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少女の行方

「――だから、そんな小娘知らねえっての」


『ブルーサファイア』にリチャードとともに来たが、団長はその一点張りで何も教えてはくれない。

 そりゃそうだろう。教えてくれるわけがない。せっかく『ライオンキングダム』が見せた恥だ、有効活用しないわけがない。


「だが、周りの住民の話では、ここに連れ込まれた目撃証言があるんだが?」

「なんかの見間違いだろ。それにこの街に獣人は多い。ま、お前のような成金はそうそういねえが。スラムなら腐るほどいる」

「つまり貴様は、連れ込んだ小娘が獣人であることを知り、そしてスラムの住民であることも知っている、と」

「……たとえばの話だろ、本気にするなよ」


 伊達に団長をやっていないのだろう、リチャードは駆け引きが上手い。

 相手の自白から、連れ込んだ人物はほぼテレーゼで間違いなさそう、か。

 いや、確かにあいつの言う通り、スラムには獣人も多いのかもしれない。ならば別の人物である可能性も……。


「そういえば、ここ数日、神の子の目撃を知っているか?」

「神の子か? 知っているに決まってる。何せダイヤにいるんだからよ」

「そっちじゃない。この街を駆けずり回り、血眼になって誰かを探している神の子だ」

「なんだそりゃ。そんな話、聞いたこともねえな」

「ほう、なるほどな」


 リチャードがポケットから何かを取り出す。それは新聞のようだった。


「そこに転がっていた新聞なんだが……一面の記事に、空飛ぶ人間が映っているんだ。こいつはダイヤの神の子とは別人と断定されており、新たな神の子として認識されているんだが」

「……知らかったなぁ。何せ任務でここ数日いなかったから」

「それはそれでおかしい。任務に団長自ら出ていたのなら、当然城門で身分証を提示しなければならないはず。城門の衛兵に聞いたが、お前が出入した記録はないとのことだ。お前の話が本当なら、牢屋行だが」

「……べらべらうるせえなあッ! そんなに戦いたきゃそう言えや! いくらでも買ってやるぞ!?」


 サファイアの団長の一言で、周りにいた団員たちが一斉に武器を構えた。

 うーん、やっぱりうまいな、リチャード。こっちが暴れてもいい理由を作ってしまった。


「ダイヤに無断でそんなことをしてもいいのか?」

「黙れッ! ダイヤもいつかは食うギルドだ! いつまでも腰巾着でいるつもりはねえ!」


 団長の威勢は見事なものだが、リチャードとの舌戦でボロボロと埃を出すようでは、その夢は叶いそうにもない。


「さあ、やるかやらねえか!?」


 俺はいつでも動けるように身構えようとしたとき、リチャードに手で制される。


「いや、やらない。何せこちらは二人だからな。この数を相手にするのは骨が折れる」

「ぬかせ……かつて一千の兵を相手にたった一人で生き残った英雄が」

「昔の話だ。今日はこれで失礼するさ」


 リチャードが体を反転させたので、俺も同じように振り向く。

 二人一緒に背を向けた瞬間、無数の発砲音が響き渡った。

 それはすべて、当然俺とリチャードを狙ったものだった。

 銃撃は数秒ほど続いた。やがて弾切れで銃撃が収まる。大体がリボルバー式っぽいが、かといって鉛弾を撃っている様子でもない。たぶん魔力とかその辺だろう。


「――無事か?」

「ええ、弾が魔力のおかげで変に痛くもないですし」


 リチャードの前に俺が出て、弾のすべてを俺が受けた。が、ステータスのおかげでまったく痛くない。

 ステータスを確認してみるも、やはりHPは9999+から減っていない。


「な、なんで……」

「言っただろう? 神の子が少女を探している情報がある、と」

「まさか……そいつがもう一人か!?」

「理解したなら早い」


 打ち合わせ通り、ここから先は尋問だ。

 俺は床を蹴りつけて、サファイアの団長に跳びかかる。

 その速さは尋常ではない。床を破壊し、目にも止まらぬ速さで首元まで辿り着いた。

 団長の首に手を添え、至近距離で睨みつける。


「もう一度訊こう、少女を知っているか?」

「ひっ……」

「一秒数えるごとに指を一本ずつ締めていく。さあ、答えるか答えねえか?」

「ぐぅ……!」

「一つ」


 首に添えている小指を閉じる。

 次に薬指を動かす。


「二つ」

「やめ、やめろ!」

「三つ……四つ」


 中指、人差し指を閉じた。

 くい、と四本の指に力を込める。おそらく今のステータスならば、四本の指でも殺すことは可能だろう。

 周りは団長が人質のため、動くに動けない。

 それに、敵は俺だけではないのだから。


「五つ――」

「ひ、広場だッ! 今朝方、やっと話す気になったから連れ出した!」


 机に叩きつけるように団長を離し、すぐにリチャードの元へ戻る。

 リチャードもすぐに駆けだしながらサファイアのギルドから出る。


「団長」

「広場はいくつかある。奴の話が本当ならば、そろそろ団員たちから連絡があるはずだ」


 リチャードの話を聞いていると、いきなりポケットから着信音が響いた。

 今度は着信か……本当にこの世界に対応したんだな、俺のリンゴ。でも電話って、この世界で通話できる相手いるのかよ。

 不思議に思いながらも、スマホを取り出して耳に当てる。


「もしもし」

「その声シシドか?」

「そうだけど」


 おそらく団員からの電話だ。が、当然この世界に電話があるわけがない。

 ちらっと隣を走るリチャードを見る。彼は別に電話を持っているわけでもなさそうだが、手を頭に当てて口をもごもごさせている。

 うーん、これはおそらくあれだな、魔力による通話だな。テレパス的な。


「それで、何かあった?」

「あ、ああ。今北の広場でサファイアの連中が演説始めやがった。それもうちを糾弾する内容だ」

「おっけ。たぶんそこにテレーゼがいる。団長の話でも広場に連れて行ったって言ってた」

「わかった。団長から言われたが、こっちはその少女が出てくるまで大人しく待ってる。早く来い」

「すぐ行く」


 通話を切り、ポケットにスマホをしまう。

 リチャードもちょうどテレパスが終わったのか、こちらを向いた。


「北の広場はこの道を真っ直ぐ行き、赤い三階建ての建物を右に曲がればすぐに見える。先に行け」

「ありがとうございます」


 リチャードからも許しが出たので、俺は抑えていたスピードをぐんと上げる。

 ただ、俺のスピードの上げ方がおかしいのだろう、石畳の地面が割れてしまった。

 赤い建物まではすぐに辿り着き、右折するとその先に人だかりが見えた。おそらくあそこだろう。

 このままのスピードではおそらく事故を起こすので、減速させながら広場に辿り着いた。


「シシド、こっちだ!」


 人だかりの中に、団員の人を見つけると手招きされる。そちらへと人をかき分けながら進んでいく。


「どんな感じ?」

「今はまだうちについての罵詈雑言だな。この程度いくらでも聞き流せるんだが……さすがに気分が悪い」

「テレーゼは出てきそうか?」

「この後証人を見せてやるって言っていたからその時だろう」


 しかし、団長も出ないでこんなことしても信じてもらえると思っているのだろうか。

 事実ここにいる人々の眼は半信半疑……八割方疑いの眼で見ている。

 それだけライオンは信頼されているというわけなのだろう。

 だからか? 万が一失敗した際に、トカゲのしっぽ切りに使う気か?

 ……うーん。わかんない。まぁ、妨害を考慮しての、安全策ってところか。仮にも格上を相手にしているわけだし。


「――さあ、その買われた少女がこの子だ」


 サファイアの団員が指示を飛ばすと、後ろの方から一人の少女が引っ張ってこられる。

 少女は、テレーゼで間違いなかった。記憶の彼女と、寸分違わない。体に痣が見えるが、どれも命に係わるようなものではない。生きていることに安堵する。

 今すぐにでも跳び出そうになった体を、誰かに後ろから掴まれて止められる。


「待て、シシド。彼女をよく見ろ」


 それは今追いついたリチャードだった。顔がばれないようにか、いつの間にかフードをかぶっていた。

 彼に言われ、俺はテレーゼを見る。


「彼女の様子に怯えているところはない。むしろ何かを訴えようとする目だ」

「それが何か?」

「彼女の意志を聞いてからでも、遅くはないということだ」


 リチャードに言われ、俺はもう一度テレーゼをよく見る。

 確かに、怯えている様子はうかがえない。リチャードの言った、訴えるような目かは正直俺にはわからない。けど、確かにただ従順な様子でもない。


「でも、彼女の証言が」

「ああそうだ。彼女から私たちのギルドについて言われれば、民衆も少しは傾くかもしれない。しかし、ほんの少しだ。私たちが築いてきた信頼を、甘く見るな」

「……ですが」

「むしろここで暴れて彼女に危害が加わる方を懸念すべきだ。もし彼女がサファイアの指示に従ったとしても、それは彼らにとって都合がいい。これ以上拘束することも、痛めつけられることもないだろう。第一に我々が考えるべきは、彼女の安全だ」

「……はい。ありがとうございます」


 リチャードに説得され、とりあえず大人しく動きを待つことにする。

 サファイアの連中はこちらには気付くことなく、演説を続けていく。


「――花売りの少女、君を穢した相手の所属を言ってごらん?」

「それは……」


 サファイアの問いに、テレーゼは目を泳がす。

 どうするか迷っているようにも見えるが、直後には決意したような目になる。

 そして、その口を開いた。


「――あなたたち『ブルーサファイア』」


 にっこりと笑ったテレーゼの顔。見惚れてしまいそうになる。

 聞いた相手も答えを理解できないのか、表情が完全に固まってしまっている。だが、テレーゼははっきりと言った。

 辱めた相手は『ブルーサファイア』だと。群衆は、聞き間違いだとは思わない。

 ざわめき始めた群衆にようやく事態の深刻さに気付いたか、サファイアが慌てたように問いを重ねる。


「……な、なんて言った? もう一度言ってみようか?」

「私を穢そうとしたのは、あなたたち『ブルーサファイア』の所属だ、って言ったの」


 発言を変えないテレーゼに痺れを切らしたか、サファイアが足を振り上げた。

 その瞬間に俺は地面を蹴りつける。

 ほとんど瞬間移動だ。常人の眼には映ることすらないだろう、それくらいの移動スピード。

 俺は二人の間に割って入り、足を受け止める。


「自分の狙い通りに行かないからって、暴力はよくないんじゃない?」

「テメエ……! ライオンか!」

「わかったんなら、どうなるかもわかるな?」


 俺は掴んでいた足を放り投げ、サファイアの男を転がす。


「遅くなってごめん。でも無事そうでよかった」

「シシドさん……?」

「もう大丈夫だから」


 テレーゼを引き寄せ、護りやすいようにする。

 転んだ男も立ち上がり、腰に差していた短剣を引き抜く。

 人の前なのにバカなのだろうか。評判落とすと思うんだが……。

 と思ったら、群衆はこれから始まるであろう闘いに歓声を上げ始めた。うーん、逞しい。


 俺としてはさっさと追い返して戻りたいところなのだが、群衆が許してくれそうにない。

 助けを求めようとリチャードの方に顔を向けるも、首を振って拒否される。

 こうなりゃやるしかないか……。


「来いよ、丸腰相手にビビってんのか?」

「野郎……なめんじゃねえ!」


 男が短剣を突き刺してくる。それを難なく首を傾けて回避。

 カウンターで軽く裏拳を当てる。男は数歩後ろに下がりながら、それでも短剣を持ち直して襲いかかってくる。

 何だろう、ステータスの集中力のおかげだろうか、相手の動きに集中すると一気に自分が加速したみたいにゆっくりに見えてくる。

 おかげでどんな攻撃も紙一重で回避し、群衆を沸かすことが可能だ。


「おいおい、こっちは人一人護ってんだぜ。拍子抜けする弱さだ」

「クソ……このッ!」


 滅茶苦茶に振るわれる短剣を、紙一重で回避する。

 そろそろ十分群衆も楽しませたし、終わらせるとするか。

 左腕をぐっと引き絞り、相手の襲い来るタイミングに合わせてカウンターを合わせる。

 俺の拳は相手の腹に見事に嵌り、一撃で気絶させることができた。ちゃんと手加減はした。でないと爆散しそうで怖い。

 一撃で勝敗が決まり、群衆も大盛り上がりだ。よかったよかった。これくらいでいいならいくらでもやってやるってんだ。


「シシドさん、ありがとうございます……でも、モニカは――」

「大丈夫。モニカは無事だったし、団員に見張ってもらってるから」

「あ、ありがとうございます……ありがとうございます……!」


 テレーゼは俺の足にしがみつきながら泣き始めてしまう。

 その対応に困っているところに、群衆を割ってリチャードがやってきた。


「シシド、お疲れ様。二人とも無事で何よりだ」

「すみません、騒ぎを大きくしてしまったようで」

「これくらいいつものことだ。問題ない。それよりも、早くギルドに戻れ。彼女の手当てが必要だろう。後は任せておけ」


 俺はリチャードに頭を下げ、泣きじゃくるテレーゼを抱きかかえてその場を任せてギルドに向かった。

 広場を去る際、集まっていた人々に賞賛の声が送られた。

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