5 中間考査の後で
あの日から栗原くんの笑顔が減った気がする。
前は見かけると挨拶してくれて、少し話をして。
今は、避けられているわけではないけれど、なんか違う。どうしたのかな。心配。でも私は……彼を無意識に傷つけてしまったのかも。
中間考査が終わった翌々週。
クラスが違うからなかなか会えない。ちょっと勇気を出して校門で待ち伏せしてみる。がんばれ、私。
「ああ、高木さん。こんにちは」
栗原くん。あれから高木、じゃなくて高木さんになってる。
「こんにちは。一緒に帰ろ?」
勇気を持って、誘う。
「いいね、そうしようか」
栗原くんは静かに微笑んでくれた。
以前より物静かになった栗原くん。しばらく無言で駅まで歩く。
何があったのかな。やっぱり、あのときのこと気にしてるのかな。
「中間考査前の図書館のこと、ごめんね、高木さん。あれからなかなか会えなくてずっと言えなかったんだけど」
珍しく栗原くんの方から。
「ううん、あのとき、無理言ったの私だもん。悪いのは、私。ごめんなさい」
「個人的なことで傷つける……最低、だ。なんで俺……あ、ごめん。これもダメだ」
弱々しく頭を振る栗原くん。最初の頃の自信にあふれて強かった栗原くんとぜんぜん違う。
しばらく黙って歩く。
電車に乗っても沈黙。
電車から降りて、自転車を出す。
「栗原くんはこれから買い物?」
「もうその必要はないんだ」
「え?」
「ばーちゃん、先週死んじゃったから」
自転車に乗って行こうとする栗原くんの肩を掴んだ。
「待って!あ、あの……その……」
「うん?」
「私じゃ、頼りにならないかもしれないけど、相談乗るよ。ね?」
「……ありがとう。困ったときにはお願いするね。じゃあ」
栗原くんはそれだけ言うと自転車に乗って行ってしまった。