真実へ
…熊男が倒れてから10分もしないうちに、エリージャさんに連絡が入り、熊男は例のごとく水の球体に入れられ、どこかに転送されていった。
その後すぐに黒いローブを身にまとった集団が来て、イライザさんの傷はみるみるうちに治った。
ただ、治療される側も体力を相当使うらしいが、一晩眠れば目覚めるそうだ。もちろん、元通りの元気な体で。
私は部屋のベッドに寝転び、自分の手を目の前にかかげる。
あの時…白饅頭に教えられた言葉を発した時。
体の中が熱くなるのを感じた。
まるで、体中の血が沸騰してしまうかのような熱さ。
「私の…力……」
あの後、部屋に戻ってもう一度力を使おうとしたけれど、
言葉は覚えていても、あの時のように血が沸騰するような熱さも、光が出てくる気配はなかった。
あの力が何なのか。どうすれば使えるのか。
分からないことだらけだ。
知る必要がある。
世界の破滅を防ぐ…なんて話、私がなんとかできるなんて思ってもいない。
ただ、元の世界に戻る方法が分からない今とりあえず何か動く必要がある。せめて、世界の破滅の原因をつきとめるとか。
ずっとこのままここにいたいと思うけれど、もし白饅頭の言うような出来事が起これば、イライザさんもブラムさんもエリージャも消えてしまうことになる。
「…そんなこと、させない」
この世界の人は暖かい。
外に出かければ、あまり話したことのない人でも「おはよう」と笑顔で声をかけてくれる。困ったことがあれば、全く関係の無い人でも「大丈夫」と助けてくれる。家に帰れば、「おかえり」と笑顔で迎え入れてくれる。
私が憧れた世界。私が生きたかった世界。
それが、ここにはある。
その時、コンコンッと部屋の扉がノックされる音が聞こえた。
「ウミ、入るよ?」
「…どうぞ」
扉からエリージャが顔を覗かせる。
「どうしたの、改まって話だなんて…」
まず、今の私にできること…それはこの世界について知ること。
今までいた世界と全く異なる分、学ばなければいけないことは山ほどある。
この国の歴史、成り立ち、植物に動物、人々の暮らし…
村一番の大きさを誇るという図書館には、その知識欲を埋めるために役立ちそうな本は山ほどあった。
けれど、魔法に関する書物はなかったのだ。
正しくは、魔法の根本に関する書物がない。あくまで、魔法を使った生活の仕方のようなものしかなかった。
エリージャに聞いたところ、魔法の悪用禁止のために、魔法に関する資料は魔法使いの証を持つ者しか貸出が禁じられているらしい。
それならば、だ。
「エリージャ。魔法について知りたいの。
魔法とは何なのか。アカデミーとは何なのか。…そして、私のさっきの力が魔法なのであれば、その使い方も。」
それに、私が放った光とエリージャが使っていた光が似ていたことから、私のこの力も魔法の一種である可能性が高い。
本が読めないのであれば、魔法を知る人から知識を得ればいい。
「うーん……じゃあまず聞くけど、君は、一体何者?
魔法について…ましてやアカデミーを知らないなんて、よほどの辺境の地に住んでいたとしてもありえない。」
そう言ったエリージャの口元は優しく弧を描いているけれど、目元は鋭く、獲物を狙う獣のような目をしている。
一歩間違えれば、首元を噛みちぎられてしまいそうなほどの緊迫感。
怖い。
信じてもらえないかもしれない。
信じてもらえないことはすごく怖い。
もし信じてもらえなかったら?
不安が頭をよぎる。
…でもきっと、理由を言わないとこの人は魔法について教えてくれないのだろう。
「……無理に信じてくれとは言わない。でも、今から話すこと…それが真実。」
私は震える体に鞭を打ち、口を開いた。
「私は、この世界の住人じゃない。」