覚醒
「まだ息はある…」
ブラムさんはイライザさんがまだ生きていることを確認し、少し安心した表情を浮かべたけれど
イライザさんの手を固く、祈るように握りしめている。
その様子を見ながら、エリージャは頭に手を当て、誰かに連絡を取りだした。
「レガちゃん?俺。残り1人捕まえた。そっちの準備できたら連絡して。
で、1人怪我人いるから至急医療チーム送って。応急処置はするけど俺じゃ治せない。」
エリージャはイライザさんの横に膝をつき、包丁が刺さっている腹部に手をかざす。
「lux. obsecro sana vulnera.」
その言葉を言い終えると同時に、彼の手から白い光が放たれ傷をやさしく包んでいく。
エリージャの表情は真剣そのもので、いつもの軽い雰囲気が嘘のように感じる。
…パンッ!
その時、背後で何かが弾けた音がして思わず振り返る。
そこには水の鎖で繋がれて身動きできないはずなのに、片手にナイフを持ち、その刃に炎をまとわせている熊男の姿があった。
その片手は黒く焼け焦げており、己の腕を焼き切る覚悟で拘束を解いたことを理解するのには十分すぎるほどであった。
「クッソガァァァァァァアアアア!」
「ウミ!逃げろ!」
熊男が燃え盛るナイフを私に向けて投げようとしているのが見える。
後ろで、エリージャとブラムさんが逃げろと言っているのが分かる。
頭に、今すぐに横に飛びのけば避けられるかもしれないという考えが浮かぶ。
なのに、足が動かない。
目の前にある死の恐怖。
死んでもいいと思っていたはず。自分で死のうとしたときは恐怖なんて感じていなかった。
今あるのは、殺される恐怖。
思考は働くのに、足が震え、体が固まる。
目の前のすべてがスローモーションのように流れてく。
その時、ふと白饅頭の言葉が頭をよぎった。
『自分は、元の世界にいたままの自分やない。
今回、2つの世界を救うために選ばれたんは偶然なんかやないんや。それ相応の力を秘めとる。』
『…時間みたいや。この言葉を覚えとき!きっと自分ならできるはずや…!』
なぜか鮮明に覚えている言葉。
元の世界とは違う、私の中にある力。
それが何なのかは分からないけれど。生きたいと思えるようになったわけじゃないけれど。
殺されたくない。
「sky! ego amabo lucem!」
そう叫ぶと同時に私の周りは真っ白な光で溢れ、
その光が収まる頃にはナイフは床に落ち、熊男は白目をむいて気絶していた。