16 ホワイトデー②
全力疾走10分。もう無理ってところで栗原くんスローダウン。
「まいたな。しつこかった」
私は肩で息してるのに、栗原くんは少し息が乱れた程度。すごいなあ。
「さて、予定が狂ってしまいました。どうしましょうか?」
「どこかでゆっくり座りたい」
「そっか……あ、そうだ、ちょうどいいところがある」
栗原くんはアーケードのお店の脇の狭い階段を登る。
「え、ここ?」
「そう。隠れ家」
いたずらっぽく笑う栗原くんについて、狭い階段を登っていくと、落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。
「え、こんなお店あったの」
「あったの」
アンティークな机、椅子。そしてニコニコしている初老のマスターの後ろの戸棚にはやっぱりアンティークなカップ。
「おや、慶太くん、彼女かい?」
「いや、そんなんじゃないですよ。同級生です」
「そうかねえ?」
マスターはやはりニコニコしながら私を見ている。
「あ、はじめまして」
「はじめまして、素敵なお嬢さん。気に入ったら通ってくれると嬉しいな」
ここはマスターが半分趣味でやってる喫茶店なんだって。紅茶と、スコーンかマフィンかを選べるセット、500円。え、500円?
マフィンを選んで届くのを待つ。
ティーポットに予め紅茶が入れられてる状態で届いた。あとはカップ。
栗原くんも同じセットだったのでポットが二つ。え、こんなに?
「だいたい3杯くらいとマフィンとで500円。そして味は絶品」
「茶葉入だと出過ぎちゃうので、こちらで入れてポットに移してるんだよ。本当は茶葉入りで出して自分たちで好みの濃さで出してほしいんだけどね……それだと1杯分しかお湯出せなくなっちゃう」
紅茶は渋くないけど香り高いギリギリの濃さ。マフィンも美味しい。このお店、凄い。なんで栗原くんこんな店知ってるの?
「あ、そうだ。これホワイトデーのプレゼント」
綺麗なブルーのパッケージ。中からはシルバーのチョーカー。繊細で綺麗だけど……。
「これ、高くない?」
「俺みたいなのに付き合わされてる迷惑料込み、です。巻き込んでしまって本当にすまないと思ってる」
「別にいいのに」
小さく呟いたのを栗原くんは聞き逃したみたい。
「じや、着けてみるね」
首回りに、少しくすぐったい感じ。大切な宝物が増えました。