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黒い美女、白いブス  作者: ゆき
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黒い美女

 絵美は大学へと急いでいた。どう頑張っても、あと15分はかかる。しかし、授業開始まであと10分しかない。

「最悪…」

 昨日は久しぶりに先輩たちと飲んだ。飲みの席も久しぶりだったので、飲みすぎてしまった。酔いつぶれて帰るとそのまま寝てしまい、気がついたら朝だ。普段ならそんなヘマはしない。どんなに飲んでも朝はきちんと起きて、支度も完璧。化粧もしっかりして出発する。しかし、昨日は違った。

 絵美は化粧が崩れるのを気にしながらも、足早に大学の門をくぐった。大学に入ると同時に、構内にいる人々が振り返る。授業に遅れている焦りの中、絵美は小さく微笑んだ。


 絵美は幼い頃から周囲に大切に育てられた。両親にとっては初めの子どもだったので、欲しいものは何でも買い与えられ、親戚からも可愛がられた。恵まれた容姿のおかげで、多少のわがままも許された。しかし、それは中学校に入るともっとエスカレートした。

 男子のほとんどは絵美に惚れ、それを妬んだ女子に嫌がらせを受ける日々を送った。しかし、美人に甘いのは男子だけではない。絵美の美しさに魅了された女子たちに囲まれ、嫌がらせをしていた女子たちは逆に仕返しを受けることになる。教師も美人の絵美には甘く、絵美に関わる問題が起きても、本人ではなくその周りの生徒を責めた。

 高校に入ると、絵美は自分の容姿を活かして親衛隊なるものを作った。メンバーの大半は男子だが、そこにはやはり女子もいた。絵美の存在は学校内だけではなく、他校にも知れ渡るようになった。他校かわざわざ絵美を見に来るものもいれば、本気で絵美に惚れてしまう教師も現れた。

 絵美は自分のことを完璧だと思うようになった。


「いつも見られて疲れちゃう」

 結局授業には間に合わず、遅れて入ることになった絵美。教室の入口がひとつしかないので、遅刻して教室に入ると全員に見られる。絵美の容姿はただでさえ人目につくので遅刻していくとすぐにバレてしまうのだ。絵美はそんなことで注目を集めるのは、完璧な人間のすることではないと嫌がっていたので。

「じゃぁ、人間やめれば?」

 授業を終えて、絵美は友人の香苗と学食で昼食をとっていた。香苗は高校時代からの友人で、学科は違うが同じ大学に通っている。唯一絵美に毒を吐く人物である。

「さいてー。誰のおかげでここの学食タダで食べられると思ってんのよ」

 学食の厨房には絵美に惚れている男性スタッフが数人いる。そのため、絵美とその友人の香苗には無料で昼食を食べさせてくれるのだ。しかし、そのことを厨房にいる女性スタッフは良くは思っていないため、香苗は学食で昼食を食べることを嫌っていた。

「私明日からお弁当にしようかぁ」

 香苗は厨房から送られる殺気溢れる視線を感じながら、つぶやいた。

「わたしはここの学食そんなに好きじゃないけど、彼らがどうしてもって言うから来てあげてるの」

絵美は相変わらずの態度で今日の日替わりランチのハンバーグをぱくりと食べた。

「んー、すごく庶民的な味」

「ついでにあんたの友達もやめたい」

 香苗はため息を吐きながら、同じようにハンバーグを食べた。

「絵美ー」

 二人の隣に学生が座った。自称絵美の友達である。しかし、絵美はこの人物の名前を知らない。

「誰だっけ?」

 香苗はその様子を見て、またため息が吐いた。絵美は美人なため、いろんな人から声をかけられる。絵美を友だちになれたら、それはステータスにもなるからだ。そういった人たちは絵美と少しでも仲良く話ができたら、周囲に友達だと自慢する。しかし、絵美からすればそんなの日常茶飯事なのでいちいち覚えていない。覚えない絵美も悪いが、絵美を自分のステータスのように扱う彼女たちも悪いと、香苗は思っていた。

「え、この前話したの覚えてないの?」

「この前がいつか知らない」

「一週間前くらいに、図書館の前で話したのに?ひどくない?」

 また、これだ。絵美はその子を睨んだ。

「私、毎日のようにいろんな人に声をかけられるの。たった一回話しただけなのに覚えてないといけないの?あんただって、私と話したってこと周りに自慢したいだけでしょ?そっちのほうがひどくない?自分じゃできないからって、私を知らないところで利用して。ほんと、性格ブス」

「性格ブス!?」

 そう言われて、その子は席を立ち上がった。

「絵美がそんな子だとは思わなかった。あんたの方がよっぽど性格ブスよ!」

「生憎、容姿はあんたよりも数段上だから、顔も性格もブスのあんたよりはましだわ」

 女子生徒は何も言い返せず、絵美を睨むとさっさとその場を去っていった。

「かわいそー」

「どっちがよ」

 黙って見ていた香苗が口を開いた。

「だって、あの子友だちに言うわよ。あんたにボロクソに言われたとか、性格悪いって。でも、周りの友達はあんたが美人だから信じない。そしたら、あの子もっとかわいそう」

「言わないかもよ?せっかく私と友だちになれたって周りに言ったばかりなのに、もう絶交したなんて」

 そもそも友達じゃないけどね。絵美はそう言うと、食べかけていたハンバーグを見て、顔をしかめた。

「冷めちゃったじゃない」

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