水の鎖
何とかしなければいけないのに、何もできない自分がもどかしい。
目の前に救えるかもしれない命があるというのに。この世界では自分は何の役にも立たない。
私が身に着けた知識なんて、元の世界の道具があることが前提になっている。
いくらこの世界が元の世界と似ているといっても、道具の面に関してはまるっきり違う。
くやしい。
その思いがあふれてきて止まらない。
「…あんた、こんなことして何がしたいの」
止まらない。
「あ?言っただろ。あの男に復讐してやるんだよ。この俺様の邪魔をしやがったからな」
体が熱くなる。
「イライザさんを苦しめる必要なんてなかったでしょう」
熊男が話すたび、笑うたび、怒りがあふれてくる。
「イライザぁ?…あぁ、その死にぞこないのババァのことか。
人質だよ、人質。こいつの命を俺が握っておけばあいつは俺に手も足もでなくなるだろ?
何もできないあいつを俺の気がすむまで殴って、蹴って、痛めつけて。最後には殺してやるんだよ
がっはっはッはッは!最高じゃねぇか!」
熊男がそう言って笑いながら続ける。
「…まぁ、最後には皆殺しだけどな」
「…っ!あんたっ!!」
私の中の何かが切れ、爆発する。
…その時、まるでその怒りを鎮めるかのように私の頬にピチャリと水滴が落ちてきた。
「…あの時、そのまま逃がしたのが間違いだったみたいだな」
少し低めの、いつもなら柔らかくて暖かい声。
けれど今はその声に怒気をはらんでおり、空気がビリビリと震えているのを感じる。
「やっとお出ましかよ…どこにいやがる!姿を見せやがれ!」
熊男はいつかのように腕に炎を纏い、応戦するように構えをとった。
が、エリージャの姿は見えず、声だけが聞こえてくる。
「アカデミーからの指令だ。捕らえはするが殺しはしない。
ただ…イライザさんを傷つけておいて、ただで済むと思うなよ?」
「ばかめ!てめぇが攻撃した瞬間、あのババァの腹に刺さった獲物を抜いてやるよ!
あれが抜けた瞬間、ババァは血が止まらなくなってあの世行だっつーの!」
「俺が攻撃したとしても、お前が動けなかったら意味ないんじゃない?」
そう聞こえた瞬間、熊男の両手は水の鎖のようなものに拘束されていた。
「なっ!」
彼がどんなに動いてもその水は切れることがない。
するとどこからともなくエリージャが姿を現した。
「動くことも魔法を使うこともできないだろう。捕らえる準備が整うまで、大人しくしてるんだな」
エリージャはそう冷たく言い放つとイライザさんの元へと駆け寄る。危険はないと判断し、私もブラムさんもイライザさんのもとへ駆け寄った。