1 出会い
中学3年の冬。高校受験に向かうために自転車に乗って駅まで向かう途中。歩道の段差に乗り上げたら自転車のペダルが空回り。カラカラいってる。
「え、え、え?」
どうしようどうしよう。駅まで自転車であと20分位。走れば間に合うかな。
自転車を脇に止めて、鍵を掛けて。通行のじゃまですよね、ごめんなさいする。
「ん?どうした?」
自転車に乗った制服の男の子が声かけてきた。
「多分チェーン外れたんだと思うの。だからこれから走るの」
「その靴で?そりゃ無理だろ」
「だって、行かなきゃ」
男の子はちょっと考えて自転車から降りた。
「じゃ、貸してやる。俺も受験で駅まで行くんで脇走るからそれ乗ってけ」
「え、そんなの悪いよ」
「じゃあ、俺が漕ぐから後ろ乗るか?」
「え……」
「もう時間ないからそれでいこう。後ろ乗れ」
「え、え、え、でも!」
「遅刻するだろ、乗れ」
「……うん、ありがと」
「私、高木可奈美。あなたは?」
「栗原慶太。この時間に電車ってことは至高館だよな?」
「そう」
「春から同じ学校だといいな」
「栗原くん、見たことないんだけどどこ中学だったの?」
「んー、一応高木と同じ中学、ってことになってる。あんまり学校行ってないんだよ」
軽快に自転車は走ってる。横座りして、ちょっとしがみついて。あ、胸、当たっちゃってる。ま、いっか。お礼ってことにしておこう。
栗原くん、かっこいいし。
「あー、なあ、高木、怖いか?」
「えー?なんで?」
「……いや、うん、その……柔らかいの、当たってるから。怖くてしがみついてるのかって思って」
「ううん。怖くないよ。大丈夫」
もう少しギュッと抱きついてあげた。
「うひゃ、いやほら、ね?」
「うふふ」
こんな男の子が彼氏だったらなーうちのクラスの男子と違って、かっこよくて優しくて。
4月。入学式。至高館に合格した私はクラス名簿を必死に探してた。私は1年A組。
「あった、栗原慶太、1年B組、か」
お隣さんだった。残念。でも栗原くんも同じ学校だったんだ。よかった。
その日の放課後、少し校門のところで待ってみた。
玄関からこっちに向かってくる彼が見える。トクンって高鳴る胸。
「あ、高木!合格したんだ」
「うん、栗原くんも。私A組なんだけど、ねえ、栗原くん何組?」
「俺B。お隣だな」
知ってる。ドキドキする。
「俺、帰るけど高木どうするの?」
「私も帰る。駅まで一緒に行っていい?」
「もちろん」
駅まで10分。色んな話をした。好きな飲み物とか、得意な科目とか、そんな話。そして改札を通って、同じ電車に乗って10分。好きなアーティストとか、ドラマの話をした。
栗原くん、少し変わってる。好きな飲み物に抹茶とか。アーティスト、ドラマも最近のものは全く知らないんだって。ほとんどテレビを見ないし、音楽も聴かない。ゲームもやらない。
でも聞き上手。私のつまらない話をうまく引き出して話を膨らませて楽しませてくれる。すごい。
駅を出て自転車置き場へ。自転車を出す。
「じゃあ、またな、高木」
「え?家、あっちじゃないの?」
「あー、俺家に普段ばーちゃんしかいないから、買い物して帰らないといけないんだ」
「え?お父さんとお母さんは?」
「……その話は、あんまりしたくない」
ぷいっと横を向く。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、今のは俺が悪い。気にしないで」
栗原くんはこっちを向くと微笑んでくれた。でもなんかその微笑みがちょっと寂しそうだったんだ。