小さな少女
昔々、300年ほど前。魔族と人族が血で血を洗う戦いをしていた時代。その時代に嘆き悲しんだ一人の若者が立ち上がった。
そう、その若者こそ、戦乱時代に終止符を打った伝説の勇者。名を『アルフレッド』という━━━
これは、私が幼い頃から大好きな大好きな、昔話のその続き。
「━━━━そうして、勇者アルフレッドは悪しき魔王お撃ち破り、戦乱を生き残った魔族と人族で手と手を取り合い、平和な世の中を作ったのでした。めでたし、めでたし。」
母が優しい声で昔話を締めくくる。私は母が語ってくれるお話の中でこの話が一番大好きだ。
《勇者アルフレッドの冒険》は私が小さい頃ころから語られる昔話だ。もれなく誰でも知っている。
今の平和な世の中があるのは勇者アルフレッドのおかげで、彼がいなければ、きっといまだに魔族と人族は血で血を洗う戦いをしていたに違いない。
それになにより、アルフレッドがめちゃくちゃカッコいい!!!疾風の如く敵を打ち倒すその姿もだけど、颯爽と現れては、人々を救っていくその姿!!!!!思わずよだれでちゃう!!!!…………はっ!失礼しました。
そんな風にこの話をしてもらえると、それはもうご満悦な私だけど、一つだけ、いつも気になってることがある。
それは、話終わった母が、いつも少し、ほんの少しだけ、多分家族がよく観察して、気づくか気づかないかぐらいのほんの些細な変化だけど、寂しそうな、悲しそうな顔をする。
私はそれが不思議でしかたがなかったけど、なんとなく何も言えなくて、気づかないふりをする。
そう思ってるうちに、普段の優しい笑顔を取り戻していた母に「もう寝なさい」と、言われ私は布団の中に潜り込む。そんな風に穏やかに時間は過ぎていった。
この時私はこの穏やかな時間が永遠に続くものだとばかり思ってた。16歳になり、この家のことと、『勇者アルフレッド』の真実を知るまでは。