カンスト
場所を移し、ギルドの二階、団長室にやってきた。
部屋の中には三人。俺、リチャード、エレノアだけだ。後は全員締め出した。
「では早速だが、ステータスを見せてくれるか?」
「うんいいよ」
俺はスマホでステータス画面を開いて、リチャードの前の机に置く。
「……………………は?」
「なにこれ?」
「ステータスですけど。あ、機械の方はスマホって言います」
スマホから顔を上げてエレノアが聞いてきたので答える。
リチャードは何度も首を捻っては、スマホの画面をまじまじと眺めている。
「あの、9999+って書いてあるんだけど」
「そうですね」
「これってどういう意味か知ってる?」
「知らないですね」
「……………………」
教えてくれないのだろうか。
まぁ別にいいのだけど。教えてもらったところでどうせわからないし。
「伝説……いえ神話級かしら?」
「+の値がわからん。それ以上の可能性もあるが……君は、神か?」
「人間です」
「バカな」
「バカですけど人間です」
「……そうか。いや、すまない。シシド、このステータスは決して見せびらかすな。あらぬ誤解を与える」
「どんな感じで?」
「変な奴らなら神として崇拝し始める」
「それは困る」
神じゃないし。崇拝されても困るし。
やっぱり見せびらかすのはダメらしいな。
この二人はまだ人間扱いしてくれるのだろう。信頼もして良さそう、か。
「エレノア、彼はもしかしたら噂の――神の子かもしれん」
神の子? kmnk?
たまげたなぁ……ステータスがカンストしているだけで神の子扱いか。
それにしても噂とは何ぞや。そんな噂が流れているのか?
「なんですか、その噂って」
「最近『ブラックダイヤ』にも君と似たように無理に入団を迫る人がいたらしくてね。その人のステータスも、君と同じカンストしていた、って言われてて。普通そんな人いないから、皆神様の子供だって持て囃しちゃって……うちとあそこはライバルだから大きな戦力差を付けられると負けちゃうのよ」
「そうですか。大変ですね」
「その戦力差を埋めてくれるのも同じ神の子の君なんだが」
「それは迷惑ですね」
「それが普通だ。が、向こうに入った神の子はどうやら君ほど慎みがあるわけでもないようでな」
ステータスがカンストしていることを喧伝でもしているのだろうか。
……ああ、そういえば、死ぬ前に見たメール。あれにも“皆さん”という複数形の言葉がついていたな。同じようにこの世界にいてもおかしくはない、のだろう。辻褄は一応合う。
縁が合ったなら、どこかで出遭うかもしれない。まぁ同じ街で同じ職となればその確率も相当高そうだが。
「ところで、シシド。ギルドはそろそろ閉館の時間なのだが」
「あ、もうそんなに時間が経ってます?」
「一応人はいるが、用がない者はそろそろ帰るころだ。無論私も――」
「あなたは残って地下の始末書を書きなさい」
「……君はどうする?」
「そうっすね……あ、あのマッチョに渡すはずだった5000Gはもらえるんですよね」
「そうだったな。その約束もあった。今日はその金で宿に泊まるか?」
「そうさせてもらいます。何分この街は来たばかりで、散策もしてみたいので」
「わかった。では最後にこの書類に必要事項を記入してくれ」
リチャードから渡された用紙は、履歴書みたいなものだった。
とりあえず書けそうなところは書き、誤魔化すところは誤魔化し、リチャードに渡す。
「明日にはギルド章を用意しておく。それと、ギルドメンバーはどこかしらに刺青をするのだが、大丈夫か? 怖いというのであれば、肌用のシールを張ってもらうことになっているが」
「あ、刺青で問題ないです。手の甲あたりにでもしてくれれば」
「わかった。そちらも手配しておく」
刺青とか、前の世界では考えられないが。
まぁ、外国では当然なのだろうけれど、日本だとあんまり考えられないよな。
面白そうだからやってみる。この体はもう両親にもらったものでもなさそうだし。
「これが君の5000Gだ。宿が無ければ戻ってくれば、空き部屋を一週間なら貸そう。それ以上は、悪いが貸せない。ギルドに住みつかれては困るし、真似する奴らも出てくるだろうからな」
「わかりました。今度賃貸住宅でも教えてくれたら嬉しいです」
「ああ、そちらも探しておこう。それでは、今日はご苦労様」
「はい。ありがとうございました」
「また明日ね」
リチャード、エレノアに手を振って団長室を後にする。
階段を降りるとギルドの団員だろう人々が大勢囲んできた。
「お前が新入りか! なんでもエレノア姐さんのお気に入りらしいな!」
「どうだ、これから飲まねえか? もちろん奢るぜ、こいつが」
「勝手に決めんじゃねえよ! まぁでも話したいことはある。全員で割り勘なら良いぜ」
「どうだ、来るか?」
「暇だし、宿の場所教えてくれるなら良いっすよ」
「そう来なくちゃな!」
あれ、ところで俺は酒を飲んでもいいのだろうか。
精神年齢的には二十歳はとっくに過ぎているのだが、体は十代後半だしなぁ。様子見ながら飲むとしよう。
ということで団員について酒場まで向かうことになった。