呉越同舟
「今は一旦自分の部屋へ戻ってみない?」渡辺が提案する。
「私は賛成です。京介くんは?」
「あ、俺もいいですよ。見終わったらここに集まりましょう」三人はそれぞれ自分のドアの鍵を開け、部屋へ戻った。
部屋への階段を上ると、六畳間の部屋には布団と有線の電話の子機のようなものが置かれていた。
「いつの間に部屋に置いたんだ?コンセントまで設置されてるし…」俺が考えていると、館内放送が流れた。
ピーンポーンパーンポーン
「皆様、いかがお過ごしでしょうか?脱出の目処は経ちましたか?」
「何が脱出の目処だよ…まだ、分からないことが多いってのに」
「皆様のお食事の方が準備できております。広間へお集まりください」
俺は階段を降り、広間に行った。館内放送を受けて他のメンバーも広間へ集まって来た。
全員が広間に集まると、食事が用意されていた。
「え!?いつの間に?」俺は思わず声を上げた。
「皆様、集まられましたか?席へお座りください。どちらの席でも構いません」座る位置は東田サイドと俺サイドに別れた。俺と東田は目を合わせると、大きな長机の端と端に食事を持って移動し、座る。
「皆様、お食事の前にお話があります。鍵紛失を防ぐためにこの部屋にいる時は、元々鍵があった場所に戻して置いて下さい。それと、部屋にある子機ですがそれぞれの部屋番号を押すと、その部屋へ繋がります。また、♯(シャープ)ボタンを押すとこの広間の親機に繋がるようになっております。しかし、このゲームに参加されていない方の部屋にはかからない仕様になっております。それでは、お食事をお楽しみ下さい」放送は終わった。
「チッ、面倒くせぇな」そう言いながら、東田が鍵を戻す。
東田サイドが鍵を戻し終わると、俺たちも指紋認証装置の付けられたホルダーに鍵を戻した。席に戻る途中、東田が声をかけてきた。
「おい、花月、お仲間ごっこはどうだ?何か分かったのか?」
「何でお前に言わなきゃいけないんだよ。俺たちは俺たちで解決してみせる」
「そうかそうか、ま、頑張れよ。そう言えばさぁ、部屋に子機があったよな。あれ使えるかもな」
「何が言いたいんだよ」
「さぁな。お前に言う必要はないな」
「だったら、いちいち絡んでくるなよ」
「悪かったなぁ。お前が泣いて助けを乞う姿が楽しみだぜ」東田は不敵な笑みを浮かべている。
「花月くん、気にしちゃダメよ。相手のペースに呑まれたら本来の目的を失うわ」
「渡辺さん、ありがとうございます。俺は大丈夫です。俺たちも子機を使って情報を共有しましょう」
「ええ、そうしましょう」
食事の途中、東田サイドから声が聞こえた。
「東田くん、ふ、二つ目の答えをまだ聞いていないんだが…いつ教えてくれるんだ?」
「おっさん、馬鹿か?こんなところで言えるわけないだろ。あいつらに聞こえたどうする?少しは考えろ」
「あ、すまない…」
食事が終わると、茶畑と田中は先に自分の部屋へ戻った。東田は最後に鍵を取ってポケットに入れ、もう一度俺の方を見てそのまま自分の部屋へ入って行った。
「私、先に戻りますね」静香はそう言い、鍵をしまって自分の部屋へ入って行った。
「私たちも戻りましょうか」渡辺も鍵を取り、鍵を開けて戻って行った。
俺は少し広間に残り、問題のことを考えていた。
「シュケディとアンタレス…あぁ、星座の知識なんてないからわからーん。東田には星座知識があったようだし、星の位置が関係してんのかな?」
………………
広間には沈黙が漂っている。
「俺も戻ろう」
あいも変わらず六畳間の部屋は殺風景で、逆に落ち着かない。俺は横になって、状況を整理する。
「クソ、この広間に何かあると思ったんだがな…」
キシキシ…
「ん?この古時計なんか怪しいな。調べてみるか」
キシキシ…
「それにしても、あいつは何をやっているん…」
ガンッ!
「うっ!?」
「はぁ、はぁ、はぁ」
「来た時よりマシだけど、広間の方が涼しいな。トイレにでも行くか。広間にあったよな」俺はトイレに向かった。やはり、広間は部屋より涼しかった。俺がトイレに行こうとすると、突然広間の親機が鳴った。
ルルルルルル、ルルルルルル、ルルルルルル
「誰だ?」俺は親機を手に取る。
「おい、誰だか分からないけど助けてくれ!」
「東田か?何があったんだ!?」
「花月か?さっきは悪かったよ。謝るから助けてくれ!」
「そんなことはいい。とにかく落ち着け、何があったんだ!?」
「分からない。手足を縛られている」
「そこがどこかわかるか?」
「わからねえ。部屋だ。いや、この畳…俺の部屋だ!」
キィー…
「早く俺を助けろよ!この、」
ガンッ!
「うっ!」
「どうした!?東田!おい!」
ガチャ、ピーッピーッ
電話は切れた。