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東聖紅緑学園シリーズ

姉妹が乙女ゲームの世界に転生しちゃった?!

作者: 神通百力

東聖紅緑学園シリーズの五作目になります。

 春香はるかは妹の小夜さよと手を繋いで歩いていたが、自動車が突っ込んできて事故死した。ショッピングからの帰宅中に起きた事故だった。しかし、なぜか乙女ゲームの世界に転生してしまった。

 春香と小夜は一人の少女に転生した。つまり一つの肉体に二つの魂が入り込んでしまったのだ。

 二人が転生した少女の名は二島桃子ふたしまとうこ。二島桃子が通う学校は東聖紅緑学園とうせいこうろくがくえんだ。名門校であり、全国からお坊ちゃんやお嬢様が集まっている。

 今までは二つの肉体で過ごしてきたが、これからは一つの肉体で過ごさなければならない。二人で一つの肉体を動かすことになるのだ。

 何にせよ、二人の新たな人生は始まったばかりである。


 ☆☆


 春香は四時間目の授業が終わった後、早足で購買に向かった。

(……小夜は何が食べたい?)

 購買に向かう間、春香は心の中で小夜に昼食のリクエストを聞く。購買に着いてからでは商品が売り切れる可能性があるため、今の内に昼食を決めておく必要があるのだ。

(……クリームパンが食べたいな)

 小夜のリクエストに春香は心の中で分かったと頷いた。

 購買に到着し、クリームパンとフランスパンを購入する。

 春香は図書室に向かい、空いている席に座った。春香は小夜に交代し、先に食べるように告げる。

 小夜は二口でクリームパンを完食し、すぐに春香に交代した。

 春香はフランスパンを手に取って、パクリと食べた。

「隣に座っていいか?」

 フランスパンを一口食べたところで、羽柴徹はしばとおるが声をかけてきた。羽柴の頬がほんのりと赤くなっているように見えた。

(……隣に座らせてもいい?)

 春香自身は隣に座らせてあげてもいいと思ったが、自分だけの体ではないため、小夜に許可を求めた。

(……お姉ちゃんが主体だから、好きにしていいよ。他にも空いている席はあるのに、わざわざお姉ちゃんの隣を選んだことは気にかかるけど)

 警戒心を含んだ物言いではあったが、小夜は好きにしていいと答えた。

「うん、いいよ」

 小夜に了承を得た春香はニッコリと微笑んだ。

 羽柴は安心したかのように春香の隣に座った。横目でチラリと春香を見ながら、羽柴はあんぱんを頬張る。

 春香はフランスパンを食べながら、心の中で小夜と会話する。

(……羽柴は確実にお姉ちゃんが目当てだから、気を付けたほうがいいよ)

 小夜は警戒心をあらわにしながら、春香に警告する。

 羽柴には申し訳ないと思いつつも、春香は小夜の言葉がとても嬉しかった。姉想いの妹を持って幸せだ。

 幸せな気分に浸っていると、こめかみ辺りに熱い視線を感じた。春香は恐る恐る隣を伺ってみると、羽柴がジッと見つめてきていた。

「なあ、桃子。明日って何か予定はあるのか?」

「別にないけど」

 なぜそんなことを聞くのだろうと春香は怪訝な表情で羽柴を見る。明日は土曜日だが、何の予定もなかった。休日だからといって予定を入れたりはしないし、親しい間柄でもないのに、下の名前で呼ばないでほしかった。

 なんだか嫌な予感がし、春香は手をギュッと握りしめた。

「それを聞いて安心した。もし良ければ、明日俺とデートしてくれないか? 前から桃子のことが好きだったんだ」

 羽柴はどこか照れくさそうに言い、春香は心の中で深いため息をついた。嫌な予感が当たってしまった。男子とおしゃべりするのはいいけど、デートだけはしたくなかった。

 この世界に転生する半年ほど前に、春香は片思いの男子に告白し、付き合うことになった。何度もデートを重ね、より親密な関係になった。しかし、一か月が経ったある日、春香はデート中に彼氏に犯されてしまった。

 付き合い始めた当初から、彼氏はエッチしようと言ってきていたが、春香はいつも断っていた。まだ早いと思ったからだ。だが、業を煮やした彼氏に乱暴された挙句、犯されてしまったのだ。

 すぐに彼氏と別れたものの、間もなく妊娠が発覚した。春香は子供を産むかどうかを迷った。子供の顔を見るたびに、元彼氏の顔がちらつき、犯された日を思い出すかもしれない。そう思うととても産む気にはなれなかった。

 子供には何の罪もないことは分かっていたが、春香は悩んだ末に堕ろすことにした。中絶費用は両親が払ってくれた。

 そのことがあって春香は二度とデートしたくはなかった。またデート中に犯されるかもしれないという恐怖心がある。

 しかし、羽柴の無垢な表情を見たら、無下に断るのも申し訳ない気がした。

(……私がお姉ちゃんの代わりにデートしてあげるよ)

 悩む春香を見かねた小夜が案を出した。しかし、春香はすぐに返事することができなかった。

(……お姉ちゃんの言いたいことは分かってる。羽柴を騙すような真似はしたくないんだよね。私をお姉ちゃんだと思い込んで羽柴はデートすることになるから。だから、お姉ちゃんは羽柴の人間性を見極めてから、デートすればいい。それまでは私が代わりにデートするから)

 春香は小夜の気遣いに泣きそうになった。小夜にしてみれば自分に好意を抱いていない男子とデートするにもかかわらず、そう提案してくれた。春香は心の底から嬉しかった。

「……うん、デートしてもいいよ」

 春香は小夜が出した案を採用することにし、デートを快諾した。

「良かった。それじゃ、十時に動多楽動物園どうたらくどうぶつえんの前で待ち合わせしよう」

「分かった」

 春香は頷き、図書室を後にした。


 ☆☆


 ――デート当日。

 小夜は動多楽動物園の前で羽柴が来るのを待っていた。

 現在時刻は九時五十分だった。約束の時間まではあと十分もある。

 少し来るのが早すぎたかもしれないと小夜はため息をつく。

「ごめん、待たせたか?」

 羽柴の声が聞こえ、小夜は顔を上げた。羽柴は申し訳なさそうな表情で小夜のことを見ていた。

 約束の時刻を過ぎたわけでもないのに、そんな表情をしなくてもいいのになと小夜は逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「ううん、私も今来たところだから」

 小夜は羽柴を安心させようと笑顔で答えた。

 羽柴は安堵したかのように、胸をなでおろした。

「それじゃ、行こうか? ああ、その前に手を繋いでもいいか?」

 羽柴は右手を差し出しながら、聞いてきた。

(手を繋いでもいい?)

 小夜は手を繋いでも良かったが、春香に許可を求めた。

(うん、繋いでもいいよ。今は小夜が主体だからね。小夜の好きにしていいよ)

 春香の了承を得た小夜は羽柴の手をギュッと握りしめた。羽柴は優しく手を握り返してくれる。とても温かい手だった。

 小夜は羽柴と並んで歩き、動物園に入園した。


 ☆☆

 

「何の動物から見ていく?」

「そうだね。猿から見たいかな」

 羽柴の問いかけに小夜はすぐに答えた。

 猿のコーナーの前には大勢の老若男女が集まっている。

 ちょうど猿が木を登り始めているところだった。猿は軽々と木を登り、他の猿とじゃれ始めた。なんとも可愛らしい光景だった。

 奥の扉から飼育員が姿を現し、猿に餌をあげ始めた。猿は我先にとばかりに餌の奪い合いを始める。

「どの猿も可愛いな」

「うん、可愛いね」

 猿のじゃれ合いをしばらく堪能した後は、すぐ隣にあるゴリラのコーナーに向かう。

 ゴリラはタイヤの上に座り、胡坐をかいていた。

「おっさん感が半端ないな」

「うん、どう見てもおっさんだね」

 ゴリラはゆっくりと立ち上がり、両手を開いてドラミングを始めた。

 その迫力に小夜は魅入っていると、突然羽柴は手を離した。次の瞬間、小夜はグイッと抱き寄せられた。

 小夜は突然の出来事にドキドキが止まらなかった。

「次は虎のコーナーにでも行くか?」

「う、うん」

 小夜は頬が紅潮するのを感じながら、虎のコーナーに足を向けた。


 ☆☆


 三匹の内の一匹は体を丸めて眠っていたが、残りの二匹は檻の中を縦横無尽に走り回っている。

 時折唸り声を上げてじっと見つめてくることに、小夜は恐怖心を抱いた。それを感じ取ったのか、羽柴が手を強く握りしめてくれる。そのおかげで少し恐怖心が薄れた。

(やっぱり虎はかっこいいけど、怖いんだよね。ねえ、お姉ちゃんはどうなの? 虎は怖い?)

(怖いけど、今は羽柴とデートしてるんだからさ。私とは会話せずに羽柴とのデートに集中した方がいいよ。もしかして恥ずかしいの?)

 春香の言うとおり、小夜は恥ずかしかった。羽柴に抱き寄せられてから、ドキドキが止まらない。どう接すればいいのか分からなかった。

 小夜はチラリと視線を横に向けると、羽柴と目が合った。あまりの恥ずかしさに小夜は思わず視線を逸らしてしまった。

「可愛いな、桃子は」

「……へへっ」

 思わず笑みがこぼれてしまう。しかし、表情とは裏腹に内心はどんよりとした気分になっていた。

 羽柴が好きなのは春香だ。学校ではずっと春香が主体であり、昼食の時だけ小夜に交代していた。学校でしか会う機会がない羽柴が春香ではなく、小夜の方に惚れるなんてことはありえない。

 小夜は初めて春香に嫉妬した。同時にこの短時間で羽柴のことを好きになっていることに気づいた。

「もう十二時を過ぎているな。そろそろ昼食にするか」

「うん、そうだね」

 虎のコーナーを後にし、飲食店のコーナーに向かった。


 ☆☆


 動多楽動物園の一角には飲食店が並んでいる。

 小夜は羽柴と相談し、中華料理屋で食べることにした。

 餃子を一人前注文し、ラーメンを二人前注文した。

 ほんの数分で餃子とラーメンが運ばれてくる。

「はい、小皿」

「ありがとう」

 小夜は小皿を受け取り、礼を述べた。

 餃子を小皿に入れて、パクリと食べる。肉汁が溢れ出て口の中に広がる。旨味が凝縮されていて、とても美味しい。

 フゥーフゥーとしながら、ラーメンを口に放り込む。これまた美味しい。スープも飲んでみると、あっさりとしていて美味しかった。

 小夜は羽柴と雑談を交わしながら、食べ終えた。

 羽柴が会計し、小夜は中華料理屋を後にした。


 ☆☆


 その後も様々な動物を見て回った。

 気づくと午後の四時を過ぎていた。

「なぁ、桃子。またデートしてくれないか?」

「うん、いいよ」

 小夜は春香と相談せずに、即答した。

 羽柴とのデートはとても楽しかった。小夜はデート中にどんどん羽柴のことを好きになっていき、またデートしたいと心底思ったのだ。

(ごめんね。何も相談せずに決めちゃって)

 勝手に決めたことを反省し、小夜は春香に謝った。

(ううん、謝る必要はないよ。羽柴とのデートが楽しかったんでしょ? だったら、何回でもデートすればいいよ。私はまだデートする気にはならないけどね)

 小夜は春香の言葉に泣きそうになった。自分の羽柴に対する思いを感じ取り、春香はそう言ってくれたのだとわかった。

(羽柴が好きなのはお姉ちゃんだけど、私がもらうよ。私は羽柴のことが好きだから、一緒にいたい。ごめんね、お姉ちゃんが人間性を見極めるまで代わりにデートするなんて提案しておきながら)

 羽柴には自分たちが転生者だということを話さなければならない。嫌われるかもしれないという不安はある。羽柴を騙すような真似をしているから。

 そのことをわかってもらったうえで、羽柴とは正式に付き合いたいと小夜は思った。

(そう言うだろうなとは思ってた。デート中に小夜が羽柴を好きになっていったことには気づいてたから。私は小夜の恋を応援するよ。羽柴ならデート中に襲うようなことはしないだろうから、小夜は幸せになれるよ)

(ありがとう、お姉ちゃん)

 妹思いの姉で良かったと小夜は心から思った。

「そろそろ帰るか」

「うん!」

 小夜は羽柴に体を密着させながら、二人仲良く帰途についた。

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