炎飆(偽あみ)
ギリシャ神話には美と愛の女神アフロディーテ(aphrodite)が登場をする。
女神aphroditeはエーゲ海のもくずからブクブクと誕生しキプロスの守り神となる。
aphroditeとは何か。キプロスの守り神とは何であろうか。
伝説によるaphroditeは海に隣接するキプロスに降り立つと島民守護神として崇められている。
キプロスの島民により女神としてaphroditeは崇拝の対象となり聖地化が行われていく。
また豊穣を司どる植物の神。植物を司る精霊や地母神であったともいわれ生殖と豊穣を司どる春の女神でもあった。
海よりブクブク現れた一糸纏わぬ裸のアフロディーテに一目惚れをしていく。
「なんと美しいことよ。拙者について参れ」
キプロスの西海岸に女神aphroditeは導かれた。
島で出迎えたのは四季を彩る女神たち。一様に美しい島の女神らは息をハッと止めた。
「aphroditeなんと美しいこと。かような美しい女の裸を他人に見られてはなりませぬ。この衣裳を纏いなさいませ」
キプロスの島の女神たちから贈られた衣裳を纏う裸の可憐なアフロディーテはニッコリする。
「まあなんて素敵な衣裳でしょう。私にぴったりです」
裸体のaphroditeとは違う魅力があり艶やかさが加わる。
再び風の神が現れた。
「衣裳は気に入ったようだねaphrodite。ならば私と一緒に参りましょう」
aphroditeの手を取り神が棲むペロポネソス半島はオリンポスの聖地に向かう。
風の神はうきうきしながらaphroditeに言う。
「聖地オリンポスのご信託ゼウスさまにそなたをご紹介したい」
美と愛のaphroditeはギリシャの最高神絶対神なるゼウスに逢う。
「aphroditeソチはなんて可愛い神なのじゃ」
絶対神ゼウスは素敵な女神が来たと大喜び。ゼウスは女癖が悪かった。
ギリシャ神話の中aphrodite女神以外にも伝承はある。
キプロス古代文明の黎名明期国王ピュグマリオンはaphrodite(アフオリエントの豊穣の女神イシュタルやアスタルテの系譜にありギリシアのアプロディーテーや、あよかろう、ソナタにキプロスの統治を頼もうぞ。しっかりやってたもうぜ」
神の中の絶対神ゼウスからキプロスの主権を委ねられアフロディーテは島の主権者・女王さまになる。
こうしてキプロスはアフロディーテの聖地となった。
古代の地中海世界はエーゲ海の隅々にて数多くの戦争が人間たちにより繰り広げられた。
がアフロディーテの守るキプロスが凄惨な戦場になることは皆無だった。アフロディーテの聖地を争いの醜い血で汚すことは自然と憚られたと言われている。
これが美と愛の女神アフロディーテのキプロス由縁でありギリシア神話の微笑ましいエピソードと言えよう。
aphrodite!女神アフロディーテはいるんだろう。こそこそ隠れていないで出て来てくれないか。女神アフロディーテは恥ずかしがり屋さんである。
「イヤ〜ン私を気軽に呼んだりしないでちょうだい」
可愛い顔のアフロディーテは照れ屋さん。あまりにも照れ屋さん。ポッと赤ら顔な恥ずかしがり屋さん。チラッと素顔を見せるとスゥ〜と消えてしまった。
aphroditeはこの瞬間からキプロスにはいない。どこに消えたのだろうか。
アフロディーテ〜
お〜い!
どこにいったんだ。姿が見えない。照れ屋さんの女神はどこに消えたんだ。
行方不明の女神となったaphroditeである。
こちらは日本。今はゴールデンタイムである。
日本の女子高生はテレビに釘づけ。目をパチクリさせて一点を見つめていた。
「私はアイドルになりたい。可愛いカラフル衣裳を身に纏いカクテル光線を浴びたい。ステージで歌うスターは素敵な歌姫なのよ」
茶の間にいる女子高生は口をポカンと開けテレビに食い入る。
女子高生憧れはカワイコチャンの発掘番組だった。彼女らは思春期真っ盛り。年頃の女の子の憧れはズバリっ芸能人であった。
中学生や高校生の女の子は目の色を変えテレビ番組を見つめる。
私も芸能人になれそうだわ。
夏休みの前に大手芸能プロダクションが主催するカワイコチャンタレント発掘番組。それが芸能界への登竜門オーディションである。
「羨ましいなあ。あのオーディション通過した女子高生。あのまま芸能プロに所属をしてアイドルになれちゃうんだなあ」
茶の間の女子高生。口だけ開けたのでなく目までがパチクリしていく。
人気のタレント発掘オーディション番組は明日のスターを夢見る女子高生にキッカリとターゲットを定めていた。
オーディション名は明日の女神『aphrodite』(アフロディーテを探せ)
高校生は難しい英単語aphroditeをスペルも意味もよく知っていた。
数年来の人気長寿番組『aphrodite』。歴代優勝者に有名タレント・女優・歌手の名がずらりと並ぶ。芸能界に欠かせぬタレント発掘番組である。いずれの分野にしてもaphrodite出身者は別格な扱いをされ芸能界での活躍を約束された。茶の間でテレビを見る女子高生は明日のスターに憧れを募らせる。
aphroditeのオーディションに応募をしてみたいと学校で家庭で話題となる。
「ねぇねぇみんな。昨日のaphrodite見た」
クラスメイトの話題の中心は常にaphroditeである。
「見たわ。なんだろうね昨日の女の子。あんな程度でaphroditeを予選通過しているとわねぇ。レベルが低いわ。なんだか最近のaphroditeはつまんない女の子ばかり勝ちあがるみたいね」
女子高生の話題は暇さえあればaphroditeである。良くても悪くても憧れのaphrodite。
話のオチは大抵がオーディション合格の女の子よりも女子高生たちの方が格上と言い切る。
「(私は)かわいらしい女の子ですのよ。可愛く生まれてきたからにはタレントさんにならない手はないわ。可愛く生まれて男の子を楽しませなくちゃ」
キャア〜やだぁ
あなた自信過剰〜
言うわね。よく言うわね。
鏡見たことないのかしら
クラスメイトに冷やかされた15歳の女子高生。その後の将来なる美貌に誇りがあった。クラスではたくさんの男の子に可愛い可愛いと人気がありプライドもあった。
「あらっ失礼しちゃうわ。私がaphroditeにならなければ誰がなるというの。男の子に聞いてちょうだい」
学園のクラスメイト数人とワイワイガヤガヤとする。
雑談の中身が煮詰まりついにはaphroditeを応募することになる。
私はaphroditeになる。だってかわいいのよ。
私が一番可愛い女の子だもん。世の中の男の子にチヤホヤだもん。
"神さま"が私に言うのよ。かわいいから綺麗だからaphroditeオーディションを受けなさい。
女子高生らはスクッと上を向きaphroditeになることを各々決意する。
aphroditeオーディションは日本中から何千何万もの応募がある。彼女らの願書もこっそりその山の中に加えられた。
応募を済ませた女子高生たちは俄にスター気取り。ついついその気になっていく。
「自分で言うのもなんですが。私ってかわいい女の子なんだ。学園のクラスメイトでもそう思うわ」
いつものようにお風呂あがりバスタオル一枚の体を鏡に映してみる女子高生。自分で自分を見つめてうっとりしている。
「私は成長と共に綺麗になりました。鏡を見ただけでうっとりしてしまうの。この美貌は誰にも負けないわ。学園のクラスメイトの誰にも。だから私はaphroditeになれる権利があるの」
誰にも負けないもん
鏡よ鏡よ鏡さん。私がaphroditeになること間違いないわね。
女子高生はジッと鏡を睨みつけた。一瞬鬼の形相となる。鏡はドキンとして可哀想である。
鬼の形相から一転して愛敬溢れる決めのセクシーポーズを腰をクネクネさせ決めた。
お尻に力を入れた女子高生。
ハラ〜ハラ〜
全身を包み込むバスタオルは腰からストンっと落ちた。
キャア〜
「鏡よ鏡よ鏡さん。教えてくださいな。私って綺麗な女の子なんだよね。aphrodite女神さんは私だもん。きゃーあ、ついに言ってしまった」
自意識過剰な女子高生になっていく。
クラスメイトが示し合わせてaphroditeのオーディションに応募したことは忽ち学園中に知れわたる。クラスメイトは自慢げにあっちこちで噂を振り撒いた結果である。
応募をした女子高生は俄に有名となり男子から頻繁に声をかけてもらう。
「やだぁ私って人気さんね。学園の学生だというだけでも人気はあったけれども」
学園にいる女子高生はみんな可愛くて綺麗な印象であった。
「学園の先輩なんかは通勤電車で必ずナンパされていたなんて言っていたなあ」
その先輩もaphroditeに応募をして芸能人の仲間入りを果たしていた。一歩ぐらい先輩に近くなった感じもする。
学園生活はaphroditeの女の子としてあらゆるところで注目であった。授業中では他のクラスの男子がわざわざ窓から覗きにやってきた。
遠目に教室を見ても誰がaphroditeの女の子なのかよくわからなかったらしい。
aphroditeのオーデションの日がやってきた。女子高生のクラスメイトはめかしこんで東京の予選会場に行く。優勝を目指し、優勝を確信したような顔でその気になって色気ムンムン。とにかく気持ちは芸能人になって向かう。
「頑張るぞ。目指すは地区予選突破だ。私やるもん。aphroditeになると決めたからね。後は気合いだあー」
気合い充分に迫力を持って会場入りをする。クラスメイトはいきなり口をあんぐりと開けてしまう。
やだあ〜なにこれ
「会場の出場者ってみんなケバい。ケバケバ祭りみたい。仮装行列に来たような錯覚がしたわ」
他の出場者たちはそれはそれは凄かった。
真っ赤なワンピースやミニスカはまだまだおとなしい部類であった。
西洋のプリンセスをイメージし切ったお姫さまのようないでたち。キンキラの金銀プラチナさん。歩く宝石箱である。
このあたりの派手さを圧巻と思うは女子高生だけではなかった。当日の審査員の方々はしこたま苦虫を噛み潰す。
「いくらなんでも。衣装の派手さはやりすぎですわ。派手な衣裳はやり過ぎというより不快ですわ。女子高生という青春時代はその世代らしいかわいらしさがあったらそれで充分ではないでしょうか」
審査員は派手な衣裳に苦言を呈しどんどん減点をしてしまう。意外にも保守的な意見がまかり通っていた審査員席。
「派手な女の子がダメになることは」
学園のクラスメイト。どちらかというと地味な部類。ひょっとしてチャンス到来かもしれない。
時間が来てオーディション会場にテレビカメラもスタンバイされた。
地区予選は第1の関門。将来のタレント活動に必要な歌唱力、演技力、さらには観衆にタレントとして好かれるかの好感度などが試された。
クラスメイトは歌や踊りは学園の教室で練習をしていたから得意な分野ばかり。さすが現代っ子いずれもソツなく無難にこなす。
歌や踊りだけで差はつかないと思いクラスメイト同士で相談し合う。
それが演技の後に必ずペコリッお辞儀をして笑顔を振り撒くこと。観衆にはたまらない魅力となった。
「歌よりあのペコリッちゃんが気持ちいいね」
派手にチャラチャラした応募者たち。彼女なりに考え歌い踊ってみせた。だがいかんせん衣裳の第一印象が悪かった。審査員の採点は伸びず第一審査で苦戦し第二審査でほとんど姿を消してしまった。
「第二審査から第三審査と進むと洗練された人ばかりになるわ。気を引き締めていかなくちゃ」
予選は毎年の例で2〜4人。確かに可愛くて素直そうなお嬢さんが勝ちあがっていた。
第三審査を通過すると水着審査。これが最終となる。地区予選のaphrodite発表となる。
「そっか。この3次を通過したら観衆のお待ちかねビキニ審査なんだ」
クラスメイトたちはざわざわとしてくる。
「やだなあ水着審査だもん。私ペチャだもん。まわりに巨乳がきたら負けちゃう。ビキニだとしても小さいからさらに貧弱に見えるわ」
なるべく胸を張って審査員にアピールをしたい。
彼女たちの心は既に第三次審査を通過し最終審査に飛んでしまっていた。
ここで彼女らに油断が生じ第三次審査の発表がやってくる。
司会者は審査席から合格者の名簿を受取りマイクを構えた。
「発表致します。第三次審査通過の皆さんの名前を読ませていただきます」
司会者はエントリーナンバーと名前を間違えないようにひとりひとり丁寧に読みあげた。
女子高生のクラスメイトの名前は無情にも誰ひとり呼ばれなかった。あっあーん落選しちゃったあ〜
予選最終の水着審査である。
「あっ!私落ちてしまった。最終のステージにいけない」
16歳の夏は突然にして終わってしまった。かなりのショックが女子高生の全身を襲う。
仲良しクラスメイトは仲良く全員が沈没してしまう。落選を知り泣き出す女子高生もいた。
「何でなの。私みたいに可愛くて愛嬌があって。審査員はどこ見て決めたの」
落選に納得しない女子高生。とどのつまりは弁護士の父親に言いつけてやる。訴訟問題にしてやると可愛い顔を鬼にしてイキマイた。
「イャ〜ン落ちただなんて。信じたくない。私お嫁にいけないじゃん」
落選は認めたくない女子高生。人知れず悔し涙がポロポロとこぼれ落ちる。
予選オーディションは進行する。落選をした女子高生に同情などする暇もなく次のステージに進む。
予選も大詰めグランプリaphrodite発表の段階になった。
「皆さんお待たせいたしました。ただいまから予選大会のaphrodite女神を発表致します。この予選大会!映えあるaphroditeグランプリに輝くのはどなたでしょうか。皆さんの期待された結果になるでしょうか」
司会のうまさから会場は盛り上がる。
今から7人の水着女性からaphroditeを予選通過者が決まる瞬間だった。
荘厳な音楽が流れ会場は盛り上がっていく。観衆の視線はお目当てのエントリーナンバーが呼ばれることになった。
「発表致します。予選のaphroditeグランプリに輝くのはエントリーナンバー」
aphroditeグランプリは呼ばれた。7人の中からたった一人だけ名を呼ばれた。
観衆からはオオッと歓声が巻き上がる。どうやら期待どおりの選出であったらしい。続いての関心は予選からは何人を通過させるかになる。2人か3人4人あたりか。
壇上の水着娘は一様に再び緊張をして発表を待つ。
予選結果はグランプリaphroditeを含む3人が選出される。年末の最終グランプリaphroditeオーディションに進むことが決まった。選ばれたお嬢さん3人は手を取り合って喜んだ。
これから予選通過のお嬢さんaphroditeは年末にかけて主催者の協力によりタレントとしてのレッスンが行われて行く。
歌とダンスからファッションモデルの素用とカリキュラムは構成されていた。これだけこなせばタレントにいつなれてもおかしくはない。いずれも彼女達には夢のような話だった。
司会者は審査員を名指ししaphroditeオーディションの印象を聞く。
「このaphrodite予選から可愛い娘さんを選出し全国大会aphroditeに送ります。しかし全国大会には送り出してもグランプリはおろか入選すらしたことがないのが実情です。今年こそは頑張って栄光のグランプリを輝かせaphroditeになってもらいたい」
観客から歓声と割れんばかりの拍手をもらう予選aphrodite。予選大会は無事終了をする。
暗い電飾会場のライトが明るく点灯されサアーと観客は席を立つ。
オーディションの第三審査で落選した仲良し女子高生も悔し涙を拭いて会場を出ていこうとしていた。
「さあ私たちも帰ろう。あんなに落選した瞬間は悲しかったけど。今日は今日だもん」
仲良し同士互いに慰め合う。
「落選はしかたないね。もう過去は過去サバサバしてきちゃう。落選は済んだことだもんね。気分変えて学園に帰りましょう」
女子高生らは身の回りを整理し控室を後にする。
混雑をするaphrodite会場を帰り客に紛れながら出た。
最寄りの駅に流れのまま向かう。ざわざわとした乗降客はひきりなし。誰ひとり今オーディションを受けた将来のタレント志望がここにいるとは気が付かない。
彼女らはごく普通の女の子で女子高生。どこでもいるかわいい女の子であった。
それは傑出したスター性でなかった。とりわけ目立つ派手な女の子ではなかったことの証明であるのかしれない。
仲良しの女子高生は広い駅構内に入り券売機を探す。行き先を検討し料金表と電車路線図をじっと見やる。
「えっと乗り換え駅が少ないルート料金安いルートはどれかしら」
3ルートぐらい帰り道の選択肢はあった。
「うーん、安いやつはどうかな。帰りだから急がないよね。よしこれで帰ろうかしら」
ルートを決め各々財布から小銭を取り出した。
「あっごめんなさいね。私お父さんが迎えに来ているの。ほらっあそこに」
ひとり女子高生は別れていく。
切符を買うその時女子高生たちは違う駅を指定しバラバラに帰宅することになる。
「じゃあここで解散しましょう。みんなお疲れ様でした」
クラスメイトはさようならさようならと互いに手を降りバラけていった。
女子高生がさようならと別れひとりとなったのを後方から見ていた男がいた。
男はしめたとばかりに女子高生に声を掛けた。声を掛けられた女の子はなんでしょうかと振り向いた。
「ちょっとすいません。いいですか?お嬢さん、すいません。お時間は取らせません。私はこういう者です」
声には聞き覚えはない。
女子高生は振り向きそこにネクタイスーツ姿のパリッとした男があった。背の高い20代の好青年が笑顔で立っていた。女子高生は素敵なお兄さんと思った。彼女は背の高い男が好きである。
「私になにか用ですか」
女子高生はダンディな男を見た。声をかけたハンサムな青年に見覚えがない。見れば見るほど引き込まれそう。にっこり笑顔は素敵であり好みのタイプである。
かっこいいなあ。でもなんだろう?変なキャッチセールスじゃあないでしょうね。
男はサングラス越しに女子高生を眺め黙った。女の子の反応を逐次見てみる。
女子高生はハンサムな男を頭の先から爪先まで眺めた。懐疑的になるのは年頃の女の子であり美人という自負からでもあった。
青年はタイミングを見計らいスーツの懐から名刺を差し出す。女子高生はキョトンとして受け取る。16年の人生で名刺など初めてもらったのだ。
「始めまして。私はこういう者でございます」
あくまでも丁寧に丁寧に。言葉使いに最大な注意を払う。
差し出された名刺はカラー刷り。かなり派手な装飾が凝らされピンクがかっていた。一見してよく内容のわからない名刺だった。
女子高生はカラフルなことに興味を持ち名刺を読んだ。
「えっとなになに。なんて書いてあるの。プロダクションですって?仕事はファッションモデル、タレント女優、ビデオ映画撮影、歌手ダンサーなどをマネージメントする総合芸能プロダクションと書いてあるわ。エッお兄さんは芸能関係の方なんですか」
芸能関係者と言われて青年はこっくりと頷き白い歯が溢れた。
この素性のわからない男のニッコリは意味が違っている。カモになる女子高生がこちらに興味を示しシメシメであった。興味さえ見せたら後はゆっくり料理するだけの話だった。
女の子の反応が強めであるため男はいっそうにっこりしたくなる。
「そのとおりですよ。僕は芸能プロダクションなんです。ご想像されている芸能プロダクションなんです。よろしかったら少しお話を聞かせてもらえませんか。可愛いいお嬢さんでありますからお声を掛けさせてもらいましたアッハハ。ちょっと露骨過ぎかな」
男はわざとおどけてみせる。
名刺を眺める女子高生は半信半疑でもある。
お話を私に。
聞かせて欲しい。
可愛い女の子だから
女子高生はよくある芸能スカウトの話を反芻した。
危ない人のタイプではないかしら。人さらいってこんなんじゃあないかなあ。
女子高生は身構えてしまう。
「お時間はあるかな。あるよねったぶん。大丈夫ですね。aphrodite第三審査まで通過されていましたね。だからお声をかけさせて頂きました。aphroditeのオーディションを僕は見ていました。いやあaphroditeは残念だったなあ。あとちょいだったのにね」
青年はオーバーアクションである。
さもaphrodite落選は時の運であると強調しきり。落ちた女子高生に青年の好印象を植えつけた。
aphroditeオーディションの三次審査の落選は君にとって残念な出来事であり不運だった。
「僕のプロダクションが審査なら君は落選はさせないよ」
最終審査まで勝ち上がり予選は突破しているさ。
さらにオーバーアクションを大袈裟に見せて落選は認めたくはないと強調した。
女子高生はすっかり信用してしまう。さすがは芸能プロダクションの人だわ。
「私のaphroditeの三次予選を見ていてくれたのですか。嬉しいです。褒めていただきありがとうございます」
女子高生はこの青年が芸能界に見えてしまい信用した。
男の言葉巧みなものに誘われ喫茶店について行く。
わあっお話が聞きたいだなんて。幸せだわ。
このお兄さんが芸能プロダクションの人なんだわ。
私の才能を買ってくれるのかもしれない。
女子高生の想像は限りなく飛躍した。
ひょっとして私を芸能界にスカウトしたいなんて言うんじゃあないでしょうね。ワクワクしてきたわ。
女子高生は夢の中に埋没してしまう。頭には華やかな芸能界しかなかった。aphroditeなどどうでもよくなっていた。
女子高生が喫茶店に入れば青年はひとりでペラペラと喋りまくる。口達者は異様なまでである。
「君は芸能界に興味があるのかな。僕も芸能人好きだからね」
言葉巧み。女子高生の芸能界に対する憧れをうまく利用し女子高生の顎の下を女優だタレントだと心地好く撫であげる。
「芸能人に興味あるからaphroditeオーディション受けたんだよね。どんな歌手になりたいの。かわいいチャラチャラしたアイドル歌手はみんなの憧れだからね」
青年は女子高生をじっくり見ては言葉を継ぎ足す。思いつくだけ女優タレントそして歌手の名前を羅列した。
君も頑張って芸能界入りしようよ。
「それとも希望は女優さんかな。映画からテレビとドラマは様々にあるからね。希望はタレントかな。マルチな芸能人というわけだけど」
テレビのバラエティーに出てクイズ番組で答えたり料理番組出演をしてグルメ巡りをするタレント。
「さらなるご希望はグラビアアイドルだったりしてアッハハ」
モデルとして写真に撮られるのは好きかな。もしも希望どおりになって写真集一冊撮影なら海外に行くことになる」
芸能界の夢に海外旅行が加味された。
「いいかな大丈夫ですか。パスポートは事前に取得しないとね。家族の了解は取れますか。反対あれば説得などは私が担当します。仕事が忙しくなれば学校は東京の堀越に転校してもらいたい」
男のペースにはまってしまう。
女子高生の希望はどれになるんだろう。ちらりと女子高生の反応を窺い知りたくなった。
ポンポン矢継ぎ早に芸能界をレクチャーした男。女子高生に甘い話だけを"ご希望"のように芸能プロダクションは出してきた。
夢を聞いた女子高生。机の上の甘い話だけで頭の中にムクムクと憧れの芸能人が広がっていく。既に今の段階で売れっ子タレントの卵になってしまう。
「私は歌って踊れるエンタテナーになりたいの」
女子高生は思い余って夢を口にした。
ご希望はエンタテナーですか?
男は怪訝な顔になる。単なるミーハー女と思っていたがしっかりした意見を言う。見た目とかなりギャップがあった。
この女は攻め方を変えないと"上玉"を取り逃がすかもしれない。
ゆっくりアイスコーヒーをストローでチュウチュウする。次の手を考える。
女子高生はこの男の間に不安になる。
私の容姿でエンターテイメントは無理だったかしら。
男は考えをまとめた。この際に一気にたたみかけ"モノ"にしてしまいたい。
「わかった。エンタテナーとなるとミュージカル。あれなら歌って踊れないといけない」
女子高生の本心を突いたつもりである。口説くのはミュージカルと決めた。
16歳の女子高生はミュージカルは見たことがなかった。単にテレビでみたタレントが歌いながら寸劇をやり踊る姿に感動をしたささいなことだけの話だった。
「ミュージカルって見たことないもん。わかんない」
これを突破口に女子高生にあれこれとミュージカルからお芝居(現代劇・時代劇)をレクチャーしていく。
話を聞いた女子高生は戸惑うばかり。さっぱりわけわからない。
「あちゃあーかなり大変な世界になる。とてもじゃあないけど私には無理っぽいなあ」
憧れていた芸能界には行くのを辞めてしまうかなと考える。
「芸能界は華やかでかっこいいと夢見ていたけどさ。どうも話を聞くと私とは住む世界が違うって感じ。行くの辞めちゃうかな。芸能の勉強って大変で面倒だから」
女子高生は目の前のクリームソーダを飲みながら考え直す。
男は慌てふためく。カモが逃げてしまいそうだ。
「あっそんな深刻に考えないでください。誰でもレッスンさえしっかりしたらタレントにはなれます。なになに簡単な世界が待っていますから大丈夫です」
なだめないと女子高生がソノキになってくれない。
「今日の話はここまでにしましょう。連絡先を教えてください。我がプロダクションのかわいいパンフレットを送っておきます。また差し上げた名刺にはURLのサイトも記載されています。そちらからアクセスされても構いません」
青年は喫茶店での説得を諦めお開きとする。
女子高生はとりあえずわかりましたと返事はしておく。テレビの中でいつも見られるタレント達の華やかなステージはかなり遠い存在に改めて感じられていた。
「芸能界は夢見ているから楽しいのかもしれないわ。現実の世界、私とは無関係だと見ておくのがいいのかもしれないなあ」
青年は女子高生と駅で別れる。
「またお逢いできることを願ってます」
付け加えてさよならを言った。
青年は女子高生とおとなしく別れる。するとすぐさま駅構内で慌てて携帯を鳴らす。仲間にである。
「あっ俺だ。今どこで見ている?近くにいるのか。そっかそっかじゃあ後を頼むぜ。俺は別のギャルをつかまえる」
携帯をかけた仲間は構内の柱の陰から現れた。
仲間はTシャツにジーパンのラフな大学生風の若者だった。足早につかつかとカモの女子高生に近づく。
「あのぅすいません。ちょっと時間ありませんか」
駅の改札に差し掛かるあたり。女子高生は再び男から呼び止められた。
ラフな格好の若者は親しげにさらにこう切り出した。
「こんちは。はじめまして!ジャーン、陽気で明るいナンパ師です。あまりにも君が可愛いコちゃんだからエヘヘ。ついつい声を掛けてしまいましたアハハ。いやぁー参ったなあ、僕ってさ、なんて正直に生きているんだろう」
身振り手振りで盛んに道化師を演じたナンパ師である。
「それは嘘だけどね。俺さぁこう見えてもスカウトやってんだ」
呼び止められた女子高生はクルリッと振り向き呆れた顔を作った。
「今日はまたよく呼び掛けられる日だこと」
女子高生はポカァーンと口を開けてもううんざりの表情を若者に向けていた。
ジーパンのアンちゃんはこの手の"うさんくさい視線"に哀しいかな馴れていた。
無意味に疎まれることや胡散臭いと見られることは充分予想されており望むところであった。
若者の仕事は芸能界は芸能界でもAV女優スカウトである。
女子高生を改札口から引き離し警戒心を取り除く。女の子の様子を観察してはのらりくらりと話を進める。成功率の低いスカウト稼業。気長に楽しくである。それがジーパン男のやり方だった。
女子高生の顔色を窺いいくらでも興味あることを引き出していく。なんとかこちらに目を向けさせようとする。落としのテクニックはナンパ師のそれと同じこと。
「ねぇ彼女。これから俺とデートしないかな。付き合うとお食事がついて来まっせ。さらには楽しい楽しい一時が待ってまっせ」
食べ物に弱い女子高生。
何を食べさせてくれるの?私の好きなものがいいなあ。
簡単に反応をしてしまった。やったねジーパン男。こいつは脈ありだ。
後は好きに矢継ぎ早に一方的に喋る喋る。女子高生を我が物にした確信がそうさせた。
「お食事はですね」
ファミリーレストランの名前から高級フランス料理から出る出る。肉料理魚料理出る出る。挙げ句はデザートのアイスクリームの種類から。口からデマカセは洪水のごとく出た。
女子高生は呆気に取られた。だがデザートのアイスクリームには舌が騒ぐ。
「バニラ&チョコを食べさせてくれる?イチゴもいいなあ。ストロベリーシェイクなんかないかなあ」
あらあら。この女は簡単に落ちた。安上がりに陥落をした。
ジーパン男は大した苦労もせずに女子高生を後ろにヒョコヒョコ歩かせるだけだった。
「いいよ、アイスクリームぐらい。さっさ行こう行こう」
いきなり行くの。少し躊躇う女子高生の手をギュっと握りしめた。
男は何の不自然さもなくアイスクリームのあるファミリーレストラン前に来る。女子高生がアラッと喜びをあらわすと肩にグルリと腕を回してくる。
女子高生はエッと驚く。なんてなれなれしい男だなあとは思う。
しかし男は話術巧みなことで肩を抱かれていることを苦にさせない。
女子高生としては男は好みのタイプと思ってまんざらでもない。
この人は気さくなアンチャンだわ。面白い人が私は好きなの。
肩を抱かれ恋人ムードになる。レストランの前で立ち止まり彼女はだんだんと男にうっとりとしてくる。少し頬を赤らめ純情ぶりを見せた。
男はシメシメと得心である。この女も簡単に落ちた。
これからが男の仕事だ。AVスカウトの腕の見せどころであった。いかなる方法で女子高生を落としてみせるか。
その気にさせ自ら脱がせるか。
気さくな会話から恋人気分にさせ肩に回した手。女子高生の前髪を直視して度々女子高生の様子を伺い知る。そしてなにげなく胸に触れていく。
ちょんちょんと自然な形で触られたオッパイ。女子高生が段々男のボディタッチに無頓着になってくる。
女の子は敏感になってしまう。それまで喋りに喋る男。女の子の赤ら顔を見ては一転黙った。
女子高生はムードが違って来たと男に怪訝である。女子高生が男を覗きこむ様子にもひたすら黙ったまま。女子高生はかなり気になってくる。ソワソワし膝丈スカートから覗く足が乱れてしまう。
男はしめたっとしたり顔。
「俺の男の魅力にはかなわない」
女子高生の肩に力をグイッと入れた。ファミリーレストランの前で男は囁いた。
「こんな安っぽいレストランはざわざわしていけないね。第一素敵な女性の君に似合わない。ホテルの方が落ち着ける」
女子高生はうっとりする男から"ホテル"と聞いて一瞬ビクッ。
「ホテルっ。エッあのホテルのことなの」
グイッグイッと肩に力を入れられてしまう。
女子高生は歩く自由を失いフラフラ。男のコントロールに従わざるをえない。無口のままラブホテルに連れていかれそうである。女子高生は頭がボォ〜としていく。
ホテルの怪しげな狭い玄関。女子高生はパニックになり思い悩む暇もなく。これから起こるであろうことを考えたくなく無意識な世界に陥る。
さあっ行こうか。
ホテルの敷地内に行く。肩を抱かれて入る。外からは見えない位置に引きずり込まれる。
誰も見てはいないと思えば男はキスをした。
ヤァッン
目をパチクリさせている女子高生。キスしながら抱きつかれブラジャーの上からオッパイを揉まれた。
アッ嫌だぁ〜
意識は戻り声を出そうか。どうしようかと理性が働く。すべては後の祭り。男はプロである。狙った獲物は逃しはしない。
女扱いに慣れた男は女子高生がトロンとする様子を観察した。すぐさまスカートに手を入れパンティーを荒々しく触る。いかにも手馴れた様子で一連の動作が次々行われてしまう。自然培養な女子高生はイチコロであった。
「いいね。君が魅力的だから。素敵な女の子だから欲しくて欲しくてたまらない。わかってもらえるね」
男はキスを繰り返しスカートはめくられままである。いつまでも女子高生の純白パンティが見えていた。
女子高生を抱きキスを続ける。女のツボを心得ている男。彼の頭では峠は越えた。もうこの女は逃げたりはしないと安心をしていく。自然と肩を抱く力が弛んでいく。
キスをされスカートを捲られた女子高生。トロンとして身動きしない。蛇に睨まれた蛙のままである。
「嫌だぁっ私はどうしたらいいの」
丸見えパンティに気がつきスカートで手であわてて隠す。
「(パンチラッ見せて)嫌だ嫌だ。こんなことしたらいけないんだもん」
男に抱かれキスされ。彼女なりに抵抗はみせるが男のなすがまま。完全に体は男にコントロールされた。男に真っ白なパンティを見られて恥ずかしくてたまらない。
ホテルに入る。女子高生の気が変わらぬうちに華やかなロビーに行く。パネルに飾られた空き部屋を選びルームキーを手にする。
「さあ行こうか。部屋は908号室で屋上近くの景色のいいところ。たぶん気に入ってくれると思う。素敵な思い出を作ってあげたい。最高な時を過ごそうか。楽しくやろう」
女子高生にウィンクをした。男の言葉は女子高生にビンビンと響いてしまう。
エレベーターに乗り込むと前髪を優しく撫でてくる。髪の毛を触られるのが好きな女子高生がうっとりとすると自然体でキスである。
女子高生は抵抗する前に男の術中に嵌まり体が言うことを聞かない。だんだん男のなすがままにならざるをえない。男は強引であり女のツボを心得ていた。
女子高生は男が好きになっていく。強引な男に身を任せたくなる。いつも思い描く王子様が現れたと思い込む。
頭がよく働かない女子高生。エレベーターで胸を触られた。男はしゃがみこみスカートをめくりパンティーに手を入れる。思考能力は0カウンターを示しこれからのことは考えたくなくなる。
キスをされ麻痺したのである。男はさらにまめに言葉責めを繰り返した。
「素敵な女性の君をしっかり愛したい」
男の浮いた台詞が敏感に女子高生に突き刺さる。
男の言いなりに体を開かせた女子高生はプロテクニックの洗礼を受けてしまう。