言えない事
「ウミ。君にいくつか質問があるから、少しずつ答えてくれる?」
先程とはうってかわり、まるで幼子に聞かすように優しくそう問いかけるエリージャ。
…こういうことに慣れているみたい。
私が静かに頷くと、いい子だ、とまた頭を撫でられた。
「じゃあ1つ目。君の家はどこ?」
「…家は、ない…です」
そう答えると、エリージャは少し驚いた様子を見せる。
「家出したの?」
「してません」
「じゃあ何で家ないの?」
「それは…」
理由を伝えようとした。
元の世界で自殺しようとしたら、変な白饅頭に世界を救えと言われてこの世界にやってきたと。だから家がないのだと。
でも、誰が信じる?
こんな突拍子もない話。
いくら魔法がある世界だといっても、そもそも異世界の存在を知っているのか。
知っていたとしても、異世界を渡れるなんてことがあるはずはない。
渡れるのであればすでに向こうの世界に魔法使いが渡り、何らかの干渉が起こっていることになる。
…言えない。
今は信じてもらえなくても、言ってみれば信じてもらえるかもしれない…なんて甘い期待は抱くだけ無駄だってことは、痛いほど身に染みてる。
言ったとしても、信じてもらえなかったら?
その事を考えると体が言うという選択を拒否する。
「…あんたには関係ないじゃん。
あんたに話す義理はない。口出さないで」
あぁ、せっかく助けてくれたのに。
この人は何にも悪いことしてないのに。
私は、こういう言い方しかできやしない。
エリージャの顔を見るのが怖くなり、下を向き、自分の手だけを見つめる。
「ふっ」
エリージャが小さく笑った。
なぜ笑ったのか分からずエリージャの顔を見ると、
彼は横を向き、口元を抑え、身体を震わせ笑っていた。
「…何がおかしいの」
「ごめんごめんっ…いやさ、君っ、思ってたよりもずいぶん面白い性格してるなぁと思って」
目元に浮かんだ涙を拭いながら彼は言う。
「は?」
さすがに意味もなく笑われるのは気に触る…
そんな私の気も知らず、エリージャは続ける。
「いやさ、君って何かこう、おしとやか〜な、大人し〜い感じの子だと思ってたのに、まさか…っ…こんな口の悪い……っ」
「…言いたいことはよく分かった」
エリージャは耐えきれなくなったのか、大きく笑い始める。
そしてその声に反応したのか、おばさんと、おばさんの旦那さんと思われる男性が部屋へやってきた。