プロローグ
夢を見ていた。
彼女は泣いていた。
「生まれて来たのならば、滅びねばならない」
両手を広げ、空を仰ぎ、彼女は笑うように泣いていた。
涙の代わりに零れた笑みは、声を張り上げる度に焼け焦げた臭いを脳髄に焼き付ける。
真っ赤な瞳に真っ赤な景色。
誰もいなくなった真夜中。焼け落ちる王城を前に、積み上がっているのは異形の屍。
右手には一つ目の巨人。
左手には砕けた髑髏。
前には馬足の獣人。
後ろに彼女と同じ白い翼を持つ天使。
彼女を取り巻く死屍累々。
彼女は涙を見せない。代わりに地獄を見せた。
虐殺の限りを尽くしたその場所で、彼女を取り囲むのは屍と、屍達と同じ姿の有象無象。
「禁忌の魔王に鉄槌を──」
言い終える前に、彼女に最も近かった天使が翼と下半身を残してこの世から消え去った。
彼女を取り巻く殺意の念。
禁忌の魔王と呼ばれた彼女。糾弾され、世界は彼女にとって悪意で満たされているように思えた。
誰も彼もが彼女を責め立てる。
罪は生存。
彼女が生まれて、この世に存在する事が罪だった。
ならばこの世は彼女にとって“間違った世界”なのだろう。
もう一つ、夢を見た。
泣いている人がいた。
彼はいつも何かを助けていた。
優しい人だった。
無表情の仮面を被る彼を、誰も彼もが誤解する。
人は誰しも彼を理解しない。仮面の上からですら彼を見る者は少なかった。
彼は涙を見せない。代わりに素顔を私に見せた。
「間違っているのはみんなでも世界でもなくて、きっと僕なんだ」
私の肩を包むように、彼は身体の重みと共に私に心を委ねてくれた。
愛する彼は、続けて私にこう言った。
「それなら僕は、僕に似合うような“間違った世界”に生きたかった」
その時から、私は夢を見るようになった。
私として彼と共に生き、彼と暮らし、彼の子を産んで、笑いながら暮らす夢。
彼女として彼と共に生き、彼と戦い、彼を支えて、彼に身を捧げて生きる夢。
どちらもでもよかった。
彼と共にいられるのなら、そこは私にとって楽園だと心の底から感じていた。
あの日、ずっと彼を待ち続けていたあの日までは。
初投稿です。どうぞよろしく御願い致します