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剣闘試合

 目を覚ますと真っ白い天井が映った。

 この表現ってどうしてこうもテンプレっぽく感じるんだろう。こんな表現実際に見たことない気がするけどな。

 何はともあれ、どうやら病院に運び込まれてしまったらしい。

 一体何があったのだろうか。俺はとりあえずハイテンションでスマホを弄りながら駆け抜けていたはずだ。あのままだとこの星を一周できそうな勢いだったな。


「おや、起きられましたか」


 ベッドに座って考えていると入り口から声がした。

 振り返ってみると初老の男性が優しい笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「いやぁ驚きましたよ。あなた、城壁の傍で倒れていたんですから。しかもその城壁には大きな衝突後がありましてね。一体何事かと」

「ああ、そうですか。これはとんだご迷惑を」

「構いません。ここは病院ですからね、怪我人も病人も運び込まれてきます」

「ところで、俺は無一文なのですが。治療費を請求されましても払えないのですが」

「そうですか。それはそれで構いません。この国では、いえこの街ではそういった人も少なくないですからね。何せこの国で二番目に大きい街だ。夢を見て行き倒れる者がよくいます」

「どう返済すればいいでしょう?」

「お金が払えない場合、法律で決められています。あなたは明日の、剣闘試合に出場してもらいます」

「ケントウジアイ……? それはあのあれ、グラディエーター的な?」

「的な」


 なるほど、グラディエーター的な。

 それはつまり、見世物になって金を稼ぐか死ねと言っているのだな。

 うむむ……仕方ないとはいえ、いきなりそんな生死を賭けた戦いに身を投じなければならなくなるとは……。

 まぁ楽しそうだし、アリかな。


「わかりました。どこに向かえば?」

「抵抗はしないんですか?」

「したところで無理に連れて行かれるのならば、従って優しく案内して欲しいですよ」

「話が早い。少しお待ちください。もうすぐ国の者がやってきますので」


 そういうと男性は姿を消した。

 もうすぐ国の者が……ねぇ。

 それって、俺が起きる前から呼んでいたということではないだろうか? もっと言えば、俺が治療費を払えないのを知っていた。


 なるほど、いい商売だ。

 病院、国、それと見世物のオーナーかな。それらが結びついているようだ。


 まず病院が、行き倒れている旅人や田舎人を運び込む。その際に荷物等を盗んでおく。

 目を覚ました人は荷物が無くなったことで、治療費を払うことができない。法律によりグラディエーターにさせられる。

 そして見世物として何かは知らんがおそらく猛獣なんかと戦わされ、その多くは死んでしまうだろう。

 死ねば、その見世物の売り上げはオーナーへと渡り、もし生きたとしても賞金的なものは治療費として徴収される。

 その何割かを国に献上する、と。

 おそらく荷物は、病院かオーナーどちらかが持っていくのだろう。


 よくできたシステムだ。

 誰も損をしない、ただ行き倒れた奴が悪いとして処理される。

 実によくできたシステムだこと。


 さて、どうやって逃げ出そうか。

 たぶん走れば追いつかれることはない。風景や街並みからしてもどうせ乗り物は馬がまだ主流だろう。馬よりも速く走れた俺なら捕まりっこない。

 けど逃げたところで行くあてないしなぁ……。


 そういえば、前世の努力を同期してからステータスを確認していなかったな。

 俺はスマホを取り出す。どうやら取られてはいなかったようだ。もしくは取られたけど戻って来たか。


『HP:9999+

MP:9999+


筋力:9999+

体力:9999+

精神力:9999+

集中力:9999+

敏捷性:9999+

魔力:9999+

魔力耐性:9999+

運命力:?+』


 バグだ。

 これはどう考えてもバグだ。俺はそこまで努力した覚えはない。


 そもそも努力を数値化とはどういったことなのだろうか。

 木刀を10回振れば筋力が1上がるのか。それならば99990回振れば筋力は9999になる。達人というか、剣だけで生きていくと決めた人ならばそれくらい超えるだろう。

 だが俺は一般人だ。そんな決意をしたことなどない。しいて言えば、100キロのバーベルを毎日100回持ち上げていた程度だ。あのころはマンガの最強キャラに憧れていたものだ……。

 つまりこれはバグ以外の何物でもない。神様を提訴しなければ。


 ……しかしここまでぶっ壊れているのであれば、死ぬ心配もない、のだろうか。

 グラディエーターとして出場すれば、それで全部チャラにしてくれるってんなら、このステータスでその提案はとてもありがたい。のかなぁ?

 まぁいいか。ちょっとグラディエーターとして出場してみるとしよう。危なそうなら逃げればいいし。

 ということで、剣闘試合に出場を決めた。



☆☆☆



 剣闘試合が行われるコロッセオにやってきた俺は、さっそくその中心に立たされていた。

 武器は渡された粗末な剣が一本。これでどう猛獣に立ち向かえというのだろうか。


「さあ皆さん! 本日もやってまいりました剣闘試合! 本日のお相手は――合成獣だァ!」


 キメラ? それはアレ、獅子と山羊の頭と蛇の尻尾を持つキメラでいいのだろうか?

 それともただただ適当な動物を混ぜたものだろうか。

 向かいの大きい扉がゆっくりと開かれ、そこから現れたのは――


「ミノタウロスじゃんっ!?」


 いや正確には違う。

 牛の頭はあるし、図体はでかいし、斧持っているし、ミノタウロスって言って思い浮かべるようなミノタウロスで間違いはない。

 だが、そのミノタウロスの下半身、そこには――獅子と山羊の頭と蛇の尻尾を持ったキメラがいた。

 ミノタウロスがキメラにのっているのではない。ミノタウロスの下半身がキメラなのだ。

 いうなればケンタウロスの人の部分がミノタウロス、馬の部分がキメラだ。

 合成獣をさらに合成してしまったようだ。

 デュアルキメラ。


「それでは、本日の挑戦者はどのような――死に様を見せてくれるのでしょう!」


 死ぬことは決定か。まぁあんなもの前にして冷静でいる方がおかしい。元からイカレているに違いない。

 俺? 俺は自殺を選んだ時点で十分イカレているさ。


 開始のゴングなどはなく、ミノタウロス……というべきかキメラというべきか……合成獣と言っておこう。そいつは斧を振り上げて突進してきた。

 近づいてくる合成獣。嫌な風切り音が響きながら、斧が振り下ろされる。それは俺のぎりぎり横を通り、地面を抉る。


「おおっと、挑戦者一切身動き取れない! これはそうそうに終わってしまうか!?」


 実況がうるさいな。

 別に身動きが取れないんじゃない。今の攻撃は俺を狙ったものではなかったために避けなかっただけだ。

 舐めているのか、それとも知性があるのか。

 客を楽しませるように、この合成獣はよく訓練されている。


 今度は横薙ぎに大きく振りかぶる。

 軌道は……少し高めか。へたり込んでも避けられるように、と配慮でもしているのだろう。

 完全にこちらを舐めた顔をしてやがる。随分と調子乗っているようだ。

 合成獣のくせに。


 俺は合成獣が斧を振ると同時に地面を蹴りつける。

 俺が蹴りつけた地面は、合成獣が斧で抉った地面とそう変わらないほどにめくり上がった。


 一瞬にして合成獣の眼前に迫った俺は、その鼻先を蹴りつけて上へと跳ぶ。合成獣がその反動でぐらつく。

 上へと跳んだ俺は、そのまま回転しながら脳天に踵を叩き落とした。

 頭を潰して脳みそぶちまけても汚いので、ちゃんと手加減して頭蓋骨が陥没する程度に抑えた。それでも、普通ならば生きていられないだろう。

 だが、さすが合成獣というべきか、合成獣は倒れない。倒れずとも、まともな反撃はできそうにもない。


 と思ったら蛇が伸びてきた。確かこいつ、毒を吐くんじゃなかったっけ。

 悠長に考えている暇はなさそうだし、俺は蛇の首を掴むと体を回転させながら引っこ抜く。

 結構長いな、この蛇。


 ちょうどいい。

 俺は蛇を持ったままキメラの、獅子と山羊の首に巻きつける。そして一緒に締め上げる。

 ぎちぎちと蛇から音が鳴る。千切れないぎりぎりの力だから大丈夫だろう。

 そのうち、獅子も山羊も泡を吹いて倒れてしまった。


 ようやく脳のダメージから復帰したミノタウロスが、手を使って上体を起こし、残った片手で斧を滅茶苦茶に振ってくる。

 その悉くを躱していく。あまりに雑すぎて避けるのが簡単だ。欠伸がでてしまうよ。

 体力の限界か、ミノタウロスが斧をその手から落とした。


 俺はその斧を持ち上げる。重いと思ったがそこまでではない。さすがにひょいとまではいかないが、初めてクワを持った感じに近いだろうか。

 そして俺は斧を振り上げ――ミノタウロスの首を斬り落とした。


 コロッセオは静まり返っていた。

 あれだけ騒がしかった実況、罵声やヤジまですべからく止んでしまっていた。


「……あ、ありえない……あの合成獣のステータスは、すべて1000オーバーだぞ……? 常人に勝てるはずがない……」


 絞り出すような声の実況。

 1000オーバーでこれだけ驚くのだとすれば、俺のカンストステータスは異常だと言えるな。

 全然努力していないのに。

 ああ、だから前世の努力を同期する際にしつこく警告が表示されたのだろう。

 俺のように努力が報われない人を呼び寄せるのなら、総じて相応の努力をしているはずなのだから。

 と言っても、さすがに俺のはやり過ぎな気もしないでもない。


 まぁいいか、と俺は斧を肩に担ぎ直す。


 さあ、これで終わりだ。


「次は、どいつだ?」

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