第023話
道なき大地を蹴り、隆起した木の根を飛び越え、突き出た枝の下を潜り抜ける。すぐ傍にいた女一人を捕まえるのにそう時間はかからないだろうと誰もが思っていた。四十人近くの冒険者がいるのだからそう思うのは当然だった。
その女が人間離れしていなければ。
大地を疾走する女の速度は相当なものだったが、軽装備を主とする聖戦級の冒険者であれば珍しい程ではない。だが問題はその移動方法だ。
一度飛び上がれば女はしばらく地上に降り立つ事はなかった。木の幹を蹴って宙返り、遥か頭上の枝を掴んで身を捩りながら再び飛び上がり、まるで空を舞台に舞う踊り子のようだった。一見してゆったりとした移動にも見え、冒険者達もそう驚いてはいない。
しかし追い付けない。いつまで経っても距離は縮まない。それどころか時折木に遮られて女の姿を見失う。故驚きはなくとも戸惑いは広がり、それは疲弊に繋がる。
人間は目標を定めて行動をする。この場合、外套の女の討伐がそれに当たる。人間はその目標に到達する時間、手立てを無意識に模索するものだ。この場合、追い詰めて取り囲み、各々の武器での攻撃だ。それが出来ない以上、いつ終わるとも知れぬ追撃は諦めや苛立ちを生み、手足に纏わりついて身体に重くのしかかる。
一方、外套の女はあてもなく縦横無尽に駆け回っている。約四十名もの冒険者に追われるのは恐怖に感じるものだろうが、女はそのフードの下で表情一つ変える事はなかった。
攻撃を仕掛けて来れば反撃の隙もあるが、女にその素振りはない。そして目的地もわからない以上、冒険者達は先回りも出来ない。
ならばと、散開して背後と左右からの挟撃を実行した。しかし冒険者が散開した傍から女は進行方向を変え、冒険者達を強制的に合流させる。
背後を見ていない、声も届かないだろう距離で、外套の女は冒険者達を手の上で踊らせるかのように翻弄し続ける。これでは疲弊が加速する一方だった。
そして、
「おい、奴はどこに行った?」
疲弊は集中力を著しく低下させる。
故に先程まで追っていた女の姿を完全に見失う。物影に隠れているのか、それとも速度を飛躍的に上げたのか。どちらにせよ姿が見えない以上何も出来ない。
「どうすんだよ、見失っちまったじゃねえか!」
「守護級に聞くなよ、お前聖戦級だろうがッ」
そしてそこで、冒険者が数多く集まっているが故の問題が生じる。
冒険者は軍隊ではない。故に指揮官はおらず、緊急事態に陥った場合衝突が起きやすい。
当然、そういう場合に対応出来るように設けられたのが階級権限だ。それは依頼内容が被った場合や、行動を共にせねばならないような場合に混乱を避ける為に用意されたもの。
「じゃああっちに行くぞ、ついて来い」
「俺に命令するんじゃねえよ」
しかし、それも同じ階級同士では衝突する場合がある。約四十人の冒険者が集まっている中、聖戦級がその半数に満たない数であっても誰が指揮を執るかなど早々決まる訳がない。
その様子を遥か高い木の影から見下ろす外套の女は、そのフードの下で声を出さずに笑っていた。そう、それは彼女の狙い通りだった。その為にわざわざ高所で目立ち、距離を空けずに逃げていたのだ。
「っていうかよ、ここどこだ?」
そしてもう一つ。散開しようとする冒険者を合流させ続けたのは、全員を誘導する必要があったからだ。全員を一か所に集める事で混乱を招く以外に、全員同じ方向に進ませる事によって総ての冒険者の方向感覚を同様に狂わせる。
そうする事で足止めをした。外套の女の狙いはそもそも冒険者達と事を構える事ではないからだ。
総ては彼女の手の平の上。彼等冒険者達の上空を音もなく通り過ぎ、外套の女は迷う事なく元の場所へと駆けていく。彼女の狙いは国境壁を越える事。木から木へと飛び移って移動する並外れた身体能力でも、建設中とはいえ凡そ三十メートル近くある国境壁を跳び越す事は出来ない。
ならば、約四十人の護衛冒険者がいない間に門を通り抜けるのが唯一の方法。
そして彼女は追われる身となった瞬間にそう行動した。聖戦級クラスの冒険者が多数いたとはいえ、所詮は烏合の衆。統率の取れていない冒険者達を翻弄するなど造作もないと踏んでの行動だ。付け加えて自身が森の中を迷わないという自信があった。
故に十分に実現可能な作戦だった。今国境壁にいるのは先程の騎士と国境壁を作る作業員。騎士の力は未知数だが、一人であればその先に続く見晴らしのいい草原も何とか逃げ切れるだろうと踏んだ。
しかし、国境壁の門の目前にまで辿り着いた外套の女は足を止める。
「作業員でも騎士でもない風が二つ。一つは冒険者……」
外套の女はボソリと呟く。意外だった。冒険者は獲物を見つけたら追うしか脳のない者が多く、それも依頼主である騎士がその場で命じたのだから、全員が自身を追いかけたのだと思った。
しかし、違っていた。どういう訳か追い掛けずに門の少し手前で待ち構えている冒険者がいる。
「もう一つは……人間ではないわね」
そして、待ち構えている二人の内一人の存在に外套の女は眉をひそめた。
「じゃあつまり、ヴィーグリーズルはヴァナヘイムを見捨てたって事?」
懇切丁寧に話したギリアムの言葉を一言に纏める葵。お互い木に背中を預けて向かい合って話していた。騎士に見つかると面倒故に、国境壁の入り口からは少し離れた位置で、だ。
「まあ、そうだな。考えても見ろ。建国したけど維持出来ませんでした。勝てる保証もないし勝っても今まで通りの取引は出来ませんけど助けて下さいって、ヴィーグリーズルには何の得もない上にいたずらに国民を減らすだけだろ」
ギリアムはそう言い、ため息を吐く。覇者級を目指し、外の世界に憧れていた友人を持っていた彼としては、この失敗例は複雑なのだろう。そもそも、彼やその友であるライヒが聖戦級になれたのも、度々魔族と戦うヴァナヘイム軍の依頼で戦い抜いたからだ。
「俺もライヒもヴァナヘイムには世話になった。ライヒは応援に向かうつもりだったが、人員が集まらなくて断念した。それは先んじて向かった冒険者達が全滅したっていう噂が理由だな」
「なるほど、先に応援に向かった冒険者の犠牲が酷かったから、王も含めて怯んじゃったって事か」
「お前怖いもの知らずだな。それ侮辱罪になり兼ねないぞ」
王政の国で王が臆病風に吹かれたって吐いたのかと、ギリアムから注意を受けて自覚した葵は軽く頭を掻いた。
「いやまあ、実はヴィーグリーズル王国の事よく知らなくてね。愛国心なんてないんだ」
「……まあ、俺は酒にしか興味ねえし、言い降らす気はないが。その軽口はあまり感心しないな。……って、お前ヴァナヘイム出身か?」
「え? 違うけど何?」
「ヴィーグリーズルもヴァナヘイムの事も知らねえって、それ以外に人間の国なんて──」
「ヴィーグリーズル出身なんだけどかなり田舎から放浪の旅をして来たんだっ」
焦って捲し立てる葵。遮られて思わず黙るギリアムの眼がジーっと葵を見据える。明らかに疑っている。
「そういや聞いた事があるな。魔族領域の至る所で魔族を崇める人間が村を作ってるっつー話」
「いや、本当に違う……」
初めて聞く話だが、それでもわかる不穏な疑いに葵が半ば困っていたその時、どこからか視線を浴びているように感じた。苦笑いをやめて急に真剣な表情をした葵に、ギリアムも異変を感じて背中の大剣を抜いた。
「あら、気付いたのね。でも私はただそこを通りたいだけなの。見逃がしてはくれないかしら?」
その声で葵もギリアムも隠れているのが外套の女である事がわかった。ならば言葉通り交戦意志はなく、女の声が聞こえた場所から自分達二人を挟んだ先にある国境壁の門を目指しているのだろう。
見当がついたのなら、やるべき事は冒険者としてそれの妨害。葵は腰のベルトからカランビットを取り外し、クルリと一度宙に放り投げてから握り締める。
「……見たところ普通の冒険者のようだけれど、そちらの身軽そうな殿方。貴方、もしや魔王ではなくて?」
「は?」
ギリアムの視線が葵に移る。敵前とはいえ先程の話の後。その不可解な言葉に一瞬ギリアムの注意は葵に向けられた。
当然葵は「いやいや、そんな訳ないよ」と首と手の平を左右に振る。
「そう、魔王ではないの? 用心するに越した事はないけれど、警戒のし過ぎも埒が明かないもの。そういう事にしておくわ」
葵が悪寒を感じた時、ギリアムが前へと駆け出した。ギリアムもきっと感じたのだろう。外套の女の言葉から、攻撃を仕掛けて来ると読んだ。
「時間がないの。大人しくしていてね」
しかし次に聞こえた言葉は葵の背後で囁かれた。
「な……ッ!?」
そんな馬鹿なと、振り返る葵の視線の先で外套の女の唇が微笑んでいた。
瞬間、その視界が暗くなる。木漏れ日を遮るそれが眼前に迫る蹴りであると認識すると同時に葵は後方に飛んで躱した。
「お、おい大丈夫か!?」
「ああ、うん。とりあえず当たってはないよ」
仰向けに倒れて着地した葵は、駆け寄って来たギリアムに起き上がりながらそう答え、攻撃を仕掛けて来た女に視線を向ける。
「何だあれ」
その両手に握り締められた武装に葵は思わず口にする。半月型の重厚な刃が二つ。一対の短剣とも呼べるが、形状も持ち手も短剣というよりはトンファーだった。
「見た事ない武器だな。だが、リーチは俺が上だ」
言って、今度は俺だと徐に大剣を構えて前に出るギリアム。大剣を右手に担いで一度葵に振り返ったギリアムは顎で合図する。頷いた葵を確認して女に向き直ると、勇ましく大声を上げて駆け出した。
「駄目ね。強引に迫ったら女は皆怖がるものよ」
対する外套の女は振り下ろされる大剣に左腕を晒すかのように突き出した。その細い腕で大剣を、それも体格差のあるギリアムの両手にて振り下ろされる鉄の塊を受け止められる訳がない。
しかし、ギリアムの大剣は彼女の持つ半月型の刃に触れた瞬間、激しい火花を散らして軌道を変え、地面に激突する。
──……何だとッ!?
細腕に容易く弾かれてギリアムは歯軋りする。数が増えただけの今の聖戦級は歴代の聖戦級に質で敵わぬとはいえ、それでもギリアムには培ってきた経験がある。自分よりも大きな体躯をした魔族とも戦い、生き抜いた自信がある。
人間の、それも自分よりも小さく力のない女に負ける訳がないと、躱されたとしても防げるハズはないと、そう思っていた。
「クソがッ!」
苛立ちを両手に握り締めた剣に乗せて薙ぎ払う。その叫びは攻撃を防いだ女にではなく、一撃を防がれた事で動揺するギリアム自身の弱い心に対してのものだった。
たった一撃防がれただけ。
逆に当てたのだから、それを防いだ女の細腕にある程度の負荷は与えたハズである。それ故に、右から左へ薙ぎ払われた巨剣はもう一度女の左腕を強襲する。
だが水平に薙ぎ払われた巨剣に女の持つ刃がもう一度添えられる。先程とは違い、火花は散らさず飛び上がった女はその刃と刃の衝突点を軸に身を翻し、外套から露出した右足でギリアムの頭部に蹴りを入れた。
しかし、軽い。そもそも女も蹴り飛ばせるとも思っていなかっただろうが、この体格差では大したダメージにもならない。
速いだけでやはり力はないと踏んだギリアムは、フワリと着地する女にもう一度上段に振り被った大剣を振り下ろす。
着地したばかりではどんな達人も行動が若干鈍る。故にこの一撃は防げず躱せない。そういう確信がギリアムにはあった。
外套の下、女の唇が笑みを象る。
右腕の刃で受け止められた大剣は再び火花を散らして軌道を変え、女は払い除けるように右腕を薙ぎ払って横回転。回転を殺さず飛び上がり、遠心力を乗せた蹴りをギリアムのこめかみに叩き込む。
それは先程のような一撃とは訳が違う。打撃の軽さを遠心力と速さで補い、こめかみに当てる事で直接脳に振動を与えた。それ故に体格差はあれど、ギリアムの身体は傾き膝が折れる。
だが、
「まだやれんだよ、俺はッ!」
咆哮と共に腕を薙ぎ払う。当然それは完全なる悪足掻きで、当たったところでダメージも何も期待は出来ない。
ただ“気を引く事は出来る”ハズだと腕を振るった。
「後ろね」
左の茂みから女の背後へと回り込むように飛び出した葵。ギリアムの最後の悪足掻きによって完全に虚をつけるハズだったが、ギリアムの腕を躱すついでに振り返った女の視線が葵を完全に捉えた。
そんな馬鹿なとギリアムも葵も目を丸くする。聖戦級をものともしない戦闘力。いったいコイツは何者だと、ギリアムは怯む。
そう、驚いた二人の内怯んだのはギリアムだけだ。
驚きはした。完全な奇襲を完璧なタイミングで察知して迎撃に出る姿勢。音を立てた覚えも声を上げた覚えもない。にも拘わらず、奇襲を悟った女に葵は驚きはしたが、怯みはしない。
迎撃? 躱さないならやるべき事は変わらない。どの道飛び込んだ勢いを空中で殺す事は出来ない。ならば目の前の敵を叩き潰すのみ。
そう考えた葵の逆手に持つカランビットと、女の突き出す半月型の刃が衝突する。
ギリアムの大剣の時と同じく、半月型の刃は火花を散らして葵の斬撃を逸らす。その一部始終を眼に焼き付ける葵の視線と外套の下の女の視線が交錯する。
葵は着地と同時にカランビットを捨て、空いた右手を広げて女へと伸ばす。
まるで首下に喰らい付こうとする蛇のようなそれは、しかしこの場において意味不明な行為だった。敵を前にして武器を捨て、両手に刃物を持つ相手にその手を伸ばすなど、斬ってくれと言わんばかりの愚かな行為。
「……ッ!」
しかし、その意味不明な行為に女は舌打ちのような吐息を漏らし、高く飛び上がってギリアムを跳び越すようにして葵から距離を取る。
今まで防御からの反撃に徹しながら国境壁の門へと近付いていた彼女が、葵との攻防で門からも葵からも距離を取った。
その不可思議な行動にギリアムは首を傾げ、葵は掴み掛ろうとして失敗した右手を呑気に眺めている。
「“冒険者としては奴隷級”って事? ねえ貴方、随分と人間相手が上手じゃない」
先程の接近で見えたのだろう。最初の一文を強調する女は言いながらゆっくりと身構えるように腰を落とした。
「おいさっさと武器拾えよ」
言いながらギリアムは走り、葵を護るように前に立って大剣を構える。しかし、その背にいた葵は先程捨てたカランビットを拾う事もせず、頭を掻きながらギリアムの隣に並んだ。
「……ねえ、やめにしない?」
そして唐突に素っ頓狂な事を口走った。
「は!? お前どういうつもりだ!?」
「だってあの人、殺す気どころか僕達を傷付けるつもりもないよ」
人差し指を女に向けて、葵はギリアムを見上げる。どう見ても隙だらけの葵だったが、女は未だ武器を手にしているものの襲って来るどころか身構える事すらやめていた。
「あんな武器持ってるのに、僕等に当てようとした攻撃は全部蹴りだ。頭を蹴って気絶させようとか思ってたんじゃない?」
「本当に察しのいい殿方ね。そうよ、私は一人でも多くの冒険者に生きていて欲しいもの」
ほら、と言わんばかりに葵がギリアムにもう一度視線を向ける。
「たぶん殺す気だったら僕等はとっくに死んでる。大剣の剣圧も僕の奇襲もどういう訳か完全に見切られてたしね」
「見切られてた?」
「剣の刃先を立てずに、ほんの少しズレた部分をあの武器で受け止めて、湾曲した刃先で滑らせながら薙ぎ払ってるんだ。あれじゃ金属武器でどう攻撃してもまともに衝撃を受けないから、攻撃を仕掛けてるこっちが消耗するだけだよ」
剣道には相手の攻撃を防ぐ為に振るわれた剣を自らの剣で受け流す技術がある。相手の攻撃を弾いて押し返すのではなく、軌道を僅かに変えて攻撃を逃れる手段。
女が使っていたのはそれだと、そう言いながら葵は未だ構えているギリアムに剣を降ろすように合図し、視線を女に向ける。女が武器を外套の中にしまって両手を上げて近付いて来ると、ギリアムも大剣を背中に戻した。
「それにさ、どこの誰かもわからない人間を殺せって命じる騎士より、僕等を気遣いながら国境壁を越えようとしている女の子の方が信用出来ると思わない?」
「まあ、そりゃ確かに」
二人のやり取りを見た女がクスリと短く笑う。その笑みを覆った手でフードを取り、顔を見せる。
褐色の肌に煌びやかに輝く薄い金色の髪の女は、フローライトの様な水色の瞳で葵を見上げる。
蒼と白の装いは華やかで、煌びやかな金の装飾が木漏れ日に反射するものの、葵が僅かに視線を逸らしたのは別の理由だった。
「……僕は夜坂葵。あ、そうそう葵が名前ね。よく間違えられるんだけど」
胸元を隠すだけの蒼い布と、腰の左右から下腹部で交差するスカートのような蒼と白の布。骨盤の辺りに見える紐は恐らく下着の紐であり、葵が視線を逸らした理由は端的に露出が多いからだ。
外套の下がほとんど水着のような格好をしていた。とくれば、思わず視線も逸らすだろう。当然凝視する者もいるだろうが、葵はまだ思春期真っ盛りの少年だ。初対面の、それも年上の女の肢体は刺激が強過ぎる。
が、そうとも言っていられず葵は名乗りながら手を差し伸べた。
「葵……ね。さっきは魔王かだなんて疑ってごめんなさい。私の名はイオリア。イオリア・ヴァナヘイムよ」
握手のつもりだったのだが、葵の手を両手で上下に挟み込むように手を添え、上品に御辞儀する女──イオリア・ヴァナヘイム。その名を聞いた瞬間、葵とギリアムは驚きのあまり声を上げそうになったが、イオリアの後方より少し離れた場所から近付いて来る足音を聞いて口を閉じる。
「早いわね。もう帰って来れるだなんて……」
イオリアの物言いによって、その足音がイオリアを追って行っていた冒険者達であるとわかり、ギリアムが頭を抱える。
「ゆっくり事情も聞けないな。おい、どうする?」
とギリアムは葵に視線を移すが、先程までイオリアに手を取られていた葵の姿が忽然と消えていた。
「んー、そうだね。こっち来てくれる?」
悠長にカランビットを拾い上げる葵の後を追う二人。ギリアムは焦り気味、イオリアは再びフードを被ろうとしたが葵の手に止められる。
「えっと、現状をまとめるとイオリアは追われてて、僕等は君を殺すように命じられている。で、今は話している時間がない」
「おう、そうだ。だからさっさと隠れるんだよ」
「……何か考えがあるのね? 門を通れるなら何でもいいわ」
一転し、理解者として葵を認識したイオリアは葵の表情を見て察した。それに頷き、葵は拾ったばかりのカランビットを逆手に握り締め、左腕の手袋を外すとイオリアへと振り返る。
その後、葵の振り上げたカランビットが、イオリアの頭上で木漏れ日を受けて怪しく煌いた。
「え──」
「なら、死んでもらうよ」




