9 二学期期末終了後①
冬休みまでの間の緩やかな時間。
授業は午前中で終わるからみんな午後は遊んでる。
テスト終わった後からずっと栗原くんを探しているんだけど、会えない。
隣のクラスだからすごく悔しい。
「あー、高木ーいいところにいた」
B組担任、物理の田中先生に呼ばれる。
「はい、なんですか?」
「隣のクラスの栗原慶太、知ってるか?」
「ええ、まあ」
ドキッとする。
「あれテスト終わってから学校来てねえんだわ。お前ご近所だからちょっとこれ届けて様子見てきてくれねえかな?」
プリントを何枚か手渡される。
「住所知らないですよ」
「あ、だいじょーぶだいじょーぶ。今教える。ついでにケータイ番号もな」
先生、個人情報が、個人情報が、ダダ漏れです……嬉しいけど。
「先生の方から高木が行くって電話入れとくから。んじゃよろしく」
……本当は先生が見に行かなきゃいけないのを、多分面倒臭がって私に押し付けたんだろうなあ。
栗原くんちはご近所だった。以前送ってもらったときに5分で着くって言ってたけど本当。2ブロック先だった。
ただ、これ、だいぶ大きいお家な気がするんですけど……壁がぐるりと取り囲んでいて、広さはうちの3倍はありそう。
インターホンを押す。
「はい」
栗原くんの声、ちょっとしゃがれてる。
「高木です。田中先生に言われて来ました」
「あ、うん。今開けるからそのまま中に入って」
インターホンそばのドアの鍵が外れる音がした。え、家の中にいて開けられるの?
恐る恐るドアを開けて中に入る。
家までだいぶ遠い。アプローチを歩いていく。よく手入れされた庭が広がっている。
玄関に着くと、ほぼ同時にドアが開いた。
「ありがとう、寒かったでしょう。入って。あ、俺風邪引いてるから少し離れるね。スリッパ適当に使っちゃって」
マスク姿で赤い顔した栗原くんが立ってた。
「ああ、栗原くん大丈夫、じゃないよね」
「年に一度は風邪引くんだ。慣れてるから大丈夫」
掃除の行き届いた室内。部屋も廊下も温かい。
リビングに案内された。
……リビングだけで家より広いと思う。
「適当に座ってて」
キッチンに消える栗原くん。しばらくするとティーコゼーとティーカップを持って戻ってきた。
「なにもないんだ、ごめんね」
砂時計を見て、ミルクティに仕立てて入れてくれた。美味しい。
「プリントありがとう。風邪うつしちゃ悪いからちょっと向こうに行って読んでくるよ」
キッチンの方へ移動してプリントを読む栗原くん。
すごく咳き込む音がした。