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「シンデレラ」なのに結ばれたのはまさかの姉でした  作者: 紅月エル
第一章 主人公を好きになったため悪役はヒロインと化す
7/27

7 再会と求婚

 たくさんの馬車と共に、トレメイン一家は王宮へと向かっていた。

 むろん、待ちに待った舞踏会に参加するためである。

 赤いドレスに身を包んだアナスタシアも、今日はいつもより気合いを入れている。


 なにせ、今日があの「決戦の日」なのだから。


 そう。シンデレラが、王子とダンスを踊る日。


 シンデレラに、転機が訪れる、あの日。


「うわぁ……!」

 シャンデリアの煌めく大広間には、たくさんの着飾った人々と、そして楽隊の優雅な音色。それにうっとりと耳を傾けていたアナスタシアは、ドンッと誰かにぶつかってしまう。

「あ、すいませ――」

 謝ったつもりだったが、その人はアナスタシアには目も向けずに姿を消してしまった。失礼な人ね、とふんと鼻を鳴らしてから、再度、その景色に目を向ける。

 恋愛小説の世界より、ずっと素敵だ。 

 こんな世界を目にすることなんて、人生で一度もないと、そう思っていた。

 大きく長いらせん状の階段を降りていくと、そこにはまた違う世界が広がっている。

 たくさんの人々がそれぞれに会釈をし合い、もしかしたら今、そこで見合いでもしているかのような、甘い雰囲気を醸し出している人までいる。

 ゲームでは背景画のみなので、実際の舞踏会はこんな感じなのかと、素直に感動した。

 それくらい、今、アナスタシアは気分が高揚している。

「アナスタシア。ドリゼラ。そんなところで立ち止まってないで、早く来なさい」

 母に促され、広間へと降りていく。瞬間、誰かと目が合ったような気がしたが、しかし、この大勢の中だ。目の合う人くらいたくさんいるだろう。気のせいだったと思い、アナスタシアは別段気にも留めずにその人混みの中へと飛び込んでいく。

「おや。トレメイン夫人では?」

 そうこうしているうち、一人の男が近づいてきた。ひげを生やした、いかにも貴族という感じの男である。

「あら。ロアルド侯爵ではありませんか。お久しぶりです」

 トレメイン夫人は笑顔でその男に頭を下げると、にこりと笑みを浮かべる。

「今宵はお二人の華をお連れですね。どちらも美しい」

 不意に笑顔で笑いかけられ、アナスタシアも同じような顔で答える。

「よくぞ聞いてくださいました。こちらは娘のドリゼラとアナスタシアです。どちらもまだ十六歳ですの」

「十六歳ですと。大人びた印象を受ける」

 感心したように何度も頷く侯爵を見、アナスタシアは内心、それもそうでしょうね、と嗤っていた。

 だって前世でこのゲームをプレイしていた頃のわたしは、もう十八歳だったのよ。勉強もせずにゲームに没頭していたわ。

 それもまあ何度目かのプレイだったのだが、しかし受験生の身でありながら一晩中乙女ゲームとは、今思えば滑稽である。だからあんな○○みたいな人生しか送れなかったのよ。もし会ったら頭をかち割ってやりたいわ。

「よろしかったらどうぞ。お酒は飲めますか?」

 不意に、視界の隅から杯が差し出される。葡萄酒であろう飲み物が入ったそれを、アナスタシアは快く受け取る。しかし、普段男と顔を合わせることの少なかったアナスタシアは、素直に彼に目を向けることができず、うつむいて酒を飲み干す。

 瞬間、ぷはーっと可愛らしくない声を上げてしまい、ハッとした。恥ずかしくて、彼の顔を見られない。

 ふっと、横から笑い声が聞こえる。

「ふふ。……面白い方ですね」

「す、すみません……」

 せっかくの舞踏会だというのに、誰とも信頼を築けずおしまいなのか……。

 ああんもう。早くシンデレラが来てくれないかしら。

 うずうずしながらどんどん床を蹴っていると、やがて、外から馬車のカラカラという滑車の音が聞こえた。

 来た……!

 これでも耳は、そこらの兎より数倍いいのだ。

「シンデレラの登場まで、じゅう、きゅう、はち、なな……」

 突如、カウントダウンを始めるアナスタシアに、声をかけた少年は何事かと扉のほうに目を向ける。

「ろく、ご、よん、さん、に……」


 いち……!


 心の中でそう数えたのと同時に、ガラッという扉の開く音がした。


 青く煌びやかなドレスに、隙間から見える輝くガラスの靴。


 間違いない。

 ……シンデレラだ。


 周囲も突然の美少女の登場に動揺を隠せないのか、皆がそちらに目を向けて硬直する。

 どうよ? うちのシンデレラは。

 そうドヤ顔を浮かべてみせると、シンデレラはカツカツと靴の音を鳴らしながら降りてくる。

 やっぱり綺麗だと、アナスタシアは思った。

 さすが美人、さすがエラ。

 これなら、王子様を落とすのも一瞬だ。


 しかし。


「あっ……」


 あともう少しというところで、シンデレラが足をくじいて倒れてしまう。アナスタシアは周囲の視線に耐えきれず、ああもうと声を上げながらシンデレラの元へと走った。

「何してるのよ大衆の面前で。恥ずかしいったら」

「あ、アナスタシア様」

「エラ。大丈夫? 怪我はない?」

「はい。す、すみません……」

「あなたって本当にドジよね。たくさんの人が見てるのに階段で転ぶなんて」

「な、慣れていなくて……」

 そう言ってうつむくシンデレラは、いつ見てもしおらしい。

 とても綺麗だから、余計に。


「あっ、ちょ、殿下!?」


 その時だ。

 人々が道を空け、その奥からやってくる男に、アナスタシアはハッとする。

 王子である。

 アナスタシアは気を遣ってシンデレラから離れた。

 ……だが。


「失礼。そこの姫君」


 透き通るようなその声に、アナスタシアは振り返る。

 てっきり、シンデレラに声をかけたのだと思っていた。

 でも。


 違った。


「……また、会いましたね」


 ゆっくりと、こちらに歩いてくるその少年に。


「嘘、でしょ」


 アナスタシアはただただ、唖然として彼を見つめた。


「俺と、踊って頂けませんか?」


 そう言って恭しく手を握ったのは。

 シンデレラの美しい手――では、なかったのだ。

 

「王子が女性をダンスに誘う意味を、ご存じで?」


 ごくり、と息を呑む。


「……求婚、ですよ」


 途端に、アナスタシアは赤面してしまった。

 なぜなら。


 にひっと舌を出して、あどけない笑みを浮かべるその少年を、アナスタシアは知っていたからだ。

 ほんの数日前にあったばかりの、あの……。


「踊って頂けますか? 姫君」


 あの、恋愛小説に出てきそうな――厳密に言えば、街で口論を起こした――金髪碧眼の美少年だったからである。

 


 

 

 

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