『秘密の花園』
コンクリートが切り裂かれ濛々と煙が上がる中、正気に戻った三日月は一人立っていた。またやってしまったと言う後悔だけが頭によぎっていた。
きっと主も、あの鎗水杏佳と名乗る妖霊も吹き飛んでしまっただろう。
だいぶ昔にもこんなことがあった気がする。
「……また、一人になるのか」
そう呟いたときだった。
「い、痛ってぇ……」
目の端に起き上がる者を見つけた。声から判断するに主だ。
と三日月は思い駆け寄ろうとした時……。
「……あれ?」
「み、三日月!?」
急に力が抜け目の前にはコンクリートの床が広がった。
「み、三日月!?」
こちらに気付き、近付いてきたと思ったら三日月は倒れてしまった。慌てて駆け寄り、様子を見る。
「よ、良かった……。気を失ってるだけか……」
こちらに気付いて攻撃的な態度を見せなかったのでたぶん、正気に戻ったんだろうけど……。
一応寝かしておこう。疲れただろうしな。
それよりまず片付けなければならない問題があった。
「で、いつまでそこで座り込んでるつもりなんだ?」
ぺたんと可愛らしく女の子座りをしている鎗水杏佳に俺は声をかけた。すると……
「お前、聞きたいことが二つある。答えろ」
「なぜ助けてもらって上から目線なのかわからんが良いぜ。答えれる範囲なら答えるよ」
体質の事とか。もし気付かれて問われても俺自身、わかってないことが多いので答えようがないんだけどな。そう考えていた俺に近からず遠からずの質問を鎗水は投げ掛けてきた。
「あの状況からどうやってボクを助けたんだ? 完全に間合いに入られたと思ったけど……」
あの状況。俺が行動したのは三日月が鎗水の結界を破ったあの瞬間だ。
三日月は皇を横なぎで振るわず縦に振り下ろした。
血を使っているのでたぶん皇は三日月の意思で色々な形に作ることができるだろう。しかし三日月はいつも波がうねるような歪な形を作り横に振り、内蔵などをえぐりながら殺傷するような形を取っている。
そういう目的で作られているからもちろん刀を振るった時受ける空気の抵抗も横から来るものと想定されている。
まず縦に振ったことで空気抵抗を下から多く受け、僅かながら速度が落ちた。
それに縦振りは横より形が同じであれば殺傷能力が高いとされている。しかし、問題は攻撃範囲だ。横ならば目の前に居る限り攻撃は当たる。でも、縦に振るとどうだろう。
横範囲で見ると一ヶ所しか攻撃は当たらない。
その速度の低下と縦切りだったことが合わさり俺は三日月が結界を破り縦に振りかぶった所で行動した。
後は俺が鎗水にぶつかりながら皇の前を通りすぎるだけだった。そのことを説明すると
「……あ、あの短時間でよく思い付くもんだな」
当然と言ったら当然の反応を示していた。
「そ、それとあと一つなんだがな……」
「ん? なんだ?」
「なんで、お前は……。ボクを助けたんだ? 自分を殺そうとした相手だぞ? お前に助けるメリットがどこにある!?」
妖霊は何かとプライドが高いのか、声を上げて言ってくる。なんでと聞かれても答えに迷うところだが……。
「俺はな、やっぱ妖霊だろうが人間だろうがこんな争いで死んだらいけないんだと思う。それにメリットだけ考えて行動を選んでたらきっと後悔する。だから俺がお前を助けたいと思ったから助けた。それだけだ」
俺のありのまま、素直な気持ちを告げた。
人間と妖霊。共存はできなくとも争いを無くすことはできるはずだ。俺はそんな世の中を見たいと心のどこかで思っていたのかもしれない。
「……っ。は、恥ずかしいやつめ。ボクを助けたこと、後々後悔することになっても知らないぞ!」
俺を指差しギャーギャーとわめいている鎗水。こいつは水がないと何もできないみたいだし。
やれやれ、一件落着だな。と、一息ついた時ものすごい勢いで屋上のドアが開け放たれた。そこに居たのは
「さ、恵!? なんで!?」
幼馴染みの弥富原 恵が居た。
「やっと突き止めたよ! 三日月が先に行っちゃうから……って、どうしたのこれ!?」
一面の斬痕、水。弱々しく女の子座りしている鎗水。傷だらけで倒れて気を失っている三日月。もう血は止まったが腹部が真っ赤に染まっている俺。
この惨状を目撃したら誰でも驚くだろう。
「と、とりあえずみんな怪我もしてるみたいだし、一旦帰ろう。まだ夜は冷え込むから。あと、鎗水さんだっけ? 君も一緒に来てもらうよ」
鎗水に対してやはりまだ敵対心があるのか恵はきつく言う。すると
「やれやれ、こいつは警戒を怠らないおん……」
「僕は男だからね」
また女子に間違えられそうになり、鎗水が言い終わらない内に否定する恵。
「……ふーん」
その答え方には明らかに冷たさが感じられた。なんだあいつ? 女子に間違えられることなんてしょっちゅうなのに。
しかし、気になることに俺は鎗水が少し微笑んでるように見えた。
帰り道、けっこう家から離れたと思っていたが抜け道を使えば案外歩かずに帰宅できた。恵が先頭を歩き、その後ろに鎗水、一番後ろは三日月を背負った俺と言う列で歩いている。
もちろん、日はすっかり沈みきっている。
「そーいや、鎗水さんよ」
俺はふと気付いたことがあったので前を歩く鎗水に問いかける。
「なんだよ。今、しゃべるところじゃないだろ。空気読め」
うーん。バッサリと切り捨てられてしまった。
その鎗水の前を歩く恵も頷いている。
「いや、でもさ……。お前が俺を連れ去ったとき、たぶん妖霊化してぱっぱと来ただろ? そんな風に帰れないのか?」
たぶんというのは、あの廃墟ビルに連れてかれてる最中、既に俺は気を失わされていたので覚えがない。
それはともかく、陸地をゆっくり歩いているより鎗水が腕を伸縮させて家を伝い伝いに渡ってくのが一番速いし、楽だと思うんだけど……。
「……お前は、バカなのか? それともボクを救ったと思ったら今度は死ねと?」
鋭い眼で睨んでくる鎗水。お、俺なにかすごい悪いこと言っちゃったかな……。察するにきっととても多く体力を使うのだろう。妖霊化ってのは。
「俺が悪かった。謝るからちょいちょい俺の足に水を飛ばしてくるのやめてもらえませんか?」
あーあ。靴がびしょびしょ。血も染みてすごくなんかグロテスクな靴になってしまった。
「あのね、この際だから教えてあげるよ。妖霊化ってのはな、そう簡単になったり解除したりできないもんなんだよ」
明けましておめでとうございます!
いや~、やっとここまで来たって感じですね(笑)
今後は少しバトルが続きそうです……。
あと、この小説をお気に入りに登録してくださった方、本当にありがとうございます!
それに、いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!
まだまだ未熟な文ですが、今後ともよろしくお願いします!




