関西弁は時空を超える
――――――――――
―――て
誰かの、声がする。
―――――!
誰かが、私を呼んでる気がする。
―――きて!
起きなきゃ。
でもなんだかフワフワして気持ちよくって、このままずっと眠っていたいなぁって思っちゃう。
もう少し、もう少しだけ……
「起きろっつってんのが聞こえへんのかワレェ!」
「ぎゃぁぁぁあああああああ」
急に聞こえたものすごく濃い関西弁と、ベッドから落ちたような衝撃に
夢見心地な良い気分はどこへやら、思わず目を開ける。
「…っ!」
私はやっと死ねたんだ。やっと解放されたんだ。
目に飛び込んできた光景に、安心感と何とも言えない感情が込みあがってきた。
少しの汚れもない、真っ白の世界。
見渡す限り真っ白で、どこまで続いているのかも分からない、そんな世界。
そして…
「寝すぎやねん、自分」
おそらく先ほどの声の主。私に何度も声をかけてくれていたのだろう声の主、
なのだろうが…
「ナニコレ」
「こんなプリチーな吾輩を見てナニコレとはなんやねん」
自分のことを吾輩とかいうところはまぁ100歩譲って気にしないとしても、
本当になんだこれは。
バレーボールくらいのサイズの真っ白の丸い物体。
ただ、完全な球体ではなく、背中にはおたまじゃくしのような形の、これまた白い尻尾がついている。
そして顔には点と点とωのような形のものが。
「普通はな、吾輩みたいなキュートでプリチーなんを見たらな、『か~わ~い~い~』とかな、『やっば~い』とかいう反応をやな……」
この白いのが何か言葉を発するたびに動いているところを見ると、おそらく口なのだろうが…
天使にしては不格好だし羽もない。イメージしていたものとはかけ離れている。
少なくとも、純粋な可愛いではない。ブサカワの部類に入る。しかもブサイク寄り。
「死神…にしては怖さの欠片もないしなぁ」
「聞・け・よ!
しかも死神なんかとちゃうし、それを言うならせめて天使やろ!まぁ天使でもないけどな!」
「…え?」
死神でなければ天使でもないって……
「何を勘違いしとるんか知らんけど、ここは天国でも地獄でもないで。
そもそも自分、まだ死んでへんしな」
…死んで、ない?どうして…
頭が、痛い。
やっと、解放されたと思ったのに、何もかも、全てから。
目の前の白いのは、状況が理解できない私にお構いなく話し続ける。
「ここは時空の狭間っちゅうとこでな、吾輩はここの管理者みたいなもんや。」
「時空の…狭間?」
「そうや」
突然、白い世界に1つの光り輝く点が浮かび上がる。
「時間の流れっちゅうのは1つやない。」
そしてその点から横に線が伸び、樹形図を描くように線が無数に分かれていく。
「ある1つの出来事を起点として世界は複数に分かれる…パラレルワールドっちゅうやつのことや。」
「パラレル、ワールド…」
「ここはそんなパラレルワールド全てを監視しとる場所なんや。
誰かが選ぶ選択肢次第で良い方にも悪い方にも、未来は何通りにも変化する。」
まるで授業をする教師のように、白いのはフヨフヨと左右に移動する。