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楽園変生 第一部 ──不死の随伴者──  作者: 紅葉 昂
第一部【不死の随伴者】
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第044話

 雲が覆い尽くす空の下、魔王同士の戦いが始まる。先程突如として空より舞い降りた巨漢の魔王──ヘリオス・ミーノース。対するは純白の翼を持つヴァンパイア。どう見てもその翼は人類の天敵である天使族のものであり、味方のハズのヴァナヘイム軍は動揺していた。


「おい、天使族だぞあいつ」


「俺の親父は天使族に……」


 気づけば周囲の視線はまるっきり敵を見る視線。しかし気にするような素振りを乃愛は見せなかった。心を痛めない事はないだろうが、今目の前にいるミノタウロス族の魔王は魔族にとっても厄介な相手。


 法則の睨み合いによって膠着状態にある魔族領域にて、他種族領土への侵略行為を幾重にも及び行い蹂躙に蹂躙を重ねる悪逆非道の権化。

 男をなぶり殺し女を犯し尽くす畜生を束ねる王。それが目の前にいる魔王ヘリオス。邂逅即座に法則を使用してくる豪胆さもあり、圧倒的に戦い慣れしている相手を前にしては、ヴァナヘイム軍の顔色を窺っている程乃愛に余裕はない。


「黙りなさい貴方達! 乃愛は私の仲間よ、それ以上侮辱すると承知しないわ!」


 だったのだが、磔にされたイオリアの怒号にヴァナヘイム軍はたじろぎ、そして乃愛は思わず口元を緩めた。七年前、この世界を追放された頃には考えられなかった仲間が今はいる。それが頼もしく、心強い。今は一人で戦うしかない乃愛であったが、仲間がいるという事実が何より嬉しかった。


「フハハ、言いよるわ小娘。余は活きのいい娘が好みでな。ルシフェリア共々、強き息子を産んでくれそうだ!」


「ッ、最低な誉め言葉ね。不愉快極まりないわ」


「よい、実によいぞ。それでこそ犯し甲斐があるというもの! 簡単に屈服してくれるなよ!」


「……ッ、信じられない程品性がないのね」


 嫌悪の色を宿してイオリアが吐き捨てる。それに同意する乃愛は、とはいえヘリオスの品性の欠片も感じられない口上に助けられた。元より殺すつもりでいたものの、そのまったくもって許容出来ない存在に躊躇する事はもうないだろう。


「ああ、その通りだイオリア。ミノタウロスに品性など求めても無駄だ。すぐに終わらせてそこから降ろしてやるから、少し待っててくれ」


 そうは言いつつ、乃愛は動かない。その理由は二つある。一つはあのカナンガでリオンと戦った時と同じ理由。乃愛の最強の切り札であるヴェルミクルムは爆破を伴う光線魔法。地面と水平に撃ってはヴァナヘイム軍に直撃し兼ねない。


「そうは言う割には仕掛けて来ないではないか。まさかヴァンパイアが人間の心配か? それとも──」


 そしてもう一つが最大の理由。


「──余の法則が気になるか?」


 そう、ヘリオスの法則だ。名を“理想物質”と呼んでいた事や、イオリアを磔にした十字架や鎖が突如現れ、そしてヘリオスの意志の通りに動いていた辺りから物質の生成と操作であるとわかる。今イオリアを縛る鎖は動いていない事やイオリアが多少動ける事から操作の方はある程度時間制限つきなのかもしれないが、その生成条件に関しては不明のまま。


 法則には必ず条件がある。


 例えばキングゴブリンの用いていた“四十四番目の悪夢”は対象に手を伸ばす事。キュクロ・アルゲースの“強欲な魔眼”は視界にいる生物に対して。


 条件がある故に対策を立てられる。絶対無敵の理である法則であるからこそ、その法則の外にさえ出れば影響がない。これが魔王が易々と法則を使用してはならない理由の一つだが、ヘリオスは即座に使用した。切り札である法則を使う程イオリアを危険視したのか、それとも切り札は他にあるのか。もしくはただの馬鹿か。


 恐らくは二番目。切り札が他にあると見た方がいい。


「物質の創造。奇妙な法則だな。生み出す事をしないミノタウロスがそんな芸当をするとは、侍女へのいい土産話になるかもしれない」


「皮肉の上手い事だ。余とて肉体こそ至高、肉弾戦こそ闘争とも思うが……考え方の違いだ。魔族は総て観念論からなる魔法を用いて自身を強化し、戦う。余の法則もまた観念論によって生み出す物質を用いて戦うという点において、魔族らしいと言えるだろう」


 観念論。肉体を挟んで外界と精神が存在し、精神の在り方によって外界を認識するという理論。この理論の違いは人類と魔族の魔法の違いに同じ。


 魔族は自身の魔力を用いて精神を集中させて魔法を構築し、発動させる。内から外、これが観念論。


 人類は魔石の中にある魔力を用いて、武器や防具に予め用意された魔法や戦技を自身の身体に取り込み、起動している。外から内へ、これが唯物論。


 二つの大きな違いは根底にあるのが精神か、それとも外界か。


 魔族の多くは武器や防具よりもその者の魔法や戦闘力を重視しがちであり、特に自己至上主義であるミノタウロス族は観念論に囚われがちである。


「こうして会話で余の法則に探りを入れるのが先程言っていた“女の闘い”か? 随分小賢しいな。やはり女は何も考えられぬよう泣き喚かせるに限──」


 瞬間、ヘリオスの顔の横を掠める紅い閃光。遠くの空へ消え失せたそれは、乃愛の右眼より放たれたヴェルミクルム。現在確認されている魔法の中で最も強力で最も速い魔法である。


「こうしてお前の頭を潰すくらいはこの距離、この状態からでも問題ない。無駄にデカい図体が災いしたな」


 ヴァナヘイム軍の頭上を通り過ぎた光。もし当たっていれば数十人は爆発によって飛び散っている可能性もあるが、ヘリオスの巨体に並ぶ程の人間はいなかった。故に地上戦でも真横ではないものの頭部狙いであれば撃てると乃愛は判断したのだ。


「躱されたにしてはいい口上だ。……よかろう。そうまで言うなら余から仕掛けようではないか!」


 身を屈め、ヘリオスは両手を広げる。そこからの突進。ミノタウロス、つまりは牛人。その体当たりはサイクロプスなどとは比べ物にならない。ましてや魔王だ。一撃で対象の意識を刈り取る事など造作もないだろう。


 だが乃愛もまた身体強化と硬化の魔法を有している。先程拳を易々と受け止めた事から、それを受け止める事は恐らく無理ではない。

 しかし近づくのは得策ではない。接近させてはイオリアの二の舞に成り兼ねないからだ。


──さて、どうするか。


 乃愛の視線が下がる。ヘリオスが先程法則によって物質を生成した際、腕は何もしていなかった。そして出現した場所は足下。地面から出現した事を考えれば、恐らくは自身の足が地についている事を発動条件に、その接地面から近い地面から物質を出現させる法則と乃愛は憶測した。


 突進体勢は前屈み。となれば頭突きや二の腕を当てる気でいるのだろう。となれば二足歩行の関係上、足は上半身の後ろとなる。体勢を低くしている為ヴェルミクルムは撃てないとなれば、突っ込んでくる顔面目掛けて蹴りつけるか殴りつけるかすればいい。


 触りたくもないがこの男を前に足を広げる気分にもなれなかった為、乃愛は嫌悪しつつも引いた拳に力を込める。


 だがヘリオスとはリーチが違う。乃愛の右手が届く距離に入る直前、ヘリオスは広げていた両腕を顔の前で叩くように乃愛の身体を両側から挟み込まんとする。


 舌打ちを一つ、後方に下がる乃愛。


 すかさずヘリオスは閉じた両腕を組んで頭上高く振り上げる。攻撃そのものが後に続く攻撃の準備。見事な連携を前に乃愛は両手で身を守ろうとしたその時、背筋に悪寒が奔るのを感じた。


 今、自分は何を見ている。そして何を見ていない。


 真に注視すべきは今襲い来る攻撃ではない。先程の攻撃のように、振り上げられたこの両腕も次の攻撃の備えであれば、真っ向から受け止めるのは危険ではなかろうか。


「“我が法(Astral)則を訊け(Logia)”」


 気づけばヘリオスの身体は垂直どころか反り返り、その足は乃愛の足のすぐ傍に迫っていた。


「しまっ──」


「“理想(Idea)物質(Material)”」


 大地を踏み砕く程の踏み込みを成すヘリオスの足下に現れるは灰色の液体。光を帯びてヘリオスの思い浮かべた形を象り始める。


 それは槍。


 形成された瞬間に足下より射出されたそれは乃愛の胸の谷間を掠め、花びらを散らすように衣服が飛び散る。咄嗟に胸元を両腕で隠す乃愛だったが、頭上から降り注いだヘリオスの両腕が頭部に直撃し、身体をくの字に曲げながら地面に激突して宙へ跳ねる。


「気を失うには早いぞ!」


 叫びつつ地面を踏み砕いたヘリオスの足下より再び形成される五本の槍。空中に舞う乃愛目掛けて射出させ、次々と乃愛を掠めて衣服を削ぎ落とす。


「そらそら、どうしたルシフェ──」


「鬱陶しい」


 落下する中翼を広げたルシフェリアの右眼がヘリオスを見下ろした刹那、怒りと嫌悪を込めた言葉と共に紅き閃光が放たれる。

 空から地上へ、射線上に存在するのは地面のみ。しかし周囲のヴァナヘイム軍や磔にされたイオリアへの被害を考え、威力を最小限に止めたヴェルミクルム。照射とほぼ同時に爆炎を撒き散らし、発生する暴風に煽られるイオリアとヴァナヘイム軍が悲鳴を上げ、葵の身体が吹き飛び転がった。


 煙を立ち昇らせる爆炎の前方へ、白き翼のヴァンパイアは開けた胸元や留め具の破損によってズレ下がった右袖を押さえつつゆっくりと舞い降りる。足は着けず、ヘリオスの身の丈より少し高い低高度を保つ乃愛の瞳が周囲を見渡す。


 今回は法則の使用出来る相手というのもあり、リオン以上に加減が許されない。


 故に少々無茶な角度でヴェルミクルムを使用した。だがそれによる被害は少なからず目に見えている。乱発出来るものでないとすれば少々危険だが接近戦が妥当。


──……まあ、法則の発動条件も凡そ検討がついた事だしな。


 目を細め、爆炎を見つめる。正確にはその中にいるヘリオスを、だ。最小限に止めたヴェルミクルムで絶命したなどとは思っていない。相手は魔王。それも最小限に止めたヴェルミクルムでいとも容易く木っ端微塵になったキングゴブリンとは種族としての質が違う。要するに野犬を仕留めたナイフで同じように獅子を殺せると思っている程乃愛も楽観的な性格はしていない。


「いつまでそうしているつもりだ? それに、衣服ばかり破いているだけで私にどうやって勝つつもりだ。馬鹿にしているのか?」


 乱れた服を押さえつつも恥じらう表情など一切浮かべず、嫌悪の視線で爆炎の中のヘリオスを見下ろす乃愛。その言葉を受けてやっと、爆炎の中でゆらりと立ち上がる影が浮かび上がる。


「これは失礼したな。しかし馬鹿にしているつもりではないぞ。これから抱く娘が初めから傷だらけでは身も心も保たないだろうという、余なりの配慮である」


「…………そういうのを、馬鹿にしていると言うんだ下種め」


 辱められる事を、凌辱される事を前提とする物言いに心底身の毛のよだつ思いで返答する乃愛。しかし吐き捨てた際に口元は笑みを浮かべていた。爆炎の中にいるという事はヴェルミクルムが直撃ないし、爆発の範囲にいたという事。かたやダメージを受けている一方で、自身の身体にダメージはない。


 戦闘力が拮抗している者同士では初手の僅かなダメージ差はそれそのものが決着を左右する場合がある故に、この事実は大きいものだろう。衣服を除外し乃愛自身が受けた攻撃は頭部。それも不死の王によって完治済み。痛みを受けた感覚はあっても今痛みはない故にこの差は大きい。


「ミノタウロスは戦闘中にすら欲情して女を辱める下種畜生の類と聞いている。しかしお前が目の前にしているのはこの私だ。妙な気を起こして手心を加えるなら一瞬で塵芥に変えてやる」


「これはまた異なことを言う。余は最初からその気だ。ならば先の一撃で塵芥になってなければおかしいではないか」


 そもそも乃愛には不死の王がある。傷はすぐに癒え、身体的には万全な状態を維持出来る。加えてヘリオスの法則や攻撃は総て物理的なもの。キュクロのように精神系の攻撃であれば注意が必要だが、乃愛にとってヘリオスはさほど脅威にはならない。


「粋がるな。お前の能力も戦術もだいたいわかった。お前に勝ち目は──」


「フハハ! そうか、ならば存分に舞い踊れ! 身も心も果てるまで、互いの身体を楽しもうではないか!」


 ヘリオスが腕を薙ぎ払い、ヴェルミクルムの爆発によって燃えていた炎が消し飛ぶ。そこに佇む一切の負傷を負っていないヘリオスの姿を見て、乃愛は言葉を続ける事が出来なかった。


 品性のない言葉は今更故に捨て置いて、ヴェルミクルムを受けて無傷でいるのは乃愛にとって予想外だった。最小限とはいえ乃愛自身が造った史上最速最強の魔法と言われる程の代物だ。避けたとしても爆発の範囲にいれば無傷で済むハズがない。それに加えてヘリオスにはリオン程の速度はない。となれば躱したというのもあの巨体では中々想像出来ない。


「──……ッ」


「何を驚いている。小娘の眼光如きで余が倒れるとでも思ったか?」


 腕を組み、片足を上げるヘリオス。だがその瞬間に乃愛は羽ばたき一つで瞬時にヘリオスの懐に潜り込んでいた。

 一切の負傷を負っていないヘリオスに面食らいはしたものの、歴代魔王の中で最も魔力の高い乃愛が憶する事はない。魔族の潜在能力はほぼ魔力量に比例するからだ。


 魔法とは外界に超常現象を引き起こすものと自身に作用するものの二通り存在し、前者は世間一般的に知られている魔法のように発火現象や稲妻を呼び寄せる類のもの。そして後者は身体能力の向上であり、人類の用いる戦技がこれに該当する。


 そのどちらも当然魔力を消費して行使するものであり、その身に内包する魔力量や一度に放出可能な魔力量の多さが多い程に強く優れている。これは人類と魔族の強さにも比例している。


 単純に、魔石というコップよりも魔族というバケツの方が優れているのは言うまでもない。当然身体強化において向上する肉体が強靭であればある程に強化幅が広がるのもあるが、ヘリオスと乃愛はコップとバケツというより遊泳場(プール)堰堤(ダム)だ。それもその堰堤側である乃愛はヴァンパイアと天使のハーフという双方の利点を共に継承し昼夜問わず魔力を溜め込む事が出来る。


 歴代最強と称される所以はここにあるのだ。


 故に、憶する事なく懐に飛び込んだ乃愛は構えもせずに腕を組むヘリオスの腹を全力で殴り飛ばす。ヘリオスの巨体がくの字に折れつつヴァナヘイム軍へ向かうも、瞬時に回り込んだ乃愛の蹴りを受けてヘリオスの身体は空へと舞い上がる。


「イオリア。葵を頼む」


「ええ。いってきなさい乃愛」


 磔にされたイオリアにそう言い、互いに笑みを浮かべた後で乃愛は翼を大きく広げて飛翔。白い羽根が舞い落ちる中、見上げるイオリアの視線の先で乃愛は雲を突き抜ける。


「いい服を着てるようだな。センスは皆無だが」


 雲を突き抜けた先、追撃をするつもりでいた乃愛はそれを止め、月光の下空を覆う雲の上に立つようにして見上げてそう呟いた。その右腕は殴り飛ばした際に負傷したのか、拳の部分に不死の王の結晶が浮かび上がっていた。


「けどそんな事より、その翼は似合わないな」


 乃愛と同じ天使の翼。月光に照らされるそれはしかし、乃愛の翼のように淡い光を反射する事はない。


──殴り飛ばす前に、空に打ち上げられる事を予想して先に作られたか。見た目より頭が回る奴だな。


 黒色にして艶のある翼。その翼はどう見ても法則によって形成されたものだった。空であれば踏み壊す地面もなく、飛翔能力のある乃愛の独壇場であると思っていたが故に、乃愛は不服そうにしていた。


「オリハルコンを知っているか?」


「さあ? 生憎聞かされた事はあっても、内容はよく覚えていないな」


 といってもそれを聞かせた者はこの世界にはいない。そもそも少し前に他界しているがそういう意味ではなく、葵と出逢った世界での事。つまりは内容を覚えていたところで別世界の概念など意味をなさないのだろうが。


「よい。学のないヴァンパイアに余が教授してやろう」


「結構だ」


 即答し、羽ばたきを一つ。飛翔と同時に身体を捩り、回転の遠心力を乗せた裏拳を繰り出す乃愛。ヘリオスはそれを肘撃ちで迎え撃ち、容易く乃愛の拳を弾き飛ばす。


「……ッ、そうか。その趣味の悪い服は全部──」


 拳が出血し、乃愛は苦味を噛むように呟く。


「左様。余の法則によって生み出されたオリハルコンである。オリハルコンとは最も硬く、羽のように軽く、伸縮性のある矛盾した空想上の金属。余の“理想物質”がそれを実現させたのだ。故に余の身体には何人も傷一つつける事は出来ぬ!」


 両手を広げて乃愛を捕まえようとするヘリオスを前に、舌打ちの後にヘリオスの腹を蹴飛ばしつつ翼を羽ばたかせて後方に飛ぶ。弾丸のように回転しつつ後退する最中、視線はヘリオスへ。


 それは照準。


「身の程を知れ」


 交錯する紅い閃光。瞬くその光は正しく乃愛の切り札。この場において一切の加減を必要としない故に放てる全身全霊の一撃。史上最強の魔力放出量を誇る乃愛のみが行使出来る、魔法という概念において最速最強の輝き。


「“紅に沈め(Vermiculum)”」


 照射に合わせて足下の雲が波打ち、雷鳴の如き轟音を響かせ名の通り紅い閃光がヘリオスを襲う。直撃と同時に天使の輪のような波紋が広がり、地上で使えば山一つ消し飛ばす程の巨大な爆発を引き起こした。


挿絵(By みてみん)


 そのあまりの威力に乃愛自身まともに飛ぶ事もままならず、爆風に煽られて身体は弾き飛ばされる。そもそも彼女自身、ヴェルミクルムをここまでの出力で撃った事はない。乃愛の第二法則“永遠に強く在る為に(Fortis)”によって魔法の効果が飛躍的に強化される故、例え身体強化に止まる魔法であっても全力で使用するという事は周囲に被害が発生する。


 それは最早魔法とは呼べず、災害と呼ぶもの。


 だが父であるニーズヘッグとも交戦経験がある程の相手。どれだけ軽蔑しようとも見下していい相手ではない。


「……まさかここまでとは」


 やっとの思いで体勢を整えた乃愛は舞い上がるキノコ雲を見上げつつ呟く。そう、全力で撃ったが事がない故に自身が造り上げた魔法の威力すら知らないでいた。爆風に煽られただけで衣服はボロボロになりはしたものの、これからの戦いで力の加減をしていく為にも最大の威力を知る事はいい経験になった。


「さて、これからどうするかな」


 咎埼乃愛としての戦いに敗北した故に、今後葵とどう向き合うべきか乃愛は考え始めた。核爆発のような威力の魔法を持つ魔王を“守ってあげたくなるヒロイン”とは、さすがに今の葵も考えまいと。


 腕を組み、想像し、苦笑いを浮かべて頭を掻いて。


 その後自身の身なりを見下ろして頬を赤くする。元々肌の露出が多い服であるが故、肉体に傷一つないものの破けた衣服は悲惨なものだった。そもそもこんな姿を葵に見せたくないと考えている時にそれは起こった。


「余が教えてやろう」


 聞こえた声と共に爆炎から飛び出す影。そんな馬鹿なと振り返る乃愛の右翼に食らいついたのは、手の平以外の全身を黒き金属で覆った化け物だった。

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