異世界に転移したら熊に出会いました
深い緑が茂った場所。
ザワザワと風が吹くたびに、葉っぱ同士がこすれる音がする。
周りの景色はどこを見ても同じで、緑、緑、緑。
上を見上げても、大きく立派に育った木の葉達が視界を遮るために光は見えない。
そんな、深くて暗い、森の中。
「に、なんで私がいるのよ!!」
…あの時飲み込まれた黒い穴。
気づいた時にはもうこの場所にいた。
「なんでこんなことになってんの…」
もしかしたら全部夢なのではないかと頬をつねれば痛みがある。
その痛みが、これは夢ではなく現実なのだと、私に思い知らせてくる。
私は服が汚れるのにも構わず、近くにあったそこそこ大きめの石の上に腰掛ける。
「ほんと、なんでこんな目に…」
「なんで」という言葉しか出てこない。
死ぬはずだった。あの時、あの高さから落ちれば確実に死ねるはずだった、のに。
助かっている。
思考が正常に働いている。
呼吸をしている。
意識がある。
心臓が、
私は生きていると訴えかけてくる。
「…意味わかんない」
あの白いのが言っていたことが正しいのならば。
これが夢ではないのならば。
きっとここは私が住んでいた世界ではないのだろう。
あいつが言う、人が進化した世界とやらにとばされたのだろう。
「異世界に転移しちゃいましたってか…ははっ」
乾いた笑いしか出てこない。
そんな事があるわけないと思っても、現実問題、私はここにいるのだ。
「馬鹿らしい」の一言で片づけるには、説明のつかないことが多すぎる。
「どーしよ、これから」
帰る方法なんて分からない。先立つものは何もない。
世界を救えと言われたけれど、まず何をすればいいのかも分からない。
「…あーーーもう!全部あの白饅頭のせいだ!!」
「痛ってぇなぁ、おい」
むしゃくしゃして、どうしようもなくなって、近くにあった石ころを目の前の草むらに投げれば。
「こりゃ、お詫びしてもらわねぇとなぁ?」
藪をつついて蛇を出すならぬ、
「草むらをつついて熊を出すってか…」
しかも1体じゃないし…
背中を冷や汗が流れる。
「だぁいじょうぶ。痛いことはしねぇからよ」
下品な笑い声が響き渡る。
熊のように大きくて、熊のように浅黒くて、
熊のように危険な山賊のような男が10数人。
最初の男を先頭に、次から次へと草むらの中から出てくる。
「一緒に気持ちよくなろぉぜぇ?」
ゾワッと全身の毛が逆立つ。
逃げなきゃ、逃げなきゃヤられる。
そう頭では分かっているのに、足がすくんで動かない。
「…来んな!」
近くにある石を、土を、無我夢中で投げつける。
「っ!やめろ!離せ!!」
が、そんな私の抵抗をものともせずに、熊達は近づき、私の手足を力任せに押さえつける。
やめろと大声で叫べば、口を汚い手で塞がれてしまう。
「すぐに抵抗なんてできなくしてやるよぉ」