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楽園変生 第一部 ──不死の随伴者──  作者: 紅葉 昂
第一部【不死の随伴者】
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第008話

 異世界という葵の言葉に首を傾げていた包帯の女。しかし改めて葵が口にした言葉に、彼女は目を丸くしていた。


「つまりその女を物にしたいんだろ? なら当たって砕けなよ、男だろ?」


 やがて開いた口はそんな言葉を葵に投げていた。夜坂葵の言う冒険がジョブマスターの言う目的を含むのであれば、確かに回りくどい事この上ない。

 相手に惚れているなら、想いを告げて前進すればいい。


「僕にも事情があるのさ」


「可愛らしい坊やだね。早い話、恥ずかしいんだろ?」


 とはいえ、当たって砕けるだけでは意味がないのも事実。事情を与り知らぬ者がとやかく言うものではないだろうと、やれやれと両手を広げて嘆息する包帯の女。

 恥ずかしいからという気持ちは持っていなかった葵だが、この場でどういう話に落ち着こうとも特にこの先不都合はなさそうだったので口を閉ざす。対する包帯の女は広げていた両手を降ろすと、視線を葵の持つ短剣に注いだ。


「にしても、アンタ本当に変わってるね。そういう回りくどい所もそうだけど、カランビットを選ぶなんてね」


「ふーん、これそんな名前なの? 単純に、色々応用が利きそうだと思ったんだけど」


 ジョブマスターの視線を追って葵も手元の短剣に視線を落とす。


 湾曲した片刃。まるで牙のような形状をしたその短剣は、事実構造までもが牙そのものだった。三日月のように弧を描くその形状は、しかし刃は外円部ではなく内側に煌いていた。

 逆刃の短剣。逆手に握り締められたカランビットは正しく牙のように、他の短剣とは一線を画した形をしている。


「アニメや漫画でさ、ナイフの刃先で相手の大剣を受けるシーンとかがあるんだけど、あれは流石に現実的じゃないからさ。こうやって逆刃ならそれをしても刃毀れしないかなって思ったんだ」


「何言ってるのかよくわかんないけどさ、持ち方逆だよ」


「いいのさ。無闇やたらと斬るつもりはないからね」


「…………まあいいさ。理屈で教えるガラでもないし、言った通り叩き込んでやるからしっかり覚えな」


 言い終えると同時に松明の炎が消え失せ、完全な暗闇が再び葵を包み込む。身構える葵の腹に叩き込まれたのは蹴りか拳か。彼にそれを判断出来る術はなく、そして成す術もなく葵の身体は自身が先程蹴り飛ばした新米の女のように吹き飛んだ。


「私の事は師匠か先生。ああ、姉御や姉貴でも構わないよ。その他気軽に呼ぶようなら、その減らず口もその手足も二度と動かないようにしてやるよ」


──いや、むしろ喋る余裕なかったんですが。


 攻撃を入れられた腹部を押さえ、葵は起き上がる。しかしその彼の表情を見た包帯女は表情を険しくした。


──……でも、やっぱ痛くないんだよな。


 彼に痛みは通じない。意識が途切れない限り、構造的に動かなくなるまで彼の身体は止まらない。立ち上がった彼の平然とした表情に、松明を消したばかりの者達は葵を凝視していた。皆体験したから知っているのだろう。先程の一撃の威力を。

 カランビットを握り締めた腕で首を押さえ、傾げるように捻った葵の首の骨が常闇にして静寂な空間に響く。


「あーあ、アンタは変わった子だね。本当に、密偵には向いてなさそうだ」


「そう言わないでよ。これでも手先は器用なつもりなんだ」


 残念がるような台詞はしかし包帯の隙間から覗く唇が象る笑みと共に紡がれる。それに応じる葵は逆手のまま、刃を自身に向けたまま、拳を突き出すように短剣を構えた。











 結論、聖戦級というのはどうにも人間をやめているんじゃないかと思った。


 特訓を開始してから十数分。見本と称して叩き込まれた打撃の数はもう覚えちゃいない。その後に座学を数分程度行って、僕は晴れて密偵としてあのボロボロの建物を後にした。

 いや、追い出されたと言うべきか。最後に「二度と来るんじゃないよ」とか言われたし。


「まあ、教えて貰う事はあれで全部らしいし、後は自力でやるけどさ」


 周りにいた美人四人から渡された衣服。それに着替える際に彼女達は笑いながら話してくれた。密偵になる為に訪れた人間の中で、最期まで立っていたのはどうやら僕だけらしい。あの包帯女はそれが気に食わなかっただけで、気に入らない訳じゃないと教えてくれた。


 その証拠に、と渡されたのが今着ている服だ。


 革と少量の金属を使った軽装。フードのついた服は布だけど、速さを活かす密偵という職でガチガチの鎧は元々想像していないし、元の世界の服とそう変わらない着心地なので助かる。

 これは元々、有能として包帯女が認めた新米密偵に渡すつもりで用意していた装備らしい。


 けど、それよりも特別なのが外套だ。


 肩から下げる黒い外套は長く、曰く火に強い耐性のある竜の革を素材としていて、それなりの防御性能があるのだとか。この外套は特別製らしく、何でも包帯女が昔使っていた物だそうだ。言ってしまえば聖戦級の防具。最初からそんな物を装備するなんてチートじゃないかって思うけど、この先何があるかわからないのだから貰える物は貰っておくべきだと思う。


「気に入られたって事でいいのかな?」


 こんな装備を無償で渡すくらいだ。少なくとも嫌われちゃいないだろう。が、冒険者ギルドに戻る途中の道を歩きながら、自身の格好を見下ろしてみる。


 着替えて脱いだ制服は布袋に入れて担いでるけど、鏡を見たら笑ってしまいそうだ。だってこれ、元の世界でいうとまるっきりコスプレって感じだし。個人的には全身鎧の方が好きなんだけど、動けなくなるのは目に見えてるし。趣味と違うとはいえ、これはこれで何とも厨二な服装だ。

 格好いいと思うけど、この格好で元の世界には戻りたくない。


「咎崎に笑われないかな」


 急に恥ずかしくなって来た。しばらく元の制服を着て外套だけつけるのもいいかもしれない。そういえば、幻想的な髪の色をしている咎崎の事だ。さぞこの異世界の服は似合うだろう。

 どんな格好をして来るのだろう? 神官も密偵みたいに資質が認められるとこんないい装備が渡されるのだろうか。


「ま、それは追々わかるか」


 冒険者ギルドの酒場に戻った僕は、やっと周りと馴染む事の出来た容姿に少し安堵し、包帯女から貰った書類を店員に渡す。


 さて、金だ。


 装備はかなりいい物を貰えた訳だし、当面は装備に金は必要ない。問題は食費と宿代。これさえどうにか出来れば落ち着けるだろう。

 しばらくして店員が木のプレートを持って来て、それを受け取ると僕は掲示板の前へ足を運んだ。


「……読める」


 見た事のない文字だ。なのに書いてある事がわかる。不思議な気分だった。そういえば異世界転生や転移は基本的に何者かの意志によって異世界に飛ばされる事がある。そういうジャンルとして当然だけど、異世界の人間がいきなり日本語を話して来る作品が多い。

 なのに、実際に視聴者が見るアニメの絵の中にある文字はよくわからない形をしていたりする。


 よくある設定的な矛盾。


 まあ、そこまで深く考えないのが視聴者の鉄則なんだけど、こうして体験すると考えるしかない。何者かの意志によって異世界に来たのなら、そういうコミュニケーション問題を“その何者かが何かしら力を行使して解決している”という設定の作品もある。


 当然今目の当たりにしている訳だから、そういう存在が既に僕にその何かしらをしている可能性は高い。

 それが神なのか何なのかわからないけど、こういう“明らかに意味不明な文字の羅列を見て日本語として認識出来る”という事は、つまりそういう輩がいるという事だ。


 まあ、他の理由が思いつかないだけだけど。


「さて、どうしようか」


 だとしたらそいつは僕にこの世界で何をさせたいのだろう。安直に考えれば魔王の討伐だ。異世界に召喚された勇者として、魔王を倒すのは最も御約束な展開。


 じゃあ手っ取り早く魔王を倒すような依頼とか手配書とかあるのかなと、そう思って探してそれはすぐに見つかった。


「ゴブリン族魔王、キングゴブリン。五千万ジェリー。んで、薬草採取が七千ジェリー。……まあ、食料や装備の相場はわからないけどだいたい日本通貨で考えても問題なさそう……かな?」


 ゲームだとだいたい薬草が百くらいの値段で売られているが、現代社会で薬がそんなに安いハズはない。そう考えればゲームと違ってこの異世界の薬草は高くてもおかしくない。


「ねえ、店員さん。メニュー見せてよ」


「はーい、こちらですよ」


 文なしなのを知っているというのに笑顔を向けて手渡してくれるなんて、優しい世界だなあと感心しつつ、視線をメニューに移す。


 ホグフィッシュのサラミピザ六百ジェリー。


 泡酒四百ジェリー。


 ヒポグリフのペペロンチーノ五百ジェリー。


 ベヒモスの肉焼き定食千七百ジェリー。


 …………普通のファミレスの値段に見えて来た。ピザも配達じゃない店のメニューならだいたいこのくらいだろう。水とスマイルが無料って、どこのバーガーショップだよ。


「薬草採取と行きたい所だけど、薬草わかんないしな」


 イメージ的に日本通貨で問題なさそうだし、とりあえず七千円……もとい七千ジェリー稼いで……ああ、でも宿ってつまり旅館やホテルだよね。ゲームならともかく、七千ジェリーだと二人は厳しそう。この際咎崎だけ宿に入れて僕は野宿するのがいいかもしれない。


「冒険者さん、冒険者さん。もしかしてパーティーを御探しじゃありませんか?」


 と、メニューと掲示板を交互に見ていると背後から聞き慣れた声がした。振り向いてみると、銅のプレートをした冒険者。先程色々教えてくれた二人組がそこにいた。

 聖職者風な少女は何故か悪戯っぽく笑っている。


「ああ、さっきはありがとう。……って、パーティー?」


「そうそう。ここに戦士と神官が手持無沙汰に他の冒険者を仲間にしようと──」


 何やらはしゃぎながら喋り続けている神官から戦士の男に視線を向ける。すると苦笑いをしながら両手を広げ、許せとでも言うようにアイコンタクトを送って来る。

 なるほど、色々説明して貰ってて言うのもなんだけど、彼女はどうやら相当な御節介好きらしい。


「一緒に行くのはいいんだけど、まだ密偵になったばかりで足引っ張るかもしんないよ?」


「大丈夫! 私達はこう見えても傭兵級だし、今から行くのはゴブリンを撃退すればいい奴隷級の依頼! ちなみに三人で行けば一人当たり三千ジェリー!」


 笑顔で迫られ視線を逸らす。悪い人じゃないのは知ってるけど、どうしたものか。薬草採取は知識がいるし、ひとまず三千ジェリー稼いでいた方がいいだろうか。


「あと、同時に薬草採取して帰れば七千ジェリーが君の手に! 私は薬草の種類がわかるし、道中に勝手に喋っちゃうかも──」


「行こう、うん。よろしくね二人共」


 自分でも現金な気がするけど、ここまで言われちゃ一緒に行くしかないだろう。一万ジェリーで宿が泊まれるかはわからないけど、少なくとも一人よりは効率がいいし。


「そうと決まればまずは自己紹介ね!」


 と、胸に手を当てる少女。ああ、そういえばまだ名前を聞いてなかった。名乗りもせずによく質問を繰り返せたものだと、自分に呆れている僕に彼女は首を傾げて微笑んでくれた。


「私はリーベ。よろしくね」


「俺はシルトだ。コイツはうるさいかもしれねえが悪く思わないでくれ。昔っから世話好きでな、困ってそうな奴がいると放っておけねえタイプなんだ」


「いや、助かるよ。事実困ってたしね」


 差し出された大きな手を掴み、戦士の男──シルトを見上げる。随分といい体格をしていると思っていた。装備もかなり使い込まれてそうで頼もしい。少なくとも彼は傭兵級。周りの奴隷級とは一線を画す存在なのは間違いない。


「僕は葵。よろしくね、二人共」


「ええ、こちらこそ」


「おう。お前等には指一本触れさせねえから安心しろ」


 シルトは僕の手を放すと掲示板から依頼の書かれた紙を二枚剥がし、カウンターの店員に持って行く。すると店員は裁判所で使ってそうな大きな判子をその紙に押してはシルトに御辞儀した。


「おっしゃ、行くぞリーベ、葵」


 人の良さそうな笑顔を浮かべて僕の肩を小突き、シルトは酒場を出て行く。それを追ってリーベも小走りで駆け出して、横に並んで楽し気に会話をしている。


 僕と咎崎もいつかはあの二人みたいになれるだろうか。


 僕は他人の痛みがわからないから、咎崎の感じる痛みをきっと知る事は出来ない。けど、それなら咎崎に痛みを与えなければいい。痛みを与えさえしなければ、僕がそれを総て引き受ける事が出来たなら、あの時泣かせてしまった事を許してくれるだろうか。


「おーい、葵さーん。こっちだよー」


「ああ、うん。今行くよ」


 もしそうする事が出来たなら、咎崎は謝罪の言葉を聞いてくれるだろうか。……考えても始まらない。だから始める為に僕は歩き出す。街を出て、咎崎と走った花畑を歩き、草原に出た所でそれはいた。


──……どう見てもスライムだよね、あれ。


 半透明な青白い液体は手足を持っていない。なのに移動している。塊になった液体は全身をうねらせ、膨張と収縮を繰り返して草原を蠢いていた。


 スライムといえば代表的な下級モンスター。世界観によっては移動している時は無敵だとか、色によって弱点が違うとか、身体を溶かさず衣服だけを溶かす恥ずかしい生物だったりするけれど、この世界ではどうなのだろう。


 衣服だけ溶かすようなら咎崎から遠ざけなきゃいけない。咎崎の為でもあるけど、僕の為にも。


 現代社会で言えば、地球に生息する生物はどんな身体をしていようが無敵なんていう生物はいない。……たぶん。

 動いているという事は身体があるのだから、斬って二分割にすればどっちかは死んだりするのだろうか。


 そうこう考えている間にスライムとの距離が狭まり、飛び付かれ兼ねない所にまで来ていた。視線はスライムから前を歩く二人に移し、二人はスライムを気にも留めず談笑しながら歩いていた。


挿絵(By みてみん)


 視線をスライムに戻し、仕掛けるべきかどうか逡巡する。結果スライムが死ななかったとしても、視界に数多くいるスライムが一匹増えるだけ、か。そうやって頭を整理して腰のベルトに装備したカランビットに手を掛ける。


「どうしたの?」


 と、その時横にいるリーベから声をかけられる。どうした、と言われても目の前に魔獣なのか魔族なのか知らないけど、モンスターがいるのだから身構えるのは当然だろう。


「いや、だってあそこに気持ち悪いのが沢山いるし」


「は? お前もしかしてスライムを知らねえのか?」


 いや、知ってるんだけど。と、言い返そうとしてやめた。僕とした事が忘れていたけど、ここは異世界であって僕のいた世界の常識とは違うんだ。

 僕が頷くとシルトは驚くように目を丸くした。


「相当に偏狭な土地から来たんだな葵は」


「まあ、気持ち悪いのはわかるけど」


 とはいえ気持ち悪いとは思うらしい。


「女はたまにそう言う奴いるよな。俺は綺麗だと思うんだがなあ」


 あれが綺麗、か。確かに色だけ見ればそうなのかもしれないけど、ちょっとよくわからない感覚だ。


「スライムはな、魔石を用いずに魔法を使える生物の天敵なんだよ。つまり魔族や魔獣だな。大陸の中心であるヴィーグリーズル王国に近付く程数が多くなるから、各種族の魔王達も滅多に人間の村を襲わないんだ」


「へえ、そうなんだ。けど、何で天敵なの?」


「そりゃお前、スライムの好物が生きた魔力だからさ。スライムは魔族や魔獣が近くにいると音もなく這い寄ってその身体に纏わりつく。どういう原理なのか知られてないが、捕まえた魔族や魔獣を脱力させながら永続的に魔力を吸い上げちまう。ついでに打撃も斬撃も、勿論魔法も効かない。今の所弱点という弱点は聞いた事がねえな」


 下級モンスターどころか、無敵だなそれ。


 液体であるから打撃や斬撃が効かないのは理解出来る。だいたいどのゲームでもそうだ。けど、魔法が効かないってのはちょっと強過ぎる気がする。


「じゃあスライム持って魔王に殴り込みに行けばいいんじゃない? 投げ付けたりしてさ」


「かなり昔にそれを試みた団体がいたんだが、どうもスライムは俺達冒険者と同じく自由気ままがモットーらしい。こんだけいるのに捕獲した例もないし、兵器利用された事例もない。王様は未だその研究に御熱らしいがな。ま、そういう訳で人間も魔族も御互いの領地が一番安全って訳さ」


 夜の魔族と戦うな、だっけ。そういうフレーズがあるくらいだ。魔族が夜に強くなるのなら、人間が眠る夜中に襲撃されたらひとたまりもないと思っていた。

 けど納得だ。僕が魔族ならいくら領土拡大の為とはいえスライムがうじゃうじゃと湧いて来る土地をわざわざ襲撃したりはしない。


 例え人間を根絶出来たとしても、そんな土地で暮らせる訳がないからだ。それなら他の魔族の領地を奪った方がどれ程有益だろうか。

 なるほど、スライムは人間と魔族の均衡を保つ神聖な存在って訳だ。そう考えて見れば、確かにどことなく綺麗に見えて来たかもしれない。


「……まあ、そう考えない奴もいるんだけどよ」


「どういう事?」


 話しながら歩いていた僕等はスライムを横切る。こちらに僅かに反応したのか、微妙に寄って来たけど確かに襲って来なかった。


「つい最近までこの大陸に人間の国は二つあったんだ。大陸北部のヴァナヘイム王国と、俺達のヴィーグリーズル王国だ。リーズル家と違ってヴァナヘイム家はカーライルの教えに属していなくてな」


「あ、カーライル教はスライムを神の使徒や手足だと祀る教えね」


 僕が問う前にリーベが説明してくれる。どうやら僕の考えと同じく、スライムはそういう守り神的な扱いをされているようだ。

 というか、本当にこの子は教えるのが好きなんだな。僕のいた世界で生きてたら絶対教師になるとか言ってるタイプだ。


「ああ、すまん。カーライルの教えがそもそもわかんねえんだったな。で、だ。カーライルの教えではカーライルの加護、つまりはスライムの守護を受けられるのは大陸の中央であるヴィーグリーズル王国周辺だけと言われている。だがヴァナヘイムはリーズル家に反する者達を集め、エルフ達がいた大陸北部に侵攻したんだ」


「んー、要は独立国家を作ってリーズル家の支配下から抜け出したって事?」


「そうそう。人間同士で争う時代もあったんだけど、リーズル家はずっと勝ち続けてた。ヴァナヘイムが出来た事で戦争はなくなったんだけど、代わりにヴァナヘイムはずっと魔族と領土争いをしてたの」


 なるほど。魔族はスライムがいないヴァナヘイムには攻め放題って事か。


「逆によく建国出来たね。その領土、エルフ族はそんなに強い魔族じゃなかったの?」


「ああ、そうか。リーベはまだ教えてなかったな。いるんだよ、天才ってのが」


 シルトは遠い目をしながら明後日を向き、そう告げる。覗き込むとそれは難しい顔をしていた。


「葵さん葵さん。シルトにはちょっと苦い思い出がありましてね」


 肩を叩かれ、振り向いた先でリーベが小声で耳打ちをしてくる。

 天才がいる? それは当然だろう。だからどうかしたというんだ。


「本当は彼の前でこの話はしたくなかったんだけど、仕方ないね」


 考え込む僕を見かねて、リーベは仕方なさそうに口を開く。横目に見たシルトは未だ明後日の方向を向いたまま、その右手は強く握り締められていた。

連載開始から四日で1000pv突破しました!

読者の皆様、本当にありがとうございます!

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