10 二学期期末終了後②
「大丈夫!栗原くん!」
返事がないので悪いと思ったけどキッチンへ。
「あー、大丈夫大丈夫。単にちょっと咳き込んだだけ」
キッチンに入って違和感。生活感が薄い。あれ……?
家族で使う食器ってどうしてもいちいち片付けるのが面倒だから、テーブルの上とかにまとめておいてあることが多い。
栗原くんの家もそうなっていた。ただ、一人分だけ。
そういえばお父さんやお母さんのことを聞いたら話したくないって……おばあさま亡くなったって……まさか、まさか。
「あー、うん、高木が何考えているかわかる。わかるけど外れ」
「え?」
「俺の両親は健在だよ。死んでないし、離婚もしていない。単にくっそ忙しいだけ。だから家で飯食うことが少ないんだよ」
「え、じゃあ、今一人なの?」
「週三日、ハウスキーパーさんが来るから大丈夫。明日には来るよ」
「今日のご飯はどうするの?」
「あー、適当に食う。確かパスタがあったからアーリオオーリオにでもするよ」
「じゃあ、私が作ろうか」
「え、いいの?」
エプロンを借りて、簡単な卵粥を作ることにした。
「出汁になるもの、あるかしら?」
「そこに鰹節があるけど、多分取り方わかんないよね?」
栗原くん、鰹節削りを出してきてしゃっしゃと削る。鍋にお湯を沸騰させて、火を止めてからどさっと削り節入れて、じっと見てる。その後濾して出来上がり。
「初めてみた……そうやって出汁取るんだ」
その出汁と米を小鍋に入れてクツクツと煮て、そこに溶き卵を入れ、少し固まったら出来上がり。器に入れて、ほんの少し醤油を垂らす。
栗原くん、美味しそうに卵粥食べてる。よかった。
「ねえ栗原くん、以前図書館で食べられないって言ってたよね、なんで?」
「あー、あの頃は無理だった。ばーちゃんが危なくなる前からカウンセリングに行ってたんだ。最近だよ、食べられるようになったの」
「潔癖症?」
「んー、そういうわけじゃない。けど、ちょっと言いたくない。多分聞いたら、すごく嫌な気持ちになるし、俺の中でもまだ昇華しきれてないんだよ。それでもだいぶマシになったんだけどね」
栗原くんはそう言うとダイニングを見回す。
「これ、だもんなあ」
ため息と、咳。栗原くん風邪引いてるんだった。
「……そろそろ帰るわ。また明日」
「明日⁉」
「だって心配だもの」
「明日はキーパーさん来るから大丈夫だよ」
「じゃあ、明後日ね」
エプロンを畳んでテーブルの上に置く。
「それじゃ、さよなら。また明後日ね」