aphrodite出現
偽あみはまだ正式にデビューを飾ってはいないのである。それでも真偽あみちゃんとしてインターネットではインパクトがあり論争が巻き起こってしまう。
アイドルあみを巡り様々な意見が飛び交う。いや偽あみちゃんは案外よい女の子でありたまたま所属する芸能事務所プロダクションが悪いだけ。新規にちゃんとしたところでデビューさせればアイドルとしての地位を得ること間違いなし。
机上の空論ならぬネットの絵空ごとは益々ヒートアップしていく。
真偽あみ達のファンが熱くなっている最中である。(本家の)アイドルあみは順調な仕事ぶりであった。デビュー以来歌は売れ単発ながらに出演したドラマもそれなりに評判となった。
アイドルあみは乗りに乗っていた。アンダーグランドな闇の世界はまったくあみ本人に知らされることなくである。あみには有能なマネージャーがついて黒子となり暗躍をしていた。
余計な雑音は一切シャットアウトである。アイドルには雑音となるゴシップは極力避けて通りたい。
ネットの中の紛争はコップの中の嵐で収まり表には影響がないようである。あみはアイドル路線をひたすら走るだけであった。
デビュー間もない暮れには待望のキップが手に入る。数曲リリースした持ち歌からアイドルあみはヒット曲に恵まれた。
「やっと火が着いたか」
マネージャーはありとあらゆるコネを駆使をして取りつける。あみに相応しい楽曲を探りあてる。
作詞作曲者はマネージャーの眼鏡にかなうこととなりあみちゃん歌謡は成功した。
マネージャーの努力とあみの(少し弱めな)歌唱力。この2つが身を結び今年は無理だと諦めかけていたNHK紅白歌合戦の初出場を勝ち取る。
楽曲に恵まれたことはあみ自身も大喜びであった。歌も売れ人気に拍車がかかる。アイドル路線は磐石なものとなっていく。
「今年はあみちゃんよく頑張った。紅白出場はそんなあみへのご褒美だよね」
ハードスケジュールを文句も言わずこなすアイドルあみ。大変なご褒美がいただけた。
アイドルあみは暮れの紅白のためにさっそく衣裳合わせに入った。
マガイ品(偽あみ)も暮れに向け活動を開始するようである。事務所の方針を受け女マネージャーは行動を起こす。
「ソックリさん女子高生の株が上昇しているようなとこね。まだ秘密のベールを脱いでいないのに知名度だけは高いわ。実際のアイドルに匹敵する愛されかたも夢じゃあないことよ」
(お笑い)SNS芸能証券にソックリさんを登録させたら株価が勝手に吊り上がるかもしれない。
ネットの中だけの真偽あみマニアの中で清純華麗なイメージとなって開花した証拠であった。
マネージャーは決断をする。
「そろそろ清純なカットの写真集を発売しましょうか。偽あみちゃんのピークはそろそろ来るわ」今がベストタイミングと見る。
真偽あみの論議の最中にバァーンとマニアに投げ掛けてやる。釣りでいう入れ喰い状態になる。
「初版はいくら刷りましょうかね。10万〜20万冊行きましょか。強気で行きましょ」
事務所の会議でマネージャーは具体的な数字を提示をした。
「本家のアイドルあみがNHK紅白に出場するご祝儀もこめてやるわ。アハハッ多めに行きましょ。あらっ本家のあみって偽あみ程度の歌唱力で出場することできるのね。恥ずかしくないのかしらフゥ〜厚顔無恥もそこまで来るとたいしたもんだ。その見上げた根性を私はひそかに尊敬しますわ」
ただちに事務所から印刷屋に初版出版の冊数が告げられた。普段の発注とはケタ外れの冊数のため印刷機はグイ〜ングイ〜ンとけたたましい音を立て続けた。
3日後のお昼過ぎに納品される。印刷屋から冊数の確認が行われ事務所に全品納品された。
写真集はものの見事な仕上がりだった。事務所にいる女マネージャーは一冊ニ冊真新しい写真集を手に取り中身を確認する。
印刷された写真集はきらびやかな光沢があり高級感にあふれていた。
「だいたい注文した通りのものになって来たわ」女マネージャーは表紙のデザインからページの肌触りからと仕上がりに満足だった。
「よしOKにしておきましょう。思ったよりも数段いい仕上がりね。あの印刷機械で刷るにしては上出来ね」
事務所の社長以下取締役は不安げである。こんなにも大量に印刷をしても大丈夫か。
もしも返品の山となったら事務所は確実に倒産である。社長は妾と海外逃亡であろうか。
「この(偽あみ)写真集が店頭に並ぶとお客様は間違えて買うわ。アイドルあみと間違って買うファンがいるの。あみのファンをターゲットにして写真集は売り出してやるからね」
社長はそれはどういう意味かと尋ねた。
ソフト路線に徹した高級感溢れる写真集はアイドルあみがそこにいるような錯覚である。人気アイドルあみちゃんが新しい写真集を出したのかしらと"間違え"を覚える。
写真集の表紙は"あみちゃん"とだけ書かれ偽あみかどうかパッと見程度で区別は無理である。
「我ながらの驚き。見事なパクリ作品の(立派な)写真集です。あわててあみちゃんフアンは買い求めていきますわ」
マネージャーは自信たっぷりに社長に説明をした。
手元に写真集を届けられた偽あみ女子高生も仕上がりの一冊を見た。美容整形をし他人のあみに成りきる彼女としてはおそるおそるページをくくってみる。
「ワアッ〜素敵ね。アイドルタレントみたい。これが私なの。本当に信じられないくらい綺麗に撮れている」
彼女としては美容整形のあみ顔だけは気に食わないところだった。だが写真集という高級な写りには満足しきりである。
偽あみちゃんは満足を覚え嬉しかった。
「さっそくブロガーの皆さんに報告しないといけないわ。えっと携帯はどこかな」
携帯サイトからブログを開示させる。さっそくに写真集の報告をする。
「皆さん私の写真集が仕上がりましたよ。カチャカチャ。自分で言うのもなんですが」
カワイコチャンな偽あみちゃんが写っていますよ。手元の携帯からブログの更新。彼女が打ち込むとほぼ同時に反応の書き込みはある。恐ろしき暇人達よ。
「写真集が見たいよ。きっと可憐な女子高生の写真だろうね」
ブロガーの反応は素早い素早い。24時間誰かかれか見張っているような世界である。
どこから探してくるのかトラックバックにはソックリさんのあみ画像をペタンッと張り付けてあった。いや(真の)アイドルあみの画像が大半だった。
偽あみの画像はまだ出回っていない。アイドルあみかソックリさんなのか。単純に判断に苦しむ。
翌月曜に週刊誌広告が打たれ写真集は店頭に並んだ。本屋・コンビニは本家アイドルあみの写真集の横に仲良く並べられた。一見してはアイドルあみの新・写真集発売にしか見えなかった。
買い求めるあみファンには新しい写真集は新鮮である。本家のあみは歌も売れ乗りに乗る。この時期に写真集を出したとしてもおかしくはなかった。奇特なフアンは合わせてニ冊を買い求める者がちらほらいた。
写真集の帯は"アイドルあみ似"の文字が小さなエンボスである。本物か偽かの判断基準の唯一の手掛かりかもしれない。
真偽あみ両人の相似写真集。二冊買い求めてもさほど違和感はなかった。
偽あみ写真集の売り出しがまずまずの出足と販売部よりマネージャーは報告を受ける。
「売れることは承知のこと。写真集販売の戦略は成功したのよアッハハ」
偽あみはAV女優としてデビューすると宣伝をしてある。写真集みたらゾクッとする裸のオンパレードだわと煽っていた。
「だけど家でパッケージを開いてみたらあらあら残念なことね。カワイコチャンがにっこりと微笑むだけね。きらびやかな衣裳はしっかり着ていますからね。充分に鑑賞をしてもらいたいわ」
騙されたと思うだろうか。18歳禁止の帯はついていない。
「AV女優はいない。アイドルあみちゃんの偽がページ狭しに写ってますけど」
あっ、しまったなあ。と買い求めたファンは思ったに違いない。騙されたと思ってみても時は遅い。パッケージ破れば返品には応じない。
その週末に至り事務所に嬉しいニュースが届く。写真集はなっ、なんと完売を記録した。
本屋に抱き合わせに置かれた(真)アイドルあみの写真集(約半年前出版されていた。本屋の売れ残り)も便乗し捌かれてしまった。
あみの事務所は正直この完売は驚いた。在庫一掃ガレージセールまでは予想をしていなかった。
「ヘェ〜売れたの〜アチャア〜」
マネージャーは嬉しさのあまり社長と肩を組んで小躍りした。社長はともかく安堵をした。全品売れ残りの写真集。倉庫の中は山積み状態は避けてくれたと涙が出た。
本屋・コンビニはアイドル真偽あみのニ冊の写真集で売りまくる商法を展開をする。本あみ&偽あみを店頭に並べておく。
ニ冊を手に取るファンがほとんどとなった。ファンはアイドルあみと偽あみを手に入れたいと自然に思うようになる。
東販も日販も日本中から写真集の注文が続く。
本物と偽の抱き合わせ写真集を回してくれ。御揃いなパッケージでくるんで寄越してくれないか。
同じ内容の注文伝票で追加は殺到した。
インターネット掲示板にはアイドルあみがかわいそうだ。ソックリさん女子高生が二番煎じの書き込みは影を潜めてしまう。
とにかく本物&ソックリの比較対照がブログの大流行となる。
「可愛いのは、アイドルかソックリか。アイドルに1票!いいやソックリに1票だ」
この社会現象は長年この業界にいる女マネージャーも予測ができなかったようだ。インターネット世代。決して侮れない特殊なうねりであったのかもしれない。
事務所のファックスを見てマネージャーは驚く。
「なんですっと!真偽あみの両者の写真集が売れているんですか。真偽あみちゃんどっちが可愛いか論争で掲示板は盛り上がる?」
本家とパクリが対立する構図が仲の良いライバル関係にブロガーが作りあげてしまう。
「ヘェ〜熱心にやりあっているの。仲違いをしないでやりあっているの」
仲良く真偽あみちゃんがそこにある。本家とパクリは憎しみ合うというもの。有ってはならない存在だとタカをくくっていたマネージャーはアングリと口を開けるだけである。
「そんな馬鹿なことってアリなの?ソックリをわざとマスコミに送りこんだのは本家あみの刺客だったのよ。あみを潰しても構わない。アイドル顔に泥を塗りたくるために。嫌がらせの偽あみちゃんだったのに」
真偽が仲良くしていたら仇が取れない。マネージャーは敵と仲良くしては戦ができないと少々不満である。戦いこそアンダーグランドの生き甲斐だった。
「えっ!写真集の増刷が来ているんですか。ちょっと待って。初版が10万刷りだったのよ。偽あみくだらぬパクリ写真集なのよ。もう市場は飽和状態に来ているわ。いくらなんでも売れないわ。どうしてわからないの。飽和状態に近いの」
マネージャーはファックスをつらつら眺めて真相を知る。
「なになに。東販と日販に追加注文殺到だって言うの。えっ〜人気があるの。どうなるのよ。信じられない」
ソックリさんの嫌味で本家アイドルあみを潰す目論見だった。マネージャーはスコ〜ンと外れてしまった。事実は小説より奇なりの現実である。事務所としては嬉しい誤算である。
さらに追って奇なりの取材依頼が事務所に届く。
取材依頼電話をマネージャーが受ける。
「もしもし。そちらはソックリさんの事務所でございましょうか。当雑誌の企画について依頼したいと思います。アイドルあみちゃんとそちらの所属タレントソックリさんの真偽カワイコチャン対談を行いたいと思います」
雑誌記者はなかなか面白い企画を寄越してくれた。マネージャー自身も他人であるならば飛びつきたくなる。
マネージャーは答えに渋る。真偽あみの対談には"偽"という陰の存在は遠慮をしなくてはならない。刑事訴訟なら加害者と被害者である。
「あのね。ご存知でしょうけどウチは芸能雑誌の老舗ですよ。依頼を受けて損はしないでしょうに」
老舗雑誌は好意的に偽あみを捉えている。
「よろしければ折り返し連絡をください。先方さま(本家あみ)にも連絡するところです」
この取材依頼電話を取ったマネージャーは椅子からコロげ落ちた。
嬉しいやら呆れるやらである。受話器を置くと心底笑いが込み上げた。感情は高まり転けて転けてしっかり立っていられない。床に手をついてしまっても笑いが止まらなかった。
「アッハハ、アッハハ。こりゃおかしい。なんでアイドルあみと仲良く対談しなくてはいけないの。私たちが(真)あみに会うとしたら肖像権訴訟の法廷と相場は決まっているのよ」
事務所内にマネージャーの大笑いが響き渡った。
社長室では社長が経理係を呼びつけ算段をする。
「完売した写真集の収支はどうなっているかね。我が社は特別ボーナスを支給してやらなくてはいけないだろ」
完売の一言。商売人堅気の社長には心地良い響きである。
しかし経理の弾き出した数字を聞き社長の笑顔は止まる。ボーナス支給の気持ちも押さえられる。
「社長だから正直に申し上げたいと思います」
偽あみ写真集は高級感を出させ原本作製と撮影スタジオ等に経費を喰われていた。通常の写真撮影の3〜4倍。印刷も同様だった。
「今のところ10万冊完売との報告を受けてはおりますが。実際に入金伝票を確認しないと売上金額ははっきりしません」
仮に売上の全額を事務所が手にできたとしたら。
経費の試算では"赤字"である。必要経費を売上が上回れない。
「赤字?そんなバカな話があるか。ウチのタレントが今まで出した写真集なんて5千〜1万部が捌けて恩の字なんだぞ。一桁違いの売れ行き部数がなぜ赤字計上になるんだ」
怒る社長に経理はすごすご退散するしかなかった。あくまでも算盤経理である。
写真集の定価は本家あみのそれより低めに押さえたがための赤字であった。
(本家の)アイドルあみのタレント事務所はどうであったか。
アイドルあみとそのマネージャー。毎日朝早くから深夜まで過密スケジュールをこなすだけであった。あみ自身は外部からの雑音は知ることもなくテレビスタジオできらびやかな衣裳を纏いヒット曲を歌うだけである。
そのアイドルあみの事務所に老舗芸能雑誌から対談依頼の電話が掛かってくる。偽あみの事務所と同じ内容であった。
本家としてはあみのソックリさん登場は戸惑いを隠し切れない状態だった。
デビューをしてまだ日の浅いアイドルあみ。芸能界の中でポジションが確立していない時に偽モノ登場である。アイドルタレントの営業に何らかの影を落とすのではないかと心配された。
「ハイハイあみはウチの所属タレントでございます。えっと対談でございますね。芸能雑誌の対談ですね」
事務員が電話を受ける。子細な内容を聞き後から担当マネージャーにYesかNoを返事をさせる。
「では担当マネージャーに連絡をいたします。そちらから折り返しご連絡をいたします。いつもお世話になり恐縮致します」
事務員は老舗雑誌名を聞き丁寧な応対を心掛けた。
偽モノが登場し迷惑を被った前例がある。あみと同じ清純派路線アイドルにそっくりさんコピーがAV女優になりすました。アイドル似というキャッチコピーで食い付かれ本家の芸能活動をかきまわされた事件があった。
あみのマネージャーは心配をする。ただでさえ不安定な芸能界の人気である。外部からのチャチャで翳りがあっては堪らない。
電話でその辺りを相談をした。
「なるほど。そりゃあ困りましたね。この芸能界はタレントのソックリさんや物真似芸人はいくらでもある話です。似てますから刑事告発しましょうは難しくなり前例もあまりないケースです。もっとも(パクリが)酷くアイドルの営業に侵害をしてくるようなことがあればこちら側に不利益をもたらすわけです。ならば法的手段を講じ撃退するも手かもしれません」
最終手段に訴訟事案であると芸能事務所の顧問弁護士は柔らかに言う。
「まあね。芸人にソックリさんだとして嫌がるケースは稀れとなっていますよ。よほど芸人のプライドを傷つけメディアに対して中傷するならともかく」
本家と偽者。物真似をされて本家も人気が吹き替えすケースは多くあり利益をもたらす。
「偽あみちゃんがメディアに登場したらそちらのアイドルあみちゃんの名がマスコミにバンバン流されるわけです。無料の広告宣伝だと思うべきでしょうな」
顧問先のタレントの場合はどうしようかと悩み始めるかどうか知らない間にAV女優が消えていた。
「登場した際にちょっとやられたかなっ。ダーティな存在は困ると心配したんですけどね」
アイドルの根強いファンが偽を虐待して封印をしてくれたようだった。
「ファンにしては清純なイメージのタレントはそのままでいてもらいたいと願っているようです。カワイコチャンはいつ見てもフリフリな衣裳のキュートさを保って欲しいとね」
顧問弁護士に励まされたマネージャー。アイドルあみの芸能活動は余計な雑音を跳ねのけて揺るがぬ人気にしてしまおうと強気になる。あみのコアなファンを信頼していこうと思う。
マネージャーが心配するようなことはあまりなかった。ファンたちには影響はなく道に落ちているゴミ程度のゴシップ扱いになるようだった。
「アイドルあみちゃんはもうすでに芸能界にコアな基盤を造りあげていたのか」
マネージャーが育てたアイドルは真のアイドルになっていたのであろうか。
アイドルあみの歌はヒットしていた。テレビドラマも視聴率がよく準主役にまで抜擢をされ人気が保たれた。
人気のバロメーターとなったのはNHK紅白の初出場である。このことはマネージャーに油断を生じさせることになる。
あみはスター街道をひた走る。歌の会場では温かな声援をいつも受ける。
「あみちゃん頑張って歌ってね。変なのに振り回されてはいけない。アイドルあみちゃんは僕らが味方について応援している。もっともっと頑張って歌にドラマに出て欲しい」
各地の会場ではあみちゃんコールが巻きあがる。
あみのデビュー以来の熱心なファンに声をかけてもらう。
「ありがとうございます。あみは皆さんの応援が一番嬉しいです。これからも歌にドラマに頑張って参ります。あみはしっかり歌います」
あみは歌い始める前に深々と頭をさげた。ファンからの拍手にハラリッと涙がこぼれていた。
偽あみAV女優が出てからファンは倍増をしたようだ。熱心なファンが結束をしあみに危機感を抱いた結果である。
本家のアイドルあみはソックリさん出現には完全無視を決め込んだ。テレビ番組ではもちろんあみの冠ラジオ番組でも一切話題にしない。
節操のない芸能記者に偽あみを聞かれたらカマトトぶりを発揮した。知らぬ存ぜぬでひたすらケムに巻く。長く芸能界にいたい気持ちがあみをそうさせていた。
「私のソックリだなんて嫌っ。しかもAV女優なんでしょ。カメラの前で女の子が裸になるなんて最低だわ。その裸の女の子が私に似ているというわけでしょ。失礼しちゃうわまったく」
歌にテレビドラマに順調なアイドルあみはあくまで強きな姿勢だった。
ところが強気な姿勢のあみもソックリさんの写真集が好評と知り様子が一変してしまう。
あみの行く歌のスタジオやドラマの会場付近。あみのファンが写真集をニ冊持って待っていた。
アイドルあみに何の躊躇いもなく差し出されてしまう。
「私の写真集にサインするのはいいの。でもね」
偽あみ写真集もサインを頼まれる。
「だいたい偽あみを持ってなぜ会場に来るの。ファンの人はわざと私に見えるようにしてくるんだから」
アイドルあみが偽あみを無視していたことにツケコミ堂々とサインをせがむ。
アイドルあみは偽あみ写真集を毛嫌いしてはいないとポーズをしたがまずかったようだ。
コアなアイドルあみファン。それに混ざり真偽あみのファンがインターネット掲示板で活躍をする。
アイドルあみvs偽あみちゃんソックリさんの対立が燃え上がる。
仕掛けていたのは偽あみの女マネージャーである。
「インターネットの世界は偽あみちゃんのものとしておきたいの。アンダーグラウンドはアンダーグラウンドでより活発に"芸能活動"に精を出しましょう」
マネージャーは夢中になり端末をバカスカ叩き出した。
真偽あみのどっちらがカワイコチャンか。暇な人生のブロガーたちの意見が女マネージャーのやらせに踊らされ勝手にヒートアップをする。
真偽あみ。目が素敵なのはどっちだろうか。
偽あみの写真集を買えばわかってくるわ。
真偽あみ。顔全体のまとまりはどっちだろうか。
偽あみちゃんって本家あみちゃんより細いわ。写真集のそれを見てごらん。
真偽あみ。スリムな体はどっちに軍配があがるのか。
アイドルあみに似せて美容整形した偽あみである。いまさら比較してもナンセンスなこと。ブロガーの意見はまとまらずである。
偽あみの女子高生はそんなやりとりを楽しんでいた。
「うん私は楽しい。ともするとアイドルあみちゃんのまがい品として私は見られているの。胡散臭い偽モノ扱いなんだもん」
偽あみのレッテルは女子高生には不本意である。
「(女子高生の)素顔のままデビューの可能性だってあったわけだもん。それが知らない間に偽あみちゃんと呼ばれるの」
ブロガーの偽あみちゃん頑張ってくれを懸命に読み元気づけられる。
「ブログの中だけ私は幸せになれます。掲示板の中だけはアイドルあみちゃんと対等だもん」
インターネット内では声援もなかったが。
「私が悔しくて夜泣いたことがよかったのかな。悔しい悔しいって神様にすがったのがよかったかなエヘヘッ」
このまま真偽あみちゃんの対立がファンで続き偽あみが優位になると事情は違ってきそうである。
「マガイ品としてAV女優になることも免除されるかな。ちょっと期待がされますわ」
益々偽あみファンに拍手を送りたくなる。
女マネージャーはインターネット事情を好きに操作してみせた。ブロガー論争の渦中に(真)あみと偽あみの人気投票コーナーを何気なく作った。
「さあっファンの皆さんよ。意見交換だけでなく具体的に数字で優劣を決めておくれ。好きなあみちゃんを選んでおくれ。アイドルあみちゃんって思ったほど魅力ない女の子なんだよ。しっかり奈落の底に叩き落としておくれアッハハッ」
日頃暇なマニアたち。面白半分で次々と真偽あみちゃん投票を果たす。
真偽あみちゃん論争に参加をして欲しい。
どっちがカワイコチャンか皆さん投票してください。僕らは公平な目で彼女を見てみたい。
女マネージャーが仕掛けた初期段階の投票は瞬く間に数字が増えていく。まるで待ってましたと関を切る。
真あみ30%-70%偽あみ
ソックリさんが偽が人気だった。(女マネージャーが公開投票操作をしている)
「アチャア〜嘘みたいだわ。ソックリの私がこんなに人気フゥヒャ〜。あらあら嬉しいわ」
当の本人は素直に驚いた。つぶらな瞳がパチクリパチクリ。洒落っけのないかわいいしぐさはまるでアイドルあみのようだった。
仕掛けた女マネージャーはこの人気投票の結果にウッスラと微笑みを称えた。
「ソックリさんがいいわけね。彼らから見たらカワイコチャンは偽あみちゃんなのよ。憧れのタレントのひとりなの。わかんないものね男の好みというものはアハハッ。正直こんなに人気が出るなんて思いもしなかった」
女マネージャーは事務所の机の上でボールペンをクリクリ回した。仕掛けは上々である。市場の操作など赤子の手を捻るがごとくだった。
次の売り出しのために戦略を考える。
「この投票結果を利用しない手はない。ソックリさんが人気であるという紛れもない"事実"は最大の武器にしなくちゃいけない」
女マネージャーは高笑いが止まらない。打つ手打つ手があたりまくる。なんと言う快感であろうか。
「カワイコチャンの女子高生を今からAV女優で売るわよ。でもファンが増えて清純派アイドルとして人気があるならばストップを掛けてあげるわ。そうあなたたちのアイドルになれば彼女は嫌がる裸を回避していけてよ」
応援をするネットの男の子。アイドルと裸女の狭間をいかにして埋めていくべきか。
反対にアイドルあみはどうなるか。
「あみのファンにしてみたら憧れのカワイコチャンはアイドルそのものでなくてはいけないわ。憧れのスターであり神聖にして犯すべからず」
聖なる存在がすべてのアイドル性。よって偽あみが男の子の欲求を満たすべく性具の対象になる。
そのための布石として裸を売りにするAV女優でデビューをさせて殿方のお好きに汚れ役にお使いくださいの気軽な女。
男の劣情の狭間に真偽あみは存在をして使い分けをされていく。
その使い分け、アイドルと男のペットの境界線がいつの間にかごちゃまぜになり始める。
「ヒャア〜どうしたんだろうか。偽あみがAV女優が日増しにアイドル化していくわ」
女マネージャーは悲鳴にならぬ悲鳴を挙げた。
となると。男の子の妄想のお相手"愛玩性具の対象"(オナペット)は誰がやるのか。
「アイドルあみが対象になるのかしら。そりゃあファンのためのアイドルだからねぇ。ファンが望むことは誠心誠意尽くすわけよ。ファンが望むこととしてはあみがやるわけね」
ハッ!
ハタッと女マネージャーは我に返る。この忙しい時に間抜けなことを考えている場合ではない。
「えっ〜誰になるんだろ。性具の女は不在なのかな。エロ雑誌のヌードで適当に見つけてはランダムに抜くのかしら」
真面目な顔をして事務所の男性に聞いてみたくなる。
「誰もいないのなら私が性の対象に立候補してやる」
元アイドルの気概が爆発しそうである。女マネージャーでもその気になれば男の子ぐらい満足させられる。25歳の元アイドル志願はその気になれば。
「よ〜しこの場で一丁一肌脱いでやろうじゃあないか。こう見えても出るとこはドンッと出ていますわ。ボリュームたっぷり愛嬌も余りありですわよ。こんな女の子を埋らせては日本の損失になりかねませんことよ。殿方の夜のお相手に最適よ。いや〜ん。私ってとってもセクシーなんだもんアッハハ」
調子に乗る女マネージャー。25歳元アイドルもどきは偽あみと一緒に写真集に登場をしてしまいそうである。
アイドルあみの事務所。
女子事務員は暇に任せ時折インターネットサーフィンを敢行し事務所所属のアイドル達の市場調査をはかる。
「あらっ嬉しいことね。ウチのあみちゃんの人気調査なんてあるわ」
気軽に発見するとそのまま何ら躊躇いもなくサイトを覗いてみる。
単なる人気投票のものでありアイドルあみに不快なものと思われはしなかった。
女子事務員は気軽にあみの担当マネージャーに報告をしておく。インターネットの真偽あみ人気投票結果はすんなりと事務所が認知をする。
後から知らされたマネージャー。腰が抜けるほど驚くばかりであろうか。まさかアイドルあみがマガイ品のコピーに人気が劣るとは。
「エッこれって本当か。NHK紅白歌手の仲間入りを果たしたウチのあみがだぜ」
マネージャーの率直な感想であり驚きである。
アイドルあみが思いのほかインターネットでは不人気だと知る事務所はショックを受ける。
「今をトキメクあみがこんな結果に見舞われるとは」
マネージャーは納得しない。何らかの悪が働いたからこんな結果が表示されたと疑う。
まがい品の偽物に人気絶頂なアイドルが人気を取られたなんて。地球が2つに割れたとしてもあり得ない。
「前代未聞だぜ。まったく情けないことだね。この調査結果は正しいのかい?アンダーグラウンドな臭いがフンプンしているぜ。所詮はインターネットにハイカイするオタク文化の現れじゃあないか。おいネットに詳しい奴呼んでくれ。このわけわからないサイトを調べてもらう。何らかの結果が出そうだ」
アンダーグラウンドと決めつけたインターネット掲示板。
その後も定期的にあみとソックリさんの人気投票を公表した。いずれの時にもアイドルあみの逆転はなかった。
ハッカー対策の事務員は朝からパソコンの前に座りどんな不正操作が繰り返しアクセスされているか探り出す。
「なかなか尻尾を出しません。二重三重にプロテクトしていますね。しかしこの仕掛けを敢えてやることは墓穴を掘ることになりそうですよ。今のところわかるのはある特定なハッカーからのみアクセスされていることと、アクセスしている者は盛んにハンネを変えて他人の振りをしていること」
アクセス先のパソコン識別番号は苦労し特定出来た。
マネージャーは識別番号をクリックしてみる。思った通り偽あみの所属事務所がアドレス識別に浮上した。
「ちくしょう。こいつらナメタ真似しやがる。こちらが偽を無視していると思い好き勝手をやりやがって」
マネージャーは口唇をギュと噛みしめた。少し悩み顧問弁護士に連絡をすることにした。
アンダーグラウンドな世界。あやふやな情報がてくてくと独り歩きをしてしまいとんでもない事象となってしまうようだった。
アイドルあみとソックリさんを対決させようじゃあないか。
テレビの特番で対決を見せて欲しい。
真偽あみちゃん対決はあまりにマニアックな世界だからアンダーグラウンドから陽の目を見せてやろう。
「真偽あみちゃんの対決かあ。正義のあみと悪党なる偽あみが対決して何の徳があるのかしら」
偽あみの事務所で女マネージャーは寄せられたファンレターやメールをひとつひとつ整理して呟いた。
ソックリ女子高生は初版出版の写真集発売を機にタレント活動に入った。"AV女優デビュー"の御旗を盛んに掲げてはいるものの女マネージャーの意向により具体的な撮影話は進行されずに白紙状態であった。
偽あみちゃん。あみちゃんの代用かコピー商品として世に出ていく。
「私はAV女優になるために事務所に所属をしているの。今のところマネージャーさんの言いなりにしていますけど撮影はいつごろなるのかしら」脱がないのであらば普通のタレントと変わらないようである。
「いつ頃脱ぐの撮影があるのとマスコミに聞かれたら私はあまりやりたくないわっと答えるようにって。マネージャーさんから言われているの。もう100%AV女優になりたくないの。助けてちょうだいと私は言うの。嫌あ〜裸になんてなりたくないもん」
事務所とマネージャーは脱がずで売れそうだと思い人気がある今、あえて最後の札を切る必要はないのではないかと判断した。
女マネージャーは高笑いを繰り返した。
「彼女は脱ぐわよ。スパッと脱いでAV女優になるわよ。ファンの皆さんが彼女を応援してくれなければ我が事務所は純情路線は失敗をしたと判断よ。偽あみちゃん女子高生を清純タレントから一気にAV女優にさせちゃうよと嚇していくわアッハハ」
事務所は100%悪者に徹していく方針であろうか。
「人気が全てよ。芸能界なんてのは勝てば官軍な単純な世界なの」
タレントとしての才能なんか微塵もない偽あみちゃん。いよいよ人前に登場をしアイドルあみのコピーとして芸能界に入る。
いよいよファンの前に素顔で登場するのはデパートでのサイン会&握手会だった。これが記念すべき初仕事となった。
写真集の好調な売り上げの中。書店のイベントに参加をさせてもらう。
女マネージャーと偽あみちゃんソックリさん。かなりな緊張をして書店サイン会に臨んだ。
「人前に出ることに貴女は馴れていないわね。でも初の仕事としては握手とサインだけ。楽なもんよ」
気楽にしていらっして結構よ。押し寄せるお客様にサインをしてやりなさい。
そして当日は事務所の若いやつ2〜3人(もしもの場合の用心棒であろうか。大学で武術をやっていたやつ)のスタッフも借り出してとりあえずは行ってみる。
「ファンの前にあみのパクリの貴女が出るのよ。初めてだから何が起こるかわからないの」
アイドルあみの熱狂フアンから攻撃されるやもしれない。
「サイン会にはたくさんのファンが押し寄せてくるかしら。それともだーれひとりとして来なかったりしてアッハハ」
女マネージャーは笑いを一瞬止め真顔になる。
「私がアイドルデビューした日。サイン会に3人来てくれたわ。3人だけが私のフアンですって教えてくれたの。ちょっと嬉しかった。ファンはファンですから。ただね。その夜は悲しくて悲しくて涙が止まらなくて夜明けまで泣き晴らしたわ」
のサイン会は14:00からの予定となった。女マネージャーは少し早めにサイン会場に行くことにする。
私は初日に3人がサイン会にわざわざ来てくれた。3人というフアンは私が好きだからとサイン色紙を出してくれた。
このキワモノのマガイ品にはどのくらいフアンが来るの。一人もいなかったら可哀想かな。致し方ないと慰めてあげるかな。
会場のデパート。エレベーターに乗り会場階のドアが開いた。目の前にパッと人混みがあり長蛇の列がそこにあるとわかった。
デパートの警備員がファンを一列に並べている。
「サイン会にお越しのお客様。会場はさほど混雑しませんから慌てないように。定刻まで間もなくでございます」
優しく諭し待つお客様をうまく捌いた。
この長蛇の列はどこまで続くのか。エレベーターが到着する度にサイン待ちは増えていく。見る見るうちにどんどん長くなっていた。
これを遠目に見た女マネージャー。ソックリ女子高生と抱き合って喜んだ。
「嬉しい嬉しいよ。この人達は皆さん貴女のために並んでくれているの」
女マネージャーは小踊りし少し涙を見せた。
「やったなあ、やったじゃんか。さあさあ泣いてなんかいないで早めにメイクアップしサイン会やりましょう。ひとりでも多くのファンの方にサインを。握手をしてあげなないといけないわ。いいこと皆さんあなたの素敵な笑顔を期待して来ているのよ。アイドルの笑顔は最大の武器にしていかなくてはならないの」
気丈夫さが取り柄な女マネージャー自身。嬉しくて足がガクガク震えてしまった。
サイン会&握手会は始まった。長く待たされサインを求めたファンは口々に激励をした。
「アイドルで頑張ってくださいね。カワイコチャンのアイドルになって活躍して欲しいです」
サインを求めて応援をしてくれた。握手するその笑顔は光輝きがあった。
事務所の心配をしたヨタ者の類いは今のところいなかった。事務所からの派遣用心棒も安心をした。単に警備の役として長蛇の列を整理しただけで済んだ。
サインを求めたファンは早速偽あみの好印象をブログに掲示板に書き込みをしていく。早いやつはサイン会場で携帯サイトから書き込みをしてくれた。
「カワイコチャンだった。思っていたよりも数倍もかわいいよ。写真集よりも実物はカワイコチャンだってば。デパートのサイン会握手会は行ってよかった。俺はもう彼女に夢中になってしまった。ヒャーッホー」
ひとりひとり握手をしてサインをする。その際には必ず心から感謝をしての笑顔がよかった。
女マネージャーはサイン会の袖でその様子をジッと見つめていた。
「虚しさがわかる作り笑顔はファンに失礼なの。なにもフアンに訴えはしない。なんせアイドル崩れの私があれこれ指導マネージャーしているんだからアイドル路線に失敗なんぞないわ」
ありがとうございます。応援してくださいね。私頑張って行きます。
カワイコチャンのあみ顔でニコリするとフアンの男の子はホロリとしてしまう。偽あみではあるが好感度は育ちのよさが如実に現れた。
すいませんね。
長くお待たせしてしまいました。
ごめんなさいね。
私しっかりサイン致します。
応援ありがとうございます。
頑張っていきます。挫けたら応援してくださいね。
尊大な態度のアイドル。デッかい態度を見せるベテランの芸能人と異なっていた。
丁寧な対応からは素直な性格と育ちのよさを充分に見せつけた。
「腰の低い可愛らしいお嬢さんだこと。頑張ってちょうだい。ニッコリ笑って握手されたらこっちもアイドルになった気分になるなあ」
評判は評判を呼んでいく。出会うファンひとりひとりを確実に彼女の虜にしていった。持って生まれた天賦の才というやつが彼女には備わっていたかもしれない。
「ファンを大切に」
口ではなんとでも言える台詞。だが実践しようとなるとなかなかできない。崇高な芸当になった。
デビューをする新人はゴマンといる。プロダクションの力と本人の努力如何で人気が出るかそのままポシャルか。2つにひとつの博打であろうか。
新人の今後はファンそのものがイニシアチブを握る。だからファンは尊く邪険にはできない。
長い長い列も少しずつ収まってくれる。書店のフェスティバルそのものが終了を見て最後のお客様までサインをすることが出来た。
女マネージャーは最後のお客様が退席すると事務所の用心棒と拍手をした。サイン会の終わりを祝った。
「サイン会は成功したんだわ。嬉しい悲鳴ということね。私のアイドルデビューは3人だからね。おめでとう。大成功ね」
偽あみは何人と握手をしたのであろうか。右手は赤く腫れ顔は笑顔の作り過ぎひきつりがなおらなかった。
「デビューしてこれだけ人気があることは結構なことじゃあない。今後の芸能活動を見直していかないといけないわ」
女マネージャーは腕組みをした。サイン会は書店のフェスティバルの一環に過ぎない。無料のサインを求めたファンの何人がこれからも応援をしてくれるやら未知数だ。
「貴女の待望AV女優はどうする?事務所はいつでも撮影に入る用意があるわ。AV女優のために貴女を雇い契約したの。この経緯は忘れはしないでねアッハハ」
真面目な顔で女マネージャーは嚇した。3人しかサイン会に来なかったヤッカミは健在である。
女マネージャーはしこたま偽あみの売り出しをさらに緻密にしていこうかと策を練る。あまり一気にメディア露出は控えたい。
「簡単に貴女を脱がせてはいけないようね。ポンポンとAV女優にさせるのは最後の手段になるわ」
それともアイドルあみに対抗意識丸出しで行くかしら。清純派のカマトト振りの貴女でいくか。
「ファンをやきもきさせるのが悪役の事務所我々の仕事なのよ。どうするかなあ。うちの事務所はエロがメインの胡散臭い事務所が正体なんだけどさ。脱がない女はいらないんだよアッハハ」
サイン会の大盛況に女マネージャーは上機嫌だった。
女マネージャーの頭にアイドルあみと直接対決の構図も悪くはないわと思い始める。対決の場をもたせてしまうか。事務所の方針狙いは改めて修正をするかもしれない。
ネットの世界はあくまでもアンダーグラウンド。アイドルあみに逢うのはテレビなどの表のメディア。
それが偽あみに逢うとなったら苦労であろうか。サイン会という現実でもアンダーグラウンドな世界の住人は決して浮かばれて人気がわかるわけではない。
事務所の人間は熱心にせっせと偽あみを持ち上げて投稿をメールを繰り返す。
こんなにカワイコチャンだったんだ。サイン会の次はいつかな。スケジュール決まってくれたら行きたいよ。
この勢いなら本家に挑み勝てるかもしれない。くだらないパクリの存在を封印をしてください。化粧方法や衣装髪型を変えてくれないかなあ。
歯の浮くような持ち上げのオンパレードである。
大が小を喰う。本家のアイドルがアンダーグラウンドの偽あみちゃんに喰われていく。事務所のヤラセの過程が細かに語られていく。
事務所内で方針の転換を求める声が高くなる。
「脱ぎますよ脱ぐかもしれないとAV女優に煽りかけてみなくても。アイドルの二番煎じ仕立てでいいような気がした。ファンの反応次第だがアイドルという舞台で堂々と本家の亜流として売れそうだぜ」
ウチのような零細プロダクションから本当にアイドルが誕生をすることはいささか疑問であるからね。
「いやアイドル路線をやってやりたい。アンダーグラウンドは陽の目が見たくて這い上がっていけないこともないさ」
偽あみのままアイドル路線でいこう。本家と勝負してやれっと強気な発言も会議で飛び出す。
「私も望むところでありますわ」
担当の女マネージャーもその気になり事務所の協力なバックアップが必要ですと断言をした。
会議の最中は社長と経理担当だけは顔を真っ青にしてジッとしているだけである。
本家あみとの真偽なる戦いは始まったばかりだった。