15 ホワイトデー①
一応しばらく付き合ってるってことにしておかないといろいろ疑われてしまうということで、帰りは一緒。楽しい。
ちょっと寄り道してファストフード店に寄るとか、カラオケボックスで歌ってみるとか。
そう、栗原くん歌うまいの。びっくり。綺麗な声なまま上に伸びるの。すごい。
学校のお昼休み。ご飯食べ終わったら栗原くんがA組まで来てお話するのがこのところの日課。そう、二人は付き合っている、ことになっているからです。
自分で言ってて少し悲しい。
「ああ、そうだ。高木。3月14日、暇?」
ドキン、とする。
「うん……予定はない……ね」
「そっか。じゃあ映画でも見に行こう。あとでメッセするよ」
周りでダンボ耳な子たちが沢山。ヒソヒソされる。
「くそー……高木はかわいいけど栗原相手じゃなあ……」
え、私?私なの?
その日の夜。栗原くんからメッセージ。
「映画、今だとそうだなあ、SF超大作か、コメディか、恋愛か……恋愛、俺辛いんだよね」
「行くふりでいいんじゃないの?」
「そりゃあ困る。いろいろと」
「あ、そ……じゃあコメディで」
「了解。また明日ね」
そっけなく返してたけど、もうドキドキ。あああ、ついにデート、デート、デートなのよ―って叫びたい。
毎日そわそわ過ごして、ついに来ました14日。ブルーのミモレ丈ワンピースにデニムをあわせて黒のスニーカー。待ち合わせの駅前の喫茶店に行くと、栗原くんはすでに待ってた。
ネイビーブルーのコーチジャケット、白T、黒のスキニーパンツ、黒いウィングチップ。すごく目立つ。
「ごめん、待ったよね」
「いいや、いま来たとこ。んじゃ、行こうか」
栗原くんはコーヒーを一口飲むと伝票を掴んでレジに向かっていった。絵になるのよね、全部が。レジについていくと耳打ちされた。
「後ろに4人、右に二人」
「え?」
「しつこい人たちだよ」
ため息が耳にかかる。ドキドキする。栗原くんが右肘をさり気なく出したので、そこに腕を絡め、喫茶店を出る。
「まだついてきてる。映画、どうするかな……高木、走れる?」
にこやかにこちらを向いて親しげに話している内容がこれ。栗原くん、俳優だ。
「うん」
にこにこして返事。私は演技出来ないから、これでいいよね、たぶん。
「よし、行くぞ!」
栗原くんは腕をほどいた後私の手をとって猛ダッシュ。必死についていきました。