7 夏休みの数学の宿題
夏休みは、好きだけど、嫌い。
栗原くんのこと、まだすこし心配。でも学校がないから、会えない。
近所に住んでいるはずなのに、家を知らない。
クラスが違うから、連絡網もない。
家だとやっぱりダレちゃうので図書館でお勉強。夏休みの宿題はさっさと片付けましょ。栗原くんのことは気になるけど、でもどうしようもないもの。
自習室に入って、私は神様に感謝した。いままで信じてたことなんてなかったけど。
左隣にすっと座る。
「こんにちは、栗原くん」
「ああ、高木さん。こんにちは」
相変わらず色白の栗原くん。
「気になってたんだけど……なんで高木、から高木さん、になったの?」
「それは、高木さんが俺のことを『栗原くん』って呼ぶから」
「そっかー……私は高木、って呼ばれたほうが嬉しいかな」
「そうなの?」
「うん、そうなの」
「そっか。じゃあそうする」
栗原くんはもうノートに戻って宿題してる。相変わらず綺麗な指。前に偶然その手に触れたことを思い出して、一人でドキドキする。
これじゃ、危ない人だよね。
私もノートを広げて宿題を始める。
「ねえ、栗原くん」
「ん?」
「この数学のね、この式。これひたすら計算するしかないのかな?」
「俺もあまり数学は得意じゃないんだが……」
以下の式を展開せよ
「ああ、うん……こうだな」
しばらく栗原くんは考えて、スラスラっと書いた。
「え?なんで?」
「二項定理で解ける。こういう数式だ」
「以下のように計算する。直接は出てこないけど順列Pから。異なるn個の中からr個選んで並べたときの数を計算する方法。!は階乗演算子でその数値までの積を求める。3!なら6だ」
「次は組み合わせC。これはn個のなかからr個選んだ場合の選択肢の数、だ。同じものが排除されるので順列より少なくなる」
「これで後はさっきのΣに入れてやれば計算できるだろう」
しばらく考えてみる。あれ?これ……。
「ねえ、栗原くん、n=5だよね……でk=5のとき、Cの計算困らない?こんな感じに」
そう、0!。1x0になって0になっちゃう!
「あー、それね。数学上0!=1にしたほうが都合がいいので1なんだよそこ」
「え、なんで?」
「階乗は以下のように書けるね」
「うん……そう、かな。そうだね」
「0!=1とするとn=0でもこの式が成立する。だから0!=1とする。Γ(1)=1だから0!=1とも言えるけどこっちは扱うものが面倒だから無視でいい。どうせオイラーに殴られるだけだし」
栗原くん、これで数学苦手……なの?