決意
俺は部屋へ戻るとすぐに眠りについた。
ピーンポーンパーンポーン
朝になり、俺は館内放送で目が覚めた。
「皆さま、おはようございます。残念なお知らせがあります。東田様が亡くなられました。私どもとしましても予想していなかったことですので、とても驚いています。それと、朝食の用意ができましたので広間へお集まりください」
「っ!?」俺は急いで広間へ出た。
他の参加者も次々と広間へ集まる。
「ど、どういうことっすか!?」茶畑は血相を変えて出てきた。
「茶畑くん!?昨日は何していたの?」
「え?そういえば、何してたんすかね? 」
「自分のことでしょ。覚えてないの?」
「いや、それが覚えてないんすよ。部屋に戻ったら急に眠くなって….」
「渡辺さん、それよりも東田が死んだって…」
「そうね、でも、館の主はどうやってそれを確認したのかしら?東田くんの部屋の扉は鍵がかかって…」渡辺がそう言いながら東田の部屋のドアノブを回すと、扉が開いた。
「どういうこと!?」
「どうして!?」全員が困惑している。
「とにかく確認してきます」俺はそう言い東田の安否を確認しに行く。
「私たちも行きましょう」静香がそう言い、全員で東田の部屋への階段を上る。
下から畳を上げ、中へ入ると、後頭部から血を流した東田が倒れていた。
「東田!」俺は急いで東田に近づく。それを追ってほかのメンバーも部屋へ入ってきた。
「花月くん、東田くんは?」
「見ての通りです。血が既に固まっています。恐らくですが、俺が昨日電話を受けた時、東田は本当に襲われていたのかもしれません」
「ひ、東田くん…」人が死んでいると言う状況を前にして田中は怯えている。
すると、
「これ!?鍵じゃないですか?」静香が叫ぶ。
「え!?」見ると布団の上に東田の部屋の鍵が落ちていた。
「こ、これって不可能犯罪なんじゃないの…?」
「どういうことっすか?」
「茶畑くん、あなたは知らないと思うけど、昨日花月のもとに東田くんから電話があったらしいの。それが東田くんの最後の声だったわ」
「続きは俺が説明しますよ」俺は渡辺に代わって昨日の出来事を説明した。
「じゃあ、不可能犯罪っていうのは密室ということっすよね?」茶畑にしては理解が早い。
「そういうことになりますね…この部屋の状況を見る限りここが殺害現場で間違いなさそうですし」壁や畳に血が飛び散っている。
「鍵がここにあった以上、この部屋に入ることは不可能ってことですよね…」
「一度、広間に戻りましょう」俺は毛布を東田にかけた。
広間に戻ると、静香は朝食はいらないと言い、自分の部屋へ戻って行った。残ったメンバーも席には着くものの、あまり箸が進まない様子だ。すぐにそれぞれは自身の部屋へ戻った。俺も階段を上がり、畳を上げて部屋へ入ると、違和感を感じた。
「今なんか違和感を感じたような…」ふと思い付き、俺は東田の部屋へ向かった。
階段を上り、東田の部屋に入った。
「!?そうか、さっき感じた違和感の正体はこれか!」確信を得るため広間に戻る。
そこで、渡辺と会った。
「あら、花月くん、どうしたの?」
「ちょっと気になったことがあって、東田の部屋を調べていたんです」
「何かわかったのかしら?」
「はい。東田が自分の部屋だとわかった理由が」
「え、本当に?どういうことなの?」
「まだ憶測なので、確信を得るために渡辺さんの部屋を見せて頂けませんか?」
「ええ、いいわよ」俺は渡辺の部屋に入った。
「やっぱり、そうだ」
「何がそうなの?教えて」
「はい。東田が自分の部屋だとわかったのは畳の並びでわかったんだと思います」
「畳の並び?」
「そうです。俺の部屋と東田の部屋と渡辺さんの部屋を見て確信しました。構造は全て同じでしたが、畳の配置は微妙に違うんです」
「そうだったの!?気付かなかったわ」
「俺もたまたま違和感を感じただけなんですが、畳を上げて部屋に入る時、微妙に出る位置が違うような気がしたんです。この説を確実にするために、他の人の部屋も見てみましょう」
「そうね」
俺と渡辺は田中と茶畑と静香に連絡を入れ、部屋へ招いてもらった。
「花月くん、どうしたんだね?調べたいことがあるって言っていたけど」
「田中さん、すみません。まだ確実ではないので今は言えませんが、後で必ず伝えます」
「そ、そうか、わかったよ」
俺と渡辺は田中の部屋を後にした。次に向かったのは茶畑の部屋だ。
「茶畑さん、すみません」
部屋に入るとまず目に入ったのは、布団がぐちゃぐちゃになっていることだった。
「茶畑くん、もう少ししっかりしなさい!いい大人なんだから」渡辺が注意する。
「す、すいませんっす」茶畑は少し反省してるようだ。
「渡辺さん、行きましょう」
「花月くん、何の用だったんだい?」
「いえ、大したことではありません。後でお話ししますね」そう言い、部屋を出た。
最後に二人は静香の部屋を尋ねた。
「あ、京介くん、渡辺さん、どうされたんですか?」
茶畑の部屋とは違い、部屋の隅には毛布の上に布団が綺麗に乗せてあり、コンパクトに片付いている。
「さすが兵藤さんだわ。見た目通り、部屋も綺麗に片付いているのね。茶畑くんにも見習ってほしいわ」
「へ?」静香はキョトンとしている。
「何でもないのよ、ごめんなさいね」
「ところで、京介くんは何をしに来たの?」
「あ、いや、ちょっと調べたいことがあって。そんな大したことじゃないから後でみんなが揃ったら話すよ」
「教えてよ。私も協力するから、ね?」
「…わかったよ。じゃあ、広間に行きましょうか」
広間へ行き、東田の事件について考察する。
「それで、何を調べてたの?」
「畳の配置だよ」
「畳の配置?」
「そう。東田がどうして自分の部屋だと特定できたのか考えていたんだ。昨日も言ったけど、間違いなく何か特定できるものがあったはずなんだ。でも、ここの部屋は他の部屋とも比べてみたけど構造はまったく同じだったろ?」
「うん。そうだね」
「でも、あることに気が付いたんだ」
「それが畳の配置なの?」
「そう。どの部屋も畳の配置が微妙に違うんだ。だから、あいつは自分の部屋だってわかったんだと思う」
「でも、それは変だわ。だって、自分の部屋と他の部屋の畳の配置が違うってことがどうして彼にわかったのかしら?」俺と渡辺が考えていると、
「ごめん、京介くん、ちょっとお手洗いに行ってくるね」静香が席を立ち、トイレへ行った。
静香がトイレへ行くと再び話を再開する。
「田中さんや茶畑さんの部屋に行ったからじゃないですか?ちょっと聞いてみましょうか」俺は田中と茶畑に電話をかけた。
ルルルルルル、ルルルルルル
「はい、田中です」
「あ、花月です。一つお聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「え、なんです?」
「田中さん、昨日とか誰か部屋に招いたことあります?東田とか」
「ないですけど。どうかされたんですか?」
「そうですか…いえ、何でもないです」
「あ、でも…………………」
「そんな馬鹿な…」俺は電話を切った。
「どうだったの?」
「東田は田中さんの部屋には来てないそうです」
その後、茶畑にも電話をかけたが同じように東田は来ていない、と言う。
そこへ静香がトイレから戻って来た。
「ごめんね。どうだった?」
「二人とも来ていないって言ってたよ」
「じゃあ、東田さんには畳の違いなんてわからなかったってこと?」
「そういうことになる…じゃあ、どうして東田は自分の部屋だってわかったんだ?」
「ねぇ、京介くん、東田さんの部屋はどうして開いたのかな?」
「え?」
「だって、今まで開かなかったのに朝になって鍵が開いていたでしょ?」
「多分、館の主かこのゲームを企んでいる奴らだろうね」
「へ?どういうこと?企んでいる奴らって?」
「気付いたらある食事、部屋に備え付けられたコンセントに電話、そして布団。ここにはまだ知らない存在がいるんだ。それに朝の放送で、私どもも予想していなかった、って言ってただろ?」
「うん。言ってたね」
「つまり、このゲームを企てた奴は複数人居るんだ。そして、こんな大掛かりな仕掛けをしてるくらいだから、なんかの組織の可能性は高いよ」
「じゃあ、最初に言ってたゲームってこの殺人のことだったのかも」
「………わからない。なぜ俺たちがここに居るのかも、東田の件も、紙の謎も、まだわからない。けど、俺は絶対に解決してここから脱出してみせる!」