11 冬休み前
栗原くんの家に学校が終わったら直行。女子高生通い妻って単語を思いついてバカじゃないのって自分で思う。
まだ栗原くんは風邪引いてるみたい。だいぶ楽になったみたいだけど。
「今日は、かきたま蕎麦にします。めんつゆ……はないよね」
「出汁なら取るぞ」
栗原くんお手製の出汁に合わせるために、みりんと酒を煮切ってそこに醤油を加えておく。蕎麦は普通に茹でて、出汁と合わせた調味料を混ぜ、少し沸かす。溶き卵を流し入れ、片栗粉でとろみを付けて、三つ葉をちらしてノリ載せて、そこにおろし生姜。出来上がり。
「ああ、これも美味しいなあ」
蕎麦を一口サイズに綺麗に纏めて口に入れる栗原くん。
「蕎麦、啜らないの?」
「啜る?」
「いや、こう、ずるずるっと」
「蕎麦あまり食べないんだけど、いつもこうやってるよ」
もぐもぐしている栗原くんを見るとなんか可愛いって思っちゃう。
「ごちそうさまでした」
綺麗につゆまで飲み干して蕎麦を食べた栗原くん。
「明日から学校に行けると思う。だからご飯、大丈夫。助かったよ、高木」
「どういたしまして」
あーあ、この通い妻もおしまいかー。っていっても二日しかやってないんだけどね。
あれ……そういえば、この家、栗原くんしかいないんだよね?
すごく広くて、暖房で温かいってことは、気密性高いのよね?
声、出しても周囲に聞こえないよね……何かあって助けを求めても……いや、何かあってもいいか。栗原くんとなら。
「高木!」
「え⁉何⁉」
「ボーッとしてたけど……暖房、強かった?」
「あー、うん、大丈夫。ちょっと考え事してただけ」
「それなら、いいんだけど」
栗原くんが目の前で微笑む。
「あの、ね、栗原くん」
「ん?」
ドキドキする。でも大好きって言ってこの関係、壊れたら……。直前でくじけた、私。
「これからも時々ご飯作りに来ようか?」
「あー……それはありがたいけれど、ほら、あまりよろしくない。一応親と住んでいることになっている家だけれども、昼間は、ね。そこへ女の子一人、はちょっと、ね」
栗原くんの困った顔。
「いやあね、冗談よ」
掌をひらひらさせて、ごまかしました。