決着
…アカデミー?魔法使い?
目の前で繰り返される光景は現実なのだと分かっていても、頭で理解が追いつかない。
まるで映画でも見ているかのような感覚だ。
「まぁ、そういうわけだからさ。」
紫髪の男の手に、水の球体が浮かぶ。
「大人しく捕まってよ」
「畜生!誰が捕まるか!」
水の球体が大きくなり、熊男を捉えようと触手のように伸びてくる。
熊男は近くに倒れていた己の部下をその触手へと投げ飛ばし、森の奥へと走り去って言った。
「あ、逃げられちゃった」
そう言いつつも紫髪の男はさほど悔しがる様子もなく、熊男が去っていった方向を一瞥した後、淡々と水の球体の中に倒れていた熊男の部下を入れていく。
「まぁこれだけ捕まえられれば上出来っしょ。
あー、頭逃がしたから始末書も書かないとダメなのかぁ。あー…それはダルイな」
倒れていた全ての男達を球体の中に入れると、紫髪の男は人差し指と中指を立て、まるで指鉄砲のように頭に突き立てた。
「あ、レガちゃん?俺。エリージャ。
レガちゃんの目ぇつけてた山賊、頭領以外は無事捕まえた。
……もーそんな怒鳴らなくてもいいじゃーん。俺、多勢に無勢で大変だったんだよ?」
…どうやら誰かと連絡をとっているみたいだけど。
本当に何でもありだな、この異世界という場所は。
「分ーかったって。ちゃんと始末書も書きますし、取り逃がした頭領もちゃんと捕まえますから。……はいはい、じゃね」
男が電話を終えると同時に水の球体がポウッと光り、中にいた男達は一瞬にして消えた。
「レガちゃん仕事は早いんだからもっと優しくなればいいのに…」
紫髪の男が手をかざすと水の球体はただの水に戻り地面に吸収されていく。
「さて…」
そんな水の様子をぼーっと眺めていると、男は地面に座り込んだままでいる私に近づき、私の目線の高さに合わせるようにしゃがみ込んだ。
「怪我はない?可愛いお嬢さん」
先程の冷たい笑みとは対照的に優しい笑みを浮かべながら、彼は私の頬に手を当てる。
見ず知らずの相手だということは分かっているのに、なぜだかとても安心する。
「安心してゆっくり休みな」
あぁ、こんな感覚、久しぶりだな…
その言葉を最後に、私は張り詰めていた糸が切れるように眠りについた。
読んでいただきありがとうございます!
さて、もう6話目だというのに主人公の名前が出てきません。まさかの主人公より先に5話目に登場した男の名前がチラッと出てきてしまいました。自分で書いていて自分でビックリ。