激飆(偽あみ)
女子高生が服を着ると事務的にチェックアウトする。男は女子高生に面倒くさい冷たい態度である。
服を着た女子高生は大人になれた喜びであろうか男の肩に身を寄せた。すっかり彼女は恋人気分であった。女子高生は行きずりの得体の知れぬ男にのめり込んでいく。
男は女は面倒だぜっとソッポを向き歩き出す。街行く人々に女子高生との姿は見られたくない素振りである。
「そう言えばタレントになりたいんだっけ」
肩に手を回す女子高生に話掛けた。何か話をしたいこともないような態度である。
「そのためにあのでっかい規模のaphroditeオーディションを受けたんだよな。なんだっけ優勝すると誰でも女神になるとのやつ」
オーディションは女子高生が憧れていたもの。男はあまり詳しくないようなので説明をしたくなる。
「わかったわかった。aphroditeとか言うやつだな。俺うっかりしていたわ。思い出したよ」
男は女子高生が芸能界に憧れオーディションに来たんだったなと改めて思う。
こんな程度の普通の女の子で芸能界に入れるのだろうか。まったく自尊心か自惚れか知らないがここまで来ると罪だぜ。
男は胸からサングラスを取り出した。男は嘘をつくときにサングラスを掛けた。
「俺はダクションに知り合いがあるんだ。芸能事務所だぜ。タレントにさせるよ。一緒に事務所に来てくれ。カワイコチャンが事務所に来たんだと思えばみんな喜ぶさ」
男は肩に寄り添う女子高生を見ることもなく言い捨てた。サングラスは前をスクッと向いたままである。
タレントにしてやる。
男の一言に敏感に反応をする女子高生。
タレントにしてやる。
男は躊躇いもなくタレントにしてやると繰り返した。
「えっ!タレントにしてくれるの。嘘だあ」
唐突に言われた女子高生は驚くだけである。夢の中にいた彼女は現実を見てしまう。
「体を与えただけでタレントになれるの?そんな簡単なものなの芸能界って」
女子高生は男に顔を埋め目をパチクリするだけである。信頼からはほど遠い。そんな感じであろうか。
男の言う芸能プロダクション事務所は銀座にあった。銀座も広いもので裏寂れた路地がそこにあり雑居ビルの2階と3階にあった。それは事務所とタレントの練習場所。
男につき従い事務所に入る。事務所のドアを開ければそこには芸能界があるのであろうか。
女子高生はピリッと緊張する。男の後ろから中を覗き驚く。
えっ!
そこには芸能界があったのか。いやいやあの男がそこにいたのだ。駅で声を掛けられた男がなぜいるのか。女子高生はさっぱり訳がわからない。
「やあお嬢さん。またお合いしましたねアッハハ。世間は広いようで狭いですからねアッハハ。またお茶をしましょうか」
あっけらかんとする男がこの事務所のスカウトマンだと後にわかる。
女子高生を連れてきた男はいつの間にか姿を消し年輩の肥った男が女子高生の相手をする。
女子高生は芸能界とはそんなものかとドギマギした。早速事務所は新人担当マネージャーから簡単な質疑応答を受ける。
「ようこそカワイコチャン。本当に笑顔の可愛い女の子だね。こりゃあ広いものをしたなあ。はじめまして。私は新人発掘担当マネージメント」
マネージャーはその場で事務所の説明を始める。カラフルなパンフレットをチラチラ見せて芸能界とはいかに華やかであろうかとイメージを植え付けていく。コンパクトな説明が終わるとタレント契約を結びにくる。
口先うまいマネージャーは事務的に机の書面を提示した。女子高生は何でもハイハイ返事を繰り返し雇用関係(仮契約)は成立してしまう。オートマチックな技の成せるところ。
「あら本当に簡単なものね。私ってもう芸能事務所所属なんだ。タレントさんになるのかしら」
女子高生が夢にまで見たタレントさん芸能人という人種。実にあっけないことでそれになってしまった。
「あなたは我が芸能事務所とタレント契約を締結したのですから」
今後は事務所のタレントとしてタレント社員として我が事務所の方針に従ってもらう。
タレント売り出し養成プログラムをこなすように。歌や踊りはもちろんのことである。出演依頼のある映画やテレビは役柄問わず受けてもらう。そしてカワイコチャンの定番グラビア写真もである。
新人担当マネージャーの口からポンポンとキラビヤかな夢が飛び出す。
「ありとあらゆる可能性を見い出したいんだ。タレントとしての方向性はファンが決めるようなもの。手探りな状態で申し訳ない。カワイコチャンはいくらでも芸能界にはある。まずは事務所の言う通りにしてもらいたい。新人としてのデビューもその売り出しも事務所の方針に従ってもらうよ」
マネージャーは事務所の言う通りにしてもらいたいと繰り返し強調をした。
女子高生はデビューとか芸能界のそれで使う言葉に翻弄された。すっかりタレントに成りきる。マネージャーの口車にマンマと乗せられその気となった。
「ハイッよろしくお願いします。私頑張ります」
女子高生は感極まり胸はいっぱい。それしか思いつかず他に言いようがなかった。
女子高生のタレント養成は始まる。いやわけのわからぬ芸能界という絵空事は女子高生の夢の通りに目の前に現れる。芸能界へデビューの第一歩は音を立てて始まったと女子高生は思えば思えた。
事務所の命令でタレント養成は発声練習から。子供のようなピアノ伴奏の歌謡から徹底してやることになる。
「しっかり歌わないといけないわ。歌謡番組で恥じをかかないようにしなくちゃ」
女子高生はピアノの先生に度々音程を注意されながらレッスンを受けた。
しかし女子高生は歌がダメとわかる。ピアノの先生にどうしても彼女は私の思うような発声ができないと匙を投げられる。マネージャーはダメを知りすぐにストップした。
マネージャーはそうですかと事務的に答えそのまま女子高生に伝えた。
「才能のないことはやってられない。歌手はダメとする。でもタレントは歌わないとダメでない。大丈夫さっ他で頑張りますってことさ」
シビアなマネージャーである。使い捨てのタレントに大金を使うつもりはない。
歌がダメなら踊りはどうか。アップテンポのダンスはできるのか。
「ハイッ踊りは小さな時から好きでした。私頑張ります」
ハキハキと女子高生は返事をし養成講座を受ける。
体力と運動神経そしてリズミカルさを試される踊り。マネージャーは基礎から女子高生に課題を与えてみた。
踊りは好きで得意な女子高生。水を得た魚であった。
「体を動かすことはまずまず。プロレベルの及第まで至らないがそこそこには踊るな。少し頑張ってくれたらモノになると判断したい」
ダンスの先生が見てもマネージャーが見ても素人丸出しの女子高生ダンス。このレッスンはしばらく続けるサインがなんとか出た。歌もダメ、踊りもとなるとタレントとしての出し物が細くなりそうである。
気をよくした女子高生はその他タレント養成プログラムを気持ちよくこなすことになる。
ここまでは幾多もある新人タレント発掘の話である。事務所がスカウトをしてからのデビューへの道のりである。
女子高生の担当マネージャーは時に同時進行で数人のタレントの卵を手掛けることになる。
街やタレント発掘オーディションで18歳までの女の子を下請けのキャッチマンが探し出し事務所へ紹介をし適性を見るのである。あまりおかしな女の子をスカウトの好みのまま連れて来たりすると罰金を申し付けることもある。
ゆえにこの人並み程度のカワイコチャン女子高生のアイドル適性を見抜くことはマネージャーとしてショービジネスとして最初から見切りであった。
この程度のかわいこちゃんタレントはどこにもゴロゴロではないか。マネージャーの第一印象は半信半疑であった。いくらバックアップしても人気者一流タレントにはなれないのではないかと思い始める。無理してデビューをさせても深夜番組専門B級アシスタントかC級タレントのまま数ヶ月で消えるがオチと予想された。
マネージャーはスカウトマンに苦情を言いたくなる。罰金の対象にしたくなる。
「あの手のタイプはいくらでもいる。芸能界は巷の街のかわいこちゃんがわんさか入るんだ。カワイコチャンの中をさらにファンにセレクトされ芸能界は成り立つんだ。まったく甘い。この程度の女は金を掛けてデビューしても結果は見えている。カワイコチャン並み以上でも芸能人に届かずだな」
マネージャーは売れないぜと愚痴る。歌も踊りも中止させ早目に事務所は契約を解除をしたくなる女と言いたい。
「マニアックなファンが少しは食いつき人気が出るかもしれない。しかし長くは続かない。人気者とキワモノは異質だ」
デビューしました。男の子の間で人気が出ました。でも顔がくどいから女の子に飽きられ消えかけました。はいテレビからさようなら。
マネージャーはスカウトだけでなく事務所そのものに意見を言う。ファンに飽きられてはお手上げだから早目に契約は切りましょう。幸いに彼女は女子高生という職業がある。事務所から首を宣告しても何ら困ったりしない。
「駄馬は駄馬なんだ。いくら飼育してもサラブレットに化けたりしない」
マネージャーは怒りを持って女子高生を切ることにする。事務所所属のタレントは光輝く個性の持ち主でなければならない。マネージャーとしての力量で適性を見い出しファンに訴えるイメージを醸し出させるか。
芸能事務所の作戦会議で常に討議される議題であった。この零細企業芸能事務所ではタレントの今後の売りが最大の議題として繰り広げられた。
女子高生も売り出しの戦略を練る。ただし取締役の肩書きも備えるマネージャーの一言は会議で効く。彼女はデビューする前に才能なしと判断を下され首の可能性があった。
タレント売り出しの会議は始まった。零細企業ゆえに社長以下取締役も列席をしていた。
各分野を担当するマネージャーが一堂に集まりタレント発掘の意見を交わす。
「社長ちょっといいでしょうか」
若い女性マネージャーである。
彼女はこの事務所所属元タレント志望でありアイドル崩れの25歳だった。
アイドルをギブアップし華やかな芸能界の裏方に徹する。その女が会議に口を挟む。25歳というのに化粧もせず身なりに気も使わず。常にジーパンをはく女。外見からはまるで女を諦めた風情である。
発言を求めた女はこの音痴な女子高生のプロフィールと3枚ほどの顔写真を見合わせた。
社長以下取締役にはノートパソコンから最新女性タレント図鑑を開示させる。そしてアイドルタレント専門ティーンズ雑誌を2〜3誌ほど手元に配ると口火を切る。
「私個人の意見なのですがこの女子高生は個性が際立つことはありません。確に取締役の仰るB級タレント止まりだと断言致します。その理由といたしましては」
女は一際声を高くした。
「皆さんご存じのことと思います。今をときめくアイドルタレントのあみ。このカワイコチャンタレントに類似しているからです」
あみと女子高生の身長や体型も酷似であると説明する。
「歌が下手で音程が不安定なんて本当に」
歌がダメ。ダンスが少しできる点の類似を指摘する。
「ですから女子高生をウチの事務所からデビューさせるというと前もってアイドルあみの"バッタもんだ"と宣伝をしているようなものです。バッタもん。すいませんいい間違いですね。二番煎じですかね」
女は出席者全員にアイドルあみと女子高生の類似があるかをノートパソコンに流して見せた。
写真に関しては社長以下スタッフ一同最初は類似だとわからない。よく顔のアングルを変えて見たら似ていなくもないかなと意見された。男はこの点には無頓着なものであるらしい。ただしそう言えば似ているようだ程度のものだった。
女はアレッとスカを喰らう。社長らの反応がイマイチではないか。そこであみのキラビヤかな舞台衣裳を女子高生にアイコラして着せてみる。髪の毛はあみのそれを使い貼り付けた。
おおっ〜
「似ている程度ではないですね。目と口は同じではないですか」
鈍感なる男性経営陣が唸った。
「まだ分かりにくいですか」
アイドルマニアなファンに似たようなカワイコチャンはふたりと要りません。ふたりも同じタイプのアイドルは許してもらえません。世の中の芸能ライバルとしても正反対な個性で勝負をし君臨をしていますから」
アイドルあみが人気者であるうちは似たタイプの女子高生は人気者にはなれない。
「ファンはいずれかのアイドルを選び片方を自然に見捨てるのです。似た者両者を対等に応援していくなんてことは決してありません。はっきり言ってキャラの被りは致命傷です」
女は次の資料だと新たにノートパソコンに画像を送り込む。
「皆さん開示されましたか?社長もよろしくて。この画像は今インターネットや三流週刊誌で話題沸騰のアイドルタレントとAV女優でございます」
機械モノに弱めな社長は説明をする女の手助けを借り画面を開示した。
「社長もご存知でございますわね。アイドルとそのバッタもんですわ。いやいや言葉が過ぎました。えっとアイドルのソックリさんです」
社長のインターネット画面を拡大開示をする。
「AV女優の顔をご覧ください。全体に見渡せばバランスよく美形なものです。でもパートのひとつひとつは100%作ってあります。ウチのカメラマンも証言をしていますから間違いのないものです」
女は社長に目の回りや鼻と美容整形ですわと指摘した。
「体も当然ながらでしょうね。人工的な不思議さが感じられています。いかにもアイドルに似せての意図がニュアンスがくみとれましょうか」
社長がなるほどと頷くと画面をクリックした。ノートパソコン画像に約20組ぐらいのアイドルとバッタもん(コピー)の画像が張り付けられた。
最新のアイドルとコピーの組み合わせ画像はかなり有名だった。
「君っこちらは今話題になったやつじゃあないか。こちらのアイドルの事務所社長は友人だよ。君は知らないだろうが」
女は社長を向いてにっこりした。
だから最後に見せたのですよ。
今をトキメク人気アイドル。デビュー以来清純派路線をうまく歩み始めメジャー軌道に乗ってきたかの瞬間のゴシップだった。
「こちらの社長は首をくくりたくなったそうだよ。売れっ子タレントが一夜にして泥の顔になってしまった。無理はないよ。デビューには先行投資がある。一気に負債が身に降りかかるんだからな」
コピーAV女優はインターネットを中心に騒がれ始めた。
当初は似せて作ったアイコラだろう。悪質なイタズラからである。だが瞬く間に(ソックリな)顔と(タレント似の)名前が知れわたる。
ここで女は説明をストップさせる。
「注意をしたいのはそっくりさんはAV女優だとしても裸は見せていないということです。裸の出し惜しみをしている。知名度が良きにつけ悪気につけ一気に高まるのを待っての起爆剤ですね。裸は安定をした売り物ですわ」
女は社長のインターネットをクリック、クリックしてみせる。
「社長よくご覧ください。このAV女優の売り込みに宣伝広告費はかかっておりません。簡単な触れ込みで世に出したら後はインターネットで掲示板に晒され流風の向くまま名前が飛び交い話題がひとり歩き致しました。バッタもんの事務所としては最高のデビューができたと言えます」
ソックリさんだからというだけでAV女優の知名度は上昇していた。早くビデオがみたいとリクエストが増えていく。
女は社長分かりにくいことございましたかと微笑んだ。
「皆さんここまでお話をさせていただきました。だいたい察しがおつきかと思います。わが社もこの路線で行こうかと思います」
女は自信たっぷり社長を見ながら了解を待つ。
「いかがでしょう。たいした器でもないこの女子高生をかように売り出しては。どうせまっとうなデビューでは埒があきません」
女は不良債権を売り物としての価値を見い出したのだからイチジツの長があると言わんばかりである。
「将来金喰い虫のB級タレント候補を一気にスターダムにまで押し上げる作戦でございますわ。私の頭にはそれなりのアイデアちゃんと練ってあります」
女は勢いをつけた。動きやすいジーパンは会議室の中で躍動をする。
「売り出しをするAV女優というのはあくまでもダミーです。ということはインパクトの問題ですね。マスメディアに訴えるにはインパクトが必要です。どうしても読者やファンが見たくなる事実が欲しいですからね」
う〜ん!
会議は役員から社員から唸った。なかなかの売り込み作戦であると関心を示す。
「君はなかなかのアイディアの持ち主なんだね。バッタもん。いやっソックリさんAV女優という肩書きでメディアに売り込み当初から知名度を高める作戦。"AV女優"のイメージはダーティなものだが実際に裸を見せてしまうわけでないというのも味噌か」
アイドルのコピーだからカワイコチャンのイメージでもある。そんな女の子にAV女優の話題を引っ張るだけ引っ張ったらそれでよし。こちらに興味を向けることが目的とする陽動作戦であった。
会議は女の意見を受け入れまとまりかける。だが社長は難色を示した。
「そんな姑息な手段はたまらない。アイドルあみは迷惑だぞ。彼女の事務所は困ってしまうぞ。今が旬な大切なタレントさんだぞ」
社長の意見は強いもの。事務所全員の賛成も社長一人の反対でコロンと決議は転覆かっ。
いやいや事務所の方針は決まりました。人並みの可愛らしさの女子高生はタレントという名を押し込められ世に出ることに決定をした。
翌週の事務所に女子高生は呼び出された。彼女は担当マネージャーに命令をされた。
「えっなんですか。私が美容整形をするんですか?アイドルあみに似るように整形ですかぁ。なぜ何ですか」
女子高生は美容整形ということがよく理解できなかった。
事務所からの通達はアイドルあみのソックリさんにならないとデビューをさせない。あみの二番煎じとして女子高生はデビューさせると高圧的に伝えた。
だが"AV女優ですよ"と本人に伝えなかった。美容整形だという一言にかなり動揺をし上の空である。この時から女子高生のマネージメントは全てアイデアを提案をしたその女が担当する。彼女は辣腕マネージャーになった。
辣腕さはボイッシュな髪型からも感じ取られた。
「美容整形ぐらいなんのこともないわ。昨今珍しくもない。私もしているのよ。ところであなたは顔で嫌いなところがないというの。その程度の顔の造りで芸能界で生きていけると本気で信じているの」
女マネージャーは容赦なく説得をする。
「あなたの整形は事務所の方針からよ。アイドルに似せてデビューさせるの。これが事務所の戦略になったのよ。その筋書きに沿って全ての芸能活動をしてもらうわ。嫌なの。あなたは嫌なのかしらっ。今言わないといけないわ。どうするの嫌なの?辞めたいの?いいわよ嫌なら嫌で。私はちっとも構いはしないわ。結論から言えばあなたはデビューしたくないのね。タレントになりたくはないのね。だったらとっととこの事務所から出ていきな」
女マネージャーは続けた。
タレントという商品を売り込むためには莫大な宣伝広告費がかかる。売り出しが決まれば美容整形がイヤだの滑っただ転んだのだと単純な理由でキャンセルはできず。むしろ損害金を被るハメに陥る。
「ハイッわかりました。美容整形お願い致します」
女マネージャーの気合いに圧倒をされてしまう女子高生。
女子高生はわかりましたと小さく答えた。
「そおっ了解ね。だったら一刻も早くデビューさせてあげるわ」
女はにこりともせずバックから携帯を取り出す。
美容整形の日程を医院と打ち合わせる。折り返し手術日が事務所にマネージャーに知らされた。
「日程はこのようね。さてと忙しくなるわ。よく聞いてちょうだい」
整形と同時に実家から離れて事務所のマンションに引っ越しをさせられることになる。女子学園は休学届けを提出させる。タレントとして成功をしたら芸能人御用達高校に転校である。
美容整形は事務所の専属医院で流れ作業のように行われた。時間にして一時間ぐらいの出来事だった。
「顔の腫れが引いたら写真撮影よ。いいことあなたは憧れの芸能界に今、足を踏み入れたのよ。もっと明るく陽気に振る舞って頂戴。アイドルなんだから。あなたに憧れて中高生のファンは写真集を買い夢を見ていくのよ」
アイドルあみの二番煎じとしてね。
写真撮影は目の回りの痛みが取れるのを待つ。整形手術後の顔の腫れが引きしだい行われる予定だった。皮膚が蘇生回復をし化粧が乗る頃を見計らっての話だった。
女子高生は眼帯をしたまま麻酔が消えかけるのを待つ。
「ふぅー包帯を外して鏡を見るの嫌だなあ。だって整形手術したんだもの。他人の顔に似せて造られた顔ダモン。しかもアイドルあみの顔だって。私正直アイドルあみはあまり好きなタレントじゃない。事務所は私が一番あみに似ているからって決めたんだよね。あみちゃんになりますようにって整形しなさいって」
眼帯の中のあみ顔は困った表情をした。
時間が来て女子高生はナースに呼ばれる。
「お顔に痛みはありませんか。眼帯を外しますがいきなり明るい場所には行かないでくださいね」
優しい声のナースはゆっくりと包帯をはずしてくれた。
女子高生ははらはらと涙が溢れ落ちて止まらなくなった。
事務所の専属写真スタジオである。プロカメラマンは被写体の到着を待っていた。スタジオは予約がいっぱいで撮影の時間は余裕がない。
普通にどこにでもいる女子高生。顔をイジリ他人の顔を持つ美容整形者である女の子となった。
生まれ変わった女子高生は医院で包帯をはずしてから一度たりとも鏡は見ない。すっかり他人となった今は女マネージャーに連れられプロのスタイリストとヘアーメイクをあてがわれた。
「さっさと化粧をしてちょうだい。時間は押しているの。ヘア・メイクと衣裳であなたはどんくさい田舎娘からキラビヤかな芸能人になれるのよ」
マネージャーはメイク室内に女の子を押し込めると携帯を出す。スタジオに後何分で入れるわと綿密な連絡である。
化粧室に来ると嫌でも鏡を覗かなくてならない。あみ顔と対面の時を迎え入れねばならぬ。
彼女は勇気を出した。下を向いたままメイクアップを受けるわけにいかない。
メイクがあてた蒸しタオルが外された。鏡の中の"自分"を見つめなくてはならない。
こんにちはっ。新しいあみちゃん。
綺麗になるのは好き。私はお歌も踊りもダメちゃんと言われたの。だからちゃんとしたタレントになれないからこうならないといけないの。
散々に自分に言い聞かせていたはずである。
私だって女の子だから学園に入学し高校生なら化粧をしたかったの。
化粧をしたら他人の顔を作って綺麗な女の子もいけるわ。
美容整形だって考えてみたら化粧のようなものよ。素顔を隠してカワイコチャンになれるんですもの。
ただ"昼間の顔"を夜の洗顔で落とすことが出来ないだけ。落としたくはないと思ったらそれでよいの。
メイク美容員はタオルが熱くはないかしらっと心配をしてくれた。女の子は大丈夫ですよと答えたが目尻に一筋光るものがあった。
メイクは涙をタオルの雫かと錯覚したようだった。
私はぼったい目やダンゴみたいな鼻は嫌だったわ。化粧をして直せるなら綺麗にしてやりたいなあと思っていたの。お母さんと同じ顔のそれだったけど。
女の子の目鼻のコンプレックスは整形手術を施行してなくなった。
他人の顔だから私は今が好きなのかな?
目をゆっくり開く。鏡の中のあみ顔を見る。
女の子は目を見開いた!
「ううん違う!これは私じゃあない。誰なの?変な女の子は誰何ですか。嫌だ嫌だ」
鏡の中には。この世とは思えぬ嫌っな女が映る。そこでキョトンとし女の子を見つめていた。
私の大嫌いな女の顔。嫌悪が憎悪が虫酸が走る。
ヘアメイクは注文通りアイドルあみのスタイルを造りあげた。
「こんな感じでよろしいかしら。マネージャーさん呼んで来ますわ」
ヘアセットが終わって顔の腫れや目のチカチカ痛みはなくなっていた。
女の子はアイドルあみ顔に完全になった。コピーという存在になりきる。旧・女子高生は鏡の前で涙がはらはらこぼれ落ち止まらなくなった。
「泣けばいいわ。泣いて気が晴れれば泣きたいだけよ」
背後よりマネージャーは鏡に向かって睨みを効かせた。
マネージャーに泣けと言われてキョトンとする。
「イーダ!アッカンベ〜!私の嫌いな顔。見たくないモン」
アカンベーのあみ顔はかなり滑稽に見えた。マネージャーはアッハハッと腰に手をあてて大笑いをした。あまりに面白いので女の子の肩を軽くポンと叩いた。
化粧室にプロのメークさんがやってくる。スタジオ専属のメークはありとあらゆる女の顔をメークしてきた経歴を持つベテラン。一流のモデルから場末のストリップ小屋の踊り子まで手掛けた。
「ご指名ありがとうございます。メークです。はじめまして。あらっまっ、なんて可愛らしいお嬢ちゃんですこと」
メークは心底驚きはしない。アイドルの誰かに似せていると思っても。
いくらでも訳のわからないメークを手掛けた免疫があった。むしろ訳のわからない女の方が多いくらいだった。
女マネージャーからアイドルあみに似せて欲しい。完全に真似メークしてもらいたいと命を受ける。かなりな厳命に言われた。
整形して泣きたい顔であろうがヘッタクレであろうが関係ない。個人的な事情を気にしていては仕事が進捗しない。
「軽くファンディションしてから始めましょうか」
メークはベテランらしく手馴れた流れ作業を進める。
16〜17歳の素顔は化粧がよく乗りメークが楽であった。ものの数十分で仕上がる。
「さあて。出来上がりね。まあまあ可愛らしいお嬢さまに変身されたことでございますわねウフフッ。とんだ女狐第一号だこと。あなたはとんだ狐になれそうね」
メークは携帯で女マネージャーを呼んだ。思ったより素晴らしい出来ですわ。
「なるほど。なかなかいい仕上がりじゃない。貴女の腕はまだまだ鈍くはないわね。満足の部類だわ」
女マネージャーはアイドルあみに仕上がり得意げであった。
女の子にどんな気分かしらっと尋ねた。女の子は口を真一文字にして返事をしない。顔はカワイコチャンになれても心は傷ついた女子高生のままである。
「うまく化けたからスタジオに行きましょ。時間が押しているの。スタジオは借り賃がバカにならないのよ」
スタジオまではタクシーである。乗り込んだ運転手はバックミラーを見て驚く。
アイドルあみちゃんじゃあないか。嬉しいなあこんなに綺麗な芸能人を乗せるなんて。僕はあみちゃんの大ファン。降車時にサインもらえないだろうか。
事務所と契約撮影スタジオはレフ板の彩光の中にあった。若いタレントが思い思いの衣裳でポーズを決めるスタジオ風景である。
衣裳を着飾るタレントやモデル。よくみたらヌードもあっちこっちにあった。色とりどりなカクテル光線の元彼女らはカメラマンの要求するポーズを決める。
アイドルあみのソックリさん(コピー)は活気溢れる芸能界のスタジオに入ることになる。
デジカメを下げた20代の若いカメラマンに女マネージャーが2〜3撮影ショットの注文をつける。いよいよ芸能界初仕事。モデルとして撮影が始まるのだ。
女マネージャーからの要求にカメラマンはエッと振り向いた。本当にかっと不思議な顔をする。
あのえげつないことで有名な芸能事務所である。撮影ポーズはあまりにも普通で気持ち悪く感じたようだった。
「いたって普通の撮影でいいのか。オタクの事務所としては極めて珍しいこともあるもんだぜ。明日の天気は雪崩か洪水か。やだなあ俺濡れて帰りたくないなあ」
撮影はアイドルタレントのための笑顔ショットだった。スカートをめくりのパンチラもブラジャーをふしだらに見せてしまうことも一切なかった。
マネージャーとカメラマンのヒソヒソ話を袖で聞くは偽あみである。
えっ!私はヌードは撮影しないの。私は事務所の方針でいうAV女優じゃないの。裸でデビューさせるって言われたのよ。
カメラマンと談笑した女マネージャー。
「清純派アイドルで頼むわ。ただし見ての通りの女の子だから。しっかりパクリさんで頼みますわ」
言われたカメラマンはうーんと納得できない素振りを見せる。
「そりゃあまあ俺はプロだから。クライアントのリクエストにちゃんと応えるけどね」
デジカメを盛んに磨きながら照れてみる。
「そっちの事務所から連れて来るモデルはアッハハ。決まっているからさ。まさかな清純派路線でやってくれとはね」
苦笑いを繰り返した。
マネージャーは偽あみを手招きをした。小柄で細身なカワイコチャンが現れた。
「あれ?なんだいこの女の子。アイドルあみさんの(コピー商品じゃあないか)」
ソックリさんかい?
ははん。カメラマンは納得をした。偽あみを知りわかってきた。
「なるほどなるほど。そういうカラクリになるのか。わかりました。一見して全てはわかった。撮影の方針、事務所の意図がわかればこちらも仕事がやりやすいよ。うーんスタジオの構成を決めるかな」
カメラマンは納得してシャッターを切る。
カメラの撮影アングルは全てわかった。"アイドルあみの写真集"そのものを真似たものとなった。
デジカメを構えたカメラマン。ファインダー越しに偽あみ撮影に熱心になる。
うん!ちょっと。
カメラマンがカメラを止めた。
「おまえ顔をなんか小細工していないか。整形しているんだろ?」
いきなり言われた。
「ファインダーから見るとどうにも目の回りが不自然になる。あまりにもきれいに整えられているためおかしいと感じられる。俺でもプロカメラマンだからな。まあっなんとなくさっ顔イジリってのはわかるんだ」
これからはカメラマンの前で目をパチパチやるときに気をつけてやるんだな。不自然なウインクにならないように鏡を眺めて練習しておくようにな。優しいカメラマンからの貴重なアドバイスである。
アシスタントにレフ板の角度を変えさせた。目尻の窪みあたりに故意に陰を作ってみせる。目の回りの不自然さを光をあてて消してみせる。
「よしお前の整形な不自然さの特徴はわかってきた。本物のアイドルあみより可愛らしい美少女に撮ってやるよ。美少女の微笑みでなんとか整形を誤魔化してやる」
この若手カメラマンはアイドルあみを撮影した著名なカメラマンの名前を思い出す。とても高明なため喧嘩にもならない技術の差がある。カメラマンは妙なライバル意識を燃やしていく。本物あみの写真より偽あみを可愛く撮影してやる。
偽あみのスタジオ撮影は順調に行われた。カメラマンの技術が確かであったこと。モデルが被写体として映しやすい簡単な素顔をカメラの前に出したため。
仕上がりはまずまずである。撮影された写真はその場でパソコン画像となる。マネージャーはすぐさま鑑賞出来た。かなり厳しい観点でパソコンを眺めた。
プレビューの段階で見たマネージャー。デジカメ写真の中には日本で人気のアイドルあみそのものばかりだった。
「ウフフッ。あみちゃんのバッタもんも捨てたものでなくてね。ソックリさんのコピーとしては上出来ね」
マネージャーは笑いがこみあげてしまう。自分の計画した企画が着々と成功への道を歩んでいる。確かな手応えである。
「私は偽のあみちゃんです。その正体とは驚くなかれAV女優なんです」
マネージャーはクスクスとひとり笑いを繰り返した。
「偽あみデビューの前に写真集からアイドルあみのファンの度肝を抜きまくりましょうアッハハ。あみちゃんには悪いけどパクリにはパクリの根性というものがあるのよ」
アイドルあみの写真集をマネージャーは丁寧に眺めた。偽あみちゃんの撮影されたそれと見比べて見る。
「パクリな写真集か。どのくらい(あみの)ファンは食いついてくるかなあ」
撮影が終わり偽あみは一息つく。早いうちに嫌いなあみのヘアスタイルを変えてもらいたくなる。
カメラマンから解放をされたら急に全身が脱力してしまう。偽あみちゃんになるのも大変なストレスである。
女マネージャーは戦略を次々練っていく。本物のアイドルあみのラジオ番組にメールや葉書を送ることを怠らない。あみの周りを賑やかにした一連の騒ぎはこの女マネージャーがすべて計算をして仕掛けたものだった。
「街の女子学園にアイドルのあみちゃんがいますね。あみちゃんって女子高生だったんですね。あの女の子は絶対にあみちゃん本人でしょう。毎日○時に駅でいつも見掛けます」
投稿名は適当に変えて番組に次々に送る。その努力は報われて運のいいことに番組でアイドルあみが取りあげてくれた。
この投稿から偽あみはそれなりの反響を得た形になる。○○女子学園の女子高生と学園名まで出したのがよかったらしい。
偽のアイドルあみ。女マネージャーの命じるまま指定された時間に女学園の制服を着て駅の周りをウロウロした。
「こんなものは数日繰り返したら噂は本物よっとなるわ」
マネージャーは偽あみちゃんの駅徘徊をしっかり見守っていく。
インターネット掲示板にアイドルあみのパクリっソックリさんを探せ!が始まる。一気にあみちゃんのコピーの知名度はあがる。ファンはアイドルあみが女子高生ではないことを充分に理解している。あみは二十歳である。女子高生としてデビューはしていない。
「狙い通りになってきたわ。さんざんアイドルあみは誰なのかとインターネットの話題にしてもらいたいアッハハ。あみちゃんは女子高生よ。但し偽あみちゃんだけどね」
女マネージャーは掲示板を毎日チェックする。暇さえあればクリックし偽あみのためのコメントを適当に打ち込む。
あみちゃんは本物なのかと騒ぎが大きくなった。時を見計らい女マネージャーは写真を一枚ラジオ局に送る。アイドルあみ(真)そのままを送りつけた。
二回目からは似ている(偽)あみ。最初がソックリ写真でなくアイドルあみ(真)をちょっと加工したやつを送って悪戯である。かなりの写真を送りつけたが数枚は本物あみを加工である。いや女マネージャー自身もどっちがどっちか真偽の区別がつかなくなっていた。
「私がパニックよ。ラジオ局じゃあ騒ぎになるだろうなあイッヒヒ」
真面目な顔して(真偽)あみの区別を見つけておかなくてはいけないかなっと考えた。
翌週の芸能雑誌いよいよ秘密のベールを偽あみちゃんは脱ぐ段階となった。マネージャーの流した偽あみの情報を元にアンダーグランドな雑誌記者はゲラ原稿を書いてくれた。
アイドルあみのソックリさん見っけた!
真偽はどこか。まったく区別がつかない。
鮮烈なAV女優デビューはアイドルあみちゃんの偽。
女マネージャーの思惑戦略の通りに芸能記事にしてもらう。
(雑誌発売の3日ほど前の段階。芸能関係者のみ知るゲラ刷り)
関係者にインパクトがあった。アンダーグランドな三面記事でいかにもうさん臭さを強調してみせたのだ。それがまた確かな手応えとなっていく。
マネージャーの計算はズバリ当たる。見事な情報操作で瞬く間に芸能関係者はこの話題に食いついてくれた。
「よしよし!まずまずのスタートね。これからだわ。これからが本当の勝負。私は偽あみちゃんのためにアイドルあみを表舞台から引きずり降ろしてやりたい」
ゲラ刷り雑誌はわざとファックスで関係者に流した。マネージャーはインターネットにイタズラ気分で書き込みをしながらニタリである。
一般の読者やアイドルあみのファンは何がなんだかわからぬまま裏の存在偽あみをそれとなく知ることになる。インターネットでの書き込みは効果絶大である。
「表の真あみはアイドル。裏のまがい品が偽あみ。この裏表の背反利な関係図を変えてやりたいの。世間の冷ややかな視線は常に"まがい品"パクリに浴びてばかり。だけどこの勝負はちょっと違います。ソックリさんが本家に勝つのよ。偽の存在コピーが本物に勝つのよ。偽はコピーとして堂々と芸能界に君臨をして天下を取ってもらいます」
ゲラ原稿の反応がまずまずに気をよくしマネージャーは鼻息荒々である。
覚悟しておけよ!あみ
大した芸もないくせに。
下手な歌でアイドル面しゃがって
ドブスのあみ!
テメェも美容整形ミエミエじゃあねぇか。
今に見ておけアイドルしながらヘラヘラ下品に笑うな。
必ず地獄を見せてやる。
"偽あみAV女優衝撃なデビュー"の週刊誌が発売された。
朝一番事務所の電話がリ〜ンと鳴る。これから始まる一大事件の前触れである。センセーションを巻き起こす点火。焔を導き出す導火線に火が放たれた瞬間でもあった。
電話の問い合わせに事務所の女子事務員は応じた。
「もしもしハイッ芸能事務所でございます。始めましていつもお世話になっております」
あみちゃんのそっくりさんは実在なんですか。ウチの事務所はヌードアイドルを取り上げたいですが取材は大丈夫ですか。
女マネージャーが出社をする。彼女の机には問い合わせの件が山と積まれていた。
「私が担当のマネージャーでございます。ハイハイアイドルあみちゃんはいませんがパクリなら」
事務所の電話はその日から鳴り止むことがなかった。事務所の戦略は女マネージャーの規定路線を走るだけである。
「アイドルあみという知名度にオンブにダッコされてのぱくりコピー。騒ぐだけ騒いでもらいたくなるわ。宣伝広告費用は0円だもん」
マネージャーは電話を受け取り笑いが絶えない。
「芸能関係者はこれでよい。次は一般のあみちゃんファンね。インターネット掲示板とブログサイトで偽あみちゃんのファンに取り込みたいの」
ここに話題を提供していけば初歩の営業段階はクリアされる。
女マネージャーはインターネットの力を信じていた。アイドルに熱を入れる奴なんてろくろく一般社会で生きていけない部類だと決めつけていたのだ。
ネットサーフィンを繰り返し試みる。ポータルサイトに登録をしアイドルあみをクリックをすると同時に偽あみのソックリさんににもアクセスするようにカラクリを仕掛けておく。
マネージャーがパソコンに向かいカラクリを仕掛けようかとすると。
「あら?マニアは早いわね。偽あみ写真はまだ公開してないけど」
堂々と偽あみちゃんの写真が公開をされていた。マネージャーの事務所サイドの正式偽あみ写真公開は翌日である。
マネージャーは目を凝らした。
「この写真はどっちらなの。(真)あみ?うちの(偽)あみ?本物かソックリか。マネージャーの私でもちょっとアッハハわからない」
どこから入手したのか偽あみちゃんのソックリの写真だと公開である。マニアは侮れない存在である。"真あみ"を"偽あみ"として張り付けてきた。
事務所の電話は鳴りっぱなしである。マスコミ取材の申込みは後を絶たない。さらにインターネットではアンダーグランドなサイトから流れてきたマニアの賛否の声がガンガン書き込まれる。
インターネットに関してはマネージャーしばらく静観の構えとする。
「真偽あみの賛否は両論だと言われているけど。アイドルあみちゃんのファンからしたら苦情ばかりでしょ。アイドルあみが可哀想だ。なんの恨みからあみちゃんを晒し者にしなくてはいけないのか」
マネージャーの思ってみることはダーティなことばかりである。
「挙げ句の果てにソックリ偽あみを裸にしてなんで晒者にするんだとか。だいたいそんな程度だと想像がつくわ」
しかし世の中というものはわからない。世間はわからない。いやアイドルあみのファンとはわからないものである。
苦情電話の類いはあまり鳴らなかった。これにはマネージャーもスカを引いた気分である。
だがネット上は賑やかであった。ガンガン偽あみちゃんに対して苦情が書き込まれた。
あんな可愛らしいアイドルあみに偽はいけない。
あみちゃんのパクリやモノ真似は止めろ。汚らわしい。
かなり攻撃的な書き込みが偽あみの存在を許せないとズラリッ並んだ。
ネットを覗きマネージャーは唸る。
「このバーチャルな世界では誰でも威張れるのね。現実に電話で事務所まで文句を言えば口ごたえされると思うのかしら。だから匿名な世界でだけ元気なのかなあ。なにもくどく言わないつもりなのに。ネットはオタク文化なのねアッハハ。もっと本音を書き込みしてちょうだい」
女マネージャーはさらにインターネットを利用してやれと批難も中傷もウエルカムである。
偽あみちゃんブログを立ち上げた。ブログには直接アイドルあみのファンが書き込みをしてくる。
「さあこれを貴女に管理してもらうわよ。貴女は自分で自分の考えで毎日コメントの管理をしなさい。貴女は女子高生なんでしょ。国語の試験は成績よかったの」
女子高生時代にインターネットは閲覧こそすれ発露の側になることはなかった。
「これくらいのネット環境扱えなくてどうするの。貴女は芸能界に入るタレントさんなの。激励をしてくれる有難いファンに応えなくてはいけないわ」
有難いファンとはアイドルあみの熱烈な若者である。
「いかなる過激な書き込みがあっても大丈夫ですからね。なにも怯むことはない。あくどい誹謗中傷は刑事告発してやるだけなんだから。あなたは決して逃げない。すでに真偽あみ戦争は始まっている」
マネージャーは偽あみに諭す。
「この勝負を仕掛けたのは我々の方なの。正直に言うわよ。道義的にも社会的な立場からも悪いのは我々よ。(真)あみに名誉毀損や芸能活動の損害賠償を求められたら立場はないと思いなさい」
強気な発言とは裏腹なマネージャーである。
「だけどアイドルのパクリやまがい品なんて昔からいくらでもあったわけよ。タレントの物真似芸人とかソックリさんとか。偽物と偽者は区別がつけられないわ。別に気にする話ではなくてよオホホッホ」
女マネージャーは偽あみに携帯サイトを提示してやる。Livedoor/mixiに偽あみのブログを立ち上げたことを示した。
「貴女だって芸能人のことに興味あるわね。だったら偽あみに興味のあるファンにしっかり応えてあげなくちゃ」
もう少し様子を眺めてから順次ブログは増やしてやりたいところだった。
「携帯サイトのやりかたぐらいわかるでしょ。ブログはとても効果的な宣伝になるの。ファンからの声もすぐにわかるの」
マネージャーの偽あみ売り出し戦略としてメディアに露出させたくはないと思う。あみのソックリ偽物だとはいえその素顔は引っ張れるだけ引き延ばしておきたい。写真以外の実像は出したくないと計算していた。
その計算の裏には女マネージャー自身の苦い経験が根底にあった。女マネージャー自分自身がアイドルとして売り出しに失敗していたのである。
自分自身が売れなかったのは事務所が悪いと思うフシがある。
「だから事務所はちゃんと計算しアイドルを売り出してやらないといけない。適当な時期にデビューさせ時流に乗るなんて考えたら大きな間違いよ」
アイドルあみのファンに偽あみはは、まだよ、まだ姿を見せてあげないわよっと出し惜しみをする。アイドルあみちゃんにどれだけ似ているのか。
「本家アイドルあみちゃんよりも偽あみはカワイコチャンではないかと思わせをしてやる。メディアに登場させていないからいくらでも男の想像を掻き立てさせ妄想させてやる」
アイドルあみに似ている似てるとの噂はどれだけなのか。
偽あみと言うが実際にどの程度似ているのか。
「あみのファンならお尻モゾモゾとして知りたくてたまんないはず」
オタク文化の主役お坊っちゃんにオナペットとして君臨するのは果たして誰か。
「夜の友は(真)あみか。偽あみか。ネクラ文化がとことん悩むまでやらせたいアッハハ」
キラキラ光輝くアイドルとて男の性欲の立派な捌け口としてそこにある。ファンの男の子が口にしなければどんな女とて似たり寄ったりオナペット扱いである。
マネージャーの開設させた偽あみのブログはスタートした。すぐさま反応がある。ページビューに"アイドルあみちゃんに酷似"とあるため検索にヒットした。
反応は瞬く間にあみのファンの話題となって沸騰していく。インターネットのアクセスランキングを駆け上がり偽あみはブログの女王になっていく。
偽あみ自身は差し障りないことを普通に書いたつもりである。何も真偽あみの戦いを持ち出すつもりはない。
マニアの仕業は困ったものである。イカガワシキ掲示板に写真入りでトラックバックをさせられてしまう。偽あみの存在は至るところに知らされるハメとなった。
(偽あみページに写真掲載は一切なしである)
当初には誹謗中傷だらけの書き込みが偽あみに押し寄せた。偽は消えてくれっと来た。アイドルあみの熱烈なファンである。
愛してやまない僕らの女神を侮辱しないで欲しい。
大好きなあみになんてことしてくれる。
あみちゃんはしっかりした芸能人なんだから活動を邪魔しないで欲しい。
あみちゃんを悩ませて何が面白いのだ。名誉毀損で訴えてやる。俺は法学部だぞ。
偽物は消えろ。
いい加減に馬鹿なことはやめろ!
あみに謝れ。裸になってくれたら許してやる。
不愉快だ、殺すぞ!
偽あみにはとても耐えられない論調がゴタゴタと並ぶ。だがマネージャーはどこ吹く風かである。
「あらっこんな程度だってさアッハハ。だいたい想像できる範囲の悪口だわ。誹謗の限度内に収まりましてよ。なんか拍子抜けしちゃうなあ」
マネージャーはまったく応えていない。というのも他のタレントの担当マネージャー時代にかなり攻撃的な中傷を経験をしていた。
「もっと凄い書き込みはないの。私がヘェ〜とのけぞり返るような過激な中傷はこないかなあ。今後が楽しみだわアッハハ」
女マネージャーは予測された書き込みにまったく動じない。心中はわからないが平静を装っていた。辣腕振りを見せないと芸能界では生きていけないようである。
嵐のような書き込みはワアッ〜と押し寄せピタッと収まる。一通りに偽あみを誹謗中傷がされたらブログに平和が訪れた。
「偽あみを攻撃していたのはオタク文化のお坊っちゃんだけだったのかな。数がしれていたから弾切れをしてしまったかな」
悪口もネタがないと継続はしないようである。
誹謗の嵐が去ると偽あみを讚美するコメントが芽生えてくる。じわりっとファンがついてくるようであった。
ソックリさん頑張ってください。
応援しています。
掲示板で貴女のカワイコチャンな写真を見ました。本当に可愛いですね。
一発でファンになりました。
(写真類いは一切公式に公開していないはずである)
これからAV女優でデビューというセンセーショナルな宣伝文句はコアな"アイドルあみのファン"の心を揺り動かしてしまう。
女マネージャーの目論見は当たってしまう。しかも的のど真ん中である。
「アイドルあみのファンはあの真あみの顏が好きなんだね。だから偽モノソックリさんであってもなんでもファン心理に惹き付けられていくのよ」
誹謗をしていたファンも気分を変えたのか、諦めたのか偽あみを応援してくる。
「本家あみだけでは我慢しない。出来たらソックリさんもパクリも応援をしてこそアイドルあみのファンと呼べるのよ」
マネージャーは勝手な想像をしていく。タレントと物真似芸人の組合せはいくらでも前例がある。
「こちら偽あみは本家アイドルあみに顔が似ている。だから真偽あみちゃん達を長く見ていたら考えは変わるわ。真偽のどっちがどっちの問題ではなくなってしまう。最後にはアッハハ両方好きだと結論に収まるのが理想的なことよ」
偽あみの応援歌はまだまだ続く。
ソックリAV女優になぜかしら同情してしまう。
アイドルあみと対等に可愛いいと思う。
かわいい娘さんが脱ぐなんて堪えられない。なんとかやめてくれないかなあ。
AV女優やらされて。嫌なら嫌と言わないと。
脱ぐな!
アイドルあみが脱いでしまった錯覚をしてしまう。
マネージャーはニヤリッとした。
「これよ!これ。偽あみに同情を集めていくことを狙いたいわ。はっきり言いましょ」
女マネージャーは来た来たとしたり顏で言葉を続ける。
「ソックリさんを応援して人気が出たら」
この点が大切であった。
「本家より人気が出たら脱がなくても済むと匂わせていくの。あんなにいたいけな女の子を嫌々脱がせることはできないとファンに思わせたいの。ファンの応援がすべてになる」
マネージャーは得心をする。
「なんか怖いなあ。私の打つ手打つ手がズバズバ当たる。あまり調子に乗ると梯子を外された時が大変だわ」
事務所はAV女優デビューと芸能週刊誌にセンセーショナルに宣伝をしている。だが女マネージャーは鼻っからAV女優としての商品価値を偽あみに見い出してはいなかった。
その証拠にビデオ撮影の具体案を企画立案して会社に出さない。マネージャーの頭に脱ぎは最終手段と考え今のところ不要ではないかとした。
あみのソックリさんデビューのプロセスは(清純派な)写真集をスタジオ撮影したのみである。
将来にはどうなるかわからないが今は清純なイメージだけを前面に押し出していく。
「今はブログを見てファンの反応を確かめたいの。偽あみにどんなことを期待されるのか知りたいの。そりゃあ真っ先に脱げというご希望もあるけどね」
偽あみファンからの声援ブログは好意的なものが増えていた。
ソックリさんは脱がなくてもいいでしょ。こんなにも可愛い女の子を(まだ写真出していないのに)脱がすだなんて残酷だ。
AV女優デビューをさせるなんていやだなあ。
なんとかAV女優にだけはさせたくはない。なんとかならないか。フアンとしてできるだけのことをして阻止したい。
真あみのフアンと偽あみフアンがうまい具合に意見の一致を見てくる。
「ソックリさんに同情が集まるわね。偽あみを脱がすな。オタクなお坊っちゃんには死活問題にまで発展しそうね」
AV女優にならないでもらいたい。
どうしたら脱ぐことをやめられるか。
事務所にかけあいたい。フアン心理を理解されたら脱ぐことをストップだ。
マネージャーはヒートアップなブログを見つめた。
「そこまで偽あみを盛り上げたいの。まだ正式にデビューもメディアにも登場させていないというのに」
男の子って理解に苦しむ動物だなあ。
「わからないのがアイドルあみよりも偽あみがいとおしいって思うこと。アイドルとマガイ品を比較をして思わせ振りをしながら盛り上あがるんだから」
偽あみに気運は上がりである。世に言う追い風が吹き始めていた。
マネージャーは次の手を打つかと作戦を練る。これからは真偽あみともフアン心理を考えていかなくてはならない。
「偽あみを脱がす必要がないとわかれば真あみと区別がない。フアンからは同情は受けなくなってはまずいのね」
常に真偽の両極に存在をしてくれなければいけないあみちゃん達。
「マネージャーの私としては考えてもいい」
共存共栄なる離れ業を真偽あみにさせてやりたい。
ブログにその心境をちらほらと書かせてみた。原文はマネージャーが構築してはいる。
「私の所属事務所が言うにはね。私(偽あみ)の人気が出たらAV女優は勘弁してやるって。嬉しいことは嬉しいのね。でもなあっ私は複雑なのね。たいした芸がある女の子でもないし」
脱ぐのは嫌っ。だけど脱がなくては事務所に申し訳ないと複雑な心境を綴らせた。
「人気があれば。なぁ〜んて言われてますウフフッ。私は夢見て芸能界に入るの。フアンの皆さんが楽しくしていただければ幸せです。でも無理ね、だって私人気ない女の子だもん。アイドルにほど遠いの。華やかな世界で目立つ性格でもないもん私」
脱がないのが一番素敵よね。誰か助けて!キャア〜
ブログの論調は敵に捕まったカワイコチャンお姫さま救出作戦であった。
「同情されて行きなさい。オタク文化なお坊っちゃんにどんどん同情されなさいな。偽あみちゃんのあなたを救いたい。王子様となって助けてあげたいの声をファンとして取り込むのよ」
ブログの声援がキーポイントである。マネージャーはフアンの男の子のなまの声が気になって仕方がない。偽あみ(清純な)写真集の発売日を決める際にはブログのコメント状況を参考にしたくらいである。
印刷部数も男の子の反応を考えて増刷させた。女マネージャーは売れると踏む。
「写真集は発売のタイミングが大切。写真集みたいなもんは軽く考えてしまうの。アイドルあみの物真似だから個性目新しさもないの。怖いもの見たさに買う面もあるかもしれない。すぐ見飽きてゴミ箱にポイッ。だから一番効果ある時にポンと出したいの。ワアーと馬鹿売れして勢いのある時にねアッハハ。このタイミングは何時よアッハハ」
ブログは公開素行調査に利用された。もっともフアンに注目環視される時期を見定めていく。
ファンの声は日増しに高まる。華奢でかわいらしい女子高生をAV女優に仕立てるだなんて。なんとか回避に努力したいファンたち。
所属プロダクションが悪いんだからもっとまともな事務所に移籍させよ!アイドルあみのプロダクションに行かせよ。ふたり揃ってタレント活動させよ。
「ホォ。事務所が悪者になったというわけか。事務所がよろしくやらなければソックリもなにもないんだけどね。なになに同じ事務所?いいアイデアじゃない、アッハハ。アイドルあみがこちらになびいてくるかいアッハハ」
ブログの世界の住民ブ
ロガーはAV女優デビューをなんとか食い止めたいと思う。偽あみにやらせたくはないと必死だった。
あくまで清純にして華麗なグラビアアイドルで売り出してもらいたい。ビデオの中で優しく微笑む可愛い女の子でいて欲しい願望を訴えた。
切なる思いのフアン心理はブロガー仲間にやがて浸透し一致もしていく。
この素直な性格な女の子。清純な心を持つソックリさん。彼女だけは強制的にもソフトにもAV女優にさせたくはない。
アイドル偽あみを脱却しアンダーグランドな状況から守れ。
敵の城に捕まるお姫さま救出キャンペーンはうねりを持ち始める。
やがて偽あみはイメージ先行と化し芸能週刊誌に記事となっていく。女マネージャーが知らない囲い記事となった。
アイドルあみの偽あみちゃんは清純派だ。脱がなくてはならない女の子は大間違いである。
週刊誌の中吊り記事に小さいこととして書かれていた。
「デビュー前のソックリさんは女子高在学中に(事務所に)スカウトされる。元来はいくらかのタレントオーディションに応募したが夢が叶わなかったタレント志望の女の子だった。今の事務所の意向としてAV女優に無理やりさせられた。いや今からさせられるところだ。脱がす前に助けたいと彼女のフアンは結集している」本人は生まれながらアイドルあみに似ている。可愛い女の子として学校では人気である。
明日のアイドルを夢に見た女子高生を迎え入れた事務所の方針からAV女優になりなさいと言われた。脱がなくてはデビューさせない。なかば強制であり本人は不本意そのものだった。
芸能週刊誌はつまらない囲い記事であった。裸やゴシップが読者の最大なる関心事に違いないのに。デビューをする女の子がアイドル路線になろうがAV女優になろうがどうでもよいのである。
世間の受けは違っていた。三流週刊誌の囲い記事程度の論調にコアなアイドルあみのファンが躍起になってきたのである。
彼らはアイドルあみにゴシップを流されたら堪らないと監視をしている存在だった。
偽あみの天下が来てはいけないと真あみの逆襲が始まる。