0-1 案内
「・・・おや、こんな暗い場所へ何のようだい?ここには、見るべきものなんて何も無いよ?」
中性的な顔立ちの人物がこちらに歩み寄る。真っ暗で何があるかも分からない中で、その人物の姿は、声は、はっきりとしていた
「・・・・・・まぁ・・・折角ここまで来たんだ、案内くらいはするよ。さ、僕の手を掴んで」
そう言って、彼(彼女?)はこちらに手を差し伸べる。その手を掴み、引かれるがままにゆっくりと歩く
「・・・ああ、そういえば名乗っていなかったね。僕は無花、ここでは・・・そうだな、"案内役"とでも思ってくれればいいよ」
無花は歩きながら、暗闇の中を見えているかのように歩く
「ああ、ここが何処か・・・教えておこうか?」
・・・その言葉に対し、"はい"と答えた
「それじゃあ、説明しておこう。」
そう言うと、無花は足元の暗闇に手を当て、白い床と小さな丸テーブル、そして長椅子が現れる
「さ、立ち話もあれだし、座りなよ」
貴方は言われるがまま、その長椅子に座った。すると無花はその隣に座った。距離は限りなく近くて、相手の顔がすぐそこにあるほどだ
「・・・ここは暗い記憶を閉じ込める場所さ。誰しも、見られたくない記憶、思い出したくない記憶、拒絶したい記憶がある。そういった記憶をここに集めて、保管しているんだ。消そうにも闇が深過ぎたりするし、その闇があったからこそ生まれたものというのもある。だから、知り合い達には内緒で僕個人が管理しているんだ」
無花はこちらにそっと鍵を渡す。紺色の小さな鍵・・・よく見ると、真紅に染まったり・・・紺色に戻ったりを繰り返している
「それは僕の大好きな奴の記憶さ。・・・そいつは小さい頃、理不尽なまでの痛みを味わった。何度も泣いて、何度も叫んで、何度も許しを願った。けれどその想いは叶わぬまま、遂には怪物として目覚めた。・・・折角ここに来たんだ、見たければこの鍵を使って見るといい」
無花はそれを言うと、欠伸をして眠りについた。すやすやと、安心しているような寝顔だ
気が付くと、貴方の目の前には暗闇にふわふわと浮かぶ本がある。本の表表紙に鍵穴が付いている、おかしな形の本だ。
・・・それを手に取り、先ほど無花から貰った鍵を差し込む。すると鍵穴から光が溢れ、包み込まれる・・・