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「シンデレラ」なのに結ばれたのはまさかの姉でした  作者: 紅月エル
第一章 主人公を好きになったため悪役はヒロインと化す
5/27

5 姉妹の時間

「ほんと、何なのかしらあの人」


 何度愚痴をこぼしても、胸のもやもやは増すばかりである。


 街からの帰り道、アナスタシアはパンを頬張りながら、先ほどの嫌な出来事を思い出していた。

 見目麗しい彼に、一度はときめきを覚えたものの、結局、所詮は貴族だと思った。

 身分が高いことを鼻にかけて、人を馬鹿にする。

 そういう人種が、アナスタシアは特に嫌いだった。

「あーあ、相手の王子様は、もっと心が綺麗だといいなあ」

 例えば、他でもないエラのように、だ。

 エラの、というより自分の理想の王子様を思い描いていると、後ろからカラカラという馬車の音がした。

 振り返ってみると、アナスタシア、と名を呼ぶ者がいる。


 あ。


 その人物に見覚えがあって、アナスタシアは立ち止まった。

 肩ほどまでの短い亜麻色の髪に、翠の瞳。

 自分と瓜二つな顔立ち。


「ドリゼラ」


 トレメイン家の長女で、アナスタシアの姉であるドリゼラだ。

 どうやら買い物の帰りだったようで、自分の横に止まった馬車の中には、たくさんの箱が積まれている。

「あんたも乗る? 一緒に帰りましょ」

 明るく手招きされて、馬車に乗り込む。

 しかし瞬間、うっと思った。

 馬車の中は、ドリゼラのきつい薔薇の香水が充満している。

 あまり好きではない匂いだ。

「あら、あんたも買い物行ってきたのね」

 にゅいっとドリゼラがパンの袋に顔を突っ込む。すると、ドリゼラはハッとしたように目を丸くした。

「やだわ。これ、あの新しいパン屋のでしょ!」

 その答えに、正解、とアナスタシアは指を指す。

 いいなあ、と羨ましそうな声を上げたのち、今度連れて行ってよね、とツンツンと肩を突かれた。

 こうしてみると、自分とドリゼラは、本当にそっくりだなあと感じる。

 亜麻色の髪と翠の瞳はもちろんのこと、口調までそっくりである。双子なわけでもないのにここまで似ている姉妹というのは、ある意味珍しいのではなかろうか。

「あ、さっきね。わたし、ちょっとおかしな男の人に会ったの」

「男の人?」

 うん、とアナスタシアが頷けば、どんな人? と聞いてくる。

「見た目は、恋愛小説に出てくるような、金髪碧眼の綺麗な人なの。だけど、口が悪くて、わたしを庶民だと見下してきたのよ」

「まあ、なんて人かしら」

 手をパチンと合わせ、心底嫌そうな顔をする。ドリゼラは自分よりも恋愛小説を読み込んでいるため、男性への理想は高いのだ。

「まあ、そういう方もいるわよね。いえ、それが普通ですわ! 小説みたいに優しい殿方ばかりではないもの。それもある意味新鮮かしらね」

 にっこり笑みを浮かべるドリゼラに、アナスタシアもふっと笑ってしまった。

 こういう姉妹の時間は、何だか久しぶりだ。

「あ、ついたわ。いきましょ」

 荷物はそのままに、ドリゼラに腕を引かれるまま馬車を降りる。

 外はもう夕日が出ていて、随分と長く街にいたようだ。

 すると、ドリゼラがはしゃぎながら大きな声で叫ぶ。

「わたし、嬉しいわ!」

 爽やかな顔で言うドリゼラに、なにが? とアナスタシアも声を上げる。

「だって、あんたが男の人の話をするのなんて、久しぶりなんだもの!」

「なんでそれが嬉しいの?」

「あんまり認めたくないけど、あんただって魅力があってかわいいもの!」

 急にべた褒めしだしたドリゼラに、アナスタシアは目を丸くする。普段はわたしのほうがかわいいと言って喧嘩を始めるドリゼラなのに、今日はやけに素直だ。

「急にどうしたのぉ? あんたらしくないわねぇ!」

「何でもないわぁ! ただあんたがかわいく思えただけぇ!」

 きゃーと言って思いきりはしゃぐドリゼラを見、自分も微笑むのをやめられなくなってしまう。いつもはエラのことばかりで、ドリゼラと一緒にいる時間が徐々に減ってきていることは分かっていたが、実はこんなにも長かったのか。


 ……今後は、ドリゼラとも仲良くやっていこう。

 たとえそれが、エラを通して大きな溝をつくろうとも。


***


 同時刻。


「ああ。……数日後に、舞踏会を開く。そこで俺は彼女との約束を果たそう」


 お忍びを終え、無事王宮へと戻ってきた王子・フレデリックは、大広間にいるたくさんの人々の前で、一つの約束事を果たそうとしていた。



 

 

 ――決戦の日は、もう近い。

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