第027話
「……咎崎。僕はやっぱり魔族を殺したい」
机に両腕を叩き付け、皆が静まる中で葵はそう告げた。勇む力と発言の源が怒りである事は誰の眼にも明らかだった。
その理由は少し時間を遡る。
葵を巡る言い合いが行き交う朝食を終えた一同はこれからの話を始めた。朝食時では終始イオリアがマウント気味で乃愛が涙目の会話であったが、その後はイオリアが沈む結果となった。
理由は当然、イオリアがヴィーグリーズルに来た目的に由来する。イオリアの目的は乃愛の予想していた通り、隣国であるヴィーグリーズルへの救援要請だった。しかし国境壁を設ける程に関わりを断絶しようとする王がそれを承諾する訳がない。
『そもそもヴァナヘイムは元々エルフが治めていた土地だ。それを奪い取った後、危ないから助けてくれというのは身勝手過ぎるし自業自得だろう』
魔族側である乃愛からはもっともな意見だった。これには葵もギリアムも頷くしかなかったが、イオリアの続く苦し紛れの言い分が話の流れを変える事になる。
『貴方だって国を追われたと言っていたじゃない。何をしたかは知らないけれど、国を預かる者として貴方も私の気持ちがわからない訳ではないでしょう!?』
その言葉にクーラがメスを構え、イオリアも武器を抜くという事態に陥る。乃愛の制止の言葉がなければ流血沙汰になり兼ねない程にクーラは冷静さを欠いて動いた。
『少し昔の話をしよう』
クーラに大人しくしているように言い含めた後、口を開いた乃愛は嫌気がさす思い出を懐かしむような複雑な表情を浮かべていた。
『まず初めに……そうだな、まずは私の国の事を話した方がいいだろう。私の国は他種族の中心的位置に存在していた大国、ニブルヘイム。かつて総ての魔族を束ねていた王が建国し、その名残で多くの種族がそこで暮らしていた』
魔族はそれぞれ国を持っていると、いつしか葵は乃愛に聞いていた。その内の一つを乃愛が治めていたという認識だったが、どうやら葵の見解は間違っていたようだった。
『だがその大国は私が亡き父の跡を継ぐ事で崩壊した。それは私のある秘密が漏れたからだ』
それは法則の事だろうかとイオリアが口を挟み、乃愛は頷いた。話についていけない葵がイオリアに尋ね、イオリアはニブルヘイム崩壊時の戦争において“乃愛の総てが魔族領域全土に知れ渡っていた”事を説明する。
『前に葵には話したが、法則は例外を除いて各種族に一人、魔王となる者に一つが原則。その例外というのは魔王の親や祖父母は存命の限り法則を失わない、というだけのハズだった。三つの法則を持って私が生まれるまでは』
それを聞いた途端一同が目を丸くして驚いたのは言うまでもなかった。世界の常識や人知を超える魔法、それすらも凌駕する至高にして最悪の力である法則を三つ保有するなど異常にも程がある。
それは魔王であっても同じ事だ。こちらの切り札である法則は一つであるのに対し相手は三つともなれば警戒どころの話ではない。力の均衡が単純に保てないのだから、そこには隔絶した上下関係が成立してしまう。
『一つは知っているから省くが、二つ目は“永遠に強く在る為に”といい、魔力を介した私のあらゆる行動の力を何倍にも強化する法則だ』
続けて、乃愛は二つ目の法則の扱いが難しい事を教えた。そこから長らく話を脱線させる。咄嗟の事で魔力を使って叩いた事やデコピンで吹き飛ばした事や、先程目覚めたばかりの葵に叩いた時は魔力を使わなかった事。
結果さっきは吹き飛ばなかっただろうと話し、気にしていたゴリラ発言──実際にゴリラなどと葵は口にしていないのだが──を葵に撤回させた。
満足して話を戻した乃愛は、次は魔族達がどうして平和を保っていたかを話し始めた。その内容は法則自体が軍勢をも凌駕する力を秘めているが故に、通常の戦争という形で領土の奪い合いが起こりにくいというものだった。
考えて見れば当然の事。送り込んだ自軍が全滅しては無意味、というだけでは済まない。数多くある魔族の中で敗戦したとなれば、隣国から攻められる危険がある。
さらに、魔王になる魔族は身体に浮かび上がる法則の模様を隠せるようになるまで隔離される。それはつまりほぼ同族にすら法則は秘匿するという事だ。先に事を起こした者が法則を晒す事になるのは自明の理。
となれば当然他の魔族が法則を知るハズがなく、法則と法則の戦いは相性に左右される事もあって攻めあぐねる。こうして魔族領域はある意味で平和という形になっているという事になる。
『だが私は例外だった。複数の法則を所持している事に加えて私は天使族とヴァンパイア族の混血。故に昼夜問わずに魔力が回復する』
人類の天敵とされる天使族は昼に、他の魔族は夜に魔力を回復するという特性がある。これは誰もが知っている常識であり、故に冒険者の間では“夜に魔族と戦うな”という言葉がある。
混血ともなれば、そのどちらの特性も引き継いでいる可能性があるのは自明の理。そんな例外は中々生まれるものではないが、現に法則を三つ所持しているという時点で例外中の例外だ。
『そんな禁忌の存在の情報が総て魔族領域全体に知れ渡ったらどうなると思う?』
答えは明白。脅威になる前の幼い内に魔族の中で多くの種族が討伐に乗り出す。本人にその気はなくとも複数の法則を持つ魔王が存在しては保たれていた均衡が崩れるからだ。
『ほぼ総ての魔族はルシフェリア・ニーベルングの討伐という大義名分の下に見せかけの結託をし、争奪戦が始まった』
いつ心変わりして総ての領土を支配しようとするかわからない爆弾を見過ごすよりも、確実に息の根を止める事の出来る幼児期に殺す事の方が得策だから。しかしなぜ争奪戦なのか。それを疑問に思った一同が口にすると乃愛は鼻で笑う。
『私の一族は全魔族唯一無二、法則を越える力を継承し続けている』
葵の脳裏にコーラスが過ぎる。その全魔族唯一無二の力が“不死王の座”に関する事であると葵の直感が告げた。
『その力は“|不死の王《No Life King》”という名の通り不死の力だ。あらゆる死も傷口から突き出る結晶体が砕け散ると共に“なかった事に”なる』
“不死王の座”とコーラスから聞いた時に葵は予想していた。そしてそれはつまり乃愛が死なない限り死なないとされる葵が、例えどんな事が起きようと死なないという事になる。そう思ったイオリアがそれを口にした。
乃愛が葵に使った法則は永遠の随伴者の創造。法則と、法則をも越える力の二つが永久機関として機能するのだ。イオリアの目的がヴァナヘイムの救援なら、これ以上に頼もしい援軍はない。
しかし、乃愛は首を横に振って葵の完全不死を否定した。
そう、そもそも死なないのであれば幼児期に殺してしまおうなどという考え自体が浮上する訳がない。
一部の頭の悪い種族が行ったのであれば納得は出来るが、乃愛が言うように“ほぼ総ての魔族”が争奪戦に参加する訳がないのだ。それはつまり、絶対無敵の力である“不死の王”を殺す方法があるという事になる。
『“不死の王”は法則と違って唯一無二。だから継承させると使えなくなる。継承するのは先代継承者の第一子、私は父から譲り受けた。つまり──』
その時の乃愛から、葵は眼を離せなかった。湧き上がる感情に説明がつかず、ただその手は震えながら徐々に拳を握り締めた。
自嘲気味に微笑む乃愛は腹に添えた手をゆっくりと下へ撫で、露出した臍の下辺りで止めた。
『私を無力化した後に孕ませる。争奪戦というのはそういう事だ』
その事実を知り、葵は振り上げた拳をテーブルに叩き付けた。静まり返った中で、葵はかつてリーベとシルトの墓に誓い、乃愛の存在によって撤回したあの決意を先程再び口にしたのだ。
総ての魔族を殺す。奴等が生きているのは間違っている事だから。
いらないから否定する。気に入らないから叩き潰す。不死の身体を手に入れたとはいえ、乃愛が魔族だからと意見を変えたとしても、夜坂葵のその本質までもが変わった訳ではない。
「まあ、そう言うな。“不死の王”は名の通り不死で、魔王の王と言っていい。どんな魔族もその栄冠を掴もうとするのは当たり前だ。……つまり、私が王になった事でニブルヘイムは滅んだ。不満がない訳でもないが理解はしている。理解出来ていないイオリアや、ヴァナヘイムとは違う」
「……でも、貴方にも臣下や護りたい人がいたのよね? 戦ったのでしょう?」
理解は出来ても納得出来る訳ではない。
乃愛もイオリアの気持ちがわからない訳ではない。しかし状況が違う。総ての魔族から狙われる程の危険人物とされ、救援を求める事も出来なかった乃愛には選択肢がなかった。
だがイオリアはどうだ。国を捨てれば国民の命は助かる。ヴィーグリーズルに亡命し、北側から来る魔族にさえ対処していれば滅ぶ事はない。
「私には選べなかった。殺すのも殺されるのも嫌で抵抗はした。だが到底護り切る事も出来ず目の前で何人も殺されて、私も次第に殺し始めた。大量の命を奪い、潰し、壊して、そうしている内に気付いたんだよ。もう護るものが何も残っていない事に」
いかに不死の力を持っていようとも、魔法が強大になる法則を持っていようとも、自分の手の内が総てバレている中での防衛戦など不可能。
いくら死なないとしても、それは乃愛だけ。いくら魔法が強大になろうとも扱うのは十歳前後の子供で、味方を殺しかねない力を安易に使える訳がない。
その不条理にイオリアもギリアムも、クーラさえもが何も言えなかった。魔王が王である限り、自らの同族の繁栄を願うのは当然の事。
故に納得出来ずとも周囲の魔王が争奪戦を行うという考えに至る事がわからなくはない。
それでも抗って戦ったとして、敗北しか道はなかった事も。
しかし皆が皆視線を下に落としている中で葵は違っていた。今にももう一度吼え兼ねない怒りに震えた葵の様子を見て、乃愛は仕方ないだろとでも言うような笑みを浮かべる。
「……まあ私は継承した事を悲運と嘆く事もあるが、そのおかげでお前に逢え──」
「だからって道具みたいに扱われていい理由にはならない」
そしてほぼ総ての魔王と戦って異世界に逃げ延びたからこそ葵と出逢えたと、乃愛がそう口にしようとしたところで葵は立ち上がった。
「僕は咎崎を護ると決めたんだ。咎崎を狙う連中が今も生きてるなら殺すしかない」
「え、えっと、その……」
立ち上がった葵が身を捩って身に着けている装備の確認をしながら告げた言葉に、乃愛は赤面したのを隠すようにして俯いた。護ると決めたんだと目の前でハッキリと言われて照れ臭かったのだろう。
「今ヴァナヘイムにいるのはサイクロプスだったよね。そいつ等は争奪戦に参加してたの?」
「はい。この眼でしかと、ニブルヘイムに攻め入ったのを見ました」
「おいクーラ──」
「決まりだね。ヴァナヘイムの軍が持ち堪えてる間に参戦しよう」
そう言い出すとわかっていたから何も言おうとしなかった乃愛の後ろでクーラが答え、葵は頷く。その言葉に喜ぶハズだったイオリアは、呆けたように葵を見上げて何も言わなかった。
「ギリアム、口が堅い知り合いはいる? 出来る限り人手が欲しい」
葵に知り合いは少ない。だからといって往来を禁じられている中でギルドに依頼を出す訳にはいかない。ヴィーグリーズルの冒険者を募るなら、ギリアムの人脈が頼りだった。
だが、ギリアムは考え込むように腕を組み、すぐに口を開こうとはしなかった。
「……葵よ、俺やお前はゴブリンの魔王にすら敵わなかった。それがサイクロプスだ? 魔王の目撃例もないし、巨体のサイクロプスは二十人掛かりで何とか出来るかどうかなんだぜ?」
「それでもヴァナヘイムに攻め入ってる最中なら一か所に固まってないハズだ。それにもしヴァナヘイムが落とされたら、次はスライムの護りが薄いトゥーレとこの村が危ない。魔族である咎崎がスライムのいない場所を拠点に出来るとしたら、ここしかないんだ」
かつてはトゥーレを囲ってこのカナンガ付近までスライムはいたらしいが、今はトゥーレの北側であるカナンガにスライムはいない。となれば、サイクロプスは必ずトゥーレを攻め落とすだろう。
魔王といえど、スライムは脅威。そして乃愛自身が語った法則や魔法の事からも、魔力が効かず魔力を吸収するスライムは乃愛の天敵と言っていい。故にスライムがうようよといる場所に乃愛は住めないのだ。
ならばここに居続けるしかなく、そうすれば確実に乃愛が異世界から帰還した事が魔族領域全土に知れ渡ってしまう。
乃愛の脅威になるという事であれば、ギリアムも重い腰を上げねばならない。乃愛は魔王だとしてもギリアムにとっては恩人で、そして未だ整理のつかない感情を実感しているが故に。
「わかった。大した人数にならねえかもしれねえが、心当たりが何人かいる。その代わり報酬は弾んでもらうぜ、イオリアさんよ」
言って、ギリアムは立ち上がって葵と共に家を出て行く。名前を呼ばれてハッとしたイオリアは急いでその後を追った。
「クーラ、どうして葵にサイクロプスが争奪戦に参加した事を教えた? こうなる事はわかったハズだ」
「申し訳ありません。……ですが、私もルシフェリア様が葵様を気に掛ける理由がわかったような気がしたのです」
「え、クーラも……ッ?」
謝罪の言葉を述べながらも笑っているクーラだったが、その言葉に動揺する乃愛を見て頭を抱えた。
「あの方はルシフェリア様が受けた不条理を怒り、そして一度敗北した魔王以上の魔王にも臆せず戦う気持ちでいる。……冒険者だからなのか、異世界の人間だからなのかはわかりませんが、葵様は“全力で生きている”と、そう感じます」
「ああ、そういう……」
乃愛は机に置いた腕を頬杖に、窓の外で出掛ける葵の背中に視線を向けた。葵はいつも気に入らないものを全力で叩き潰す。それは乃愛にとって葵の美徳だが、今回ばかりは相手が悪過ぎるだろと乃愛はため息を吐く。
その拗ねたような表情をした乃愛の頭に、クーラは優しく手を置いた。
「確かに無鉄砲なだけかもしれません。ですが、私もルシフェリア様が嫁がれるのなら葵様であればと、そう思ったのです」
その柔らかな髪を優しく撫でながら、クーラは顔を真っ赤にする乃愛へ姉のように微笑んだ。
「御待ち下さい葵様!」
クーラと乃愛が二人で話している中、イオリアは屋敷を飛び出して葵を呼び止めた。
「あ、あの……私の御願いを聞き入れて頂き感謝致します」
「気にしなくていいよ。僕はサイクロプスが気に入らないだけだし、そもそもまだ魔王と戦えるだけの戦力を集められた訳じゃない」
言いながら、もう行っていいかと言うような素振りを見せる葵。歩き出した葵を更に追いかけて、イオリアは隣に並んだ。
「で、では私も──」
「駄目だよ。イオリアはたぶん顔が知れ渡ってる。トゥーレに行くのは僕とギリアムだけでいい」
大人しく待っているだけでは気が済まない。共に行こうとしたイオリアだったが、しかし葵の言葉にその足を止めた。
「……ああ、それなら一つやっておいて欲しい事があるんだけど」
意気消沈するイオリアだったが、葵のその言葉に顔を上げる。が、しかし振り返った葵の風を感じ取って、嫌な予感がしたイオリアは短く呻いたと同時に一歩退いた。
掃除をしたいというクーラの邪魔にならないように家を出た乃愛は、シルトとリーベの墓の方角から物音が聞こえて足を運んだ。
するとそこでは複雑な顔をしたイオリアが二人の墓の隣に穴を掘っていた。踊り子のような衣装を纏った褐色のイオリアがシャベルを手に穴を掘っているのは何とも言えない光景だった。
聞いてみるとどうやら葵に「イオリアは名もない使者としてヴィーグリーズルに来て殺された事になってる。御墓を作るって言っちゃったから、作っててくれる?」と言われたらしく、その実行中らしい。
名前は書かないとはいえ自分の墓穴を掘るイオリアの複雑な心境は、こことは別の世界で葵の無茶に付き合わされた乃愛には同情出来るものだった。
何やら急に親近感が湧いてしまったイオリアに手伝おうかと尋ねるも、シャベルは一つだし自分の事だからと一蹴された乃愛は邪魔にならないように早々に立ち去る事にした。
葵とギリアムがトゥーレに向かって二時間が経つ。暇故に何かやるべき事はと考える乃愛だったが葵が稼いでいたこの一週間、まったく向いていない神官の魔法は我流でどうにか使用出来るようになった。
現状必要そうな魔法の作成は未だ難航しているものの、そもそも魔法の作成は正体を隠す事や集中する為に屋敷の地下室で修練する必要がある。静かで人目につかない場所といえばそこだけだが、生憎今は掃除中。
故、特にやる事もないなと暇を再確認した乃愛は村を散歩する事にした。
「おう、乃愛ちゃん。今日は活きのいいのが捕れたんや。さっきメイドさんに渡しといたから、夕飯楽しみにしときーな」
「いつもありがとうございます」
「あら旦那さんはー?」
「だ、旦那ッ!? いや私と葵はまだ……」
村を歩けば道行く人は必ず挨拶し、元気な猟師が声を掛け、おばさん達がからかって乃愛の反応を楽しむ。子供達は乃愛を見つけると笑顔で駆け寄っては服の裾を引いて困らせたり、遊んでとせがんだりと、乃愛はいつの間にか人気者になっていた。
村に住み付く新人の冒険者は口を利く事があまりなく、装備も貧相な者ばかり。余所者を受け付けないという訳ではないが、村人も好き好んで仲良くなろうとはしないのが普通だった。
そんな中で乃愛という人物はこの村にとって物珍しいのだ。聖戦級の装備を纏う冒険者というだけではなく、メイドを連れた村一番の屋敷に住まう女神官。
怪我をした子供を癒し、魔法で治らぬ病は元々医者であるクーラが薬を処方する。小さな魔獣が来た時も神官でありながら前に出て追い返して村の危険を護ったりと、そんな目まぐるしい活躍をしているのだから、元々持ち合わせた容姿も相まって人気者になるのは当然だった。
本人としては葵が帰って来た時に子供が離れてくれないとか、遊ばれ続けてクタクタだとか、そういった不満はあるようだが人気者でいるのは満更でもなさそうだった。
「あれ、あの人何ー?」
「わー、カッコイイ」
群がって来ていた子供達が指差して笑っているのを見て、乃愛も視線をその方角に向ける。
黒い鎧を纏う馬を連れた漆黒の騎士。紅い六つの眼をした兜と触れる者を切り裂きそうな鋭利な騎士甲冑。黒いヴェールは人間の騎士というよりは魔族のような見た目だった。
もしここが人間領域の村でなければ警戒している程にその形相は悍ましい。
「あ、ああ。そう、だね」
子供達にそう笑い掛けて、ふと懐かしさに見舞われる。暖かい何か、懐かしいのは匂いなのか何なのか、乃愛にはわからない。しかしこれだけは言えた。
その懐かしさは、けして“今此処で感じていいものではない”という事だけは。
そもそもこの村に完全武装した騎士が何の用だというのか。少なくともあのような出で立ちの冒険者であったり騎士が訪れる程の何かなどこの村にはないハズだと、そう不審に思った乃愛は再び黒い騎士が歩いて来ていた方角を見る。
そんなに遠い場所にいた訳じゃない。視界も開けていたし、見失う事はないだろう。だからすぐに、その騎士は乃愛の視界に納まった。
「え──」
子供を挟んだすぐ傍で乃愛を見下ろす黒い騎士。乃愛が疑問を口から漏らしたその刹那、黒い騎士の薙ぎ払う刃が乃愛の右眼を斬り裂いた。
御久し振りです。いつも楽園変生を御読み頂きありがとうございます。
さて、再来週からの更新なのですが、はなようも私も3話程連日投稿してはどうだろうか、という話になりました。
はなようの挿絵次第ではあるのですが、より多くの方々に読んで頂きたいというものがあり、クオリティ維持の為とはいえ2週間では伸び辛いっという事での連日投稿です。
とはいえ二週間で挿絵三枚となると中々に難しいものがあると思います。もしよろしければとは思いますが、挿絵担当のはなようを皆様も応援して頂ければ幸いです。
(気分屋なのでいい事があったりおだてるとたぶん何とかなります)




