを?
「必要悪の言葉のとおり、簡単な話だ。生き物は共通の敵が居れば協力するし、破壊無くして創造は有り得ない。そうだろ?」
だから生き物を殺すのか・・・随分と横暴な話だ。
「どんなものにも色々な側面がある。神々の世界でこの『悪』の側面を引き受けたのが俺ってだけの話だ」
そう言われると少し納得できる。神々ってのは思っていたよりも人間臭いみたいだ。
「そりゃそうだろ。だって人間は新たな神々として上化するためにいるんだからな」
なんと。
「もちろん全員じゃない。言い方は悪くなるが厳正な選別をしてる。上化するやつなんて滅多にいないんだ」
「魔神さん、それ以上は禁則事項だから言っちゃダメですよ」
「ああ悪い。つまりは色んな世界があって色んな創造神がいるって話だ」
色んな世界、つまりさっき言っていたエンディスというのは、俺のいた世界とは別の世界なんだよな?
「そうですね、あなたのいた地球という世界にも創造神はいます。少し変わった方ですが」
変わった?
「そうだ。せっかくの世界なのに魔法を使わないし、魔神である俺を呼んだりもしない。そのくせ世界はきっちり回ってる」
「いいんですよ、世界の在り方は神それぞれなんですから」
地球はかなりイレギュラーな存在だったらしい。
それにしても創造神と魔神か、神に会うなんて人生不思議なこともあるもんだ。
「では私達のことはこれくらいにして、次はあなたの話をしましょうか」
そういえば自己紹介の途中だったな。俺の名前は、、、
「巽 共一 25歳 大手広告代理店勤務のエリート 独身 一人暮らし 家族は両親と弟が一人 最近の趣味はレトロゲームで遊ぶこと」
そんな細かいとこまで知ってんのかよ
「そして記念すべき25歳の誕生日に、付き合っていた彼女に刺されて死んだ」
・・・・・・・・・
「覚えてるか?」
・・・やっぱり、死んだのか。
「そうだ、君は死んだ。だが安心しろ、死なんてそう落ち込むことじゃない」
・・・落ち込んでるわけじゃないよ。ただ申し訳ないんだ。
「申し訳ない?どういうことですか?」
せっかく俺と付き合っていてくれたのに、こんな結果になったことだよ。俺の配慮がもっと足りていれば、彼女が俺を殺すことは無かった。
「それは違います!あれは巽さんにはどうしようもないことでしたし、彼女の方も、、、」
いいんだ。
「でも・・・」
大丈夫だよ。それにもう俺は死んでる。なんの用で呼ばれたかは知らないけど、あとは成仏するだけだ。
「あーそのことなんだけど、君には生き返ってもらう」
・・・ん?
「君を呼んだのは、エンディスのある俺の忘れ物を取ってきてもらうためなんだ」
んんんん!?!?
仏の世界じゃないけど成仏です。