穏飆(真あみ)
売れっ子タレントのあみ。カワイコチャン歌手タレントとしてデビューしじわじわと人気が出ていた。
デビュー当初から所属する事務所はあみの売り出しにかなりの資本投下をなし優秀なマネージャーをつけていく。
芸能界での経験の豊富さはタレントの管理運営すべてをマネージャーひとりに任せられるものであった。
「私が誠心誠意あみのマネージメントを執り行います。必ず明日のスターあみちゃんにさせてごらんにいれます」
このマネージャーは国立大学法学部卒業のエリートである。父親は芸能界とはまったく無縁の司法書士。法学部に進んだ息子に家業を継いで貰うことを楽しみにしていたようだった。
だが息子は法科は性に合わないと芸能界に飛び込んだ。
子供たちに夢を売る商売が芸能界が興味を惹き身を投じることにする。
就職をしたのが芸能プロダクション。職種はタレント歌手のマネージャー業。テレビやラジオに踊らされてかマネージャー募集の広告に数百という応援があったらしい。そこを難関を見事に突破して今がある。
テレビのなま放送歌番組に出演する売れっ子タレントあみ。スタジオの片隅ではマネージャーがしきりに時計を気にして携帯を掛けていた。売れっ子あみのスケジュール調整に手間取っているようだった。
歌番組はなま放送であるため滞りなく順調に進行をしていく。
番組途中に遅刻してスタジオ入りしたあみは幕合いで待機をする。司会者から名前を呼ばれての出番を待つばかりである。
あみの横にマネージャーがつく。ちょっとした化粧の直しと衣裳の乱れを気にしていた。
「歌は生番組だからすぐ終わる。今日も疲れただろうがテレビを見るお茶の間のファンのためにも頑張れよ」
マネージャーは汗だくである。(あみの)本番数分前にスタジオ入りを果たしなんとか穴を開けないで済むという過密スケジュール。遅刻をしたことは番組のディレクターに平謝りをして穏便に済ませたい。
売れっ子タレントのあみはマネージャーの激励にハイハイと答える。過密スケジュールの結果はマネージャーでなくともあみ本人がよく知っている。
あみとて疲れた今歌なんかどうでもよかった。テープでも回してもらい喉に負担を掛けず済ませたい。いち早く仕事を済ませたらゴロリとベッドで眠りたい。
あみの夢はたったひとつだった。朝からごろ寝で一日過ごすことです。マネージャーには冗談めかして答えていた。
毎日のハードスケジュールを精力的にこなすアイドルあみ。マネージャーは健康を気にしているが疲労感から音をあげたことなど一度もない女の子である。
「なま番組は時間の枠キッチリ終わってくれる。それはそれでいいんだけど」
幕合いでマネージャーが忙しくあっちこっちに携帯を掛ける。売れっ子アイドルのあみが司会者に呼ばれる。歌謡番組の本番時間が来た。マネージャーは携帯を離すことなくあみを送り出す。
あみがスタジオに姿を現すと満員の観客に大拍手をされる。その場にいた歌手の誰よりも拍手は大きく響いた。いかにも人気のある若々しいタレントであった。
あみはペコリと頭をさげ司会者と軽妙な会話を交わす。笑顔を振り撒きスタジオが明るくなる。カワイコチャン歌手あみの面目であった。
司会者の曲紹介にあみはステージに出る。スタジオのライトは消されあみだけにピンスポットが当てられる。華やかな女の子はきらびやかなスポットライトを全身に浴びる。
オーケストラはタイミングを見計らいあみのヒット曲を奏で出す。あみは踊り出す。この瞬間からあみはスターの輝きを放ち心底歌を愛するアイドルであった。
スタジオのオーケストラはあみのデビュー曲を真剣に演奏する。作曲家が楽曲に手を入れ素直な音符、演奏のしやすい譜面で曲を仕上げていた。
あみは歌い終えるとオーケストラをバックに満面の笑みを称える。疲れたも何も吹っ飛びデビュー曲を熱唱できた喜びがあった。スタジオ内はあみだけの世界である。観客席の若者たちはスターのあみに酔いしれ惜しみない拍手を送った。
あみ〜あみ〜あみちゃん
間奏であみのフアンクラブが声を揃えてラブコールを放すほどである。あみは益々気分をよくし深々と頭をさげ拍手に応えた。
スタジオの袖で待つマネージャー。あれだけ疲れたあみをステージにあげてハラハラドキドキである。売れっ子あみは殺人スケジュールの真っ最中。熱唱なんかされたら疲れからバタンキューと倒れてしまわないか。拍手なんかどうでもよい。早くスタジオから出て次の現場へ行きたい。
マネージャーはせわしなく時計を見た。一分も一秒もスタジオを終わりたいだけである。幕合いで心配するマネージャーの姿を見越して歌番組は時間通りに終わりそうである。
番組の最後は出演者の中一番売れっ子のあみが2曲を歌い踊りを披露する。
マネージャーが貰った台本には司会者とちょっとした寸劇コントをして笑いを取るとある。あみと司会者の掛け合いがあり番組スポンサーのヨイショを言う。これが番組のエンディングのようだった。
番組進行はベテランの司会者。
経験豊富な司会者のお陰でタレント出演者達は慌てふためくことなく自分の持ち味を出すことができる。司会者の話術にうまく乗せられ気持ちよく歌い歌手タレントの個性をうまく引き出し番組の進行がなされていく。それがいつものスタジオ風景だった。ベテラン司会者は芸能界に長く人望も厚い。知り合う芸能人に信頼もされ目をかけてもらえることは芸能界に長く君臨できる可能性が高い。
番組終了後であった。ベテラン司会者はあみのところにやってくる。これから伸びてくる新人歌手に司会者は何か言いたいらしい。
「あみちゃんのフィナーレはよかったよかった。僕が少し強引に話をスポンサー寄りに持っていって失礼をしたね。これからは気をつけていくよ」
ベテラン司会者が新人歌手あみに謝りに来たようである。
「しかしあみちゃんのデビュー曲はなかなかいいね。オーケストラもノリノリだった。このまま売れっ子街道まっしぐらだ。日本の芸能界を明るくしてよっ頼むよあみちゃん」
あみとマネージャーにヨイショをしてみた。
「さあスタジオを去る前に。あみちゃんはやることがある。オーケストラにありがとうと一言しておきたまえ」
オーケストラに挨拶しないタレントはあみだけだぜとこっそり耳打ちをし笑いながら控えに消えた。言われたあみは全身が凍りつく。ベテランの一言は重厚な思いである。
あみはピョコンと舌を出しおどけた。以後気をつけていきますと爽やかに笑ってみせた。
エヘヘッ
新人あみは売れっ子タレントである。それも歌手だけがあみのタレント活動ではなかった。この夕方拘束の歌番組の後にふたつもタレントとしての仕事が入っていた。マネージャーは歌手衣裳のあみをせわしなく抱き抱え次の現場へ直行したいところである。
次の現場へは時間キリキリと思える。オーケストラに挨拶が"余分"であるからつまらない。
忙しいだけの毎日が夜まで続くあみ。あみは多忙で疲労もピークである。
「お疲れさまです。さあさあ忙しい忙しい」
番組終了のスタッフへの挨拶と余分なオーケストラ挨拶をこなした。
スタジオ内にいるタレントやディレクター全員に頭をさげてアイドルあみは走り回る。あみはマネージャーの元に走る。一刻も早く次の現場に行かなくてはならない。
マネージャーはあみを手招きしクルマに急がせた。
「あみちゃんご苦労さん。今晩はなかなかいい声が出ていた。この調子なら年末はスケジュール空けて歌謡大賞受賞を待つか。さあ、急いで急いで」
クルマに飛び込んだ。後部座席であみは大きくため息をつく。マネージャーに見えないように溢れ落ちる涙を拭く。
アイドルあみの次の仕事はラジオ局のトーク番組である。時間が押したあみは衣裳の着替えもできない。
クルマの中でマネージャーからサンドイッチをもらいパクパクする。車中の移動で腹ごしらえをするしか時間がない。サンドイッチより喉を潤す牛乳やコカ・コーラが有り難かった。
「まったくね。今日は朝からろくに食べていないわ。あみはだから太れないんだけどさ。あっ、マネージャーさん。コカ・コーラない?コーヒーでもいいわ」
アイドルのあみがサンドイッチを三口胃に納めたらクルマはラジオ局に到着してしまった。コカ・コーラはゴクンと一口。缶コーヒーはプシュとプルタップを引いただけだった。
クルマの到着後食べ物飲み物を手にすることはなかった。アイドルはムシャムシャと食べ物を取らない。
ラジオのトークはあみがリラックスできる数少ない番組である。歌謡衣裳のままあみはスタジオに突入する。
「トークはいいわね。だって歌やドラマと違って好きに喋れます。リスナーとの距離も葉書やメールで実感ができて大好き」
ただサンドイッチが食べる時間がないのが残念なことである。
ラジオ番組はあみの冠番組となっている。スポンサーがあみのフアンクラブに問い掛けてリスナー獲得に働きかけなんとなく身内意識である。
喋りの素人はあみである。いくら売れっ子タレントであろうが話の内容に面白さがなければ番組はもたない。
そこであみの個性を引き立たせるベテランのアシスタントをつけてもらえた。
ラジオパーソナリティーを長年務める中年の局アナ。年齢からはあみの父親ぐらいでありパーソナリティーは親孝行な娘さんという暗黙の了解である。
パーソナリティーの誘導は大変にうまく娘役のあみは頭を使わずスラスラとトークし番組進行ができる。時折パーソナリティーをお父さんとわざと呼んでみたりして人気に拍車が掛かる。
パーソナリティーは歌謡衣裳キラキラのあみに面喰らう。忙しいことは承知の世界。そのうちビキニ撮影のまま飛び込まれるんじゃあないか。多忙なタレントは大変だなあとだけ思いすぐさま番組に入る。
「あみちゃん今日は乗っていますね。なにかいいことあったかな?なんだろかハイテンションは気になるなあ」
誰だってきらびやかな衣裳のままスタジオに飛び込まれたら少しは気の迷いが生じる。
いいこと?
この問いにあみは慎重になる。若いあみのいいことは男ができたとか恋がどうしたこうしたである。世間の女の子なら恋話で盛り上がりそう。
だが男関係はアイドルに御法度だった。口が裂けても冗談でも放送では言えない。
いいこととはなんだろうかなあ
そこはアイドルあみである。男の話は一切タブー。切り返してみる。
「いいことって?お父さん。あらっ私あみの誕生日が近いことかしら。ウフフッお父さんからの誕生日プレゼントが楽しみですわ」
あみはトンチを利かせ話題をはぐらかす。いつもの父娘のトークである。
キョトンとして話が理解できないパーソナリティ。誕生日ときたか。
ピント外れなトークをまとめておかなくてはリスナーが満足をしない。そこで救いの手を差し出した。
「たぶん今月出した新譜が好評だと言うことですねアッハハ。ではあみちゃんの新曲をどうぞ」
曲がかかるとパーソナリティと綿密な話に入る。
パーソナリティーは変な話題をあみに振り申し訳ないと謝った。
「次のコーナーは葉書やメールのお便り拝見だよ。受け答えはいつもの調子でね。疲れたかなあみちゃん。もう少し我慢してね。曲は次はポップス歌謡でいくよ」
あみはパーソナリティから問い掛けの予習をしてみた。いずれもぶっつけ本番ばかり。パーソナリティーが意図することを理解していなくてはならない。
「はいはいわかりました。お父さんから聞かれることは何でもちゃんと答えますわ。好きな食べ物と服の色はいつも大丈夫ですわ」
本番放送は始まる。パーソナリティーはテンション高めにあみを笑わせて葉書メールコーナーをこなす。
あみは葉書のひとつひとつにケラケラ笑ってリスナーの期待に応えた。ケラケラの笑い声がリスナーにはたまらなく魅力である。
「あみちゃん。今夜は絶好調さんだ。もうひとつ行こうか。メールリクエスト。あみちゃんを街で見ました?なんじゃあこれ?エッとなんてなんて書いてあるんだ」
パーソナリティーは変な葉書を読んだなあっと舌を出す。
ただちに曲紹介をし時間稼ぎにコマーシャルを挟むことにする。
うっかり読んだメール。あみを街で見掛けたその内容をろくろく理解する時間なく曲は終わってしまう。
コマーシャルスポットが終わりパーソナリティが喋り始める。あみを見掛けたのフレーズはパーソナリティーの判断で封印し"無視"を決めた。
「さてここでリスナーの皆さんからのあみちゃんに対する質問をお受けいたしましょう。まずはあみちゃんね、好きな食べ物を教えてください。お葉書は中学2年の方からです」
聞かれたあみは何もなかったかのごとくリスナーの質問に答える。
かわいいらしい食べ物は全部好きなのよと余裕を持って答えた。リスナーの中学が憧れるように精一杯考えてのお答えであった。
「なるほどなるほど。かわいこちゃんあみちゃんらしいお答えでしたね。続きましてはメールから行きましょう」
ラジオ番組は無事終了をする。
ディレクターがキューを返すとパーソナリティーは汗だくになり番組を終えた。なぜか知らないが取り返しのつかない発言をしたような恐怖感を味わう。
翌週のあみのラジオ番組からパーソナリティーは慎重に葉書とメールをチェックした。その中に再度あみを街で見掛けたとメールがある。送信者をしっかり確認してメールを読む。
先週メールをした者です。なぜ途中まで読んで無視をしたの。不愉快だわ。あみって悪い女の子なんだね。タレントだからってお高く止まってさ。
誹謗中傷である。パーソナリティーはアチャアと驚きメールを採用しざるをえなくなる。再度無視したら大事の予感がしてならない。
「こんなものが来ています。こちらのあみちゃんを街で見掛けましたよとメールです」
メールの主はあみのファンという女子高生だった。
駅で女学園の制服でいるあみちゃんが通学しているのを私は見ます。
「とまあこれがメールの内容ですけど。あみちゃんこれは完全な人違いですね」
パーソナリティはあみに話を振る。あらかじめ用意した答えを聞くだけだった。
メールの中の街とか女学園高とはまったく関係がないと言わせるためである。
「ええっそうですね。あみはその街と関係ないわねぇ。そうそう女学園高って制服が素敵な学校なんでしょう。あみも女子高生に戻って女子学園の制服着てみたいなあ。だけどその女子高生って素敵なお嬢さんなんでしょうね。女子高生でいてはもったいないなかったりして」
リスナーの気分を損ねてはいけない。せっかく街であみを見掛けたと報告をしている。差し障りなきようにしなくてはならない。パーソナリティーはかなり気を使う。
芸能人にそっくりさんは憧れの現れでもある。似ていることがステータスである。
「そう言えばあみちゃん。最近ドラマで可愛い女子高生役してましたね。あの女子高生制服姿がイメージとしてダブります」
あみちゃん女子高生はドラマの中ですよ。リスナーはお間違いにならないようにしてください。
あみ似の女子高生が駅にいたからっとパーソナリティは結論づけた。
「世の中似た様な女の子方がたくさんいらっしゃいます。メールを送ってくれたリスナーの方。女子高生の写メも一緒に送ってください。アイドルのあみちゃんに似ているというとかなりのかわいこちゃんですからね。僕としても写真見てみたいなあ」
アイドルあみちゃんのラジオ番組は終わった。
「ふぅ〜やれやれだったな。タレントに似ているなんて相手にしていたらキリがない」
ベテランパーソナリティは汗だくである。このリスナーは粘着質なやからでないことをつい祈ってしまう。
あみは笑顔でパーソナリティにさようならを言う。お疲れ様を言いながら次の仕事場にマネージャーと急いで向かう。売れっ子あみは一刻が大切である。
そろそろ時計の針が零時を迎えようかである。あみは疲れもピークとなる。
「最後は写真撮影の仕事なんだ。眠けマナコで撮影されたらCMクライアントが怒ってくるからね。シャキッと行こうか。あみの笑顔を最大に振り撒いて。ハイッチーズして今日はおしまいだ」
マネージャーのアドバイスをあみはアワアワァーと大きく欠伸をして聞く。眠気を払いスタジオに入る。
スタジオに入ったらシャキッとしメークに臨んだ。深夜だろうがなかろうが。タレントあみのファンは写真集を楽しみとしている。
撮影は始まる。スタジオは手馴れたスタッフばかり。カメラマンは深夜にも関わらずテンション高く撮影をする。さすがはプロである。駆け出しのタレントぐらいいとも簡単に扱い撮影はアッという間に終わる。
「やれやれだわ。撮影終わったのね。これで長い一日のおしまい。アワアワッこれから眠れるわ」
あみのコマーシャル写真撮影はあっさり簡単に終わる。カメラマンが深夜にまで及ぶ労働が嫌であったようだ。
帰りの車中であみとマネージャーはお疲れ様とお互いを労う。
「早く眠りたいなあ。ねぇマネージャー。ラジオの収録気になるわね。私に似ている女子高生がいるあの話。街にいた女子学園の女子高生って。なんだろうかなあ」
あみは気になり出す。車にあるノートパソコンを検索してみる。
「へぇ女子学園って御嬢さん学校なんだね」
いずれにせよアイドルあみにはまったく関係のない街にそっくりさんは出現をした。心あたりもない女子高生の存在であった。あみとリスナーの街は縁もゆかりもなかった。
翌週アイドルあみはラジオ番組に出演をする。あみがこんにちはと挨拶をしながらパーソナリティと会う。
「あみちゃん。先週のあみちゃんへのリスナーからの質問はまだ覚えている?あの埼玉の女子高生があみちゃんにそっくりだと言うやつ。あれからさ女子高生の写メ送ってきたよ」
パーソナリティの差し示したパソコン画面に目をやる。
えっ!
アイドルあみそのものが画像として写し出されていた。そっくりどころか本人に見えるではないか。
パーソナリティはあみが驚く様を見て続ける。
「だけどね。あみちゃん。これがアイドルあみのそっくりさんなのかと簡単には言い切れないんだよ」
コピーなどいくらでも出回る時代。そっくりさんだと言い張り巧妙な合成写真トリック写真の類いを送りつけた可能性が高い。
「本当にそっくりさんなのか。写真の真偽はよくわからないんだ」
パーソナリティから写真はプリントアウトされあみのマネージャーに手渡された。
「なるほどね。この写真をみたら完全にあみですね。本人にそっくりだ。マネージャーの私に本人だと言わせるくらいに似ている。本当にまかり通りそうなくらい酷似ですね」
マネージャーはさらに写真を拡大コピーしてもらう。プロダクションにひとまず戻ってみる。もしこのあみのそっくりさんが実在したらどうなるか。プロダクションの事務所でシュミレーションをマネージャーはしたかった。あみのそっくりさんの使い途はかなりあるのではないかと怪訝である。
事務所に帰って早速営業担当から宣伝から集まる。カメラマンもいて盛んに写真の真偽を語り証すことになった。
まず最初に本職のカメラマンは意見を求められた。
「写真のプロとして見てみます。プリントは少々不鮮明なところがあります。あみの合成かそっくりさんの本物かわかりかねる面があります。この程度の解像力写真ならいくらでも修正加工できますから。うーん偽かもしれないけど。分かりにくいですね。正直に言ってお手上げ。僕の判断としてはわからないですね」
あっけなくプロが陥落してしまう。わからないものはわからない。
写真の真偽で困ったのはプロダクションだった。今の時世にアイドルに似ているといろいろと不都合があることを知っていた。
「先日よそのタレントさんがその手のそっくりのために多大な迷惑を被っている」
アイドルタレントに憧れて美容整形をしてしまう女子高生。
整形そのものは個人の自由だからとやかく言うこともないがそのそっくりの使い道がまずかった。そっくりさんとして二番煎じタレントになるつもりであったらしい。そっくりさんがそのままAV女優になる。このパターンは純情可憐路線で売るかわいこちゃんアイドルあみにはかなりの痛手になってしまう。
マネージャーが知る限りでもアイドル似AV女優がそっくりさんとして世にかなり出回っているのだ。
「まさかなあ、あみがAV女優うりふたつに見舞われるとも限らないが」
やられないとも限らないのであった。
「埼玉か。近いところにあるわけだからな」
マネージャーは背に腹はかえられぬと興信所を使って調べてみる。あみのそっくり女子高生を探すことにした。調査期間は最長一週間。どんな素性の女なのか特に知りたかった。
「まっあね。そっくりさんが実在したらの仮定だが」
待ちに待った一週間後。興信所はお待たせいたしましたと優秀なデータをくれた。
「なになにおいおい。実在したのかこの女」
まずはその存在自体が驚きだった。
調査報告書には鮮明に写るあみのそっくりさんがいた。さらには経歴がことこまかに書かれマネージャーは読みながらつい唸ってしまう。
「こりゃあまずいなあ。瓜二つとなるといつかは芸能界に出てこないだろうか」
アイドルあみをコピーした存在。年齢こそあみが二歳上だが後のデータは似たり寄ったり。身長体重スリーサイズはほぼ一緒の数値だった。なぜスリーサイズまでわかるかと言うと。
「この女子高生はタレント事務所所属になっている」
報告書に書いてあるマネージメントの名はまったく知らない事務所だった。マネージャーはちょっとインターネット検索してやるかと端末を叩いた。
「なにが出てくるかいなっ、と」
検索はYahoo!もgoo!もヒットしなかった。というと新しい事務所ということか。それとも東京にいくらでもある有象無象の胡散臭いマガイ品の類い(アンダーグラウンド)になるのか。
「どうやらまともな芸能活動はしていない事務所らしいな。こちらも調べてもらいたいが。まっ今はよしとしておこうか。しかしだなかなり問題になる。この女の存在は邪険にはできないよ」
マネージャーは唸りながら考える。芸能プロダクション所属のマネージャー肩書きは伊達ではない。
もしもアイドルあみのそっくり(コピー)をタレント事務所に自分が抱えていたらどうするか。
「いかにしてコピー商品を売り出してやろうか作戦を考えるよ。似ていること(コピー)が売りだからこれを利用しない手はない。せいぜい利用してやるよ。本物の旨味をチューチュー吸い取れるだけやってやるさ」
その瞬間である。マネージャーに胸騒ぎがした。
なにやら芳しくない予感が後にズバッと的中してしまう。
数日後の事務所である。
「マネージャーマネージャー。見ましたか今週の写真週刊誌。ほらっこれですよ。こちらの記事にあみちゃんが出てます」
若い事務員が慌てて見せてくれた写真週刊誌だった。マネージャーとしては週刊誌にあみは取材を受けたかなっと不確かな記憶を辿る。有名な週刊誌である。あみの事務所に黙ってコメントや写真を掲載などしないはずだと思える。
手渡された週刊誌を見る。グラビア写真記事が真っ先に飛び込んだ。
アイドルあみのそっくりさん登場。ついに秘密のベールを脱ぐ。話題独占!AV女優デビューを飾る。似てる似てるあみのソックリさん
週刊誌の巻頭グラビア三段抜き記事にあみのそっくりがある。いやあみそのものがニッコリと微笑んでいるではないか。
巻頭グラビアにはあみのコピーはAV女優だと書いてある。
「なんだいこれ。単にあみの写真を焼き直しただけのことじゃあないか」
コピー写真を使って記事を構成しているとマネージャーは見たかった。さらには悪質なイタズラの一種だと思いたいものである。
「グラビア写真に裸はないか。AV女優あみが秘密のベールを脱ぐだって。ついでに服も脱ぐ。ふざけた記事だぜ」
マネージャーは憤慨しながら記事を読む。子細に読むとこのコピーはこれからAV女優になるという。腹わたは煮えくり返りそうである。
「アイドルあみにソックリか」
AV女優という分野では珍しくもない売り出しである。
「敵はコピーはAV女優できたか。AV女優のバッタもんか。マネージャーの俺がデビューから苦労をして育てあげたアイドルあみは倒されてしまうのだろうか」
目を皿にして週刊誌のグラビアを隅から隅まで読む。
マネージャーは唐突に叫んだ。
「やられたぁ〜こいつは一本取られたぜ」
大声を出してその場に頭を抱えた。
週刊誌のAV女優巻頭グラビアのプロフィール欄。例の胡散臭いマガイの事務所名が連絡先になっていた。
「あいつなのか。ちくしょう。あいつダクションにあみに似せさせられこんな形で出てきやがったのか」
マネージャーは地団駄を踏む。それからが大変だった。
AV女優という肩書きとソックリさんはひとり歩きをし始めた。アイドルあみは奇異な目で見られ清純派あみを応援したいという中高生の反応は複雑に揺れ始めていく。
テレビにラジオにあみは出演するたびにAV女優の影はあみについて回った。
週刊誌の発売と同時にすぐインターネットはブログや掲示板は騒ぎだした。
暇と余興のネットおたくの興味。あみとそのコピーAV女優の話題になる。格好のネットの餌食である。致し方がないと言えば言えないこともないが。
アイドルあみは本当にカワイコチャンなのか。
あみ似AV女優はあみよりかわいいよ。
その理由はなんだ。書き込みをしてくれ。
ソックリあみが本物あみよりアイドルタレントらしく見える。ネットの匿名はいい始めた。
瞬く間にネットの話題は"二人のあみ"。どっちが好きか嫌いか。カワイコチャンはどっちになるのか。
どっちが本来のタレントをやるべきか。どっちがどっちでもよいアンケート板が登場した。
ふたりをグラビア写真だけで比べたら大差はなかった。裸がAV女優であるだけである。後はなんら変わらない。さしたる差もないような有り様であった。そのためネット掲示板は真偽あみに順列をはっきりつけるべきだと意見噴出する。
いや甲乙をつけないで欲しい。アイドルあみちゃんはいつまでもカワイコチャンの女の子のままですよ。AV女優なんかと一緒にされては迷惑だ。AV女優をなんとかしてくれないか。
アイドルあみは直にファンから意見を求められる。
「AV女優さんとは姉妹なんですか。お父さんが一緒なんですか。教えてくださいあみちゃん」
あみに聞かれても答えようがない。
年齢差が2歳あるため双子だとは言われないものの当のあみは大変な痛手だった。まったくあみのタレント活動に困った迷惑な存在となった。
アイドルさんとして芸能界にいるあみに対し番組の収録にAV女優の話題が出るなんて。とんでもない侮辱でもある。
事務所は頭を抱えた。それまで事務所と共にマネージャーの作ったタレントあみ清純派のイメージは音を立て崩れ掛けていく。事務所一丸となって売り出した戦略からは考えられない迷惑な話であった。
中高生のファンは少なからずあみから離れていく。清純でなくなったあみに固執することもなく離れ他のカワイコチャンタレントになびいていく。
「あみって口にするのも嫌っ。あんな男の人と人前ではしたない女の子だったなんて」
一度離れたファンは戻ってはこない。
「来週のオリコンの成績が恐い。新曲を出したばかりなんだよ。日増しにチャートを駆け上がるはず」
マネージャーは最悪を想定し頭を抱えた。頭がクラクラして机にひれ伏してしまう。
「一体どうしてやればアイドルあみは転落を阻止し蘇ることができるのだろう」
長年芸能界にいるマネージャー。
「このままだとAV女優とタレントのあみは同じ土俵にあげたも同然になってしまう。世間はふたりを同じ人種と見てしまい大差ないかもしれない。厄介だがファンの視線から引き離すことは出来ない」
アイドルあみの純粋なファンにしたらコピーの存在はたまらない話だ。
テレビで健康的に歌い踊ってがアイドルあみである。お茶の間の人気は紛れもなくアイドルのあみである。
コピーなるAV女優は裸のあみの代用品である。充分にその役目を果たすことになるのが悔しいものである。
週刊誌を中心に活動をするAV女優。ちょくちょくではあるがマスメディアに登場をしてくる。コピーあみの衣裳はアイドルあみを想定したものばかりで故意に固めていた。見方を変えたらあみがAV女優となっている錯覚である。
アイドルあみに来るファンレターにはその辺りが顕著に見られた。
本気か冗談かわからないが多々混じる。AV女優が好きと宛てたものがかなり紛れこんで事務所に届く。
「こいつはどうする。あみちゃんにファンレターであるのか。いやコピーのAV女優なのか」
文面はいたって真面目なものもあれば不真面目もある。
アイドルのあみとて女の子。だから性の対象扱いになることもある。だからとしてファンの扱いは余計に厄介になる。
マネージャーは頭に来る。手塩に掛けたアイドルあみがどんどんダーティな女の子となっていくではないか。
「もういい加減にしてくれないか。まったく迷惑なんだよ。こうなったら訴訟だ訴訟をしてやる。裁判に訴えてやる。こんなバッタもんにいいようにあしらわれて悔しいぜ。情けない話だよ。まったく。こうなったら弁護士の先生に頼むぞ。こっちはなんら落ち度はないんだ。全うな芸能活動をしているだけだというのに」
あのコピーのAV女優のメス豚野郎を法廷に引きずり出してコテンパンにのしてやる。マネージャーは頭に血がのぼり切ると軽くジャンプをした。
が訴訟はやめることにする。事を荒だてたら来週のあみのオリコンチャートは大幅にダウンすることは明白だった。ただでさえ歌のうまくないあみの歌を懸命にマネージャーはオリコンチャートに入るように頑張ってきたと言うのに。
マネージャー悔しさが募る。プロダクション事務所のおかかえ弁護士にマネージャーは連絡を入れた。早々と泣きついた。
「先生。なんとかしてくださいよ。穏便に済ませたいんですけど」
穏便に済ませたい一心は凶となるか。それとも無関心さは吉であろうか。