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迷惑事

「リチャードさん、部屋を貸してくれませんか?」

「別に構わんが……何かあったのか?」


 ギルドで依頼達成の報告、素材の換金等を終え、すぐに団長室に来た。

 団長室にはまだリチャードがいてくれたので、部屋を借りるお願いをする。


「いえ、特には」

「5000Gもあれば、高めの宿でもあと二、三日は泊まれると思うが」

「いろいろと使い過ぎてしまいまして」

「……一晩でか?」

「ええ」

「…………そうか。まぁ、わかった。ここを出てすぐ左の部屋が空き部屋だ。好きに使ってくれて構わないが、布団などはないぞ」

「わかりました」

「これが鍵だ」


 リチャードから鍵が投げ渡される。

 団長室を出ると、言われたとおりにすぐ左の部屋の鍵を開けて入る。

 部屋の中には家具等は何もなく、本当にただの部屋だった。


 雨風凌げるだけ、マシか。

 別に外で雨が降っているわけではないけど。


 俺は窓枠に腰掛け、外をぼーっと眺める。

 町往く人も数は減り、もう人影はほとんどない。


 ……あー、そういえば。

 リチャードに魔法について教えてもらえばよかった。

 この世界の魔法がどんなものか知らないが、それでもあのわけわからんアプリの手掛かりにはなったかもしれない。


 手持無沙汰になり、スマホを取り出す。

 写真フォルダを開くと、あのチンピラを撮った際の写真にテレーゼも映っていた。モニカはテレーゼがしっかり庇っており、ほとんど映っていない。

 なんとなく、テレーゼのステータスを見る。

 ……ああ、そういえばステータスは結婚相手にも見せないんだっけか。

 まぁいいか。もう他人のようなものだし、誰かにみせるわけでもないし。


 テレーゼのステータスを見る。

 総じて値は低い。生きるために必死で、ステータス関連の努力はできていないのだろう。

 そんな体で、生きていけるのだろうか。

 ……彼女たちは、どうやって生きていくのだろうか。

 いつか、どこかで救われる日が来るのだろうか。

 それとも、無慈悲に殺されるのか。


 やっぱり、努力なんてくそじゃないか。



☆☆☆



 ドンドンと扉を叩く音がする。その音で、俺は目を覚ました。

 あの後、窓枠に座ったまま寝てしまったようで、体中が固まっている。軽く動かすだけでバキバキと音がなる。


「シシド! 開けろ!」


 外からリチャードの声がした。

 俺は眠い目をこすりながら扉の鍵を開けた。


「はい?」

「シシド、君は昨日、何をしたか覚えているか?」

「昨日……? ……ああ、『ブルーサファイア』ですか?」

「そうだ。覚えているんだな」

「忘れるはずもないですよ」


 忘れられるはずもない。

 しかし、なんでまた『ブルーサファイア』が騒ぐのだろうか。確かにあいつはそのギルド所属だとはいえ、騒ぐほどの騒ぎだったか?


「『ブルーサファイア』は『ブラックダイヤ』の子ギルドみたいなものだ。奴ら、うちを貶めるためなら何でもするんだ」

「……そういうことは早くいってください」

「誰が初日にそんな騒ぎを起こすと思う!?」


 リチャードに怒鳴られる。座って寝たせいかあんまり疲れがとれていないのでいきなり騒がないで欲しい。


「騒ぐような騒ぎではないと思いますが」

「問題はそこじゃない。君が、子供を金で買ったと思われていることだ」

「……はぁ」


 返事のようなため息のような、曖昧な声が出た。

 うーん? 別にそんなおかしなことでもないと思うのだが。


「うちはそういう非人道的なことは禁止している。教えるのが遅れたのはこちらの責任だが……まさか君がするとは思っていなかった」

「信頼してくれていたのは嬉しいです。が、裏切ってしまい申し訳ありません」

「……弁明はないのか?」

「しいて言えば、非人道的な行いはしていない、と」

「そうか。だが証明はできないんだな?」

「ええ。その子を連れて来ようにも、迷惑を掛けますし」


 もう会わない方がいいだろうし。


「その子はどこにいる?」

「いくら団長でも教えませんよ。言ったでしょう、迷惑をかける、と」

「頭を冷やせ。どうせ孤児だろう? 自分のためにも――」

「その子のためを思った結果、こうなりました。自分のために、もう迷惑を掛けたくありません」

「これは君だけの問題ではない。最悪、君を退団させなければならなくなる」

「…………」

「もう一度言う、頭を冷やせ」

「……それでも」

「三日やる。それでもダメなら、退団してもらう」


 リチャードはそう言い残すと、部屋を出て行った。

 三日やる? 何を言っている。お前は俺という戦力を失いたくないだけではないのか。

 お前は、ステータスカンストという存在にしがみついているのではないのか。


「……なわけないよなぁ」


 リチャードは本当に俺のこと、そしてギルドのことを考えている様子だった。おそらく、三日経っても俺がNOと言えば、俺は退団させられる。

 また露頭に迷うか、それとも彼女たちを切り捨てるか。

 取るべき選択肢など、とうに決まっているのに。

 それでも即座に実行できないのは、自分可愛さか。

 反吐が出る。


「……くそ、これじゃまともにギルド内も歩けそうにないか」


 俺のことはもうギルド内で噂になっているだろう。

 ホールに降りて依頼を受けに行こうものなら、何を言われるかわかったものではない。

 ここは大人しく潜んでいた方がいいだろうか。


 ……いや違う。

 リチャードはテレーゼに俺が何もしていないことを証明させようとした。

 リチャードが思いつくのならば、相手方も同じ考えに至ってもおかしくない。

 つまり、それは――


 また、彼女たちを危険にさらすことになる?

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