エリージャ・イサックという男
私がお茶を飲み終わり、コップをおばさんに預けた瞬間、ガチャリと扉が開いた。
部屋に入ってきた男は私を助けてくれた紫髪の男。
その男の姿をみると、おばさんが声をかけた。
「あら、エリージャ!お話はもう大丈夫なの?」
「えぇ。イライザさん、ありがとうございました」
そしておばさんは二言三言会話すると、部屋を出ていった。
代わりに、エリージャと呼ばれた男がベッドに座る私の方へ近づいてくる。
「やぁ、お嬢さん。気分はどう?」
「…助けていただき、ありがとうございます」
この人が私を助けてくれた紫髪の男だということに気づき、素直に頭を下げる。
「女の子助けることなんて俺にとったら当たり前だから気にしないで。
君みたいな綺麗な人に怪我がなくてよかったよ」
少し大げさな仕草でそう言いながら、彼はベッドの縁に腰掛ける。
「で、君は何であんな森の中にいたの
丸腰であんな場所…あの男じゃなくても襲ってくださいって言ってるようなもんだけど?」
口調は先程の冗談めかしたものと同じでも、私を見るその目は何かを探っているようだった。
「私にだって…分からない」
分からない。私だって、異世界ということ以外、ここがどういう世界で、何があるのかすら、何一つとして分からないんだから。
小さく呟き俯く私の頭の上に彼の手が置かれた。
「…エリージャ・イサック、それが俺の名前。エリージャっ呼んで?君の名前は?」
その声は優しく、その手は優しく、まるで割れ物にでも触れるかのように私の頭を撫でる。
「…ウミ」
「ウミね、どうぞよろしく」
エリージャはそう言って私の頬を両手で挟み、無理やり目を合わせると、タレ目の目を細めて優しく笑った。